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2013年2月15日 (金)

奈良県産科医時間外労働訴訟 最高裁で原告勝訴が確定

以前から奈良地裁での一審、そして大阪高裁での二審とお伝えしてきました奈良県の元県立病院産婦人科医による当直割増賃金請求の訴訟ですが、このたび最高裁判決が下り奈良県側の訴えが退けられた形で確定したとのことです。
その性質上ひとり奈良県のみならず全国的にも多大な影響が予想される判決ですが、まずは報道から紹介してみましょう。

医師当直は時間外労働…割増賃金命じた判決確定(2013年2月13日読売新聞)

 奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が県を相手取り、夜間・休日の当直勤務に対して割増賃金を支払うよう求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は12日の決定で県側の上告を退けた

 当直は労働基準法上の時間外労働に当たるとして、県に計約1540万円の支払いを命じた1、2審判決が確定した。

 同法は、時間外や休日に労働させた場合、通常より割り増しした賃金を支払うと規定。2人は2004~05年、各年100回以上の当直をこなしたが、県は「医師の当直は待機時間が多く、時間外勤務に当たらない」として、1回2万円の手当だけ支給していた。

 1審・奈良地裁判決は、原告らが当直中に分娩(ぶんべん)の取り扱いや救急医療を行うなど、勤務時間の4分の1は通常業務に従事し、待機時間も呼び出しに応じられるよう準備していたなどとして、県には割増賃金を支払う義務があると指摘。2審・大阪高裁も支持していた。

医師当直「時間外労働」、奈良県の敗訴確定 最高裁が上告棄却(2013年2月13日日本経済新聞)

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産科医2人が当直勤務の時間外割増賃金などの支払いを県に求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は13日までに、県の上告を退ける決定をした。当直を時間外労働と認め、県に計約1500万円の支払いを命じた一、二審判決が確定した。決定は12日付。

 訴訟では、夜間や休日の当直業務が、労働基準法で規定された時間外手当の支給対象となるかが争点だった。

 一審・奈良地裁は「産科医は待機時間も労働から離れていたとはいえず、当直開始から終了まで病院の指揮下にあった」とし、当直は労働基準法の時間外労働に当たり、割増賃金の対象になると判断。一方、休日も呼び出しに備え自宅で待機する「宅直勤務」については、「病院の指示ではなく、労働時間には当たらない」として原告の請求を退けた。

 二審・大阪高裁も一審判決を支持したうえで「県は、複数の当直担当医を置くか、自宅待機を業務と認め適正な手当を支払うことを考慮すべきだ」と言及した。

民事訴訟ですから裁判上の争点はお金の問題となっていますけれども、当然ながらその背景として「当直業務は時間外手当支給の対象となるような労働かどうか」という問題が存在していることに留意ください。
ちなみに世間一般に通用している労基法上の定義においてはこういうことになっているようですが、要するに「常態としてほとんど労働をする必要が」ない程度のものでなければ本来の意味での当直業務とは言えず、きっちり割増賃金を支払わなければならないということです。

●宿直・日直の意義
 宿直・日直の業務とは、一般的に夜間および休日などにおいて事業施設内の防災等のための巡視や緊急時の対応窓口等の業務として行われるものです。
そのような日直・宿直の業務の中でも、断続的な業務であると認められるものについては、労働基準法41条に規定される「断続的労働」の一つとされ労働基準法上の労働時間、休憩及び休日の適用を受けません(労基41三、労基則23、昭34・3・9 33基収6763)。
 断続的な業務とは、通常の労働と比べて業務の継続性がないため労働密度が薄く、常態としてほとんど労働する必要のない業務をいいます (昭22・9・13発基17)。
(略)

   項目        許可基準

勤務の態様     常態としてほとんど労働をする必要がなく、定時的巡視、緊急の
             文書または電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とする
             もので、原則として通常の労働の継続でないもの。

手当等の支給    宿直・日直の勤務1回に対して、宿直・日直の勤務につく事が予
             定されている同種の労働者における1人1日当たりの賃金平均額
                     (割増賃金の基礎となる賃金)の3分の1以上の手当(深夜割増賃金
                     を含みます)が支給されていること。

対象回数           原則として宿直・日直勤務の回数が、宿直勤務については週1回、
                      日直勤務については月1回以内であること。

施設の整備        宿直勤務を行うに当たり相当の睡眠設備が設置されていること。

(略)
●宿直・日直業務の賃金
 労働基準監督署長の許可を受け、本来の業務以外として断続的な宿直・日直の業務を行わせる場合、その業務は本来の業務とは別の労働とみなされますので、労働時間が法定の定めを超えたとしても、通常の超過勤務と同じ時間外割増賃金を支払う必要はありません。その場合は前述の許可基準の「手当等の支給」に沿って定めた賃金を支払えばよいとされています。
 ただし、本来の業務以外として宿直・日直の業務を行っていたところ、宿直・日直中に突発的に本来の業務が発生した場合にはその本来の業務を行っている時間は時間外労働または休日労働として処理しなければなりません (昭27・1・31基収380、昭63・3・14・基発150)。
(略)

今回の主要な争点となった時間外手当支給については本来の当直=労働にほとんど従事していない場合は支払わなくても良いということですが、一審判決においても「当直時間に 分娩 ( ぶんべん ) や新生児の治療など通常業務を行っており、割増賃金が不要な勤務とは到底いえない」と明確に断じた通り、およそ寝当直と言われるものを除いて労働に従事していない当直医というものはこの国にはいないはずです。
年100回以上の当直をこなしていたと言えば単純に考えても全時間の3割は病院で過ごしていたことになり、労働時間としても大変なことになってしまいますが、今回当直が時間外労働として認定されたということで副次的に労基法的な観点からも当直業務が見直されることになれば「宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回以内」といった頻度が守られていない施設も相当な数に上るでしょうね。
すなわち全国各地で大多数の病院が常態的に違法な労働をさせている可能性があるということですが、同じ職場で同様に昼夜を問わず労働に従事することが求められる看護師が昔から交替勤務制できっちりと日勤、夜勤を区別していることに対して、当直と称する夜勤を当たり前のものとしてきた医師自身の労働環境意識も問われそうですね。

事実日常的に「日勤-当直-日勤」という非常識な勤務体系が常態化している医師の世界ではこの辺りが非常に曖昧にされたままで放置されていて、すでに2010年には厚労省から「当直翌日の勤務については、医療安全上の観点から、休日とする、業務内容の調整を行う等の配慮を行うこと」との通知が出ている背景には、実際には実に9割以上の医師が当直翌日も勤務を続けているという現実があったわけですね。
無自覚に違法労働に従事してきた多くの医師達にとってこの訴訟は「え?これって違法なの?」とびっくりするようなものであったかも知れませんが、だからこそ原告側としても「こんな多額な割増賃金が発生する医療現場の労働環境を変えたい」という強い思いがあり、「医師は聖職」などという美辞麗句に隠れて放置されてきた過重な負担が現場にしわ寄せされている現状を何とかしたいという気持ちからの訴訟であったということです。
昨今医療崩壊だ、立ち去り型サポタージュだと言う言葉が世に出てくる時代になりようやく医師の労働環境改善を図らなければ患者にとっても良いことはないのだという機運が出てきていますが、それでも「近頃の若いものは当直開けは手術から外せなんて言うんだぞ」などと否定的に言われてしまう風潮が残っているあたり、実は当事者である医師の意識こそが医師労働環境改善における最大の阻害要因になっているのかも知れませんね。

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    コメント

    勝訴おめでとうございます。これからどうなるか楽しみなような怖いような。

    投稿: てんてん | 2013年2月15日 (金) 08時36分

    別に裁判所は、労働禁止と言ったわけではない。働かした分払えと言っただけ。

    投稿: 亜乱 | 2013年2月15日 (金) 08時51分

    噂では、武末文男・前奈良県医療政策部長(現文部科学省放射線安全企画官)殿は、昨年末「(県が敗訴した場合)間違いなく地域医療崩壊を招くことになる」とまで仰ったそうですから、やっぱりwktk。

    投稿: JSJ | 2013年2月15日 (金) 09時13分

    とある県立病院の一勤務医ですが、事務長がこの判決が決定したら当直は夜勤扱いにして給料をUPするようなことを言ってました。
    その前に労働基準監督署の査察が入ってずいぶんしぼられて、未払い金が支払われていたこともありますし、今後は医者の労働条件もよくなる気がします。
    エポックメイキングな裁判だと思います。

    投稿: 地方の一医師 | 2013年2月15日 (金) 09時50分

    >「(県が敗訴した場合)間違いなく地域医療崩壊を招くことになる」

    率直に申し上げてルールも無視した他人への犠牲の強要の上に成り立っているものなどさっさと崩壊させた方がいいかと
    この判決にしても働かせた分はきちんと給料を払えという当たり前のことを言っているに過ぎないわけで
    ともかく最高裁できちんと判断され確定したことを評価したいですな

    投稿: 元僻地勤務医 | 2013年2月15日 (金) 10時15分

    全国の施設管理者や事務方がきちんとこの判決の持つ意味を噛みしめ早急に対応していただきたいと思いますね。

    投稿: 管理人nobu | 2013年2月15日 (金) 10時41分

    もしも医療訴訟全盛期にこの裁判があったら同じ判決だった?違う判決だった?

    投稿: 一貫坊 | 2013年2月15日 (金) 11時15分

    とにもかくにも結果として病院の支出が増えるので、これで閉める病院も出てくるんじゃないかと思います。
    今までが異常な状況の上に成り立っていたのは確かですが、上手く軟着陸できないと結構大変なことになる様な気はします。

    投稿: 吉田 | 2013年2月15日 (金) 12時05分

    一般の常識でいえば、当直明けは勤務せずに帰って休ませるのが普通でしょうね。
    しかしそれをOKにしてしまうと、スタッフの少ないほとんどの病院だと業務が回らなくなるわけですが。
    夜間寝ずに何台も救急車の相手をして、翌朝に外来や処置、手術するなど危険極まりないわけですから。
    そういう中途半端な労働環境の2次救急指定病院の現場は今後も逃散、崩壊を繰り返すでしょう。
    今の若いゆとり世代は無理な仕事は拒否るでしょうし、そのうち誰もリスキーな救急医療などやらなくなる。
    まあこの国は一度極限まで崩壊してしまったほうがいいのかもしれませんね。
    いっそ完全崩壊してしまわないとこの国の国民は永遠に状況が理解できないと思うので。

    投稿: 逃散前科者 | 2013年2月15日 (金) 12時07分

    >一貫坊さま

    奈良は大淀事件で産科医の大変さが詳しく報道されたから当直といっても実質夜勤だと判断しやすかったかと。
    でも本日の「新小児科医のつぶやき」さまのエントリーを読むと奈良県にはなにも期待できそうにないですね。奈良県の条例ってそんなにすごいんですか…

    投稿: ぽん太 | 2013年2月15日 (金) 12時24分

    これで奈良の産科が崩壊したところでザマ見ろとしかw

    投稿: aaa | 2013年2月15日 (金) 15時02分

    >いっそ完全崩壊してしまわないとこの国の国民は永遠に状況が理解できないと思うので。

    そういう意味では今回の判決はちと不味かったですねw

    投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年2月16日 (土) 09時30分

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