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2013年3月13日 (水)

リピーター医師対策に付随して発生した医賠責問題

本日の本題に入る前に、被災地福島からこうした記事が出ていました。

福島の産科医不足、日産婦学会が交代派遣へ-離県医師11人、入局者追いつかず(2013年3月11日CBニュース)

 福島県産科婦人科学会の要請に応え、日本産科婦人科学会は今春から、同県内の病院に医師1人を交代で派遣する。日本産科婦人科学会震災対策・復興委員会委員長の岡井崇氏は「長期間医師を派遣した方が望ましいが、それぞれの大学でも医師は足りていないので無理ということになり、1か月ごととした」と交代派遣の理由を説明した。

 要請の文書によると、震災後から昨年9月までの間に、11人の産婦人科医が他県へ転出。一方で、福島県立医科大の産婦人科学講座への入局者は5人にとどまっている。派遣に当たっては、全国の大学80校に1か月程度の派遣が可能かを打診し、「可能」「条件付きで可能」と13校から回答があった。今後、スケジュールなどを調整するという。

 日本産科婦人科学会は震災直後、海外の産婦人科学会からの義捐金を用いて、被災地の3病院に産婦人科医を派遣。2011年12月には、不足の状況が一段落したとして派遣を終了していた。岡井氏は、「福島を出て行った医師は、戻ってこないという事情もある。患者さんも減っているが、相対的に(医師の数も)大変だと聞いている」と再派遣について説明した。【大島迪子】

思えば大野病院事件では即座に同学会が起訴に対する抗議の声明を発表しましたが、最終的に勝訴したとは言え産科医を悪人に仕立て上げようとした同県側のトンデモ対応ぶりが全国に晒された結果一気に現場の士気が下がった、さらには先年の震災においても双葉病院を「患者を置き去りにして逃げ出した」などといわれ無き批判をするに及んで、同県医療行政の求心力は地に落ちたと言って良いでしょう。
日本で最も人口減少率が高くなっている福島県内では産科医の需要も以前よりは確実に減っているのではないかと思いますけれども、福島県当局としては昨年末に人口減対策に重きを置いた「ふくしま新生プラン」を打ち出しているところですからこの方面で手当をしないわけにはいかないはずで、学会側も乏しい手駒をやりくりして何とかこれに対応しているのは判りますが派遣される側の現場の心境は複雑でしょうね。
さて本日の本題ですが、世間では妙に人口に膾炙してきた感のあるリピーター医師というものに関連して日医が新たな対策を打ち出してきたというニュースが先日出ていましたが、この中に少しばかり気になる話があるようです。

リピーター医師対策で委員会設置案が浮上-日医(2013年3月7日CBニュース)

 厚生労働省の「医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議」は7日の会合で、日本医師会(日医)の医師賠償責任保険制度について意見交換した。参考人として出席した日医の葉梨之紀常任理事は、日医内に委員会を設置し、医療事故を繰り返す「リピーター医師」への対策を検討する案が浮上していることを明らかにした。

 日医の医賠責保険制度は、医療事故などで100万円以上の損害賠償請求を受けた会員が、日医に処理を委任するもの。保険金の支払いのほか、請求された賠償額の妥当性や医師の責任の有無を、各学会の専門家や弁護士が判断する。保険料は日医の会費に含まれているため、日医会員は皆、加入している。葉梨常任理事によると、年間300件ほど委任を受けるほか、100万円未満の請求が年間1000件近くあり、都道府県医師会などが、それぞれの加入する民間保険で支払いを賄ったりしているという。

 宮脇正和構成員(医療過誤原告の会会長)は、「病院が事故をたびたび繰り返し、賠責に入れないケースがあると聞く。医療被害者が裁判で勝訴しても、(医師や医療機関が)保険に入っていないということで(賠償金が)支払われないケースもあり、悲惨だ」と述べ、事故を繰り返す医師への日医の対応をただした。

 葉梨常任理事はリピーター医師への対策について、保険制度から除外したり、保険料を引き上げたりはしないとした上で、「どうしたら繰り返し起こさないかという考え方で対処している。一定の制度はなく、都道府県医師会で本人の指導に当たったり、県内の大学で研修を受けてもらったりしている」と現状を説明。さらに、日医の中でも「繰り返し事故を起こす例は問題。一つの方針としては、(対策を検討する)委員会をつくろうということになっている」と述べた。【佐藤貴彦】

ちょうど一年前に史上初めていわゆるリピーター医師が処分されたという記事が出ていましたが、そもそもリピーター医師とは何なのかという議論も昔から盛んであったところで、ハイリスクな医療を積極的にやってくれる熱心な先生ほど患者にとっては望まない結果も数多く経験する一方で、ひたすらリスクは他人に押しつけ我が身の安泰だけを図る先生は全くおとがめなしとはおかしいじゃないかという素朴な反発もあったわけです。
ただし人間の命を扱う医療と言うものは最終的にはどんな名医であっても患者の死という望ましくない結果は避けられない、そしてそうした運命の中で医療の目的とはただ延命や治癒を求めるという即物的なものに留まらず顧客満足度を高めることにあるという考え方を取るなら、仮に医学的には満足できる結果が得られたとしても顧客が猛り狂って裁判に及ぶという状況は医療としては失敗だったと言えるかも知れませんね。
その意味で客観的指標として医賠責の請求回数すなわち顧客トラブルの数を用いるというのはそれなりに合理的な考え方だと思うのですが、すでに2005年から日医では会員向け医賠責で過去3年で3回以上の有責事故を起こした者に研修を受けさせることにしており、将来的には状況を見ながら制度運用を見直すという方針ではありました。
もちろんこれはこれで何もしないよりはやった方が良いだろうという類の話なのですが、今回特に留意いただきたいのは原告側の話として「病院が事故をたびたび繰り返し、賠責に入れないケース」があると主張しているのに対して、日医側は「保険制度から除外したり、保険料を引き上げたりはしない」と答えているという点です。

日医の医賠責も保険会社が請け負ってることには変わりがないようなのでこうした担保が出来る背景事情がどうなっているのか、医師会全体で引き受けるといったような形でリスク分散を図っているのか詳細は判りませんが、いわばリピーターだと公的に認定する制度を立ち上げているわけですからこうした対策も同時並行で講じていかないと、無保険者が増えるだけでは患者側は何かあった時に大変ですよね。
このリピーター認定システム自体が自動車免許の制度を思い起こさせるところがありますけれども、自動車事故においては自賠責という強制保険の加入義務があるのは周知の通りで、さらにひき逃げや万一の無保険車による事故での被害者救済のために国が自賠責支払いを加害者に代わって立て替えるという政府保障事業という制度まで完備され、必ず最低限の被害者補償が受け取れるようになっています。
リピーター対策というと効果もはっきりしない再教育だとか、行政処分で医療から追い出すべきだといった話ばかりが議論される傾向がありますが、医業とは唯一合法的に他人を傷つけることを認められた商売ですから入るかどうか(入れるかどうか)も判らない任意保険に頼るのではなく、何らかの公的側面を持つ強制保険くらいは用意しておくべきではないかと思いますね。
ただしその強制保険の制度設計に日医などを関わらせると「日医会費には保険料も含まれてます。医師全員を日医に強制加入させればいいんじゃないですか」なんて馬鹿げたことを言い出しかねないですから、産科無過失補償など先行する事例の改善点などをよくよく検討した上で別枠での制度設計を行うべきではないでしょうかね。

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コメント

いっそ医師免許も点数制にすればいんじゃない

投稿: kamiya | 2013年3月13日 (水) 08時38分

医師派遣などと余計な手出しはせず自然に委ねる道もあったろうになw
ひとたび手を差し伸べれば末代までくれくれとたかられ続けるぞw

投稿: aaa | 2013年3月13日 (水) 09時18分

安全運転に徹しろって事ですねとてもよくわかりますw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年3月13日 (水) 09時36分

運転スキルも伴わないのに無謀運転をするのは、一般論としても許されないでしょうね。
ただ誰でも事故は起こし得るという前提に立ってのシステムを構築しておけば、運転手のみならず周りの人間も安心できるというものです。
自動車関連は事故時の査定基準の明確化など、わりあいに見習うべき点が多いと思ってます。

投稿: 管理人nobu | 2013年3月13日 (水) 11時39分

医賠責も断られることってあるんだな。へーへーへー。でも単にかけるのケチってたのかもね。

投稿: 亀さん | 2013年3月13日 (水) 13時22分

本当に掛け金を払っても断られて入れないのならその基準はぜひ公表していただきたいし、本来そういうことはあってもらっては困るでしょう
しかし用心で個人保険には入ってますが、将来ブラック病院に転勤になるとこれも拒否されることがあり得るのだろうか?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年3月13日 (水) 20時09分

保険なしで診察させないようにしたらいいのでは?個人が無理なら病院持ちで

投稿: しんちゃん | 2013年3月14日 (木) 17時59分

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