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2013年2月19日 (火)

医薬品通販問題 反対のための反対で論点がずれてませんか

先日お伝えしましたように医薬品の通信販売規制が違憲と判断された結果、厚労省としても早急に新たな対応を強いられることになったのはご記憶に新しいところだと思います。
おもしろいのはこの通販規制、もともと薬事法等の法律上には何らの条文も存在しないものを厚労省が省令という国会承認もなしに大臣(実際には官僚)が勝手に出せるもので規制してしまったということで、この辺り当時の厚労省の無茶苦茶なごり押しぶりは「新小児科医のつぶやき」さんが詳しく取り上げていらっしゃいますのでご参照いただきたいと思います。
厚労省の表向きの反対理由としては「顧客の顔が見えず本人確認も出来ない通販は危険。対面販売を原則とすべき」ということでしたが、ではその厚労省お墨付きの対面販売とやらは本当にそこまで安心安全なものなのか?という疑問は実際に薬局にかかった多くの人々が抱く素朴な疑問ではないでしょうか?

医薬品の対面販売は本当に安全か 買って分かった情報提供の疑問(2013年2月15日日経ビジネス)

 一般医薬品(大衆薬)のインターネット販売を巡る議論が再燃している。ケンコーコムとウェルネットの2社が国を相手に販売権の確認を求めた訴訟の上告審は、最高裁が1月11日、国側の上告を棄却し、2社の勝訴が確定した。
 この判断で一応の決着がついたのかと見られていたが、現在、ネット販売を全面解禁する動きに反対陣営が「待った」をかけている
 反対陣営の中核を担うのは自民党の議員約50人で構成する「医薬品のネット販売に関する議員連盟」だ。2月7日の会合で、ネット販売の解禁に反対する業界団体からヒアリングをした。参加した日本チェーンドラッグストア協会や日本薬剤師協会などの幹部は「絶対反対。対面販売を法律(薬事法)に明記して頂きたい」と強い口調で議員に訴えていた。

 反対派の主張はこうだ。薬剤師は来店客の顔を見て、来店客が望んだ商品以外からも、適切な医薬品を薦める。大量購入など様子のおかしい場合は販売を断ることもある。だから対面販売こそが安全であり、ネット販売は危険なため禁止すべきだ――。この内容は3年半前、改正薬事法の施行前に議論された内容と、あまり変わっていない

店舗で「ガスター10」購入に挑戦

 薬剤師とはいえ、小売業で働いている。客の意見と異なる商品を薦めることなど、現実問題としてあるのだろうか。取材を通じて、こんな疑問を抱いた筆者は、実際に店舗で医薬品を購入することにした。
 運よくと言っては何だが、暴飲暴食のせいか胃の調子が悪い。取材の合間に大手ドラッグストアを訪れた。購入するのは以前、服用して調子が良かった第一三共ヘルスケアの胃腸薬「ガスター10」だ。
 ガスター10は大衆薬のなかで、副作用のリスクが最も高い第1類医薬品に指定されている。インターネットで販売できなくなっていた医薬品のひとつだ。薬剤師から筆者が望むガスター10ではなく、ほかの医薬品を薦めてもらえるのかを確かめる機会にもなった。

 まず向かったのは東京都内にある大手ドラッグストアチェーンのA店だ。応対した店員は「申し訳ございませんが、夕方以降でないと販売できません」と言う。ガスター10は第1類医薬品に指定されているため、薬剤師しか販売できない。応対した店員は登録販売者で、第2類医薬品までしか販売できない。店員は筆者に薬剤師の勤務スケジュールが書かれたビラをくれた。ルールに則した対応だ。
 ビラを持って店を後にしたが、買えないとなると余計に胃が痛くなった気がする。薬剤師がいる日に、もう一度来店するのでは遅い。そこで、近くの別のドラッグストアB店へ向かった。
 今度は薬剤師が居た。商品名を告げると、薬剤師は鍵付きの棚を開けて商品を取り出した。そこで聞かれたのは、錠剤か内服液かという薬の形状だ。「胃がどのように痛むのか」といった症状や、いま服用している薬の種類を聞かれることはなかった。もちろん、ほかの薬を薦めてもらうこともない。

ポイントカードの有無しか問われず

 厳密に言えば、この対応は薬事法違反になる。薬剤師は第1類医薬品を販売する場合、書面で副作用を説明する義務があるからだ。
 ちなみに薬剤師から唯一聞かれたことは、「ポイントカードはお持ちですか」だった。代金を支払うと「お大事に」と言われ、ほんの1分ほどですんなりと購入できた。
 いまやドラッグストアは医薬品以外に日用雑貨も扱っている。筆者は昼休みの時間帯に来店したため、レジには精算待ちの行列ができていた。現実問題として、混雑している店内で、薬剤師が細かく説明する時間をとるのは難しいだろう。
 一方、インターネットで大衆薬を販売するケンコーコムのサイト。ガスター10を購入しようとすると、16項目ほどの確認事項に答えなければならない。「このお薬を初めて服用する」にチェックすると「医師または薬剤師に相談してください」との注意書きが出て、「他の胃薬を飲んでいる」に該当すると「服用できません」となり、どちらも購入画面へ進めない。今回の体験に限ったことではあるが、ネット販売の方が説明文を読む機会は多かった

 ネット販売に反対する陣営の意見を聞いていると、顧客を奪われてしまうことへの危機感があるのでは、と勘ぐってしまう。厚生労働省の薬事工業生産動態年報によると、大衆薬の生産金額はここ数年、6000億円前後で推移している。需要が伸びない中で、新たに登場したネット販売という勢力に神経を尖らせる気持ちも分からないではない。
 しかし、ネットと実店舗は顧客層に違いがある。ネット通販は手元に届くまで数日かかる。しかし、筆者のように症状を改善するため今すぐに薬が欲しいという利用者も多いだろう。こうした顧客には実店舗の方が明らかに有利だ。
 インターネットと実店舗を組み合わせ販売促進に取り組む動きは珍しくない。ウェブサイトで情報を提供し、商品の引き取りで実店舗へ誘導するといった方法などだ。ネット通販と薬局が対立するばかりではなく、それぞれの利点を組み合わせれば新しい商流が生まれる可能性がある。
 2月14日には厚生労働省で一般用医薬品のネット販売等の新たなルール作りを目指した検討会も始まった。いつまでも、どちらが安全かばかりを議論していては、何も解決しない。業界内の争いで損をするのは消費者だ。ネット通販を利用していたのに買えなくなっていた消費者の中には、販売再開をうれしく思っている人もいるだろう。安全で便利な大衆薬の販売方法を目指し、今度こそ業界内で前向きな議論をしてほしい。消費者の1人としても、強く願っている。

実際に自分などもドラッグストアでOTC薬を利用したことがありますが、たいていの店では顧客の状態を詳しく薬剤師がチェックするということもありませんし、確かに毎回そんなことをやっていたのでは業務が回らないという以前に顧客が逃げ出してしまって競争厳しいこの時代に薬局経営が成り立たないでしょうね。
このガスターという薬は胃潰瘍治療に画期的な進歩をもたらしたH2ブロッカーと言われる胃酸分泌を抑制するタイプの薬で、より強力な薬が登場している現在も臨床現場で当たり前に使われる非常に有用な医薬品であるのは間違いありませんが、それだけにこれを市販化すると言い出した当初は「こんな薬まで売ってしまって大丈夫なのか?」という不安の声が医療現場からも上がったのは事実です。
ただしその不安とは今までの市販薬とは比較にならないほど強力に症状を抑えてしまうが故に、さっさと病院にかからなければいけない重症の患者までもが市販薬で騙し騙し過ごせてしまえるようになるのではないかという不安であって、別に薬の副作用を心配したということではありませんよね(広い意味ではこうした受診の遅れも副作用とも言うべきかも知れませんが)。
ひと頃はこれまた「日本は諸外国よりはるかに遅れている!」と話題になったOTC薬問題に始まり、現在は通販が賑やかに議論されているように医薬品市販化の拡大にあたっては必ず反対意見が出ますけれども、いわゆる有識者の挙げる反対理由なるものが現場の懸念をそのまま反映しているかと言えば必ずしもそうではないという点には注意が必要でしょうね。

そもそも厚労省が言うように対面販売がそこまで安全なのかという点は誰も本質的に追求していないようで、市販薬のみならず密接に医療機関と連携を取り合っているはずの調剤薬局にしても、患者の状態変化に対して必ずしもそこまで手厚いフォローアップが出来ていないのも事実ですし、またそもそもそうした判断が出来るだけの教育を十分施されていないのですから出来なくて当たり前とも言えるでしょう。
そうした事実を知っているせいか厚労省なども一方では「直接、顧客に副作用等のリスクを説明できず、顔色をうかがうこともできない」からと通販を否定しておきながら、他方では「薬局に薬を取りに来られないなら代理人でもいいから来させなさい」などと顔色をうかがうも何もない省令を出していることからして、これまた本音の部分は全く別なところにあるということなのでしょうね。
対面販売と言っても店頭では身分確認も何もないわけですから他人の薬を受け取ったり常用量を超えた薬を買い込んでも何らチェックが入らないわけで、昨今生保問題にも絡めて問題視されているように向精神薬等を大量に処方させておいて闇で売りさばくといったケースを撲滅するためにも、商売敵を潰しにかかる以前に既存薬局こそ安全性確認のための対策をもっと徹底して講じなければならないはずです。
もちろんネット通販にも問題は多々あって、例えば通販のED薬の過半数は粗悪な偽造品で無効どころか健康被害を生じかねないものだと言いますから、それこそ国と業界が協力して通販のルールをきちんと整えることが必要であることは言うまでもありませんけれども、それは「だから今まで通り薬局店頭で薬を買うことが正しいのだ」という話とは全く別物であるということは改めて指摘するまでもありませんよね。

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コメント

一類扱ってますって宣伝するならちゃんと薬剤師常駐させろや。いくたびに今は薬剤師いないから売れませんってなんだそりゃ。

投稿: sonsan | 2013年2月19日 (火) 07時52分

一般用医薬品販売制度定着状況調査について(結果概要) 
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ippanyou/index.html
(結果はH21→H22→H23)

・第1類医薬品は、購入者が直接手を触れることができない陳列となっていたか(義務)
(結果)97.6%→89.7%→84.8%

・第2類・第3類医薬品がリスク分類別に陳列されていたか(義務)
(結果)57.2%→64.2%→53.5%

・店舗従事者は名札をつけていたか(義務)
(結果)62.5%→72.8%→84.8%

・第1類医薬品について、購入前に説明はあったか(義務)
(結果)50.5%→31.5%→55.2%

・第1類医薬品購入時の情報提供者(薬剤師)
(結果)70.4%→74.0%→84.5%

・第2類医薬品に係る相談に対し、適切な回答があったか(義務)
(結果)88.2%(2・3類)→84.7%→92.6%

投稿: 厚生労働省調査 | 2013年2月19日 (火) 08時57分

利用者数が全く違うので直接比較はフェアではありませんが、対面販売の方がきちんと対応できているから安全だとは到底言えないのが現状ですよね。
むしろしっかりした通販業者の方が眼前の顧客というプレッシャーがない分ルール通りの対応が出来ているとも言え、利便性を求める顧客自身がいい加減な対応を促進させている側面もあるかと思います。
病院にかかればリスク評価などは医者の仕事で何かあれば責任取れ!で済むでしょうが、日本でOTC薬が海外並みに普及していくかどうかは日本人が自己責任をどう考えるようになるかと言う問題でもあるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年2月19日 (火) 11時08分

薬局の数も限られ店員とも顔見知りばかりの田舎暮らしでは通販のお世話になる機会も多いというね
まあ中には堂々と外来にきて「ついでにバ○ア○ラも出してくれ」ってツワモノもいるにはいるんだが

しかし第一類購入前の説明が半分にしかなされていないのではお粗末ですが、厚労省はせっかく調査までしているのに指導はしてこなかったんだろうか?
通販側はこういうところをどんどん突っ込めばいくらでも反論できそうだがねえ

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年2月19日 (火) 13時16分

実店舗だろうが通信販売だろうがまともなとこはまともだしダメなものはダメ。これがFA。
なのになぜか販売形態によっていいわるいがあるかのような嘘がまかり通ってるから利権だ癒着だと言われるのよ。
まだこの程度のごまかしが通用するとはまったくしょうもない国だわ。

投稿: 猪狩 | 2013年2月19日 (火) 17時33分

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