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2013年2月28日 (木)

今度は山口で管理職手当の是正勧告

総選挙が終わったばかりで何かと混乱が伝えられるイタリアですが、先日こういうニュースが出ていましたのをご覧になったでしょうか。

【外信コラム】イタリア便り 産婦人科医のスト(2013年1月27日産経ニュース)

 イタリア憲法はスト権を認めているが、しばしば労働者の権利が最優先され、利用者の権利は二の次になる。代表的なのが交通機関のスト。観光が国の大きな収入源であることなど関係なく、観光シーズンでもストを実施し、観光客を途方に暮れさせる。

 イタリア国民にとって困るストも多く、2月12日に予定される産婦人科医のストなどは典型的な例だ。緊急手術は除くとはいうものの、1日当たり1100件という全国での出産が危険にさらされる。今回のストの理由は、最近の医療費国庫補助の削減に対する反対と、医療措置をめぐって患者側から出される刑事告発の急増である。財政難の国庫からの補助金削減はともかく、イタリアの医療事故訴訟は過去15年間に3倍に増加している。

 特に多いのは外科に続いて産婦人科部門だが、その原因は、南部イタリアでの帝王切開出産の増加によるものともされる。99%は医者が無罪になるとはいえ、これでは産婦人科医は手術室に安心して入ることができないし、医者が保険に入るにしても年間2万ユーロ(約240万円)前後するのでは支払い切れぬというわけだ。

 それにしても労働者の権利はともかく、生まれてくる子供の権利はどうなるのだろう。(坂本鉄男)

医療訴訟の急増とはどこの国でも同じ傾向にあるようですが、しかしこうして大々的にストを打って騒ぐイタリアの医師と黙って立ち去ってしまう日本の医師と、どちらが正しい間違っているということではなく文化的背景や国民性の違いといったものが感じられて興味深いですが、イタリアと言う国は医師免許を持っていても仕事が無くタクシー運転手をしていると言われるくらい長年続く医師過剰で有名な国であることに留意ください。
ちなみにお産というものは日本でも保険診療の対象になっていないことからも判るように病気扱いされておらず、必ずしも医師の関与が必要ではありませんし病気の範疇となる異常分娩ともなれば医師が処置するということですから、案外産科に限らない全般的な医療環境改善において産科医が音頭を取っていくことは合理的にも思えます(他には麻酔科なども同様の役割が期待出来るでしょうか)。
いずれにしても訴訟件数が3倍、保険料が年間240万と言えば大変なリスクですが、イタリアのように有り余る有資格者の中から好き放題選べたような国においてもこうした問題が発生しているという事実は非常に示唆的で、医療の質と訴訟リスク、あるいは医師数とは決して単純にパラレルな関係ではないということを考えさせるように思いますね。

いささか余談が長くなりましたが、先日奈良県産科時間外労働訴訟が最終的に原告産科医の勝利で確定したことはお伝えした通りで、日本の場合は医師が有り余っているという状況にもないだけに既存の医師達を過労に追い込まず大事に扱っていくと言うことも当面極めて重要な医療安全対策となりますよね。
百歩譲って地域の医療需要が大きく需給バランスが逼迫し直ちに是正も望めないとなれば、少なくとも働かせた分にはきっちり報いてもらいたいものだと思いますけれども、その意味でも先日の訴訟の結果各地で医師の労働環境がどのように変化していくものなのか、その影響が大いに注目されてきたわけです。
そんな中で今度は山口から労基署の是正勧告が出たという報道がありましたが、これまた奈良の訴訟と同様にこれまで曖昧なままでスルーされてきた暗部に光を当てる重要な問題提起となりそうですよね。

管理職医師の手当て「安過ぎ」労基署が是正勧告(2013年2月26日読売新聞)

 勤務する医師に時間外手当を適正に支払わなかったなどとして、山口県下関市の市立市民病院が下関労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことがわかった。同病院は地方独立行政法人となった昨年4月から今年2月までに不適切とされた手当と適正額の差額計約2000万~3000万円を医師約40人に支払う

 同病院によると、内科や心臓血管外科など34の診療科目に62人の医師が在籍。勤務時間の午前8時半~午後5時を超えた場合、医療行為を行った分を時間外手当として、管理職の医師約40人には1時間当たり3500円を支給している。しかし、管理職以外の医師には同4000~5000円を支払っていた。同監督署は「管理職の基本給を考えると、現行の時間外手当は不当に安すぎる」と指摘した。同病院は今後、正確な支払額を算出する。

 このほか、労使間で1か月の時間外労働を45時間以内と定めながら、100時間を超える医師が毎月4、5人いたため、時間外労働の短縮を指導。今後、当直明けは原則休みにするなどの改善策を講じるという。

世に言うブラック企業においては名目上の管理職に置くことで残業代などを一切不支給にするということがしばしば行われてきましたが、この場合は実質的には何ら自ら管理することは出来ないということから管理職とは認められないという判決がいくつも出ているのはご存知の通りですよね。
医師の場合名目的には医療行為は全て医師の指示に基づいて行われることになっており、その意味で医療現場の司令塔として形式上は大きな裁量権を持たされているとは言えますが、実際には近年多くの疾患で診療ガイドラインというものが整理されているように多くの症例では半ば自動的にやることが決まってくるだけに、特に勤務医では受け持ち患者数がその労働量を決定する最も大きな因子となってきます。
これに対して医師の方でも自衛策を講じるわけですが、例えば外来では予約数を極端に絞る、手術件数を無理のない範囲にまで減らす、軽症者で病床を埋めて実質的な入院患者を減らすと言った様々なやり方があるとは言え、予約外の飛び込み患者がやってきたり重症患者を紹介で送り込まれれば断りにくいのも確かですよね。
そうしたことからどの辺りからが自らの労働を主体的に裁量できる管理職に当たるのかということは昔から議論されてきたところですが、おおむね部長以上は管理職、医長以下は非管理職という分類が一般的なんじゃないかと思います。

ちなみに同病院のHPを見ても部長以上の役職についている人間があまりいないというのは役職の定員が決まっている公立病院ではよくある話ですが、その割に今回の是正措置による支給対象者が約40人と相当数に登るというのは、かなりの数いる医長なども実質的な管理職と見なして計算し直したということを示しているのでしょうか。
何故こんな逆格差が設定されていたのかと言う理由ですが、同病院では医長以上を管理職と定義してきた、それに対して時間外手当は管理職だからと減額するように設定していたというのであれば、これは実質的には給与をケチっているということになりますよね。
記事にもあるように同病院は独法化したばかりでまだ年度末の決算は出ていませんが、議会報告などを見ると独法化後に医師らスタッフの数を大きく増やしている一方で収支自体は相当に改善しているということなんですが、その中に人件費に関連したこんな答弁がありました。

○地方独立行政法人下関市立市民病院理事長(小柳信洋君)
 独法化して初年度ということで、例えば職員も増やしている。だから、その分当然人件費がかかる。それから、例えばドクターの時間外とか、その辺の給与の改定を今図っているところである。それに関してはもう決して支出が減る方向ではなくて、増える方向で当然考えざるを得ない訳である。そういう支出がどれくらいになるのか。だから今この半期の時点で、今年はもう黒字大丈夫であるととても言えない。そういう状況である。

全くの想像になりますが、同病院では医師の給与制度の見直しや業績給導入などモチベーション向上のための対策を鋭意検討していくとは言っていた、一方で医師や看護師らスタッフは増えて事務方は外注にしたとしても人件費はその分かかる中で単年度黒字化を急ぐべきという圧力もあって、結局待遇改善が延び延びになっていたのではないかと言う気がします。
労基署にしてもいきなり細かい内部規定までは知らないでしょうから、あるいは現場からの告発でもあったのかも知れませんが、いずれにしても管理職だからと不当な廉価労働を強いるようなやり方は昨今の判例を見ても到底受け入れられるものではなく、今後全国的にこうした流れが広がっていけば各地で対応を迫られる施設が多数出てくるでしょうね。
厚生省と労働省が合併してからと言うもの、労基署も医療現場の労働環境に以前よりも厳しいツッコミを入れるようになってきた感がありますが、管理職問題に留まらず労使協定無視の長時間労働などは本気で追求していくと大変な影響が予想される問題であるだけに、彼らとしてもどこまで追求していくつもりがあるのかと注目せざるを得ません。

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コメント

もう流れは誰にもとめられないw

投稿: aaa | 2013年2月28日 (木) 08時57分

>今後、当直明けは原則休みにするなどの改善策を講じるという。

これこそ全国の病院に普及して欲しいことですが影響も大きいでしょうね。原則休みとはいっても自主的労働は制約しないだとかなんとかで抜け道いっぱいありそうだし。

投稿: ぽん太 | 2013年2月28日 (木) 10時31分

労基署が動くのは基本たれ込み前提だと聞きますから、誰か不満を抱えた人がちくったんでしょうかね。
でもこういう病院ですが医師自体は大きく増えてると言いますから、それなりに見所はあるということなんでしょうか?

ともかく労働環境改善は一気にやり過ぎると現場が回らなくなるかも知れませんが、確実に一歩一歩進めていくしかないと思います。
その過程で医療供給の制限だけでなく医療需要に関しても平行して対策が取られていくことを期待したいですね。

投稿: 管理人nobu | 2013年2月28日 (木) 11時02分

イタリアって医者が余って医者のレベルはどんどん上がってんの?
それとも単に医者になれないレベルのバカまで医者にしてただけ?

投稿: kanta | 2013年2月28日 (木) 11時53分

栃木県の某私立医大では、医師には決して勤務簿をつけさせません。
トーゼン、時間外手当も発生させません。
というか、どうやって役所を誤魔化しているのか、100人近くにそもそも給料を一銭たりとも支払っていないそうです。
その先生方は、週1-2回の外病院でのアルバイトで糊口をしのぐらしい。
授業料払っている大学院生を附属病院でこき使うというのはよく聞きましたが、ホントどういうカラクリでしょうか。
医師のみならず、看護師、技師などの医療職にも、払う時間外手当はスズメの涙、何しろ労働組合を作らせなかったのだからして。
しかしこれって法律違反じゃないのかしらん。
グレーゾーンギリギリなのであれば、これを見習えばよその病院も収支改善出来るでしょう。
あっという間に医師逃散になるリスクは孕んでますが、、、

投稿: | 2013年2月28日 (木) 12時53分

いまだにそうした病院で働いているのでしたら他になにかメリットを感じておられるか、なんにせよ自ら望んだ結果と言われてしまいますよ。ちゃんとした待遇の病院がいくらでも求人を出してるのですから。

投稿: 藪 | 2013年2月28日 (木) 13時59分

労働賃金債権は2年の時効があるので、本当は2年分を病院は支払わないといけないのです

前の経営者がどうか?とか考えるまでもなく、事業を引き継ぐということは借金も財産も引きつくのだから、当然2年分の未払い賃金を支払うべきなのです

労基署は行政指導はしますが、労基法違反で検挙するのは非常に嫌がります

労働賃金債権を持つ人達がちゃんと理解して怒ることがなければ、そのまま債権は消滅します

数千万円のオーダーでの支払いで誤魔化されてはなりません
山口の医師も詰めが甘い!

投稿: Med_Law | 2013年3月 1日 (金) 07時43分

イタリアはフランスなど欧州大陸国家と同様、医学部はすべて国公立。
授業料も低額で年間10万円弱。フランスやドイツは国公立なら医学部の授業料無料。

医学部は入試選抜制を導入しており、以前のような初年度が大人数、落第と退学者が多数出ていた状況ではありません。
入試は大学ごとに行っています。
つまり医学部入学者を制限していますし、卒前と卒後に医師資格試験もありますので誕生する医師数も制限があります。
欧州連合は医師資格と専門医資格の相互承認があるので、条件の良い欧州の他国に出ていきます。

投稿: とある内科医 | 2013年3月 1日 (金) 12時51分

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