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2013年1月 4日 (金)

新政権と医療費問題 どこから手をつけるべきか

すでに昨年末のことになりますが、新任の田村厚労相が就任会見でこうしたことを発言しています。

田村新厚労相、医療進歩の保険範囲議論を-就任会見、内閣の景気対策も強調(2012年12月27日CBニュース)

 安倍第2次内閣で新たに就任した田村憲久厚生労働相は27日、就任会見に臨んだ。増え続ける社会保障費について、「高齢化の伸びはある程度は仕方のない話だが、医療費の伸びでは、医療技術の進歩の部分が高い。そういうものをどこまで保険でみていくか議論が必要かもしれない」と述べ、医療技術の進歩に応じた保険適応範囲について、自らの問題意識を語った。同時に、「非常にセンシティブな問題でもある」として、幅広い意見を聞きながら検討していく考えを示した。

 社会保障費の伸びに関しては、医療保険、介護保険が財政的に厳しくなってきているという認識を基に、「これは高齢化だけではなく、景気が低迷する中で所得が上がらない、標準報酬月額が下がっているということが保険料収入を抑えている」と指摘。「景気を良くしないことには持続可能な社会保障制度は維持できないということを痛感している」と述べた。その上で、「まずはデフレ脱却、経済再生した上での雇用の増大、所得増大はわが省でも絶対に必要な部分だ」と考えを示し、内閣としての景気対策、デフレ脱却策への意欲をアピールした。

 田村厚労相は抱負として、「バランスのとれた厚生労働行政」を挙げ、具体的には「負担と給付」「世代間と世代内の負担」「政と官の立場」と3つの分野に触れた。特に「政と官の立場」では、民主党政権時代を念頭に、「あまりに政と官が乖離し過ぎると、(厚労省のような)国民の皆さんに密着した仕事では、なかなか動かなくなる」とし、バランス感覚の重要性を強調した。

 就任会見後、田村厚労相は、三井辨雄前厚労相から事務の引き継ぎを受けた。【大島迪子】

厚労省としても社会保障費抑制に前向きだという姿勢を示したものと言える内容ですが、注目すべきは保険適応範囲の制限について言及していること、そしてやはりと言うべきか高齢者医療費増に関してはひどく及び腰であるように見えることでしょうか。
ちょうど同日には生活保護費削減についても言及していて、政権公約とも言える保護費1割引き上げは推進する意欲を示したものの医療扶助の削減には否定的、かつ後発医薬品強制化にも及び腰とこちらはずいぶんと腰の引けた内容であっただけに、一般患者と生保患者の間でも今後「負担と給付」の問題が問い直されることになるのかも知れませんね。
いずれにしても厚労相の言うように所得の伸び悩みが保険料負担をさらに重いものに感じさせていることは明らかなだけに、増え続ける医療費を誰が負担すべきかという問題と同時並行で、医療費はどこまで増え続けることを許容すべきかという総額抑制論についてもそろそろ考えていかないわけにはいかないでしょう。

その点で厚労相の言及した医療技術の進歩に対する保険適用除外と言うことについて言えば、一方では評価の定まっていない新規治療法に対して保健医療の対象とすることは馴染まないという原則論には合致するとは言え、現状でさえ問題になっている海外とのドラッグラグがさらに拡大しかねないなど様々な影響が考えられますね。
そうしたものは先進医療をどんどん活用していけばいいじゃないか、同制度を活用すれば実質的に混合診療の問題も気にせずともすむという意見もあるでしょうが、ご存知のように先進医療と言うシステムはその対象もさることながら行える医療機関も極めて限定されていて、広く国民一般が利用できる制度とは到底言えないものになっています。
となるとやはり関わる金額も大きく、また社会的・道義的に見ても許容できる領域でもう少し抑制策を検討してみるべきではないかということになりますが、ちょうど先日小児科医である黒岩宙司氏がこんな記事を書いていましたことを紹介しておきましょう。

終末期の医療:「終の信託」、「平穏死、10の条件」に思うこと(2012年12月31日佐賀新聞)

 12月22日号の日本医事新報(No.4626)の「今後の死亡急増で、死亡場所はどう変わるか?」という記事が目に留まりました。日本では病院で亡くなる人が2011年で76.2%、自宅が12.5%(死亡場所別の死亡数百分率の推移、2000~2011年、厚労省)です。

 人口高齢化で死亡数が増えるのは必至だが「これ以上、病院での死亡数が増えるのは無理、かといって一人暮らしが急増する自宅での死亡が増えるのも難しい」との厚労省の認識をふまえ、これからは老人ホームや老人保健施設が死亡場所の大きな受け皿になることを示唆しています。
 僕の勤務している病院は原則として患者を断らない救急病院で、寝たきりや終末期の患者さんの死は日常のことですが、死亡場所が病院以外にシフトすることに賛成です。終末期の患者のあふれる病棟で、この患者さんは延命をせずに自宅や施設で安らかに逝くことが幸せなのではないか、と思うことが多いからです。

 延命治療とは不治、末期となった患者さんに行う医療行為のことで、人工呼吸器、人工栄養(胃瘻や高カロリー輸液)、人工透析が主なものです。治る見込みのない患者さんの家族に急変時に延命をしますかと聞くと、返答に戸惑う家族が多く、先生にお任せしますという回答は珍しくありません

 延命治療に対する意志を元気なうちに残すリビング・ウィルは、米国では国民の41%、日本では0.1%です。自然に委ねる日本の美しい文化の現れと思うのですが、生命を長引かせる手段が開発された現代では悩ましい数字です。

 全米大ヒットの医療ドラマ、グレーズアナトミーでは、家族がDNRの書面にサインし、延命措置を中止するシーン、家族の前で医師が人工呼吸器につながれた挿管チューブ(気管支に入った管)を抜き、患者が静かに心肺停止になる場面があり、羨ましいと思いました。仮に家族が高額な医療費を負担し、植物状態でも生きてほしいと望めば生命維持装置をつづければいいのです。

 日本では患者や家族の意志を尊重して延命治療はしなくとも、延命の中止(一度気管支に入れた管を抜く)となると訴訟を恐れて、ほとんどの医師が行いません

 日本の社会でタブー視されていた延命治療について、在宅医療に従事している町医者が正面から向かい合い「平穏死、10の条件」という本を出し10万部をこえるベストセラーになっています。著者の長尾先生は500人以上の患者さんを自宅で看取った経験から、終末期の患者さんの安らかな死を紹介しています。ご本人の体験、旅立った患者さんや家族の声が満載の良書です。

 餅を喉に詰まらせた100歳の患者さんに家族が救急車を呼んだ話は考えさせられました(21頁)。蘇生は成功し、病院で人工呼吸器につながれ、中心静脈栄養、次には胃瘻をつくられ、ご老人の「自然にポックリ逝きたい、自宅で家族に看取られて死にたい」という希望とはほど遠い植物状態の様相になったというのです。しかし、救急車を呼んだらこうなりますと何度聞かされても、息ができずに苦悶する身内を前に、とっさに救急車を呼ぶのは自然の行為で、責任は延命治療をやめることができない日本の制度にあると思うのです。

 周防監督の映画「終の信託」では、重症の喘息患者(役所広司)が発作を起こし、救急搬送され、苦悶する患者は挿管(気管支に管を入れる)され救命されます。そして、低酸素脳症を起こした患者の元気だったころの意志を尊重した主治医(草刈民代)が、家族の前で挿管チューブを抜いた瞬間に患者が苦しみ出し、あわてて鎮静剤を投与し、効かず、致死量まで投与したとして殺人罪で起訴されます。

 僕には役所広司の断末魔の苦しみ、声にならない叫びが観ていて辛かった。どのようにして挿管チューブを抜けば患者は苦しまずに逝けるか、というマニュアルがなく、医学教育もなく、だれもが口を閉ざすのが日本の医療現場です。

 仮に延命措置をほどこしたあとでも条件を満たせばそれを中止し、その際に起きる苦悶を和らげる幅広い緩和医療が許されるのであれば、医療従事者は限りある医療資源を有効に使い、終末期の死を安らかにしてあげることができるのです。

皆保険制度が普及し、特に高齢者に関しては様々な医療費負担緩和策が取られてきたこともあってほぼお金の心配がなくどんな医療でも受けられることになった、そのこと自体は恐らく高度先進社会としては非常に理想的なことだったのだろうとは思いますが、その結果としてもたらされた高齢者終末期医療の現実とは果たして本当に理想的なものであったのかと言えばこれは別問題なのかも知れませんね。
小児科医である黒岩氏もよくご存知でしょうが昔から小児科には「子供は小さな大人ではない」という金言があり、実際に医療を行う上でも小児科医という専門家が一般の内科・外科とは別に用意されその診療に当たっていますが、同様に「老人は単に年齢の高い青・壮年ではない」という概念には多くの臨床医のみならず、実際にこうした高齢者医療の現実を経験した国民も多く賛同いただけるんじゃないかと思います。
ところが医療の現場では未だに小児科に相当する老年科という概念は定着しているとは言えず、多くの終末期高齢者が単に年齢の高い青・壮年として対応されている現状を考えると、医療の提供側にとっても医療を受ける側にとっても特に望んでもいない医療がただ漫然と慣習的に行われているという状況が少なからずあるのではないかと想像出来ますよね。

別に高齢者は金を使わずさっさと死ねばいい、などと極端な暴論に走る必要は全くなくて、お互いやりたくもやられたくもないことに多額のお金と何より巨大な医療資源をつぎ込んだ結果、本当にしっかりとした医療が必要な若者がお金もなく病院にもかかれなくなるのは何かおかしいんじゃないの?というだけのことなんですが、そのおかしな伝統を改めていくためには何が必要なのかということをそろそろ考えて見なければならないでしょうね。
田舎に行くほど「あの家は親にろくな治療も受けさせずに死なせた」なんて世間体も気になるかも知れませんし、親の年金で一家が食べている状況で是が非でも死なせてなるものか!死なせでもしたら訴えてやる!と濃厚医療を希望する家族もいるかも知れませんが、そうした何らかの必要性のある方々にまで強制的にどうこうするというのも性急すぎると言うものでしょう。
それでも患者本人も家族も濃厚医療は望んでいない、医師らもやりたいともやるべきだとも考えていない状況で、何となく「それじゃ先生におまかせします」で誰も望まない濃厚医療を漫然と行うようなことを少しずつでも改めていけば、皆保険制度が劇的に変化させた日本人の看取り感も再び変わっていくことになるかも知れませんね。

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コメント

終末期医療の希望 記録した人は1割
12月30日 4時13分

高齢で寝たきりになったときに延命治療を望むかどうかなど、終末期医療の希望について、4割の人が家族などと話し合っている一方で、実際に希望を記録に残している人は1割にとどまっている、という調査結果を、東京都健康長寿医療センターがまとめました。

この調査は、東京都健康長寿医療センターが、ことし3月に通院患者を対象に行ったもので、およそ970人から回答を得ました。
この中で、「認知症や脳卒中などで寝たきりとなり、意思の疎通が難しいうえ、食べ物を飲み込めない状態になった場合、延命治療を希望するかどうか」聞いたところ、▽「何もしないでほしい」が47%、▽「点滴だけを希望する」が41%でした。
そして、▽胃に穴を開けてチューブから栄養や水分を流し込む「胃ろう」や、鼻にチューブを入れる「経鼻経管栄養」を望む人は5%でした。
また、終末期医療の希望について、家族や友人と話し合ったことがあるかという質問には、44%が「ある」と答えました。
その一方で、希望する内容を文書などの記録に残している人は12%にとどまりました。
東京都健康長寿医療センター研究所の高橋龍太郎副所長は「こういう治療を受けたい、受けたくないという希望を記録に残しておくと、医師も家族もはっきり認識でき、希望を尊重することにつながる」と話しています。(NHK)

投稿: | 2013年1月 4日 (金) 08時21分

新年おめでとうございます。
生活保護削減に注目してますが本格的な議論は参院選後でしょうか?
公明党は反対らしいですしね。

投稿: ぽん太 | 2013年1月 4日 (金) 09時10分

米国と日本では医療費や保険制度が異なりますからね。米国で人工呼吸器管理など濃厚治療を希望すれば
莫大な医療費がかかるし、加入している保険によって出来る医療が限られてますから。DNRに同意する
サインをしないと家族が破産しかねないっていう状況なら、大部分が仕方なくサインするのでしょう。
病院での看取りが多いって言うのも、家庭で終末期を介護するのは共働きの家庭が多い現代では厳しい現状では
仕方ないのかも。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年1月 4日 (金) 11時10分

上に提示いただいた記事についてですが、事前に表明した意志とその時になっての意志とではやはり相応に違いが出ると思います。
ただ終末期医療の問題をタブー視することはもはや世論と乖離しているとは言えるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月 4日 (金) 11時46分

する医療は診療報酬の上げ下げでコントロールするのに受ける医療は患者支払いの上げ下げでコントロールしないのも不公平な気が。
つか医療費下げようとして診療報酬削るほど支払いは安くなって患者が病院に殺到するじゃないか?

投稿: tenga | 2013年1月 4日 (金) 14時49分

>>医療費下げようとして診療報酬削るほど支払いは安くなって患者が病院に殺到するじゃないか?

その前に 病院が淘汰されて、地方ほど病院がなくなるでしょうね。

投稿: 浪速の勤務医 | 2013年1月 4日 (金) 15時31分

そこんとこはちょいとダウト>病院淘汰
今だって医療外収入で赤字補填してるとこけっこうあるし田舎個人病院ほど廃業したがらないし案外残りそうな気が
ただもっともっと効率のいい経営ってやつが進みそうではあるかな?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月 4日 (金) 16時02分

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