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2013年1月 8日 (火)

意外に堅調なメディカルツーリズム 蟻の一穴になるか?

先の民主党政権では医療主導の経済成長戦略ということを掲げていたことは周知の通りで、もちろん政権担当期間中に必ずしも十分な成果が上がったとは言えませんけれども、例えば先日はイラクで日立グループが超音波診断装置の受注を逆転で獲得した背景には政府が診断技術を指導するスタッフ派遣を約束するなど後押しをした成果であると言います。
また近鉄が開発中の日本一の高層ビル「あべのハルカス」にもホテル宿泊客への医療ツーリズム対応を見据えたメディカルフロアが整備されるといった具合で、医療目的の滞在に対して専用のビザを創設するなど官のバックアップを行ってきた成果がようやく現れつつあるように見えますね。
もちろん医療業界全体の中ではごくごくマイナーなジャンルにとどまっているのも確かですけれども、前政権の掲げた医療主導による経済成長戦略の現状がどうなっているのか、メディカルツーリズムを取り上げた先日の公明新聞の記事から紹介してみましょう。

注目集める医療観光(2013年1月4日公明新聞)より抜粋

「信用できる検診で安心」
高度な技術の提供で中国人の誘致に成功
グランソール奈良

医療のグローバル化が進む中、観光と医療を組み合わせたメディカル・ツーリズム(医療観光)が注目を集めている。自国の高い医療技術による健康診断や治療を武器に、国外の患者を呼び込む取り組みだ。アジアを中心に諸外国で市場規模が拡大する中、日本でも導入する医療機関が増え始めている。主に中国人を対象に利用者の呼び込みを進めるグランソール奈良(奈良県宇陀市)の取り組みを紹介するとともに、メディカル・ツーリズムの現状と課題を探った。

ここに来れば、最高水準で信用できる検診を受けられるので安心だ」。グランソール奈良を訪れた中国人利用者は、一様に口をそろえる
同施設は、地域医療の要役であるとともに、検診専門施設としてCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)など、ミリ単位で細胞の異常を発見できる高度な医療機器を完備している。
メディカル・ツーリズム事業の対象は「中国人の富裕層」と位置付けており、宿泊施設は高級リゾートホテル並みで、同行した家族も宿泊可能だ。さらに、中国人の通訳スタッフも雇っている。
同施設の辻村勇海外事業部取締役部長は、「利用者数は月最大20人程度だが、より充実した検査サービスを提供するため、利用者数を抑えるよう心掛けている」と話す。

利用者のスケジュールは4泊5日から5泊6日が主流で、検査費用は平均25万円程度(観光費を除く)。来日した日の夕方には、担当医による問診や簡単な検査を受け、翌朝8時30分から約2時間の精密検査を受診する。その後は「昼ごろから観光名所巡りに出掛ける流れだ」(同施設スタッフ)という。
観光先は、京都や奈良にある歴史的建造物などで、「鑑真を祭る唐招提寺や京都・嵐山にある周恩来元首相の詩碑など、中国ゆかりの名所が人気だ」(同)という。
中国人の誘致に成功している要因について、辻村部長は「そもそも中国特有の医療事情が背景にある」と指摘する。実際、同施設の利用者からは「健康診断を受けたいが、自国の医療機関では1、2年は検査待ちの状態だ」「病院や担当医によって医療サービスの当たり外れが大きい。安心できる医療を受けたい」などの声が多く寄せられているという。
また、利用者が帰国後、日本での受診体験を知人に話す“口コミ”効果も大きい。辻村部長は「行政の市長クラスが視察に訪れたこともあり、日本の医療技術への関心の高さを肌身で感じている」と語る。

旅行大手や病院の参加相次ぐ
地域医療への影響に懸念

日本政策投資銀行の調査によると、日本国内のメディカル・ツーリズムの潜在的な市場規模は、2020年時点で約5500億円(観光を含む)と推計し、海外からの来日者数は年間約43万人と見込んでいる。
このため、メディカル・ツーリズムの導入や事業提携を進める日本企業や病院の動きが活発化している。

例えば、千葉県鴨川市の亀田総合病院は、日本で初めて米国の国際的医療評価機関「JCI」の認証を受けて取り組みを進めているなど、各地で外国人利用者を受け入れる態勢整備を進める医療機関が増えている。また、自治体では、北海道や福島、富山、徳島の各県などで医療観光モニターツアーを実施し、導入を進めている。
さらに、旅行会社大手のJTBグループは、メディカル・ツーリズムに力を入れる複数の医療機関と提携し、外国人患者の受け入れに本腰を入れている。13年度には1000人の外国人患者を呼び込む見込みだ。
一方、課題も残る。ビジネスを優先するあまり、「海外の富裕層を優先し、国内の地域医療に悪影響が生じるのではないか」という指摘もある。事実、メディカル・ツーリズム先進国のタイでは、外国人受け入れに熱心な民間病院は潤っているが、地方の公立病院では設備の老朽化や医師不足などに悩む現実があるという。日本でも、地域医療の存続が課題になっている中で、医療ビジネスへの偏りには注意が必要だ。
(略)

先日は訪日外国人がほぼ震災前の水準に戻ったという報道がありましたが、一方で中国人観光客全般では未だ大幅減の状況が続いていると聞いていましたので中国人顧客をメインターゲットに据えたメディカルツーリズムにどの程度の影響が出ているかと密かに注目していたのですが、興味深いことにこの方面ではほとんど昨今の日中関係の影響はなかったと言いますね。
その理由が今回の記事に端的に表れていると思いますが、まずは顧客層が日常的に広くインターナショナルな情報に接している富裕層であること、そして基本的に口コミで取引が広まっていることからも判るように彼らは実体験によって日本人を誠実な商売相手として認識し信頼していることと言った諸事情があるようです。
特に昨今増加傾向にあるのが元々大陸本土のようには政府に対して親和性を感じていない香港系の顧客であることも関係しているのでしょうが、基本的には以前にも何度か紹介したように中国国内でのかなり異常とも言える医療環境がある、それに対して日本に行けばお金を出した分以上のサービスは確実に受けられるという安心感があることが、こうして確実なリピーターを生み出していると言うことでしょうね。
メディカルツーリズム自体は未だ医療全体の中でごくごくニッチなマーケットに過ぎないとは言え、こうしてリピーター客中心の手堅い経営を続けられるということになれば参入した施設にとっては大きな経営的メリットということになりそうですけれども、一方ではこのことが以前から指摘されている問題点をさらに顕在化させる危険性もありそうです。

当初から言われていることですけれども、国民に対しては皆保険制度のもとで医療は非営利であるべき、差別なく提供されるべきというタテマエのもと画一的な診療を強要してきた結果、富裕層などからは「お金は出すからもっといい医療を」という声も実際にあがっていたわけですね。
これに対して外国人であればこれだけ至れり尽くせりのサービスが受けられる、現状では主に健診等が中心ですが将来的には各種治療も日本でという流れも出てくるかも知れず、そうなれば様々な縛りから日本人であれば受けられない治療を外国人だけが享受できるという逆転現象も生じかねません。
もちろん本当にお金を出す気があれば日本人であっても外国人同様に完全自由診療にすればいいじゃないか、という考え方もあるでしょうが、そうなればただでさえバカ高い保険料に見合った医療サービスを受け取っていると考えていない富裕層の間から皆保険制度などいらない、保険料など払わずその分は自費診療に回そうという声もあがりかねず、ただでさえ厳しい同制度の財政状況がさらに悪化していく可能性もあるわけです。
また当然ながら外国人向けに整備されたサービスはそのまま国内向けにも転用することも可能な理屈ですから、国内外医療格差がそのまま国内医療格差につながっていくことも考えられ、タイのように自由診療で儲けた施設が優良な医療資源を囲い込むということが実際に起こってくるのかも知れませんね。

もともと日本の皆保険制度は医者にかかることなど臨終の確認の時だけ、という状況が少なからずあった当時の日本の医療事情を改善する目的があったため、やはりどうしても貧困層にも最低限の医療を担保するということが主体となって整備されてきたからでしょう、現状でも「生保受給者が一番いい医療を受けられる」などと揶揄されるような状況にあるわけですね。
しかし医療技術自体は日進月歩であり新しいものほど大きなお金を必要とする、一方でお金のない人も含めて全国民に等水準の医療を保証するとなればどうしても提供される医療水準自体に一定の制約を設けるか、あるいは際限のない医療費増大を甘受するかという問題が出てくることは昨今の医療を取り巻く現状が示している通りです。
一方でイギリスなどは医療崩壊の最先進国として有名ですが、全国民に対して平等である代わりに甚だしく不満足な皆保険制度下の公的医療と、お金はかかるが充実している民間医療とを併存させている結果、医療に対する国民満足度は日本などよりはるかに高いという事実もあるわけですね。
一般論として前提条件の存在によってむしろ制度の歪みが拡大されてくるのだとすれば前提条件自体を再考する必要も出てきそうですが、折しも政権交代によって社会保障制度全体の見直しもありそうな気配も漂う中で、いわば前政権の遺産がその契機になるともなれば何ともおもしろい話だなと思いますね。

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コメント

こういうとこに中国系医師よんで雇用したらいいんじゃないの?

投稿: 岳 | 2013年1月 8日 (火) 10時04分

>こういうとこに中国系医師よんで雇用したらいいんじゃないの?

外国人医師の活用としてはありだとは思いますが、おそらく顧客心理としては「せっかくの日本旅行だからアキバで買い物したらメイドインチャイナだったorz」みたいな気持ちになるんじゃないでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月 8日 (火) 11時11分

鑑真って渡航禁止の皇帝命令無視して無断来日しちゃった人だけど
現代中国じゃどう評価されてんのだろう?

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月 8日 (火) 12時44分

たかが検診で25万……
宿泊費込みだからそこまで割高じゃないって感覚??
どうせ買い物でも大金使いまくるんだろうけど……
金持ち喧嘩せずってほんとだね……

投稿: ぽちたま | 2013年1月 8日 (火) 15時11分

映画や舞台になったりとここんとこ急に名前が売れ出してるらしいね
なにせ後進国日本に最先端の中華文化を伝えてやった恩人だからw

投稿: 鑑真は | 2013年1月 8日 (火) 17時33分

日本人の富裕層も診るの嫌だが、中国人の富裕層はもっと嫌ですね。
まず日本人には理解不能な価値観が根底にあり、無用なトラブルになる可能性が高い。
変に権利意識やエリート意識が高くて、上から物言う輩も多そうで腹がたつだけ。
中国人はわざわざ日本に来ずに自国で診てもらえばと思いますね。観光とはわけが違います。

投稿: 逃散前科者 | 2013年1月 8日 (火) 17時39分

>なにせ後進国日本に最先端の中華文化を伝えてやった恩人だからw

中日修好中日修好(^-^;

>日本人の富裕層も診るの嫌だが、中国人の富裕層はもっと嫌ですね。

それでも貧乏人は診なくていいという選択?ができるだけでも一般臨床医よりはましな立場かと
しかし個人的に経験した範囲じゃいつでも自由意志で日本までやって来れるくらいには裕福な連中でそこまで不快ってことはなかったですが
つうか一応は日本語しゃべっててもさっぱり意思疎通困難な場末のDQNと比べりゃ百万倍は優良顧客だわ(^-^;

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月 9日 (水) 14時12分

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