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2013年3月12日 (火)

着々と労働環境改善を図る看護協会 そのとき日医は

看護師不足も言われて久しい今日この頃ですが、先日こういう記事が出ていたことをご覧になったでしょうか。

8割が「辞めたい」、疲弊する看護師の労働現場(2013年3月5日エコノミックニュース)

 自治労連の調査によると、看護師の8割が「仕事を辞めたい」と考えているという(仕事を辞めたいと「いつも思う」26%、「ときどき思う」54%) 。その理由は「人手不足で仕事がきつい」37%、「賃金が安い」29.5%、「休みが取れない」29%、「夜勤がつらい」28.3%などとなっている(「看護職員の労働実態調査 中間報告」2011年)。

 看護師の夜勤は1992年、看護師保護法によって1ヵ月に8日以内という努力義務がうたわれた。しかし実態は日本の病院に多い3交代制の場合、4人に1人が9日以上の夜勤を行っている

 3交代制では日中の勤務を終えた後、数時間の休憩しか取らずに次の深夜勤務に入るスタイルも常態化している。たとえば朝8時半から残業を含めて19時半まで働いた後、帰宅して3時間の仮眠をとり、また夜中0時から翌朝9時までの深夜勤務を行うといった具合だ。これでは実質的に24時間以上にわたって十分な休息なく活動していることになり、日本看護協会の資料によると看護師の6割がこのような勤務を行なっている 。引き継ぎはサービス残業とされる場合も多く、慢性的な疲労につながっている。先の調査では看護師の実に75%が、疲れが「翌日に残る」、「休日でも回復しない」と答えた

 このように過酷な労働環境から、毎年5万人近い新人看護師が誕生しているにも関わらず、10万人以上が辞めていく。資格を持っていながら働いていない「潜在看護師」は55万人ともいわれ、再就職支援も進んでいない 。

 看護師の離職原因にもなっている過酷な夜勤は、病院が看護師を増員することによって1人あたりの回数を減らせるだろう。ところが「平成23年 病院経営実態調査」によると、62.3%の病院が赤字経営 。コストカットに腐心する中、人権費だけをそう簡単に増やせるはずはない。それでも医療機関で働く職員の半数は看護師 である。長時間労働に加えて患者の高齢化や重症化、医療の高度化で年々厳しさを増す労働環境が、このままでよいはずはない。

医療専門職の不足は久しく前から言われていますが、医師などがドロップアウトすると言えば多忙な急性期の施設から慢性期病床や特養、あるいは研究職など心身の負荷が少ない職場へ移っていくことを意味しているのに対して、看護師の場合は看護職そのものから手を引くことが多いと言います。
医師からすれば看護師の職場環境と言えば三(二)交代勤務が確立され、きちんと休みも取れるじゃないかと思えるところでしょうが、基本的には自己裁量というよりも医師の指示に従って仕事をこなしていくという職種ですから、職場の状況によっては文字通りいつまで続くか判らない残業地獄に心が折れそうになることもままあるのでしょうか。
現在労働者全体の離職率が14%程度と言いますが、これまた先日出ました看護協会による「2012年 病院における看護職員需給状況調査」の速報では看護師離職率が4年連続で低下し10.9%と一見改善が進んでいるようでいて、「月72時間超」夜勤者の割合が50%以上という多忙な病院の離職率は、12.9%と相変わらず高止まり傾向が改善されていなかったと言います。
交替勤務制と言いながらそれがうまく機能していないということが高い離職率を招いていることが明らかなのですから、看護協会が今月7日に「看護師の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」を発表し夜勤負担の軽減を図ったことは業界団体としてまことにごもっともと言うしかなく、団結力と政治的影響力の強さを背景にして次々と労働環境改善のための対策を打ち出してくるのをうらやましく感じる先生方も多いのではないでしょうか?

ひるがえって交替勤務制などほぼ存在しないどころか、全国ほとんどの施設で日勤-当直-日勤という非常識な労働慣習が相変わらず続いている医師の世界においては、激務の急性期施設を中心に医師の逃散が続く状況は相変わらずですけれども、看護協会のカウンターパートとなるべき日医が何かしらこの方面で積極的な方針を打ち出したという話もほとんど聞くことがありません。
それどころか看護師には看護師保護法などという特別の法律まで用意されるなど着々と環境改善が進んでいますが、医師会内で医師の労働環境改善など主張しようものなら「医師には奉仕の精神が重要で,労働基準法や36協定はなじまないというような意見も何人から出され」反対されると言うのですから、一体彼らは何のための団体なんだと言うしかありませんよね。
医師の場合も逃散の背景として勤務状況が非常に厳しく一人でも減れば診療が成り立たないほど多忙であるという状況は、心の折れた医師一人の退職を契機として当該診療科全員が一斉退職することになった、などというケースが少なからず見られることからも明らかだと思いますが、それなら多忙な医師にさらに仕事が集中しないよう医師会員が基幹病院の当直を全て引き受けますくらいのことは言ってもいいはずです。
基本的に開業医の利権団体である日医としてみれば、奴隷医者が面倒な症例をどんどん引き受けてくれるからこそ会員も枕を高くして眠れるのですから筋が通っていると言えばその通りなのですが、一方で先日も自民党議員による東北地方への医学部新設要望に反対の意志を明確にした以上、彼らも各地から要望の強い医師不足対策に関して何らかの対案を示さないわけにもいかないはずです。
日医としては「医学部新設よりも偏在解消を」と言いたいらしいのですが、その具体的手段として医師会員は率先して医師不足地域に出向いて診療に従事しますなどと言い出すならともかく、国による医師派遣をどうぞよろしくなどと言い出すのですから一体何の業界団体かという話ですよね。

「政治主導で医師偏在の解消を」-日医、医学部新設の問題点指摘(2013年3月7日CBニュース)

 日本医師会(日医)の中川俊男副会長は7日の記者会見で、東北地方の被災地復興のシンボルとして、医学部の新設を求める動きがあることに対し、「医師不足は、医師の絶対数の不足と偏在からなる問題。医師養成数の増加が図られてきた結果、医師の絶対数確保には一定のめどがつきつつある」と述べ、医学部の新設よりも医師偏在の解消を優先すべきとの見解を示した。

 中川副会長は、「医師の地域偏在、診療科偏在の解消が急務。特に東日本大震災の被災地をはじめ、東北地方の医師確保は喫緊の課題」と指摘。医師の地域偏在に取り組んでいる地域医療支援センターの機能を強化させるとともに、国からの医師派遣についても検討が必要とした。

 また、医学部を新設した場合、教育確保のため、医療現場から1大学につき約300人の教員(医師)を引き揚げざるを得ず、地域医療の崩壊を加速させるとの懸念を示し、「これまで医学部定員を増加させてきた被災地の大学医学部を評価して、そこで進められている医師の教育、派遣を通じた地域医療支援等を、国が財政面も含めて全面的に支援すべきである」と述べた。

 さらに、「医学部の新設を進めることで、医療現場から勤務医師の引き抜きが発生し、東北沿岸部の医療が壊滅する」との東北医師会連合会の“現場の声”を紹介した上で、自立して診療が可能な医師を養成するまで10年以上かかるといった問題点を列挙。「医学部を新設しても医師偏在が解消できるわけではない」として、政治主導による医師偏在の解消を求めた。【新井哉】

無論こうした日医による「医者売り渡し」構想をより確実なものとするために、今後政府厚労省と結束して新卒者や専門医資格取得希望者などを中心に国の指定する施設での勤務を義務づける政策を編みだしていくつもりなのだと思いますけれども、供給増はここでストップするなら激務の根本原因となっている需要過多に対策を講じなければならないはずなのに、自分達ではない誰かを犠牲にしてその場をしのげばいいという発想はどうなのでしょう?
もともと勤務医の労働環境は久しく悪化の一途を辿っていた中で医療崩壊という現象がとうとう公のものとなった、そしてあまりに酷い職場からは逃散してもいいんだということに多くの奴隷医師達が気づいた結果が長年医局派遣を当然のものと思い込み、医師を好き放題使い潰してきた地域公立病院を中心とする医師不足といった形で現れてきたわけですね。
田舎にあってもきちんとした病院は労働環境を改善し、仕事のしやすい場を用意することで自前の医師を確保していますけれども、そうした自ら血を流しての改革をする気もない施設ほど「医者が来ない!国が強制的に派遣してくれ!」などと言っているのですから、「まずはお前らが労基法無視の環境を改めろ。話はそれからだ」と言うでもなくむしろ彼らを後押しするとは、医療現場の環境改善に逆行すると言ってもいい馬鹿げた行為でしょう。
多くの勤務医にとって日医という存在は別に自分達の権益の代弁者でも何でもなかったと思いますが、こうした団体がまるで医師の総意を代弁するような顔で国政を歪めているというのは全くもって背後から銃を撃つような行為で、何故彼らには他職種の業界団体が当たり前にやっている程度のこともまともに出来ないのかと思ってしまいますね。

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コメント

日医は病院経営者のための団体ですから。
同じ農民といっても小作ではなく地主。
奴隷解放したら農場経営が成り立たなくなったから、お上の責任においてもう一度奴隷をよこしてくれ、と言っているのだと思えば実に分かりやすい。

投稿: JSJ | 2013年3月12日 (火) 09時11分

会員以外の医師を人身御供に差し出して会員の安逸を図る団体と考えれば日医も優秀な団体に見えてくる不思議w

投稿: aaa | 2013年3月12日 (火) 09時40分

ただ自分達でやれますからと根拠もなく大言壮語せず政治主導でやってくださいとお願いするあたり身の程をわきまえてしおらしい態度だなと感じたんですが…

投稿: ぽん太 | 2013年3月12日 (火) 10時38分

看護協会のやり方自体にはまったく同意できないところも多いのですが、業界団体として傘下の権益を擁護するという点では日医などよりはるかに上ですね。
日医の場合は外から見ると会員の利権ばかり追求しているように見えて、その実末端会員などからも大ブーイングというのが何とも評価しようのない団体だという印象です。
それでも日医に加入すべきであると主張するなら、加入によってどのようなメリットがあるのか明示していただかないことには納得出来ないというものですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月12日 (火) 11時17分

そういえば選挙のたびに看護師が詰め所で議員の後援会に提出する名簿を書いてましたな。
協会から今回は何人とノルマがあるらしいのだが、公立病院でもああいう労組的なことしていいんだろうかと疑問に思ったもんでしたが。
なにかと天下国家ばかり語りたがって足下の怪しい医師会も困ったものだが、ああなってしまうのもどことはなしに違う気がしますです。

投稿: 藪 | 2013年3月12日 (火) 13時21分

「基本的に開業医の利権団体である日医」などと、日医の本質を誤解している管理人氏にとって日医の行動が腑に落ちないのは尤もなことですが、JSJ氏のように日医の本質を正しく把握していれば、実に分かりやすい日医の振る舞いです。東北の医学部新設反対理由である「医療現場から1大学につき約300人の教員(医師)を引き揚げざるを得ず、地域医療の崩壊を加速させるとの懸念」にしても、医師を引き揚げられて困るのは誰(どんな医師)なのか、JSJ氏のように日医の本質を正しく把握していればすぐにピンと来るはずですが。

投稿: くら | 2013年3月12日 (火) 16時30分

いずれにしても日本医師会に加入するメリットなど何もないですね。これは同意できます。
病院で勤務すれば何故か強制的に加入させられますから、やはり病院経営者のための団体なのでしょう。
もし開業医だけの団体であれば、勤務医が加入させられることはないはずだと思っていましたので。
入会費や月会費などは病院負担で懐は痛みませんから、何の疑問ももたず言われるがままでした。
もし医師会入会を拒否れば、クビにされるのでしょうか?そうなれば裁判沙汰になりそうですね。
昨年から思い切って日医をやめたのですが、変な雑用もなくなり本当にスッキリしてせいせいしてます。
こんなことならもっと早く辞めればよかったなと。

投稿: 逃散前科者 | 2013年3月12日 (火) 17時57分

まるっといって経営者のための団体でしょうな
使われる立場のものにはメリットがない
それらの権利は自ら守れということですな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年3月12日 (火) 19時46分

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