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2013年1月11日 (金)

医療事故調&無過失補償制度 歪んだまま実現へ?

以前から一進一退の議論が続いていた医療事故調および無過失補償制度創立の問題について、厚労省がいよいよ本腰を入れるつもりらしいという記事が出ていました。

「医療事故調」で医事紛争が急増? 無過失補償制度が設立へ、既存の産科補償は問題山積(2013年1月10日日経メディカル)より抜粋

(略)
 厚生労働省が医療事故の「無過失補償制度」の整備に向け、議論を本格化させている。被害者救済と事故原因究明・再発防止が目的だが、そのプロトタイプとなる産科医療補償制度には批判が噴出している。

今のまま制度が出来上がれば、医療者は安心して医療を提供できなくなってしまう」――。
 厚労省が設置を検討している、医療事故の原因究明・被害補償制度。この制度が及ぼす影響に不安の声を上げる医療者は多い

 医療事故の再発防止と被害者救済を担う制度の必要性は誰もが認めるところだ。しかし、制度設計次第では、医療者のミスを探し出し糾弾するシステムになる危険をはらんでいる。このため法律関係者や患者団体と医師との間で、制度構築に関する意見が激しくぶつかってきた。

 医療事故の調査と被害補償の枠組みについては、2007年に厚労省が医療事故調査委員会設置の検討会を立ち上げ、08年に第3次試案を公表してから議論がストップしていた。しかし11年、医療事故調査や無過失補償制度の枠組みを検討する会議を開催するよう政府が閣議決定したことで再び動き出した。同年8月に新たな検討会が立ち上がり、議論は事故調査体制の大枠を固める段階に近づいている。

事故報告を責任追及に使用?
 現在考えられている「医療事故調査制度」の概要は、中立的な第三者機関が事故報告書を作成し、原因分析や再発防止に役立てるというもの。一方、「無過失補償制度」は、医療者の過失の有無にかかわらず、被害者の救済を行う制度だ。本来、事故調査と補償の議論は分離して行うべきだが、原因究明を求める患者の要望などに配慮して一緒に検討されている

 そして、医療者にとって最も脅威となるのが、この事故報告書が公開され、裁判などで使用できるようになること。「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」の委員で、練馬総合病院(東京都練馬区)院長の飯田修平氏は、「第三者機関による事故報告書に医療者の過失を指摘する内容が書かれていれば、個人の責任が追及されることにつながる。これではリスクの高い医療行為を誰もやらなくなる」と懸念する。

 事故報告書が「鑑定書」として、民事だけでなく刑事訴訟でも使用されるようになれば、日常診療に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。

報告書に異議申し立てできず
 こうした懸念は産科分野で現実に起きている。「今検討されている無過失補償制度は、09年に創設された産科医療補償制度の問題点をそのまま受け継いでしまうのではないか」と語るのは、池下レディースチャイルドクリニック(東京都江戸川区)院長の池下久弥氏だ。

 産科医療補償制度は、重度の脳性麻痺の患者を救済することを目的に作られた制度。脳性麻痺の患者が発生すると、一定の条件が満たされれば医療者の過失の有無にかかわらず、補償金(20年間で3000万円)が支払われる。それとは別に、原因分析委員会が「原因分析報告書」を作成し、患者に公開することになっている。池下氏はこの点が重要な問題だと指摘する。

 報告書は、カルテなどを基に原因分析委員会が検討し、医療行為の医学的妥当性をガイドラインなどに基づいて評価している。だが池下氏は、「ガイドラインに準拠していなければ『誤っている』『劣っている』『医学的妥当性がない』などと評価されるので、患者側には医療機関が有責であると読めてしまう部分が多々ある」と言う。「しかも、報告書の内容に対して当事者の医療機関が異議を申し立てることすらできず、なぜそのときそうしたのかといった医学的判断を説明する機会も奪われている。これでどうして公正な医学的評価が下せるのか」と訴える。

 報告書に記載される医学的評価は、「優れている」から「誤っている」まで15段階が定められている。池下氏はこのうち、評価の一番低い「誤っている」から6番目に低い「(該当の医療行為が)選択されることは少ない」までを有責と取られ得る表現と仮定して、100例の報告書を調べた。すると表1、2のように、100例中79例に上記の表現が含まれていることが分かった。また、報告書に記載された患者の意見を調べると、70例が医療機関に不満を述べていたという。池下氏は、「まるで医療機関を訴えてくれと言わんばかりだ」と語る。

 さらに、脳性麻痺の患者が裁判を起こせば、3000万円よりはるかに高額な損害賠償額を得られる可能性がある。これも訴訟を誘発する要因になっており、補償額をもっと高額にすべきとの意見もある。他にも患者が納める保険料の使途の一部が不明であるなどの指摘もあり、改善の余地は大きい。

報告書の公開は不可避か
 なお、原因分析報告書が患者に公開された187件のうち、損害賠償請求が行われた事例はこれまで7件。この中に和解した事例は含まれていないため医事紛争全体の件数は不明で、この制度によって紛争が減少しているか否かの判断はできない。

 産科医療補償制度を基に全診療科を対象とした無過失補償制度が設計されれば、リスクのある医療行為を担う多くの医師が医事紛争に巻き込まれる可能性が出てくる。飯田氏は、「これまでの検討会の議論を振り返ると、事故報告書を公開しなければ患者側の納得を得られないだろう。事故調査やその評価方法の改善を要望していくしかない」と語っている。

昨秋にも江戸川病院での患者死亡事故に関連してこの事故調問題を少し取り上げましたが、結局のところ何を目的として設立するのかという点でコンセンサスが未だに得られていないことが議論迷走の主原因となっているように思います。
以前から航空事故調などでも問題になってきたように、およそ人間というものは後日の責任追及のために用いられると判っている調査に対して真実を語るはずもなく、必ずそこには自己責任回避、保身といった思惑から来るバイアスが入り込み事故原因の解明を妨げる要因になってしまいます。
それだからこそ真実を知りたい、二度とこんな事故は起こって欲しくないと考えるならば責任追及と真相解明とは全くの別問題であるとして区別し、調査が責任追及には用いられないという免責を担保しなければならないはずですが、少なくとも現在議論されている事故調ではこのあたりが全く保証されていないどころか、敢えて混同するような制度設計を目指しているとも受け取れる状況です。

産科のように調査レポートを裁判の資料に転用できるとなれば、まずはローリスクかつ低コストに専門家の鑑定を手にしておいて、勝てそうなら裁判に持ち込んでより高額のお金を得るということも可能ですし、そもそも無過失補償で得たお金を訴訟費用の元手に使えるのであれば裁判が余計に増えるじゃないかとは、2009年の産科無過失補償設立の当初からすでに指摘されてきたところです。
この傍証として記事にもあるように無過失補償制度成立以後実際に裁判になった事例が少なからずあると言うことに加え、制度成立以後も産科医の減少ペースは全く同じように続いていることなどからも、当初期待されていたように医療訴訟を抑制することによって不足する産科医を何とか増やそうという試みとしては全く不十分な制度であったということがデータからは明らかになってきたということですね。
少なくとも先行するモデルケースでこうした構造的欠陥が明らかになってきている以上、同じような欠陥をなぞって同様の結末に至るというのでは全く意味がないことですし、そもそも患者側にしても何ら真実が記されることもない報告書をもらい見当外れな改善策が講じられるばかりでは何の為の制度かと考えざるを得ないはずです。
すでに法曹界からも訴訟や紛争を抑 止する「良い無過失補償」と、訴訟や紛争を誘発する「悪い無過失補償」があり、厚労省の主導する無過失補償とは悪い無過失補償であるという意見が出ていますけれども、誰も本当のことを話さず訴訟を誘発するだけの制度など何の意味もないと言う点について関係各方面のコンセンサスを得ることはそれほどにも難しいことなのでしょうか。

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コメント

この制度って誰得?っていつも思う。

投稿: かっちゃん | 2013年1月11日 (金) 08時58分

もちろん厚労省の中の人得でつよ利権的にw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2013年1月11日 (金) 09時17分

>この制度って誰得?

保険会社は儲けてると思われw

投稿: aaa | 2013年1月11日 (金) 10時27分

懸念の声が大きいのに厚労省が前向きなのは患者サイドに配慮してるんでしょうか。
無過失補償制度を使ったら訴訟は禁止できればいちばんいいんでしょうけど…

投稿: ぽん太 | 2013年1月11日 (金) 11時20分

いわゆる訴訟の制限についてはデンマークなど導入している実例もあるようですね。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001qapv-att/2r9852000001qav1.pdf

こちらの後半の「3)不起訴の合意について」という部分でまさにその点を論じています。
http://www.jmari.med.or.jp/download/10_ozaki.pdf
訴訟契約によって不起訴合意が成立しているとみなされれば訴えは却下される、ということですが、診療契約締結時にこうした契約を併せて締結するのが実際問題できるかどうかが問われそうですね。
現実的な対処法としては事故が起こった時にそのまま訴訟を選ぶか、訴訟契約を結んだ上で事故調に依頼するかの二択になると思いますが、そうした話が一向に議論されていないように見えるのも不思議ですよね。

投稿: 管理人nobu | 2013年1月11日 (金) 12時25分

日本では患者側が「今の医療であれば適切な治療を受ければよくなるはずだ。結果悪ければ(死亡したら)、すべて医療側の不適切な医療の責任だ」とか盲信している人が普通にいますからね。
裁判所は裁判所で、「医療のことなんてよくわからないから、とりあえず患者側の味方さえしとけば
世間体的に間違いない」という価値観で判断されますから、医療側はやられっぱなし。
誤解した患者の味方は結果的に医療そのものを滅ぼすという事がわからないのだろうか?

投稿: 逃散前科者 | 2013年1月11日 (金) 13時01分

これって医師会は反対しないでいいの?

投稿: ikeda | 2013年1月11日 (金) 13時20分

懸念の表明ってやつはちょくちょくしてるみたいですがね
なんせ医療vs患者って構図から考えたら明らかに患者よりの話なんだからそりゃ本音はイヤでしょうよ
けど「国民のための医療を目指す」なんてハデにCM打っちゃったから表立っては反対しにくいはず(^-^;

投稿: 元僻地勤務医 | 2013年1月11日 (金) 15時46分

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