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2013年1月29日 (火)

医療費支出効率化 締めるところと緩めるところ

先日ちょっとした話題になりました麻生氏の終末期医療に関わる発言については、マスコミ各社がわざと主語を抜いて報道するなど例によって捏造に基づくバッシングを仕掛けたものの、結局麻生氏個人の死生観の表明であると判る元発言が明らかになったことから不発に終わったようです。
高齢者を中心とする終末期医療問題は人ならば誰しも関心を持たずにはいられないところですが、介護経験者の実感や世代間負担の公平化問題とも絡めて「麻生氏は本当のことを言っただけ」と賛同する声の方がよほどに目立つという皮肉な結果となっています。

麻生発言 ネットでは「正論」(2013年1月24日東スポ)

 財務相も務める麻生太郎副総理が終末期医療をめぐり「さっさと死ねるようにしてもらわないと」と発言したことで「安倍内閣の失言第1号」などとバッシングを浴びているが、ネット掲示板などでは「正論だ」と擁護する声も多い

 麻生氏の発言が飛び出したのは21日午前の社会保障制度改革国民会議。高齢者などの終末期医療に関し「いいかげん死にたいと思っても『生きられますから』なんて生かされたんじゃ、かなわない。しかも政府の金で(高額医療を)やってもらっていると思うとますます寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらわないと」と述べた。

 麻生氏は午後「公の場で発言したことは、適当でない面もあったと考える。当該部分については撤回する」とした。

 この発言に終末医療専門家などからは「非常に乱暴な言い方」「医療費のことを先に持ち出すと、議論の中で何が大切か分からなくなる」などと批判が相次いだ

 その一方、もともと麻生ファンが多い2ちゃんねるなどのネット掲示板では「現実問題を分かりやすく言っただけ」「年老いたオレの親も口癖のようにいつも言ってる」など麻生氏に賛同する声が多い。

 厚生労働省が2005年に公表した推計によると、死亡前1か月にかかる「終末期医療費」が年間約9000億円。終末期医療に詳しい専門家は「年間10兆円規模の高齢者医療費の10%前後で、一般の人が思っているほどウエートは高くない」と指摘する。だが、現状は死亡前1か月どころか、数年間も生命維持装置により生かされる後期高齢者の医療費は膨らみ続けている

まあおよそこの種の問題で専門家と言えばその道で食っている利害関係者でもありますから、それはもちろん「高齢者終末期医療に大金をつぎ込むなんてムダムダ」とは言えないでしょうけれどもね。
麻生氏発言の是非は本稿の目的とするところではありませんが、いわゆる終末期医療費が年間9000億円と言う算定もなかなかに微妙であって、記事にもあるようにこの算出法では高度医療を受けながらある程度長期に渡って生きているというケースにかかる膨大な医療費は算定されないことになってしまいます。
当「ぐり研」では医療財政も緊迫している折、患者や家族にしろ現場医療スタッフにしろ決して望んでいない医療であるなら社会的合意形成を積極的に推し進め中止していくべきだろうし、そうした議論を活性化するために昨今の財政的状況が逆用出来るのではないかというスタンスですから、特に高齢者終末期医療が高すぎるから止めろと主張しているわけではありません。
ただ一部の方々はこうした世間からの終末期医療に対する圧力?が気になってきているようで、例えば先日も田村厚労相がわざわざ「医療費の伸びには高齢化の進展より医療技術の進歩の方が影響が大きい」との認識を示し、再生医療などもどこまで保険適用すべきか問題視するなど医療の効率化、費用対効果の改善が昨今各方面で注目され始めています。
こうした動きは患者負担の少ない皆保険制度下でガラパゴス的進化を遂げてきた日本の医療が標準化していく好機であるとも言えそうなんですが、このところ話題になっているのはそうした支出見直しの動きが高まる中で一部領域では更に一層の手厚い保護を図る動きが出てきているということですね。

難病助成を大幅拡大、14年度スタート(2013年1月27日読売新聞)

 症例が少なく治療法が見つかっていない難病患者の支援について、厚生労働省は新法を制定し、医療費の助成対象を大幅に拡大した新制度を2014年度からスタートさせることを決めた。

 1972年度に始まった現行制度の抜本改革は初めて。懸案となっていた財源の確保について、27日に行われる田村厚労相と麻生副総理・財務相らとの大臣折衝で協議する。

 この折衝の結果、財源問題の解決に政府を挙げて取り組む姿勢が打ち出される見通しで、改革は大きく動き出すことになる。

 新制度では、医療費助成の対象となる病気を現在の56から300以上に増やす一方、助成対象を生活への支障が大きい重症患者に絞り込むほか、現在は全額公費負担の重症患者にも所得に応じて一部自己負担を求める。今後、大学教授らによる第三者組織で助成対象の病気を選定し、病気ごとの重症度の判定基準や助成の給付水準を決める。

難病支援拡大に期待…「将来の治療つながれば」(2013年1月28日読売新聞)

 症例が少なく治療法が見つかっていない難病患者の公的支援制度について、27日に行われた厚生労働相と財務相らとの大臣折衝で、大幅な見直しの方針が決まった。難病の中には医師にさえ十分知られていない病もあり、新たに光が当たれば治療の研究が進む可能性がある。「わが子には間に合わなくても、せめて将来の患者の治療につながれば」。県内の患者家族からも期待の声が上がっている。
(略)
 難病の研究に携わる東京都医学総合研究所の林雅晴・副参事研究員は「今回の見直しは、広く公平に支える発想。恩恵を受ける難病の数は広がるが、疾病ごとの研究費は減る可能性がある。対策の充実には予算の増額が不可欠」と指摘している。

助成対象56から300以上へ

 国は、新たな難病支援制度を2014年度にも始める方針だ。現行制度ができた1972年以来の抜本改革となる。

 厚労省の専門家委員会がまとめた提言では、5000~7000あるとされる難病のうち、医療費が助成される対象を現在の56から300以上に増やす。

 公平性を担保するため、生活への支障が大きい患者を重点的に支援する一方、所得に応じた自己負担を求める

 治療法や医薬品の研究開発も戦略的に進める。

難病というくらいですから完治困難な慢性疾患が対象であって、医療費負担に対して相応の助成をしていくという考え方は理解出来るのですが、一方で再生医療などは下手すれば長年苦しんできた疾患が完治できる可能性もあるというのに保険適用を制限するようなことを言っている中で、何かしら微妙にバランスを欠いた政策のようにも見えます。
もちろんその背景には同じく難病持ちである某総理の強力な後押しがある…かどうかは存じ上げませんが、そもそも対象疾患がこれだけ増えていることからも判る通り診断技術の進歩に伴い治療困難な難病は日に日に増え続けている中でどこまでを公的支援の対象にすべきなのか、難病以外の患者とのバランスはどうなのかと様々な議論を呼びそうな話でもありますね。
当然ながら国もその辺りは今後検証を進めていく予定であるようですが、例えば半ば心身症的な不定愁訴でドクターショッピングを繰り返しているような方々がレアな疾患だと判明した途端に公費で手厚く助成されますでは、逆に難病発見を目的にした不要不急の受診が増えるんじゃないかという懸念すらありそうです。
医療支出の際限なき増大にストップがかかりつつある時代であるからこそ何を削り何を守るべきかについての議論が欠かせませんが、誰しも少なからず興味のある健康に関わる問題であるだけに、他分野とのバランスを取りながらの調整が大事になってきそうですね。

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コメント

寝たきり老人がこんなに大勢いるのは世界中で日本だけだという。
ヨーロッパじゃとっくの昔に認知症の老人を無理矢理生かし続けるのは老人虐待だって社会的なコンセンサスが成立した。
だから彼らはほんとに認知症老人には何もしない、だから寝たきりになる前に皆死んでいく。
世界の大部分じゃ認知症老人を病院や施設に入れて生かし続けるだけの医療費を家族が負担することなんで出来ない。
だから認知症になったら家で何とか介護を続けるしかないが、サポートがないから食べられなくなればあっさり死んでしまう。
日本だけがなんのコンセンサスもないまま膨大な医療費を投じて寝たきり老人を増やし続けてる。

投稿: あかんたれ | 2013年1月29日 (火) 09時32分

以前に見たデータですが入院患者では死亡月の医療費はそれ以前の月の3倍くらいに急増するそうです。
ところが高齢者の場合は全員がそうなるわけではなくて長期入院の患者ほどあまり大きくは医療費が変わらない傾向があるそうで。
また四分の一くらいの高齢患者でははっきりした医療費の急増が起こって終末期医療費の平均を押し上げているんだとか。
ソースは失念しましたがなんとなく実感に近いデータだなと思いました。

投稿: ぽん太 | 2013年1月29日 (火) 10時06分

「乱暴な言い方」 麻生氏発言に批判
2013年1月22日(火)

 社会保障制度の在り方を議論する場で21日、財務相を務める麻生太郎副総理が終末期医療をめぐり
「さっさと死ねるようにしてもらわないと」と発言した。間もなく撤回したものの、医療費削減の思惑がにじむ。
専門家からは「乱暴だ」と批判の声が上がった。
 「『お金がもったいないから、早く死にたい人は死んでもらいなさいよ』という非常に乱暴な言い方。終末期医療を全く理解していない」。
東大死生学・応用倫理センターの会田薫子(あいた・かおるこ)特任准教授(医療倫理学)はこう指摘する。
その上で「医療費のことを先に持ち出すと、議論の中で何が大切か分からなくなる。望ましい社会保障をどうつくっていくか議論するのが先のはずだ」と話した。
 終末期医療に詳しい別の専門家は、厚生労働省が2005年に公表した推計で、死亡前1カ月にかかる
「終末期医療費」が年間約9千億円とされたことを踏まえ「年間10兆円規模の高齢者医療費の10%前後で、一般の人が思っているほどウエートは高くない」と指摘した。

共同通信社

捏造に基づく批判とはこのことw

投稿: | 2013年1月29日 (火) 10時25分

そんなに金がかかってないから見逃せというのも本質を外れた議論だと思いますね。
医療費云々を絡めることを批判するなら、医療費に関わらず終末期医療をどうすべきか議論しなければならないはずなんですが、そこに言及しないまま乱暴だと言うばかりでは聖域なのかと思えてきます。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月29日 (火) 13時04分

>その背景には同じく難病持ちである某総理の強力な後押しがある

これはなにか一言くらいはあったかも
でもどこまで支援するか決めるのももめそうだな
まさか新型うつ病まで支援されちゃうってこともある??

投稿: てんてん | 2013年1月29日 (火) 14時39分

あかんたれさんの仰るとおり。公の場で声を大にして言ってほしいですね。
認知症を初めとした加齢による自然経過に対しては人間は無力ですし黙って受け入れなければならない。
感染症、血管障害、悪性腫瘍に対する医療の進歩による長寿化で相対的に認知症が増えているにすぎない。
この国の超高齢者に対する過剰医療は驚くばかりで、倫理観が欠落しているとしか思えない。
90歳で認知症末期で失語症で寝たきりの人が貧血の精査をして大腸癌が見つかったからと手術・人工肛門造設を平然と提案する病院医師、手術を当然のごとく受け入れる家族。まさにクレイジーとしか言いようがない。
こういう過剰濃厚医療をヨーロッパ同様一切止めれば医療費は3分の1までに減らせるはず。
ただ巨顎の認知症マーケットで甘い汁を吸っている医療機関・大学・医師会・製薬会社などのタッグは強力。
テレビCMを使って認知症の早期発見を促し、医療機関へ誘導し、クスリを売って儲けることしか頭にない。
今の日本の高齢者医療を根底から覆す事を実行すれば、多くの医療機関や施設がつぶれることは間違いないですが、今後の高齢者人口爆発を考えれば一刻も早い対策が求められるべき。


投稿: 逃散前科者 | 2013年1月31日 (木) 10時10分

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