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2013年2月 8日 (金)

救命救急 理屈通りの改善も実はなかなか難しい?

先日の川崎幸病院の一件に引き続いて本日も救急医療の話題を紹介したいと思いますが、まずは先日厚労省の検討会でまことにもってごもっともと言うしかない話が出ていたというニュースから紹介してみましょう。

「2次救急はアナログの世界」、委員が懸念-厚労省検討会、ICT活用例提示(2013年2月6日CBニュース)

 「2次救急はアナログの世界。なかなかデジタルに入り込めない」―。救急医療体制の今後の在り方などを検討するため、厚生労働省が6日に開催した検討会で、出席した委員から、救急車で患者が最初に運ばれる1・2次救急医療機関でICT(情報通信技術)の導入が遅れていることや、機材やシステムを十分使いこなせていないことを懸念する声が相次いだ

 2011年の救急搬送人員が過去最多を記録したことなどを受け、救急医療体制を充実させるために厚労省が開催した検討会。初会合のこの日、救急医療へのICTの活用に取り組んでいる専門家からヒアリングを行った。NPO法人ヘルスサービスR&Dセンターの青木則明理事長が、奈良県内で実証が進む「救急医療管制・意思決定支援システム」、横浜市立大大学院医学研究科救急医学の森村尚登教授が、院内と院外データの連結の重要性について、研究・調査のデータを示しながら、それぞれ現状や課題を解説した。

■「情報システムが情報を提供していない」

 青木理事長は、消防本部別搬送時間の内訳の表を示し、同じ県でも地域によって搬送時間に関する因子が異なり、これを平均化した数値では「なすべきこと」が見えないと指摘。「発症から治療開始のような全体を見通すアウトカムとプロセスで評価されるべき」と訴えた。

 また、現実に起こっている問題点では、搬送先選定のミスマッチがあると指摘。情報システムが受け入れ可能と表示していた「応需可」と、受け入れられないと表示されていた「応需不可」のいずれの医療機関でも、最終的に患者を受け入れた割合がほぼ同じだったため、「情報システムが情報を提供していない」と結論付け、現状を把握できていない可能性があるとした。

 さらに、救急医療の質向上のため、▽現状を把握するための数値や画像(情報)▽現場のマッチング改善▽広域の救急医療データの水平・垂直統合▽統合データの定期的なフィードバック―などが必要とし、「ICTの役割は、データの統合・情報の創出に基づく意思決定の支援である」と述べた。

■情報を集約するクラウドカルテを

 森村教授は説明の冒頭で、「救急医療は現場から始まる」と強調。病院到着までの体制や救護のプロセスがアウトカムに大きな影響を与えることから、「発生から病院まで継ぎ目なく傷病者をトレースして救急医療の質を評価する必要がある」と述べ、院外と院内のデータの連結の重要性を指摘した。

 また、将来的には情報を集約するクラウドカルテが不可欠になるとの見通しを述べ、▽院内外のデータを集約させることで、自動的に必要な情報がデータベース化される▽住民の急な傷病に対する救急医療の質の評価が可能になる―などの利点を列挙。地域住民を守る体制を確立させるため、効率のよいデータ収集が求められるとの考えを示した。

 委員からは、「ICTは目的ではなく手段。何が問題で、どう使うかの基本姿勢をしっかりしないと、ICTの海でおぼれてしまう」「やるのであれば、全国統一的なものを決めていかなければならない」などの意見が出された。【新井哉】

昔からむしろデジタル好きが多い業界にも関わらず医療のデジタル化が意外に進まないのにはそれなりの理由があって、例えば電子カルテと紙カルテとを比較すると長期間でのデータ閲覧性確保や事務処理の向上などを含めて全体としては恐らく電子カルテの方が効率が良いのだろうとは思われるものの、医師と患者が向き合う診療の現場というただ一点における迅速さでは紙カルテの方が勝っていると言う評価が多いようです。
医師個人の慣れにもよりますが外来診療を電子化すると一般に時間当たりでさばける患者人数は2~3割は減ると言いますし、一刻を争う救急現場で今までは口頭で取りあえず指示を出して処置を進めながら後刻カルテ記入すれば良かったものが、まず医師が電子カルテで指示を出し各部署にデータ転送をしないことには検査も治療も行いようがないといった笑い話のようなこともあるわけですね。
また救急「たらい回し」問題解消に救急隊が患者情報を一括送信して受け入れ可能な施設が返信すればいいじゃないかという人もからいますが、救急隊側から見れば大多数の患者はせいぜい2~3回の電話照会で受け入れられている以上入力をするより電話をした方が早い、受け入れ施設側から見ても救急隊が患者を拾うたびにいちいち確認し返信させられるのは勘弁してくれというのが正直なところでしょう。
もちろん地域内での患者情報共有などは救急のみならず日常診療におけるコストパフォーマンス改善にも非常に有益なことで、現に各地で共有化が始まっていることは望ましい改善だと思いますが、現在の技術では残念ながら何でもかんでも電子化すれば効率的になるというわけではなく、実際に診療にあたる現場スタッフの「手の感覚」も重視しながらやっていかなければならないということを明記すべきですよね。

いずれにしてもCT(コンピュータ断層撮影)などという文字通り電子化によって初めて実現した機械が今や当たり前に受け入れられていたり、現場スタッフが患者情報を一覧できるタブレットなどの個人端末を携行して病室を回ることも全く珍しい光景ではなくなったことにも現れているように、何であれ便利なもの、有用なものであればどんどん実社会に普及していくのは当然ですよね。
逆に言えば理念先行でこうした方がいいんじゃないか、こっちのやり方ならもっとうまくいくはずだと思い込んでいても実際にやってみるとうまくいかない、それどころかむしろ有害無益であったということにもなってくれば、これは早めに改めていかないことには患者さんにとってもスタッフにとっても何もいいことがないと言うことです。
先日中間報告が出た救命救急士の業務拡大問題においても、実際にやってみるとどうやら効果が期待出来そうなものもあればさして意味がなさそうなものもあったようですが、今回の実証研究では範囲に含まれなかった救命救急士による挿管の是非についてどうやら否定的なデータが出たらしいという記事を紹介します。

院外心停止者への病院到着前の高度な気道確保は転帰不良と関係(2013年2月4日日経メディカル)

 院外心停止者に対して、病院到着前に高度な気道確保(気管挿管や声門上気道確保器具の適用)を用いた人工呼吸を行うと、通常のバッグ・バルブ・マスクを用いた人工呼吸に比べて転帰は向上するのだろうか。かねて議論が続いていたこの問題について、日本の約65万人の院外心停止者のデータを分析した米Harvard大学医学部の長谷川耕平氏らは、高度な気道確保を行った患者では、神経学的転帰良好な状態での生存率が低いことを明らかにした。論文は、JAMA誌2013年1月16日号に掲載された。

 著者らは、「病院到着前の高度な気道確保は、成人の院外心停止者の転帰を改善する」という仮説を検証するために、日本の全国規模のレジストリである「All-Japan Utstein Registry」から得た情報を分析した。
 05年1月から10年12月までに院外心停止となった成人患者のうち、救急隊員による蘇生が試みられ、その後病院に搬送されてウツタイン様式で情報が登録された、連続する64万9654人の情報を抽出した。
 主要転帰評価指標は、院外心停止から1カ月の時点の、神経学的転帰が良好な状態(Glasgow-Pittsburgh cerebral performance category;CPCが1=転帰良好、または2=中等度の障害)での生存に設定。2次評価指標は、病院到着前の自発循環の再開、1カ月時の生存とした。
 気道確保がどのように行われたのかが記録されていなかった患者を除く64万9359人を分析対象にした。このうち36万7837人(56.7%)がバッグ-バルブ-マスクを用いた人工呼吸を受けており、28万1522人(43.4%)には高度な気道確保が行われていた。うち4万1972人(6.5%)は気管挿管を受け、23万9550人(36.9%)は声門上気道確保器具の適用を受けていた。

 自発循環が再開した患者は全体の6.5%、1カ月後に生存していた患者は4.7%、神経学的転帰良好な状態での生存者は2.2%だった。
 神経学的転帰良好な状態で1カ月後に生存していた患者の割合は、高度な気道確保群を受けていた群の方が低かった。高度な気道確保群全体では1.1%、バッグ・バルブ・マスク群は2.9%で、未調整オッズ比は0.38(0.36-0.39)。気管挿管が行われた患者の神経学的転帰良好者の割合は1.0%、声門上気道確保器具が適用された患者では1.1%だった。
 年齢、性別、心停止の原因、初期リズム、目撃者の有無、居合わせた人が行った心肺蘇生の種類、公共の場に設置されたAEDの使用の有無、エピネフリン使用の有無、救急要請の電話から救急隊員による心肺蘇生開始までの時間、救急要請の電話から病院到着までの時間で調整したオッズ比を求めた。その結果、高度な気道確保群の神経学的転帰良好な生存のオッズ比は0.38(0.37-0.40)、気管挿管群では0.41(0.37-0.45)、声門上気道確保器具適用群は0.38(0.36-0.40)になった。
 感度解析やサブグループ解析も行ったが、いずれも、これら高度な気道確保が神経学的転帰良好な状態での生存の可能性を有意に低下させることを示した。
 傾向スコアがマッチするコホート(35万7228人)を分析対象にしても、結果は同様だった。気管挿管群の調整オッズ比は0.45(0.37-0.55)、声門上気道確保器具適用群では0.36(0.33-0.39)になった。
 2次評価指標である病院到着前の自発循環再開の調整オッズ比は0.67(0.66-0.69)、1カ月時の生存は0.73(0.71-0.75)と、やはり高度な気道確保群で有意に低かった

 十分な検出力を持つ大規模研究により、院外心停止となった成人患者においては、気管挿管または声門上気道確保器具を用いた高度な気道確保は、1カ月後の神経学的転帰良好な状態での生存の独立した予測因子であることが示された。
 原題は「Association of Prehospital Advanced Airway Management With Neurologic Outcome and Survival in Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest」、概要は、JAMA誌のWebサイトで閲覧できる。

日本での大規模データということで非常に有意義な研究であると思いますが、通常のマスク換気を行った群に比べると気管内挿管あるいはラリンゲアルマスクといった高度な(手のかかる)気道確保を行われていた方が当然結果がいいのだろうと思っていたところ、実は「高度な気道確保が神経学的転帰良好な状態での生存の可能性を有意に低下させること」が判明したと言うのですから大変な話ですよね。
それも多少の差と言うレベルではなく転帰良好な状態での生存率が4割程度にまで下がってしまうというのですから決定的と言えそうなデータで、もちろん院外心停止ともなれば元々ほとんどの方が亡くなってしまうという危機的状況であるだけに現場でも実感は湧きにくいのかも知れませんが、単純計算で28万人の高度気道確保対象者全員にマスク換気をしていれば5000人からの命が助かっていたという計算になるでしょうか。
以前から「都会で搬送に時間がかかるのは、救急救命士が医療行為を行っているから」だという意見もあり、下手な挿管に失敗して現場で手間取るくらいならさっさと病院に運べという手厳しい声も根強くありますし、また挿管をしようと心マを行う手を一時停めるともなると大切な初期における循環確保がおろそかになる可能性もあるのかも知れません。
今回の検討では病院到着時間なども調整して結果を出しているということですが、現場での救急処置にどれくらいの時間がかかっていたのかということでも比較出来ていればそのあたりの疑問に対してさらに一段と決定的な結論が出ていたかも知れないですね。

さて、EBMということが盛んに言われるのが現代の医療の世界だけに、こうした結果をどう扱うかということが問題になってきます。
以前から救命救急士が勝手に医療行為をした事件が少なからず報道されているだけに、こういうデータが出てくると「やはり救急隊などに医療行為まがいのことなどやらせるべきではないのだ」という批判的な声が高まってくることは当然予想できますが、受け入れ側医療機関や道路状況も含めて環境の整った救命救急ばかりではなく、それこそ先の大震災のように救急車が走れる道もなければ受け入れる病院もないという状況もあり得るわけですね。
そうした事態までも想定するなら救命救急士しかりナースプラクティショナーしかり、とっさの時に補助的であれ当座の救命処置を行うことの出来るだけのスキルをなるべく多くの医療関係者が磨いておくことは決して無駄にはならないはずですし、言葉は悪いですがそもそも大多数の人が帰らぬ人となってしまう院外心停止といった状況はそのトレーニングの場としてむしろ好適であるという考え方もあるはずです。
今一人前になっている大抵の医者はDOAで搬送されてきた患者さんを前に上司から挿管だ、中心静脈確保だと様々な手技をやらせてもらった経験があると思いますが、本当に技術の有る無しで大きく差が付く状況がいずれ訪れるのであれば全ての機会を捉えて腕を磨いておくことにこしたことはないと思います。

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コメント

>28万1522人(43.4%)には高度な気道確保が行われていた。うち4万1972人(6.5%)は気管挿管を受け、23万9550人(36.9%)は声門上気道確保器具の適用を受けていた。

これは4万人以上も救急隊員が挿管してたってことですか?
それともたまたま現場に居合わせた医師が挿管した?

投稿: ぽん太 | 2013年2月 8日 (金) 09時28分

救急隊が気管内挿管もやっていいんでしたっけ?
マスクしか使えないから挿管させてほしいって言ってた気が

投稿: てんてん | 2013年2月 8日 (金) 10時06分

まともな医学知識のない人間に好き勝手にさせるとこうなる↓

呼吸障害の男児搬送遅れ 大やけどで助産師を書類送検 業務上過失傷害容疑
2013.2.7 産経ニュース

 神奈川県二宮町で平成22年、自宅分娩(ぶんべん)で生まれた男児が低体温症や呼吸不全に陥り、病院での治療時にやけどを負って足の指3本を失った問題で、神奈川県警は7日、業務上過失傷害容疑で、分娩に立ち会った助産師(66)を書類送検した。助産師は容疑を認めているという。

 男児の温度管理に当たった総合病院(同県秦野市)の女性医師(37)と男性医師(30)については「命を救うために仕方のない措置だった」として嫌疑不十分とみており、捜査結果の書類を送付した。

 県警捜査1課の調べによると、助産師は22年5月28日午前、分娩直後の男児に呼吸障害があったにもかかわらず、すぐに医療機関へ救急搬送するなどの適切な処置を怠った。出産から約2時間後に搬送された総合病院の医師2人は低体温症だった男児の体温を上げるため保育器に入れたが、その際にドライヤーで温風を吹き込み、両足に重度のやけどを負わせた疑いがそれぞれ持たれている。男児はその後、同年6月に右足の小指と薬指、左足の小指が壊死(えし)したため切断した。

 男児の父親(36)は産経新聞の取材に、「これまで長かった。再発防止と原因究明をし、二度とこのような事故を起こしてほしくない」と話している。

投稿: こてっちゃん | 2013年2月 8日 (金) 10時17分

今回の症例事態がどこのものかは判りませんが、秋田県では独自に以前から挿管をしていたそうですから症例の蓄積はかなりあったんでしょうね。

違法報道がきっかけとなり救急救命士の気管挿管が認められた事例を検証する
http://www.kuroiwa.com/column/nurse56.html

投稿: 管理人nobu | 2013年2月 8日 (金) 11時51分

挿管に手間取るくらいなら素直にバッグ押しとけって麻酔科のじっちゃんが言ってた。
どうしてもやりたいならいきなり野に出ずに麻酔科研修から始めればいいと思う。

投稿: 金田二 | 2013年2月 8日 (金) 16時32分

まず時間を争う救命救急には手間のかかる電子カルテは使いつらい面も多いでしょうね。
次から次と重症患者が搬送されてきて、検査やら処置やらしないといけないのに悠長にカルテ書いたり電子オーダーしているヒマがない。旧来のやり方のほうがいいはず。
病院搬送前の気管内挿管についてはあまり実利がないということですね。院内CPRですら救命率は低いのに
院外CPRで救命(重度脳障害なし)など奇跡的だと思ったほうがいい。挿管さえすれば救命率が上がるものでもないですしね。
CPRという病態は非常にシビア。仮に救命できても誰もが喜べない状況(重度脳障害・意識障害やチューブや機器が永遠に外せない)のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか?

投稿: 逃散前科者 | 2013年2月 8日 (金) 16時46分

町立病院まで運ぶだけでも一仕事なド田舎じゃ、とりあえず現場到着の時点で仕事を始めてくれればいくらか助けになることも時にはあるでしょうがね
あくまでも搬送に時間がかかる場面で応急的に行う処置であって、現場での処置にこだわって搬送が遅れるなんてことのないようにしてもらいたいですな

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年2月 8日 (金) 17時44分

運ぶことに徹したほうがいいよ!日本ね救急隊は。

投稿: ころちゃん | 2013年2月 9日 (土) 19時00分

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