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2013年3月15日 (金)

新出生前診断 始まった以上は当事者の意志尊重を

昨年末に指針案が世に問われたばかりの新しい出生前診断について、早いものでさっそく来月から国内でも実施されるということになったようです。

新出生前診断 来月にも 高齢妊娠が対象(2013年3月10日東京新聞)

 日本産科婦人科学会(日産婦)は九日、妊婦の血液で胎児のダウン症など三種類の染色体異常を高い精度で調べる新しい出生前診断「母体血胎児染色体検査」の実施指針を理事会で決定した。日本医学会に設置した認定・登録機関で施設の審査を今月中にも終え、四月に始まる見通しという。

 国立成育医療研究センターなど約二十施設が既に施設内の倫理委員会の承認を得て臨床研究として始める準備を進めている。安易に広がれば命の選別につながる倫理上の問題が指摘される検査技術が生殖医療の現場に登場することになった。

 指針では、検査対象を高齢妊娠としたが、指針案にあった「三十五歳以上」との年齢表現を削除した。学会は「三十五歳が高齢妊娠の目安」とし条件緩和が目的ではないとした。国立成育医療研究センターの臨床研究に参加する施設の規定では三十五歳以上に限っている。

 指針では、簡便さを理由に広く普及すると、ダウン症などの出生の排除や生命の否定につながりかねないと指摘。十分なカウンセリングのできる施設で限定的に行われるにとどめるべきだとして、臨床遺伝専門医の資格を持つ産婦人科医または小児科医の常時勤務などを求めた。妊婦の対象は高齢妊娠のほか、染色体異常の子どもの妊娠歴があることなどとした。

 施設の認定・登録は臨床研究だけを審査対象とする。指針検討委員会の久具宏司(くぐこうじ)委員長は「一般臨床に導入する場合は、指針の内容を見直す必要がある」とした。日産婦は産婦人科以外で検査が実施される可能性があるとして、日本医師会や日本医学会などと共同で指針の尊重を求める声明を出した。

 日産婦は昨年十二月、対象妊婦や実施施設の条件などを定めた指針案を公表して、広く意見を募っていた。新出生前診断はダウン症のほか、呼吸障害などをもたらす18トリソミー、13トリソミーが検査対象。

新出生前診断、実施予定は成育医療研究センターなど16施設(2013年3月13日産経ニュース)

 妊婦の血液で胎児のダウン症などの染色体異常を調べる新しい出生前診断で、国立成育医療研究センター(東京)などの臨床研究グループは13日、検査の実施を予定している16施設を公表した。近く、日本医学会に設置された認定・登録のための委員会に計画を申請する。委員会は3月中に審査を終え、認定された施設は4月から検査を始める見通し。

 施設は同センターのほか、北海道大、岩手医大、宮城県立こども病院、新潟大、東京女子医大、昭和大(東京)、横浜市立大、名古屋市立大、藤田保健衛生大(愛知)、大阪大、兵庫医大、徳島大、愛媛大、国立病院機構九州医療センター(福岡)、長崎大の各病院。

この新しい検査法は「妊婦の血液だけで安全確実に出生前診断ができる」と半年程前に話題になったものですが、ほんの二年ほど前には「胎児エコーも一種の出生前診断なのに、あまりに無自覚に行われている!」とマスコミなどからも取り上げられたばかりだというのに、ど真ん中の直球を投げ急ぐような気もする話ではありますね。
もちろん検査法自体は特に安全性の問題もないということから結局は倫理的な側面からの問題だけなのだとも言えますが、どうもこうやってあちらこちらでダウン症、ダウン症とまるで悪いことのように連呼されるのもどうなのかと、素朴な疑問を感じる方々もいらっしゃるかも知れません。
出生前診断についてはそもそも障害児であれ家族ともども何不自由なく暮らしていける世の中であればそんなものはいらないはずだという考え方もあって、特に ダウン症のような愛らしい患児が忌避される社会自体がおかしい、選別せず生むべきだと言う声も根強いですが、妊娠自体難しい条件にある妊婦さんにとっては 往々にして次はないのだという事情を周囲も承知しておかなければならないでしょうね。
最終的にはこうしたことは各人の価値観によって決まる問題ではあるし、別に強制でも任意でもありませんので利用者各位が自分で判断し、きちんと理性と感情の双方から納得した上で決断したことなら他人が口を出すことでもないでしょうが、命の選別問題などとあまりに追求しすぎることも高齢妊娠という言わば妊娠余命が限られた状態に置かれている妊婦に、さらなる深刻なジレンマをもたらすことにならないかと逆の面でも心配はするところです。

ところで今回の指針で35歳以上という表現が削られている点は注目すべきことですが、指針案について学会に寄せられた200ほどのパブリックコメントのうち「制限や条件をつけるべきでない」といった条件緩和派が80余に対して、「禁止すべきである」も含めた規制強化派が70ほど、そして指針案のままでよいという声が30余だったそうです。
単純に考えて緩和派の方がやや優勢ということで若干の緩和を行ったとも受け取れるのですが当事者から特に詳しい説明はないようで、おそらくは35歳という具体的な年齢を設定する根拠が乏しいといった強硬な反対意見が出された結果、最終的には加齢に伴うリスク増加など詳しい説明を行った上で現場の裁量で行うことにしたのではないかと言う気がします。
また指針案で「医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない」「妊婦に対して安易に勧めるべきではない」と明記していたくらいですから実施施設も秘密にするのかとも思っていたのですが、どこでやると個別に施設名が挙げられているのは逆に言えば自ら調べて希望してきた妊婦のみを対象に行うという意志表示なのかも知れませんね。
ともかくも学会側の指針を見る限りでも一般化する意志は全く無い、それでもどうしても知りたいと強い願望を持っている妊婦にのみ十二分に情報を提供し何度も意思確認をした上で行うということですから、そこまで思い詰めている人間の判断に当事者でもない他人が好き勝手に干渉することでもなく、まして「あの奥さんは検査を受けたらしい」と隣近所が後ろ指を指すようなことにならないよう願うのみです。

しかしこういう話になると頭の良い子供を産みたい、スポーツ万能の子が欲しいと産み分け目的で検査を利用するようになるんじゃないかと言う極論も未だにありますが、もちろん現時点でそんな便利な?検査法は世の中に存在しませんし、仮定の話を積み上げるばかりで現在目の前にある問題を放置するというのは本末転倒になってしまいますね。
今回の件を受けて厚労省では旧来の検査法も含めた実態調査に初めて乗り出すということですが、そもそも検査精度が高くなったというだけで異常が見つかった場合の葛藤という基本的な問題は今までと何ら変わるところがないはずですから今さら大騒ぎするというのも何か妙な話で、終末期医療問題などと同様にもっと以前から国民的コンセンサスを醸成しておくべき問題だったかとは思います。
マスコミもこれまた「命の選別だ」などと大きく取り上げていますけれども、本来こうした問題は非常にデリケートで可能な限り世間に知られることなく内に秘めておきたいという当事者がほとんどでしょうに、社会の側からこうもプレッシャーがかけられるとなればそれ自体が当事者の判断を歪めてしまうことになりかねず、むしろ新たな問題を生みかねないんじゃないかと言う気がしますね。
ともかくも反対派の立場からはしばしば「さまざまなハンディを抱える人たちが、ともに暮らしていける社会をめざすべき」といった声が上がるし、それはそれで全くもってその通りだと言うしかないのですが、高いリスクの中でただただ健やかな妊娠を願っているだけの妊婦さんもまた、「さまざまなハンディを抱え」ながら必死に生きている人たちに含まれるのだという認識も必要ではないでしょうか。

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コメント

好き勝手にやられないようにきちんとコントロール下におきたいという意図はよくわかります。もっとも今回は検査だけなので以前の非配偶者間体外受精みたいなことにはならない気もしますが。
どれくらいの希望者が出るかはマスコミの取り上げ方にもよるでしょうけどあまり多くなりすぎるとこれまた騒ぎになるんでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2013年3月15日 (金) 09時36分

>出生前診断についてはそもそも障害児であれ家族ともども何不自由なく暮らしていける世の中であればそんなものはいらないはずだという考え方もあって、特に ダウン症のような愛らしい患児が忌避される社会自体がおかしい、選別せず生むべきだ

おそらくまったくの健常児を、年間30万人も中絶してるってのに何を今さら…、と一見関係ありそうで関係ない話をしてみるてすつ

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年3月15日 (金) 09時48分

ちなみにこれ、お値段はいくらくらいになりそうですか?

投稿: くま | 2013年3月15日 (金) 11時12分

費用面ではまだはっきりしたアナウンスはないと思いますが、当面臨床研究として慎重に行うということですから、旅費等を除いての検査自体の費用負担はさほど大きなものにはならないと思います。
ただ安すぎれば希望者が増えるというジレンマがありますから、どう設定するかは各施設も悩ましいところではないでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月15日 (金) 11時45分

検査の規制をするのもいいですが、いい加減妊娠が無理な方にはちゃんと宣告させる方が先なんじゃないですかね?
ボッタクリ価格で成果も見込めない不妊治療に底なしのお金を貢がせるって他の商売ならとっくに社会問題でしょ?
学会はそういうところの指針をきちんと決めないでいいんですか?

投稿: 直言居士 | 2013年3月15日 (金) 19時53分

公費は使わずにやってんだから好きにさせてやったらいい

投稿: | 2013年3月15日 (金) 21時11分

>ボッタクリ価格で成果も見込めない不妊治療に底なしのお金を貢がせるって他の商売ならとっくに社会問題でしょ?

つまりは超高齢の妊娠希望者にどこまで不妊医療を続けるかってことでしょうか?それぞれの状態や必要な費用をよく相談して決めるしかないのでは?おそらく不妊医療の費用より育てる費用の方が高いでしょうし。
いまのところ嘘をついて見込みのない治療を続けさせたと訴えられた医師はいないみたいですし最低限のモラルは保たれているんじゃないでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2013年3月16日 (土) 09時56分

当事者が問題視してないものを他人がどうこう言っても仕方ないだろw
金がもったいないと思ったらやめとけw

投稿: aaa | 2013年3月16日 (土) 16時53分

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