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2013年1月24日 (木)

まだ学生だから…は言い訳にはならない(かも知れない)

よくあることと言えばその通りなのですが、学生とは言え職業的倫理観に欠けると言われても仕方がなさそうなのがこちらの事件です。

Jリーグ「佐藤寿人のカルテみた♪住所とか番号とか」 ツイートした医療系学生、内定辞退(2013年1月22日J-CASTニュース)

   2012年のJリーグ得点王・サンフレッチェ広島の佐藤寿人選手(30)について、医療系の専門学校生が実習先の病院で「カルテみた♪住所とか電話番号とか」とツイッターに投稿し、炎上する騒ぎがあった。

 学生は処分され、病院の内定を辞退。学校と病院はサンフレッチェ広島に謝罪するという結果となった。

「病院きたときゎサインもらおっと♪」

    「あ、そゆいえば今日暇だたけ佐藤寿人のカルテみてみた♪♪♪住所とか電話番号とか… さすがに携番ゎなかったけど 病院きたときゎサインもらおっと♪♪♪」

   2013年1月16日にこんなツイートが投稿されると、すぐにサッカーファンと見られるネットユーザーに発見されてしまった。前後のツイートから「医療系の学生が実習先の病院で得た情報をツイートしている」と判断され、このユーザーあてに「あーぁ。やっちゃったーwwww」「病院クビかな?」「こんなバカは医療現場に要らない、患者情報をネットで晒すなんて言語道断」などのコメントが寄せられた。さらに2ちゃんねるにもいくつもスレッドが立てられ、炎上騒ぎとなった。

学校が下した処分の内容は非公表

   これを受けて1月17日、トリニティカレッジ広島医療福祉専門学校(広島市中区)の公式サイトに「お詫びとご報告」という文書が掲載され、「本校学生が研修中の病院様において、患者様のカルテを閲覧し、その内容を不正に個人のTwitter(ツイッター)に書き込んでいたことが、2013年1月16日夜に判明いたしました」と認めた。学生については「経緯を聴取し事実関係を調査しています。処分について、調査結果に基づき、学則に従い厳正なる処分を行います」とした。

   さらに医療法人あすか(広島市安佐南区)の公式サイトでも1月17日、「当院医療事務の実習生」としてこの問題について謝罪する文書が掲載された。

   そして1月18日、トリニティカレッジは守秘義務違反で学生を処分した。処分の内容については公表していない。学生は実習先の病院の内定を辞退、学校と病院はサンフレッチェ広島に謝罪、という結果となった。

   なお、問題の学生はすでにツイッターアカウントを削除している。

ちなみに学校側には反響に驚いた学生自らが事実関係を申し出たということですから本人も何らかの罪の意識はあったのでしょうが、いずれにしてもこのご時世にまたもや「馬鹿発見器」でまんまと人生を狂わせてしまったと考えるべきか、あるいは病院側にすればあらかじめ獅子身中の虫予備軍をピックアップ出来て良かったと見るべきでしょうか。
近年SNSの流行によってこの種の事件は幾らでも多発するようになっていますが、元々ネットに限らずこうした事件は時々発生していたことは言うまでもなく、先年も大分で看護師が身内に患者の容態を漏らしたと雇用主である病院が訴えられ裁判沙汰になったケースがありました。
さかのぼれば某総理経験者が緊急入院になった際に当該病院スタッフと思われる人物の書き込みによって極秘のはずの容態が全国に拡散するという事件がありましたが、院内ネットからの書き込みであったと考えられたため全国国立病院には院内からの書き込みログを提出すべしというお触れが出回ったようですね。

今回の事例でも書き込んだ当人としては病状など詳しいことには触れていないから構わないだろう、くらいの軽い気持ちであったのかも知れませんが、スポーツ選手が故障を抱えて病院にかかっているともなれば給与や移籍交渉などにも影響しかねないだけに、どこの施設に誰がかかっているという情報だけでも大変な影響を及ぼす可能性があるというわけです。
先年の尖閣動画流出事件などにも見られるように、社会人がリスクも何も全てを承知の上で職を賭してでも敢えて書くと言うことであれば外野が軽々に口を出せることでもありませんが、その覚悟もないまま軽い気持ちで書いてしまうことへの危機感、特に社会的制裁の怖さも理解していない学生が一瞬の過ちから人生を棒に振りかねないという恐ろしさをまず承知しておくべきでしょうね。
前置きはそれくらいにして、先日は全国医学部長病院長会議からこんなニュースが出ていたのですが、リスク軽減のための制度が新たなリスクを呼びかねないという懸念があることを承知しておかなければならないでしょうね。

共用試験合格の医学生に「学生医」資格を付与へ(2013年1月18日日経メディカル)

 全国医学部長病院長会議は1月17日の記者会見で、新たに「学生医」の制度を設けることを明らかにした。各大学における共用試験の合格者全員を同会議で「学生医」として認定するもので、臨床実習のための能力の“お墨付き”を与えることで、診療参加型実習への患者・家族の了承を得やすくする

 共用試験は、臨床実習開始前に医学生が習得すべき能力について、コンピューターを用いたCBT(医学的知識を問う試験)とOSCE(客観的臨床能力試験)で評価する仕組みで、05年に全国の医学部・医科大学で本格導入された。出題される問題は大学間で共有するが、合格基準は各大学が設定している。

 全国医学部長病院長会議は、5月に開催される総会で「学生医」創設についての同意を求め、13年度秋に共用試験を受ける学生を対象に初回の認定を行う予定だ。

 ただし、共用試験の合格基準は、これまで通り各大学が設定するため、「学生医」の質にもばらつきが生じる可能性がある。これについて同会議は、「資格の質の担保は、学生医の共用試験における最低水準を設定し、各大学の合格基準を公表することで行う」としている。また、「学生医」の名称については、法的な根拠のない資格に「医師」の呼称が付くことに対する反発もあり、今後変更の可能性があるという。

 この「学生医」の考え方は、昨年11月にまとめられた同会議の「医師養成グランドデザインへのAction Plan」で示されたもの。「学生医」の認定を第1ステップのアクションプランとし、第2ステップとして「学生医」が実施できる医行為水準を数年かけて策定する。そのほかにも、アクションプランでは知識偏重の医師国家試験の見直しや初期臨床研修の到達目標の改変、離職した医師の再教育などに言及している。

医学教育というものが座学的知識の習得と実習等による実技の習得の両輪で成り立っていることは言うまでもなく、また近年国家試験を初めとして手技的な習熟度をもっと問うていくべきではないかという流れが主導的になってきたこともご存知の通りだと思います。
一方で医師と言えば唯一合法的に他人を傷つけてもよい職業などと言われる通り、一般的にその手技の多くが程度の差こそあれ相手の心身になにがしかのダメージを与える侵襲的なものであることも理解されているところだと思いますが、そうなると国家試験に合格していない=法的に他人を傷つける特権を得ていない学生達がどうやって実技を学んでいくべきかという問題が自ずから発生するわけですね。
この辺りは医師よりも看護師教育の方がより深刻な問題となっていて、以前から学生同士で針刺しの練習をしたりといった限りなくグレーゾーンに近いことをやってお茶を濁してきたわけですが、一方では資格取得の前提条件として実技的な習熟を問うと言うのであれば、それが可能になる法的な裏付けが必要になることは言うまでもないことです。
その意味では今回の「学生医」なる制度は特に法的な根拠を伴わず実効性がどの程度あるのかははっきりしないとは言え、少なくとも知識レベルにおいてはある程度の処置を行える水準にあるということを担保する上では相応に意味のある制度的裏付けになっていく可能性はあるわけです。

ただしここで問題になってくるのが医学生と医師との意識の差というものなのですが、別に侵襲的な処置に限らず患者にかける言葉一つをとってみても一度それを為してしまえばもはや取り返しがつかないという事がままあるのが医療現場というもので、特に患者と直に接する臨床実習において指導医が最も気を遣うことの一つが学生の口から余計な事が漏れてしまわないかという危惧です。
基本的に基礎医学までの学生実習というものは正しく行えば必ずうまくいくよう管理された環境下で、結果の予想されたことを粛々と行っていくという性質のものですけれども、臨床実習ともなると相手となるのは一人一人身体の構造も疾患も社会的背景も異なっている人間であり、成功への道筋どころかこのやり方なら決して失敗しないという保証などどこにもないのが現実ですよね。
失敗したからまたやり直すということが出来ない状況も多々あるわけですから学生としても慎重に、あるいは患者に対する自らの行為にきちんと責任を持つという姿勢で実習を受けていかなければならないということですが、権限が広がるほどうっかり失敗してしまった場合により深刻な事態になりかねないのも当然で、冒頭の記事のように一つの失敗で人生を踏み外してしまうと目も当てられません。
昨今では学生時代から積極的に情報発信をしている人も少なからずいますし、もちろんそれによって得られる様々な経験も貴重なものですけれども、同時に一歩間違えば大変な騒ぎになるかも知れないという危機感を持って日々を過ごしている学生がどれほどいるだろうかと少しだけ心配になってきますね。

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コメント

そう言えば学生時代にベッドサイドティーチングで大失敗ありましたねえ。

教官「この患者さんの症状から鑑別すべき疾患は?」
学生「ん~癌とか…」
教官「ごほんごほん!」

も、もちろん私じゃありませんが…

投稿: ぽん太 | 2013年1月24日 (木) 08時56分

>も、もちろん私じゃありませんが…

失敗するのは自分ではなく友人・知人であるのはお約束w

投稿: aaa | 2013年1月24日 (木) 10時05分

ポリクリの時に聞いたんですが、英語が理解出来る患者もいるからドイツ語を使ってたら患者がドイツ帰りで全部筒抜けだったってことがあったらしいです。

投稿: 某内科医 | 2013年1月24日 (木) 10時23分

「ええ加減にせぇ はしもと、殺すぞ」「部落民がいきんな」 桜宮高校生徒がツイッターで暴言
http://www.j-cast.com/2013/01/23162352.html?p=all

↑こいつらもあっさり個人情報バラされたね

投稿: 自業自得? | 2013年1月24日 (木) 10時28分

今はカルテも患者に読めるように日本語で書く時代ですからずいぶんと様変わりはしてるのでしょうけどね。>BST
未熟であることが当然の学生が一度の失敗で人生を失うのはいずれにせよ悲惨なことです。
個人情報保護に対する教育ももっと低年齢から徹底して行うべきだと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月24日 (木) 11時17分

おばかさんが早めに淘汰されてく社会って健全だと思うけどね
日○組のせいで今まではおばかさんが大きな顔してたんだから

投稿: | 2013年1月24日 (木) 12時33分

陰謀史観も思考停止の一種だよ

投稿: 貫太 | 2013年1月24日 (木) 14時17分

>教官「この患者さんの症状から鑑別すべき疾患は?」
>学生「ん~癌とか…」
あったあったw
私の場合は友達に
「SCCって扁平上皮癌だよね」
と聞かれて答えられないうちに教官に外に連れ出されました。

失言やらミスの一つもなく一人前の医者になった人がどれだけ居るかを思うに、
こういうのは学生のうちに先生の監督下で、ある程度の失敗を許容しながら学んでいく以外に
ないんじゃないでしょうか。
完全に防止しようとマニュアル作って雁字搦めにすると、今度は自分で判断できない人間に
なってしまうと思いますし。

投稿: 吉田 | 2013年1月24日 (木) 15時24分

未成年のうちにネットで犯罪自慢して拡散してしまうと、一生を棒に振る可能性があります。
そりゃ殺人とかならやむを得ずと思いますが、飲酒喫煙レベルで一生を棒に振るのは個人的にはバランスがとれていないと思います。
管理人さまの言うとおり、個人情報については子供がネットにつながる前に自分の情報の大切さ、他人の情報の大切さをきちんと教えておく必要があると思います。

投稿: クマ | 2013年1月24日 (木) 23時26分

個人情報の守り方って車には気をつけましょう、飛び出しはやめましょうってのと同じくらいに忘れちゃいけないことなんですよね
いきなり本番デビューじゃなく子供向けのsnsを用意して小さい頃からコミュニケーションのやり方を練習できればいいんですが

投稿: ヒマコ | 2013年1月25日 (金) 06時55分

漫画かアニメで子供にこういう怖さを思い知らせるようなものが出来ないものかなと思う
ネットになじみのない者も多いせいか親世代には危機感が足りないんじゃないだろうか
それに親が言い聞かせてもかえって真逆なことをしたがるのが子供って生き物だから余計に面倒なんだね
ネットの世界も子供の小さな失敗には見て見ぬふりができるくらいに成熟すればいいんだが

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月25日 (金) 09時41分

ネットのあり方については現在進行形で試行錯誤している段階であるようで、以下のようなところが参考になるでしょうか。

ネット界 「青少年への接し方」急速に整備中
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20111122-00022112-r25&vos=nr25msn0000001
母親が息子に教える「iPhoneの18の約束」大人でもいちいち納得の中身
http://www.j-cast.com/tv/2013/01/09160605.html?p=all
母が渡した携帯の使用契約書に賛否
http://topics.jp.msn.com/wadai/r25/article.aspx?articleid=1608922

興味深いのはネット規制に対する反発にも由来しているのでしょうか、母から子への携帯契約書なるものにも賛否両論の意見があるということですね。
個人的感覚としてネット利用法に精通している人ほど「これくらいの自己防衛は出来て当然」という前提条件を高めに設定する傾向があるのか、何であれ規制的なものへの反発が強い印象を受けています。
ただネットのなんたるかも知らない高年齢層が議論して無茶苦茶な規制を強要してくることを避けるためにも、この辺りのネット知識層こそ啓蒙活動にも協力してもらわないといけないかなとは思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月25日 (金) 10時32分

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