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2013年1月16日 (水)

増える卵子提供 国内でも開始?

海外での臓器移植が問題となって久しいですけれども、昨今のトピックスとして海外での卵子提供が増えているということです。

米国、タイに殺到する「卵子提供」日本人の申し込みでゴールデンウィーク予約いっぱい(2013年1月12日J-CASTニュース)

  女性は30代後半になると卵子の老化で妊娠しにくくなる。いま6組に1組の夫婦が不妊に悩むといわれる。しかし、日本では他人の卵子提供が事実上認められていない。そこで、卵子を求めて海外に向かう女性が増えている。統計はないが、その数は半端ではないという。

1回500万円。不妊治療の末の「最後の手段」

   卵子の提供は夫の精子で受精させた胚(受精卵)を妻に移植する。生まれた子の父は夫、母は妻になるが、遺伝学上は妻と子は他人である。法制も学会の指針も整備されているアメリカでは広く行なわれていて、ドナーを紹介する業者も多い。サンフランシスコの業者には日本人スタッフもいて、「日本人の申し込みが200人、ゴールデンウイークは予約でいっぱい」という。移植は1回500万円。申し込みはかつては医師、弁護士など高額所得者が多かったが、いまは普通のサラリーマン、公務員などになった。ほとんどが不妊治療の末の「最後の手段」だ。

   タイのバンコクは費用が米国の4分の1と安いため、訪れる日本人が年間数百人にもなるという。40代の女性は9年間の不妊の治療が実らず、医者から「後は海外」といわれてネットで仲介業者をみつけた。提供女性のプロフィールが あり、同じ血液型の20代前半の女性を選んだ。移植は民間のクリニックで行なう。 診察にはタイ人の通訳がついたが、受精卵の状態など満足な説明が得られないまま移植をした。「残された時間が少ないんです」と女性はいう。

   驚いたことに、日本人のドナーも登録されていた。20代を中心に50人。日本からやってきて約10日間滞在し、排卵誘発剤で1度に数十個の卵子を採取される。報酬ではなく、滞在費用として60万円。日本人スタッフは「金銭目的ではない」というが、営利目的は明らかだ。首都圏に住む20代のドナーは、おととし採取された。「倫理的に抵抗感はあるが、困っている人を助けられたかな」と自分を納得させているという。

拒絶反応・免疫反応で早産の確率1・5倍

   こうした現状を、慶大学医学部産婦人科の吉村泰典教授は「厚生労働省の調査で、2004年から08年までは卵子提供は分娩1万件に1例だったが、09年以降は2.7件になっています。10年 間に2、3倍になった」と見る。

   一方で、高齢になってからの卵子提供のリスクも明らかになってきている。東京・港区の愛育病院で4年前、49歳の女性が妊娠高血圧症候群を発症した。子宮からの出血が止まらず大量の輸血で切り抜けた。あらためて体外受精の出産例を調べた結果、自分の卵子の場合と卵子提供では、早産の確率が29%対46%と1.5倍の差があった。また、卵子提供では癒着胎盤のリスクも高まる。卵子が他人のものなので、拒絶反応・免疫反応があるらしい。愛育病院では以来、卵子提供の妊婦にはきめ細かいケアをしている。

   卵子提供には出産後の課題もある。子どもに事実をどう伝えるかだ。韓国で卵子提供を受け、男の子を授かった夫婦は幸せな日々を送っているが、妻(46)は子の成長につれて不安を抱く。「いずれDNAが簡単にわかるときがくる。子どもが知る前に告知するべきか」と揺れる。

   吉村教授は「高齢になると卵子提供のリスクは高まります。高血圧症は3倍、 糖尿病は8倍。また双子など多胎も多くなります。これらを知ったうえで、医療者、妊婦、 社会全体が立ち向かうべき問題です」という。

   結婚年齢が高くなっているうえに、子どもを育て難い環境が少子高齢化をさらに進めている。「やっぱり子どもがほしい」と思ったときにはもう遅いのか。それでは悲し過ぎるではないか。

医療機関調査“卵子提供の出産は高リスク”(2013年1月11日NHK)

不妊に悩む女性が海外で別の女性から卵子の提供を受けて出産するケースが急増していますが、こうした妊婦は、早産や大量出血のおそれがある癒着胎盤などが起きる危険性が高いことが、東京の医療機関の調査で分かりました。

30代半ばを過ぎると妊娠しにくくなる「卵子の老化」が原因の不妊が増えるなか、自分の卵子で妊娠できない女性が、最後の選択肢として海外で別の女性から卵子の提供を受けて出産するケースが急増しています。
東京・港区にある周産期医療の専門病院「愛育病院」は、5年ほど前から卵子提供を受けた妊婦が目立つようになったことから、卵子提供を受けた26人と自分の卵子で体外受精をした47人の出産の危険性について比較しました。
その結果、予定日より1か月以上前に生まれる「早産」が起きた割合は、▽自分の卵子で体外受精した人では30%でしたが、▽卵子提供を受けた人は46%で、危険性が1.5倍に上ることが分かりました。
また、大量出血のおそれがある「癒着胎盤」は、▽自分の卵子で体外受精した人はいませんでしたが、▽卵子提供を受けた人の15%で起きていました。
この結果について、愛育病院の中林正雄院長は、「卵子提供による妊娠の場合、卵子も精子も他人のものなので、免疫の拒絶反応が起き、危険性が高くなる可能性がある。卵子提供を受けたかどうか確認し、急に容体が悪化しても対応できる態勢を取る必要がある」と話しています。

記事にもありますように倫理面など様々な問題点が考えられますが、何よりも卵子提供による出産は高リスクであるというのは厳然たる事実であるようで、以前にも紹介した調査では自分の卵子による妊娠に対して妊娠高血圧症候群になる割合は約6倍、癒着胎盤や前置胎盤など胎盤異常の発生割合は7~9倍に増加、さらに帝王切開手術で輸血が必要になる割合は10倍に達したと言います。
注意していただきたいのはこの調査の比較対象となったのが年齢階層を合わせた同年代の女性(24歳~47歳)だと言うことで、当然このような高度な不妊医療を行う人々は相対的に高年齢層が多いはずですから一般の妊娠に比べてもともと様々な妊娠合併症のリスクが高い、それに対してさらに何倍にも高くなってくるということです。
生物学的に考えればただでさえ母胎にとって胎児は半分異物のようなものですが、他人の卵子ともなれば100%異物であるわけですから様々な免疫反応も引き起こされるだろうし、それに加えて妊娠機能の低下なども進行して元々条件が悪いのですから、単純に若くて元気のいい卵子であれば誰でもうまく妊娠出来るというようなものではないわけですね。

現実問題としてはすでにビジネスとしてもこれだけ大きくなっているくらいですから需要は相当にあって、危ないから止めるべきだなどと言って終わる話ではありませんが、こうした海外渡航での卵子提供に際して一番気になるのが誰が様々なリスクも含めきちんとした情報提供をするのかということですよね。
最も理想的なコースとして日本できちんとした不妊治療の専門家が治療を行い、そこからの紹介で海外のこれまたきちんとした施設で卵子提供を受けたとすれば当然それなりに説明はあるんだと思いますが、ただでさえ高額な費用のかかる不妊医療の後でこうした卵子提供でさらに何百万も必要だと言われれば、多少怪しげでも安いルートに心惹かれる人が出てもおかしくないでしょう。
行ってみたらやはり心配になってきたと思っても高い費用もかかることですからおいそれと中止にすることも出来ないでしょうし、そうなるといっそ国内で「正規に」卵子提供の道を探るべきだという考え方が出てくるのは当然ですよね。

国内初「卵子バンク」 不妊治療、提供者募集を開始(2013年1月15日産経ニュース)

 不妊治療専門医や卵巣機能が低下する患者の関係者らでつくる民間団体「卵子提供登録支援団体」(略称・OD-NET、事務局・神戸市、岸本佐智子代表)は14日、早発閉経など卵子がない患者向けに第三者から健康な卵子の提供を募る「卵子バンク」を目指した事業を始めると発表した。

 匿名で無償のボランティアを登録し、医学的な条件が合った患者に提供する。登録の受け付けは15日に開始。海外で日本人女性らから卵子提供してもらう団体はあるが、国内での提供を目指す団体は初という。提供者の安全性の確保や生まれる子供の権利などについて議論を呼びそうだ。

 今回募集する提供者は、子供がいる原則35歳未満の女性で、配偶者の同意が必要。排卵誘発剤などによる副作用が起きた場合の医療費は患者側が負担する。

 仙台市などの5つの民間不妊治療施設が卵子の採取や体外受精を担当。早発閉経や染色体異常のターナー症候群で卵子がないと診断された患者計20人を既に登録しており、当面、患者の新規募集はしない

 同団体によると、早発閉経の女性は約100人に1人、ターナー症候群の女性は約2千人に1人で、これらのうち妊娠を希望する人は国内で数千人に上ると想定される。提供者の個人情報は患者に知らされることはない。

 ■一刻も早い法整備を

 日本生殖医学会倫理委員長の石原理・埼玉医大教授(産婦人科)の話「卵子提供を必要とする人がいることは間違いなく、日本人が海外渡航している事実がある。卵子提供の是非とは切り離し、既に精子や卵子の提供で生まれた子供の法的な地位を明確にするために、一刻も早い法整備をしてほしい。民間団体の枠組みで親子関係に関わることを進めて大丈夫なのか不安もある。卵子提供者を血縁関係がない人に広げるとの理念はよいが、実際に提供者がどのぐらい現れるか、機能するかは未知の部分がある」

法的な枠組みなど様々な問題点は専門家の議論にゆだねるしかないとして、こうした動きが出てきた背景にもやはり近年臓器移植などで主流になってきているように「自国内で必要な臓器は自国内でまかなうべきだ」という臓器ナショナリズム的な考え方も影響しているのでしょうか。
いずれにしても国内で無償ボランティアから提供を募るとなれば当然安上がりになるだろうし、また各種リスクの説明責任なども一元化されやすくなるはずですが、親子関係の認定ということに関して例えば精子も卵子も他人から提供を受けた子を産んだ場合それは果たして親子と言えるのかなど、色々と議論の種は尽きそうにないですよね。
現実に先日はアメリカで同性婚カップル向けに精子提供した男性が後日になって子供の養育費を請求されるという驚くべき事例が報道されていましたが、元々法律に想定もしていないような状況が次々と現実化している以上はこうした意外な解釈が成立する可能性は幾らでもあるはずです。

そしてもちろん、こうして生殖医療が進歩するだけ進歩していったとしても多くの場合出産の段階ではそれとは無関係な産科医が手がけるという事実には変わりがないわけで、自由診療の生殖医療でノーリスクハイリターンを謳歌している一方で過酷な産科の現場ばかりがハイリスクのババ抜きを強いられ続けるという現実に釈然としない人も少なくないのではないかと思いますね。
基本的に妊娠、出産が極めてハイリスクなものになることは最初から判っているのですから、例えば卵子提供を受けるような人は市中の開業産科医などではなく高度な対応の出来る専門的施設でお産をするべきでしょうし、いざ妊娠が成立したとしてもそうした特殊な対応が必要であるということまでもきちんと説明した上で卵子提供にかからなければならないはずです。
何らかの公的なルール作りの必要性は誰しも異論のないところですけれども、その議論するところが単に妊娠に至るまでの経過や出産後の社会的地位の確認などにのみ留まることなく、実際問題一番大変な目にあうだろうお産の現場に対しても向いていなければ片手落ちというものですし、産科医側からもきちんと声を上げていかないと後日どうなっているかも知れないというものですよね。

(追記)本日手違いで更新が遅くなり申し訳ないです。

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コメント

骨髄バンクが許されるなら卵子バンクも許される、のかな?

投稿: たまちゃん | 2013年1月16日 (水) 10時59分

いくらリスクが高くても産めないより産めたほうがいい。
やむなく高齢出産を決意した方たちがそう考えるのはわかります。
そこまで追い込まれないためにどうするかなんですね。

若いうちはお金がないから子供なんて無理だという。
でも不妊治療はもっとお金がいることも知るべきです。
知らないで人生損するのが一番ばかばかしい。

投稿: ぽん太 | 2013年1月16日 (水) 11時30分

たまちゃんさまへ
骨髄バンクの場合、問題が起きるのはほとんどが骨髄を提供される人(多少は提供する人)なのですが、卵子バンクの場合、卵子を提供する人、提供される人、提供される人の夫、その卵子で産まれた子供に身体的あるいは法的な問題が及ぶので、骨髄バンクよりは問題が大きいように思います。

投稿: クマ | 2013年1月16日 (水) 11時39分

法的な問題はどのようなことになるのかがちょっと気になっています。
素人なので勘違いしているのかも知れませんが、日本では法律が古いせいか親子関係等で遺伝子レベルでの話はあまり法体系に組み込まれていないようです。
ときどき裁判になる離婚後に生まれた子供の親認定の問題にしても遺伝子検査の結果を重視するようになっていればそもそも発生しないはずですからね。
精子も卵子も他人から提供され子を産んだ場合でも今の法律のままだと実子と同じ扱いになるように思えるのですが、そのあたり専門家の解釈を待ちたいところです。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月16日 (水) 11時53分

>卵子が他人のものなので、拒絶反応・免疫反応があるらしい。
これ読んで素人考えですが:
臓器移植用の免疫抑制剤?みたいなものを使ったら危険性は減らせる??
それとも薬の副作用が大きいのでしょうか??

投稿: あかり | 2013年1月16日 (水) 12時02分

けっきょくはバンクで個人情報がどれだけ守られるかでしょ.
匿名での登録ができるのか.
卵子の提供後は個人情報全部削除されるのか.
それができないなら何かあったら巻き込まれるかもしれないよ.
こわいこわ〜い.

投稿: かんかん | 2013年1月16日 (水) 21時23分

この記事読むとおもしろい経緯みたいですよ。

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/39031.html

まとめると、
1)10年前に産婦人科学会で卵子提供について議論をまとめていたが「一学会が判断することではない」と公表せず。
2)その後も「国が法整備をしてくれるまで我々は何もすべきではない」と今まで放置。
3)今回民間団体が卵子提供を呼びかけたことに対しては「何も問題はない」と賛成。

専門家の学会が判断できなくても民間人ならやってもかまわないってこと?
それじゃ専門家の存在価値なんてないんじゃない?って気がしますけど。

投稿: pakka | 2013年1月19日 (土) 10時59分

去年の暮れのこういうニュースみつけたんですが、
生殖能力がないのが明らかだと親子関係が認められないそうで、
てことは卵子提供された人は親として認められないってこと??
関係者はどう思ってるんだろ。


性別変更した「夫」、「父親」として認められず

性同一性障害を理由に戸籍上の性別を女性から変更した大阪府の男性(30)とその妻(31)が、第三者の精子による人工授精で誕生した長男(3)を夫婦の子(嫡出子)として認めるよう求めた審判の即時抗告審で、東京高裁(下田文男裁判長)は26日の決定で、夫婦側の即時抗告を棄却した。

長男は非嫡出子(婚外子)として取り扱われ、戸籍の父親欄は空欄となっている。東京家裁は10月、「男性に生殖能力がないことは明らかで、長男との父子関係は認められない」として申し立てを却下。高裁も「家裁の判断は相当だ」と支持した。

(2012年12月28日21時25分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121228-OYT1T01196.htm

投稿: 道林 | 2013年1月21日 (月) 09時14分

問題提起としてなかなか難しいところだと思います。
実質生殖能力がないが排卵はあるということで卵子提供はオーケーにするのか、それなら生殖器切除を受けたケースではどうなのか。
そもそも親子とは血縁関係なのか家族関係なのか、家族制度維持や社会的地位継承の面から考えると今日前者よりも後者が重要になるはずなんですが、明治以降の考え方では血縁重視なんですよね。
生殖医療の進歩を突破口に明治以降の古い法体系を見直していく好機にはなるかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月21日 (月) 11時06分

興味深いですね。
そうなると精子や卵子の提供による子も非嫡出子になるのですか。
今までは戸籍上どうなっていたんでしょうね。

投稿: 柏木哲也 | 2013年1月21日 (月) 11時30分

何十年かたって親が死んだときに遺産分けでトラブる可能性もあるのかなこれは

投稿: たまきせまし | 2013年1月23日 (水) 15時35分

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