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2013年3月19日 (火)

救命救急センター 今度は減らすことも検討?

少し前に埼玉で救急搬送受け入れを36回断られた患者が出たと久しぶりに救急受け入れ困難例の報道がされていましたが、もちろん実際に要請回数の多寡はあってもこうしたケースは今も各地で発生している、ただそれが報道されなくなっただけだと考えるべきです。
今回のケースでも一昔前なら確実に「たらい回し」バッシングの嵐になっていたと思いますが、興味深いことに確認出来た範囲内で「たらい回し」の表現を使った例は極めて少なくなっているようで、この辺りはひと頃からのマスコミへの働きかけが奏功した形でしょうか。
無論いつでも即座に100%の受け入れが出来る体制が整えば理想的なのでしょうが、道路渋滞を完全解消するためには土地の全てを道路にするしかないといった論に似た空論と言うべきで(そして仮にそうできたにしても渋滞はやはり発生するでしょう)、現実的にはコストやマンパワーなどの点からどこかの段階で現実との折り合いをつけていくしかないはずです。
その点で今まではただひたすら救急医療体制は質的量的にさらに充実させるべきだという理想論めいた議論ばかりが先行していたものが、何やらほんの少しだけ現実を見据えるようになってきたのか?とも感じられたのが先日厚労省で開かれた検討会での議論です。

「救命救急センターの数は量的に充足したのか」(2013年3月18日日経メディカル)

 厚生労働省は3月15日、救急医療体制等のあり方に関する検討会(座長:昭和大病院院長の有賀徹氏)を開催し、救命救急センターと2次救急医療機関に関する見直しの論点を提示した。救命救急センターに関しては、施設数は当初の整備目標を大きく上回ったが、原則24時間体制で全ての重篤な救急患者を受け入れられていないセンターがあることなどを問題視。2次救急医療機関については、施設によって救急搬送の受け入れ件数にばらつきがある点などを課題として示した。

 1976年から整備が始まった救命救急センターは、おおむね人口100万人に1施設を目標として全国に設置されてきた。現在はその目標を大きく上回り、約2倍に当たる259施設(3月1日時点)が存在する。他方で、センターによって専従(専ら当該業務に従事)の医師数は0~39人、年間の受け入れ重篤患者数は214~2615人と格差があり、運営面に違いが生じているのが現状だ。

 厚労省はこうした状況を勘案し、救命救急センターに関する見直しの論点として、(1)センターは量的に充足したと言えるのか、(2)原則24時間体制で全ての重篤な救急患者を必ず受け入れることができないセンターはどのように充実・強化すべきか、(3)都道府県や病院の管理者はどのようにセンターの質の向上に取り組むべきか、(4)センターに求められる医療機能を提供できない場合には指定の解除を検討してはどうか――などを挙げた。

 一方で2次救急医療機関については、病院によって年間の救急搬送受け入れ件数が0~1万2560件と大きなばらつきがある、約70%の病院で医師1人による救急当直体制となっていることなどを課題として提示。その上で、(1)救急搬送の受け入れの少ない病院が多く受け入れるためにはどんな方策が必要か、(2)地域での確実な搬送受け入れ体制の構築にはどのような取り組みが必要か、(3)救急医療体制の確保の観点から医師負担軽減策として新たな手法があるか――などを論点として提示した。

 これに対して検討会の構成員からは、各地域の実情(2次医療圏の広さや人口、など)によって適切な救急医療体制は異なってくるため、地域の現状を明確に認識した上で見直しに着手すべきとする声が多く上がった。

 座長の有賀氏は、「専従のいない救命救急センターは専任の医師を配置した上で様々な診療科の医師が対応していると推測されるが、他の医療従事者には(指示系統などが)分かりにくいので専従医師の配置が本来は必要だろう。ただし、都市部と地方ではセンターの役割が違ってくるので、その背景を理解して見直しを図ることが重要になる」と語った。2次救急医療機関に関しても、「同じ医療圏で救急搬送を多く受け入れている医療機関のすきまを埋める役割を担っている2次救急医療機関もある。救急搬送の受け入れが少ないから機能していないという議論にならないようにしないといけない」(東京医大救急医学講座教授の行岡哲男氏)といった意見が出た。

 さらに、多くの構成員が地域全体で救急患者を診る視点を重視。救急医療機関がスムーズに救急患者を受け入れられるように、地域全体で後方病床を確保する仕組みを検討課題とするよう求めた。

 同検討会は、高齢者の増加などに伴って救急医療の需要が増大する中、救急患者の受け入れ体制の機能強化や、救命救急センター・2次救急医療機関の充実を図ることを目的に設置された。年内をめどに検討結果をまとめる予定だ。

ちなみに日本の救命救急体制は一部の例外はあるもののおおむね三段階のピラミッド状の体制を構築していて、町のクリニックなどが外来だけで済ませられるレベルが一次救急、そして地域の中小病院が入院患者を受け入れるのが二次救急、さらには複数診療科が関わるような高度な医療を要する患者を扱うのが三次救急という分類になっていて、患者は重症度に応じて下位救急施設から上位へ送られることになっています。
このうち記事にもあるように三次救急に相当し全国232施設、およそ100万人に1施設の割で整備されているのが救命救急センターですが、本来なら最後の砦として重症患者を受け入れるべき救命救急センターの受診患者の実に9割近くが軽症患者であったという実態が報告されているように、日医などが長年その存続を強固に主張してきたフリーアクセスの大原則がシステムを有名無実化している部分が少なくないわけですね。
その上24時間365日どんな重症患者にも対応出来る救急体制を維持しようと思えば複数の医師を常時待機されておくしかありませんが、今時そんな医師が容易に確保出来る施設ばかりであるはずがなく全国救命救急センターの多くが実際には看板を下ろしたいのに行政側から懇願されたりといった事情でやむなく継続しているといった事情があります。
それでも搬送困難症例が出るたびに「センターのくせに何をやっていたんだ!」と周囲から叱責されることばかりでは心が折れてしまうのは当然で、スタッフ不足などから実質的には二次救急レベルの体制でお茶を濁している施設も少なからずあるというのが現実ですよね。

医師数が次第に増えていく中で激務の救急医療も次第にスタッフが充実していけばよいのですが、実際にはそうした仕事を希望する医師は増えていないという現実があって、それに対して専門医制度改変のついでに医師に強制的に救急に従事させてはどうか、などといった話ばかりでなく、出来ないものは出来ないと認めて救急センター指定を解除してはどうかという話が出ているのは現実的だと思います。
もちろんそうした話が出る背景には「こういう厳しいことを言っておけば各施設は指定解除されないよう必死に努力するだろう」という一昔前の発想から来る誤解も含まれているのかも知れませんが、現実的にセンター指定を解除されようが地域の基幹病院としての機能には変わりがない以上、形式はともかく実質として今よりも救急医療体制が後退するというものでもないでしょう。
そしてそうした実質があってもなんとかかんとか完全破綻には至らず地域の救命救急が存続していたことを考えれば、そもそも一律に人口割りでこの地域に一つ、こちらにも一つとセンターを配置しておかなければならないという発想そのものが、全国一律公定価格の皆保険制度下では国民皆が等しく平等に医療を受けられる権利があるという幻想に基づいた空論だったのかも知れませんね。
全てが平等という大前提を無くしてしまえば、例えば医療体制の充実度に応じて保険料にランク付けをするといった民間保険的な考え方も出てくるでしょうし、この辺りは将来的に日本もTPPに加わり言われているように医療制度自体に大きな変化が起こった場合に、どこかの時点で何かしらの対策が検討されていくことになるのかも知れません。

そして地域の人口と医療機関のバランスもまちまちであり、一口に二次救急と言っても実質的に三次救急レベルの能力まで備えている地域の基幹病院から、設定された医療圏内に他に施設がないからといった理由で選定された中小病院までも含まれていて、その実力もキャパシティも様々である以上施設によって二次救急の受け入れ件数が大きく異なるのは当たり前と言えば当たり前ですよね。
これまた「二次救急と称して補助金までもらっているのだからきちんと一定数の患者は引き受けさせるべきだ」などと地域の実情を無視した話が始まっても困るのですが、これまた地域ごとの事情があるという話がちゃんと出ているのですから、やはり画一的に行政によって定められた二次医療圏の設定というものが妥当なのかということにも立ち返ってみる必要がありそうですね。
そのためにはまず各地域で医療需給バランスがどうなっていて医療圏設定が妥当なのか、救急患者の流れがどうなっているのかという現状把握から始める必要があって、患者の流れを無視して医師再配置などを進めると必死で頑張っている施設からスタッフが引き抜かれ、救急対応出来ていない施設にマンパワーが集約され地域医療が混乱するといった事態も起こりえるということです。
いずれにしても地域医療の永続性を図るためには何よりスタッフ保護が最優先であることがすでに明らかになっているわけですから、機能強化だ充実だと言うことと平行して医療の総需要増加傾向や特定施設への患者集中といった需要側への対策も必ず必要になるはずで、結局は地域住民がどの程度の医療を望むか、あるいはどの程度の医療なら我慢出来るかという議論抜きでは何ともならないでしょうね。

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コメント

結局(患者側から見た)たらい回し対策って
「自力救済」しかないのでしょう。
例:親急病で救急車呼んでなかなか受け入れ先が決まらない…
「いや〜じつは私市議会議員の○○先生(保守系)と少々付き合いがありましてね〜うぇっへっへっへっ…
あ、あと産○新聞の△△記者とは大学の同期なんですよ〜」

まあ私には無理な話なんでこういう事態になったらわたしも、親も諦めるしかないですね。

投稿: 名無子 | 2013年3月19日 (火) 07時49分

名無子さまへ
その小技は現場の医者には通用しません。その程度で受け入れするならはじめから受け入れてます。
むしろ、カルテに余計なことを記載されて今後損をする可能性も・・・

投稿: クマ | 2013年3月19日 (火) 09時08分

>>あ、あと産○新聞の△△記者とは大学の同期なんですよ〜」

「なにー、タブロイド新聞のxx記者と知り合い? 絶対に受けるな!! 塩蒔いとけ!」
なんて逆効果もあるかもね。 マジレスすると「オレはxxと知り合いだ」って
ふんぞりかえって特別扱いを要求するような方とは、極力 関わり合いになりたくないですな。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年3月19日 (火) 09時12分

>例:親急病で救急車呼んでなかなか受け入れ先が決まらない…

それが可能な状態であれば自家用車でかかりつけまで乗せていくのが一番早いと思います。
もちろん普段から近くにかかりつけをもっておくことが必要ですが。
救急車で運ばれるにしてもかかりつけがあれば受け入れは決まりやすいですしね。

ところで病診連携で普段のかかりつけを開業医にしていく流れだと救急の対応が困るんですよね。
開業の先生にはいざというときの受け入れ先二次救急をあらかじめ決めてもらっといたほうがいいかもです。

投稿: ぽん太 | 2013年3月19日 (火) 09時21分

まずはかかりつけをもつ、これが鉄則だと思うのです。
ご高齢なのに病院にかかったことがないというのはもはや自慢にはなりませんので、単にいざというときのことを考えていないだけと言われてしまいます。
そして本来的には救急受け入れは診療報酬設定上の問題かと。
満床になるまでひたすら患者を詰め込まなければ経営が立ちゆかないようにしているのですからこれは人災というしかありますまい。
国もほんとに常時受け入れを求めるなら救命救急センターには空床率が高いほど診療報酬を上げるようにすべきですな。
ベッドが空けば医者の激務も解消し一石二鳥です。

投稿: 藪 | 2013年3月19日 (火) 10時46分

診療報酬の設定は非常に重要で、とにかく薄利多売に徹さなければ経営が成り立たないようにしておいて万一の場合にも備えろと言うのは、非常に矛盾したやり方だと思います。
将来は地域の医療機関が同じ院内のように自由に患者のやり取りが出来るくらいに連携が進めば、もっと患者移動も流動化でき病床利用効率も改善するかも知れません。
ただそうしたシステムを使いこなせない老医の先生方が、臨床の現場から一斉に退場せざるを得なくなるというリスクもはらむのですが。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月19日 (火) 11時30分

タイトル: Re: たらい回し
投稿日: 2013/03/08(Fri) 21:54
投稿者: 大西由梨香

我々は救急を引き受けることにより大きなリスクを負う。
その一方でメリットは全くない。
社会システムの構築に失敗したのだ、この愚民どもの集う存在自体が恥ずべき国は。
救急の担当者には彼らが負うリスクに見合う(それはこの「共産主義国」の愚民どもの身勝手な「常識」とやらでは考えられないほどの大きな)手当をすればいいのだ。
それが出来ないのなら「落命」してもらおうではないか。
それは自らの身勝手が招いた当然の結末にすぎない。

世界は愚者が生きられるほど甘くはない。
愚者に賢者の肉を食わせる国からは賢者がいなくなり、その国は滅ぶ。

http://www.pmet.or.jp/cgi-bin/pm_bbs2/wforum.cgi?no=1180&reno=1178&oya=1178&mode=msgview&page=0

投稿: | 2013年3月19日 (火) 11時37分

ただしい判断力を身につけているなw

投稿: aaa | 2013年3月19日 (火) 17時52分

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