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2013年1月19日 (土)

救命救急士実証研究、中間報告出る

本日の本題に入る前に、報道にも流行というものがあることは容易に理解出来ると思いますが、数年前にはやれたらい回しだ、受け入れ拒否だと大騒ぎされていた時期があったことは未だご記憶に新しいところではないかと思います。
当時は受け入れ拒否ではなく受け入れ不能なのだという現場からの抗弁もさほど取り上げられることもなく、「またもたらい回しか!」と散々バッシングされてきたこともこれまたご記憶だと思いますが、その後いつしかたらい回しだの受け入れ拒否だのという言葉はあまり表に出てこなくなり、代わって救急崩壊などという言葉が用いられるようになってきたわけです。
何故崩壊するのかと言えば一つには過酷な救急現場の担当者が相次いで逃散していったからであり、そしてもう一つは救急の需要自体が近年急増しているからですが、このところようやくマスコミの間でも「患者側の受診態度も問題?」という論調が登場し始めているのは彼らなりに思うところがあったということなのでしょうか?

救急車“こんなことで呼ばないで”(2013年1月15日RKBニュース)より抜粋

●坂田キャスター

全国的に救急車の出動が急増しています。
まずは、こちらのグラフを見てみましょう。
これは、福岡市の救急出動件数をまとめたものなんですが、去年がおよそ6万6000件。
これは、およそ8分に1回、救急車が出動しているという計算になります。
過去4年を見てみますと、年々、過去最多を記録していまして、この4年間で、なんと9000件近くも増えているんです。
緊急性の低い安易な出動要請も少なくなく、消防は、救急車の適正利用を呼びかけています。
(略)

●神田記者

「ここが、119番の通報を受ける災害救急指令センターです。あちらの画面には、現在、出動している救急車の状況がわかるようになっています。多い時間帯には、ほとんどの救急車が出動しているということです」
福岡市の災害救急指令センターには、毎日、250件以上の119番通報があり、その7割が「救急要請」です。
去年の救急出動件数はおよそ6万6000件と、4年連続で過去最多を記録しました。
中でも、活動の妨げとなっているのが、緊急性の低い「安易な要請」です。
指令センターには、実際にこのような通報が記録されていました。

●指令センターへの通報指令
「どうしました?」
男性
「ちょっと、おなかがすいてですね」
指令
「おなかがすいて?おなかが痛くて?」
男性
「おなか痛くて」
指令
「動けないんですか?」
男性
「動けないですね」
指令
「どなたが?」
男性
「僕が」
指令
「救急車で病院に行きます?」
男性
病院は行きません
指令
「病院には行かない」
男性
「はい」
指令
「これは何の要請ですかね?」
男性
そこに食堂がありますもんね、食堂」
指令
「はいはい」
男性
そこに連れて行ってもらえます?

●福岡市消防局災害救急指令センター・四島弘指令第1係長
救急車で病院に行った方が早く診てもらえると思ったからということで呼ばれたり、あと、交通手段がないから救急車を呼んだとか、お金がないから救急車を呼んだとか、そういうこともあります。皆さんの限られた救急車ですので、適切に利用していただきたいと思っております」
同じ地区で救急要請が重なった場合、遠方にある別の救急隊が出動することになり、現場への到着が遅れてしまいます。
福岡市消防局は、この10年で救急車を5台増やしましたが、それを上回るペースで救急出動が増え、現場到着までの時間は平均でおよそ20秒遅くなっています
「本当に救急車が必要なのか」、1分1秒を争う生命の危険がある人たちの命を救うためにも、福岡市消防局は、救急車の適正利用を呼びかけています。
(略)

医療崩壊などと言う現象が顕在化し始めた時期はちょうどネットを通じて医療現場から直接情報発信をしていくことが増えた時期に重なっていますが、当初例によって医療批判に終始していたマスコミに対してネット住民を中心に現場の実情が知られ始めるにつれ、マスコミ報道があまりに偏向していると逆にマスコミ不信や批判にも結びついていったわけです。
ちょうど大野事件、大淀事件と言ったマスコミが作り上げたとも言える著名な大事件もあり医療現場とマスコミとが全面対決するに及び、最終的にそれらの裁判においても医療側の主張が全面的に認められたあたりから風向きが変わってきた感がありますが、これまた不当な報道に対しては断固抗議するなどネットを媒介とした地道な活動の成果とも言えそうですよね。
現場医師や彼らとの直接対話を通じて啓蒙された市民からの猛反撃に遭いようやく医療の実情を理解したマスコミ担当者が、「こんなに困っていたのなら、医療側からもっと早くマスコミに発信してほしかった」などと言うすばらしい迷言が飛び出したのもこの時期ですが、バッシングされた当事者にしてみれば我々の主張など最初から無視して医療=悪の巣窟と決めつけていた輩が何を言うかと言いたくもなるでしょう。
いずれにしても医療の供給がいくら増えたところで現在のように果てしなく需要が増え続けたのでは全く対応のしようがないのは明らかであり、とりわけ本来の目的から外れた不正利用が問題の背景にあるのならそれを改めよと市民に啓蒙することこそマスコミの仕事だろうと言うことで、その意味では最近ようやくマスコミ各社も仕事をするようになってきたということでしょうか。

いささか脱線しましたけれども、救急崩壊ということと絡んで救急受け入れまでの時間が次第に長くなってくるにつれ、その間に何とか出来るだけの処置を行うべきではないのかという議論も進められてきたことは周知の通りで、その代表例として昨年から各地の実証研究モデル地区で救命救急士による医療行為の拡大が図られていることは周知の通りです。
この実証研究で行われているのは特に緊急性が高いと考えられる三行為、すなわち「血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与」「重症喘息患者に対する吸入β刺激薬の使用」そして「心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施」で、いずれもリスクに対して効果の方が劇的に大きいということを期待して検証されているわけですね。
先日この実証研究の中間解析の結果が報告されましたが、特にブドウ糖溶液の投与において大きな効果が認められたようです。

救急救命士の現場処置で低血糖意識障害改善-厚労省検討会で実証研究の中間結果報告(2013年1月16日CBニュース)

 救急救命士の現場処置によって、低血糖性意識障害の可能性がある患者の意識レベルの改善が図られたことが、厚生労働省が昨年7月から行っている実証研究で明らかになった。今後、救急救命士の業務のあり方を議論している検討会で、3月までに提出予定の同研究の最終報告を基に、現在救急救命士の処置範囲に含まれていない血糖測定やブドウ糖溶液の投与、業務拡大に伴う追加講習・実習などについての意見を取りまとめる方針だ。

 この実証研究は、各地のメディカルコントロール協議会(MC協議会)の協力を得て、救急救命士によるブドウ糖溶液などの薬剤の投与や、心肺機能停止前の輸液の実施について分析・評価を行っているもの。16日に開催された「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」(座長=島崎修次・日本救急医療財団理事長)の4回目の会合で、野口宏・藤田保健衛生大救命救急医学講座客員教授から中間解析の結果が報告された。

 今回の報告では、実証研究の中で救急救命士が行った、▽血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与▽心肺機能停止前の静脈路確保と輸液▽重症喘息に対する吸入β刺激薬の使用―の3点について、昨年7月から10月までの結果を分析し、評価項目の効果や有害事象を提示している。

 このうち血糖測定で低血糖が判明し、静脈路を確保した上でブドウ糖溶液を投与した16例のうち1例を除き、意識レベルが改善された。救急救命士が現場で処置しなかった場合の改善率が20%だったことから、「ブドウ糖溶液の投与は、有意に主要評価項目が良く、想定された以上の有害事象の発生もこれまで報告されていない」とした。

 また、心肺機能停止前の静脈路確保と輸液については、処置しなかった場合と比べ、ショックインデックスの改善効果で有意な差はなかったが、救急救命士自身による副次的評価では、皮膚の蒼白、湿潤・冷汗の改善が見られたという。

 一方、重症喘息に対する吸入β刺激薬の使用では、救急救命士が到着する前に患者自身が薬を使用したなどの理由で、処置の適応を満たす7件の事例すべてで投与が行われず、解析対象にならなかった

 この解析結果を受け、検討会で議論が行われ、委員からは「皮膚の蒼白などの副次的評価項目ではバイアスがかかってくるので、慎重な評価・分析をしてほしい」「1割以上の国民を対象にしたトライアルなので、長々とやっていては公平性に問題を来す。いったん区切って議論をした方がよい」などの意見が出された。3月に予定されている次回会合で、実証研究の最終報告を受け、救急救命士の業務拡大について検討し、方向性を示す予定。【新井哉】

しかし喘息などはおよそ診断がついて加療を受けている場合は患者自身が緊急用の薬剤も持っているでしょうから対象症例無しという結果も仕方がないかなと思いますが、一方でかねて救命救急士が盛んにやりたがっている割には効果が疑問視されてきた静脈路確保についても客観的にはあまりはっきりした効果が認められなかったというのも興味深いと思いますね。
それはさておき、今回特に劇的な効果が認められた上にさしたる有害事象もなかったと言うことで非常に有望そうに見えるブドウ糖溶液の投与ですが、以前から糖尿病患者の意識障害では血糖測定の結果を待たずにとりあえずブドウ糖を投与してみるべきであるとまで言われてきたところです。
仮に高血糖性昏睡や他の原因による昏睡であったとしても投与したブドウ糖の悪影響はほとんど考えられず、一方で低血糖であれば治療が遅れることによる不利益が非常に大きいからという判断ですが、今回の結果もこうした考え方が正しいということを裏付けるものとなっています。
一方で気になったのが血糖測定を行う対象がどの程度まで広げられているのかということですが、単に糖尿病の病歴から低血糖が疑われた場合に限らず無自覚のまま糖尿病を抱えて生活している人も多いわけですから、明らかな他の理由がなく意識障害や脱力などを呈するような症例では積極的に血糖測定を行っていくべきではないかという機がしますね。

まだまだ対象症例数が少ないこともあってもう少し長期的なデータも欲しい気がしますが、検討会ではあまり長く実証研究をすべきではないと言う意見もあるようで、三月の最終報告によってどこまでを認めていくのか最終決断が下されるということになりそうです。
こうしたものの考え方も色々とあるのでしょうが、とりあえず今回の対象症例においてさほど大きな効果は認められなかったとしても、重大な問題もなくまた原理的に特定の状況下では大きな効果を期待出来るといったものであれば、とりあえずやっていいということにしておいて少し長期的に見ていくということもありかと思いますね。
もちろん糖尿病や喘息などは普段からのコントロールがきっちりとなされていることが最低限必要であって、特に近頃では交通事故の厳罰化の影響などもあって低血糖発作を起こした患者が事故を起こして裁判になるということもあるわけですから、ここでも患者の側にどれだけ問題意識を持ってもらうかが重要であることは言うまでもありません。

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コメント

>心肺機能停止前の静脈路確保と輸液については、処置しなかった場合と比べ、ショックインデックスの改善効果で有意な差はなかった

違法点滴までやった救急隊員涙目w

投稿: aaa | 2013年1月19日 (土) 09時39分

こういうのってやるのにどれだけ時間がかかってるかも調べて欲しいですな
下手なルート確保に手間取るくらいならさっさと搬送しろよってことなんで

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月19日 (土) 10時42分

ちょっと症例数が少なすぎる気が。
統計の専門家もスタディデザインに関わってるんですよね?
結論を急がずもう少し続けてみてもいいように思うのですが。

投稿: ぽん太 | 2013年1月19日 (土) 12時04分

数ヶ月限定でいきなり点滴やれと言われてもそうそうやれないでしょうから、この段階で数としてはこの程度なのかなとは思います。
ただそうしたことは当然予想されたわけですから、有効性を判断する場において適用が少ないことを評価軸の一つにするのはアンフェアかなとは思いますが。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月20日 (日) 09時10分

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