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2012年12月13日 (木)

医学部新設問題 いずれにしてもタイミングは今?

本日の本題に入る前に、先日ニュースを見ていてなるほどそういうことがあるのかと感じたのがこちらの記事です。

東北薬科大 来年4月、大学病院開業へ(2012年12月12日河北新報)

 東北薬科大は11日、東北厚生年金病院(仙台市宮城野区)を所有する厚生労働省の独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構(RFO)と、病院の土地建物を取得する売買契約を結んだ。病院スタッフもそのまま引き継ぎ、来年4月に「東北薬科大学病院」として開院させる。
 薬科の単科大が総合病院を所有するのは全国で初めて。付属病院化によって、2006年度に6年制に移行した薬学教育の充実を図る。
 契約額は宿舎の土地建物も含めて、7億7330万円。医療設備は別に譲渡を受ける。
 大学は、病院職員685人の希望者全員をいまの雇用条件のまま引き継ぐ。東日本大震災で被災した病棟は、今後10年程度をめどに現在地で建て替えるとしている。費用の100億円超は自己資金で賄う方針。
 東北薬科大学長も務める高柳元明学校法人理事長は大学で記者会見し、「薬学教育の6年制移行を機に病院取得の検討を始めた。地域医療に貢献しながら、実務実習のモデルとなる病院をつくりたい」と語った。
 同席した東北厚生年金病院の田林晄一院長は「病院の自立につながり、医療研究の促進も期待できる。大学の意向に協力したい」と話した。
 東北薬科大はことし9月、厚労省に同病院譲渡の要望書を提出。同省は11月に譲渡候補先に同大を選んだ。RFOは(1)病床や診療科の維持(2)地域医療支援病院や災害拠点病院の指定継続-などの条件を最低10年間は満たすよう求めた。
 東北厚生年金病院は診療科21、病床数466床で、県の災害拠点病院やがん診療連携拠点病院に指定されている。

もちろん需要と供給が一致したというのが最大の理由なのでしょうが、同じ仙台市内では仙台厚生病院と東北福祉大がタッグを組んで医学部新設を目指していることはよく知られているところですよね。
医学部新設に当たってはよく教育や付属病院に必要な大量のスタッフをどう確保するのかが一番の問題だと言われますが、今回のように大学病院保有の前提条件として別に医学部医学科を持っている必要性はないということであれば、昨今各地で申請が出ている医学部新設が認められる前段階として既成事実を積み上げていく一つの方法論ともなり得るやり方かなという気もします。
いずれにしても近年医学部定員が大幅に拡大され医師養成数が急増している中で、新設医学部を認めるべきかどうか未だはっきりしたコンセンサスが得られていないという状況ですが、逆に言えばこのまま歳月が経過し医師が順調に増えていくほど新設を求める声に説得力が失われていきそうだとも言えますよね。
そういう意味では新設推進派、反対派双方ともにここ数年が勝負所だと見極めているのでしょうか、各方面からそれぞれ盛んに声を上げているようです。

医師増えても「20年後も不足」 東大研究所が予測(2012年12月7日朝日新聞)

 今の医師の増やし方では20年後も医師不足――。こんなシミュレーション結果を東京大学医科学研究所のグループが1日、米科学誌プロスワンに発表した。医学部増員により医師数は増えるが、高齢化で死者数も増えるため、負担は変わらない可能性が示唆された。

 国の人口推計や医師数調査のデータをもとに2035年の状況を解析した。医師数は39万7千人で、10年より1.46倍に増えるが、死者数も1.42倍に増加。3人に1人の医師が60歳以上になるため、年齢や性別を考慮した医師の勤務時間あたりの死者数は現在と変わらなかった

 同研究所の湯地晃一郎助教は「死者の大半は病院で死亡している。現状では勤務状況が改善されない」と指摘する。12年度の医学部の定員は約9千人で、07年度より約1400人超増えている。

同志社の医学部計画に反対声明 京都府医師会(2012年12月11日朝日新聞)

 学校法人同志社(京都市)が大学に医学部や医科大学を設置する検討チームを発足させたことを受け、京都府医師会(森洋一会長)は11日、「新設には断固反対していく」との声明を発表した。

 京都府庁で会見した森会長は、同志社側が医師不足の解消を掲げていることについて、「(既存の)医学部定員枠の増大で十分、対応できている」と反論した。また、新設によって学生や教員を取り合う市場原理が持ち込まれると、医学生の質が低下したり既存大学の経営が圧迫されたりする、と訴えた。

 そのうえで「現代の医療状況などを顧みておらず、良識の府の見識にも関わる」などと同志社側を批判した。

個人的にはここまで医学部定員が急増してしまうと今さら巨額のコストとマンパワーを投入して医学部を新設することにはあまり意味がないかなと思っていますが、一方では医師総数の増加とは別に地方を中心に医師分布の偏在の問題が盛んに言われていますよね。
その抜本的解消策として医学部新設しかないという主張も相応に説得力がありますが、それなら例えば大都市部に複数が集中している医学部の移転なども検討すべきかとも思うのですが、現実的には医学部とは地域の系列病院ヒエラルキーの頂点でもありますから難しいのでしょうね。
医師会が既存大学の経営を云々するというのも何やらおもしろいなと思うのですが、ただ法科大学院や歯学部など先行して新設増員を行ってきた有資格専門職が軒並み崩壊し今や学生確保にすら四苦八苦している状況を考えると、現行の定員増加方式で対応出来ないことが明らかにならない限りは新設は行いにくく、また行うべきでもないと言う気はします。

ただそれとは別に今回の東大医科研の話を聞いてちょっと考え方が違うのでは?と感じたのは、老人の大半が病院で亡くなっているから医師が多忙だと言うなら、まずそのその状況を改善する方がよほど即効性もあるだろうということです。
老人の看取りについて昨今ではあまり手をかけないということがようやく広まってきていて、実のところ看取りの数が多い割にそれほど業務量は多くない(あくまでも医師については、ですが)とも言えますが、老人に限らず何かあればとりあえず病院にという風潮が過剰な医療需要を招いていることもようやく注目されるようになってきていますよね。
国民皆保険制度が導入されて以来日本では誰でもいつでも好きなだけ医療にかかれるのが当たり前であり、お金のあるなしで受けられる医療に差がつけられるなどあってはならないことだというタテマエが主導的になってきましたが、このタテマエが続く限り医療需要に対する抑制因子としては地域の住民自身の自己抑制しか存在しないということになってしまいます。
国が右肩上がりで豊かになっていく過程ではそれも成り立っていたことなのかも知れませんが、すでに医療・介護に対する国の支出はほぼ上限に迫りつつあることは明らかで、一方日医(苦笑)を初めとして皆保険制度絶対死守、混合診療などとんでもないという方々も未だに一定の力を持っている以上は、国の支出の上限がすなわち医療全体のパイの大きさを規定しているとも言えることですよね。

つまり現行の保健医療制度を大幅に変えない以上は際限なく増え続ける需要に対して際限ない供給の増加で対応しようというのは無謀きわまるというもので、医療全体を妥当な水準に抑えると同時に医療資源をどこにどれだけ配分するかというパイの切り分け方についての議論も必要になるはずですが、当然ながらその過程で誰かにとっては受けたかった医療が受けられなかったという状況が発生するはずです。
その意味では長年悪化する一方の財政危機が増税という痛みに対する推進力になったように、医療の世界においても需給バランスが崩壊し供給過少に陥っている今のタイミングだからこそ、国民に対して医療の抑制をお願いするにもひときわ説得力があると言えるんじゃないでしょうか?
現状の路線を維持していくだけでも何年か経てば何となく医師も増えて現場もそれなりに回るようになるかも知れませんが、そのときになっても国民が「不要不急の救急受診は控えましょう」なんて呼びかけに素直に賛同し自己規制してくれるものかどうか、あまりに高すぎる民度を前提としてものを考えるのもいささかリスクが高すぎるようにも感じられます。

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コメント

同志社が医学部つくって誰得よ?

投稿: aaa | 2012年12月13日 (木) 09時17分

結論はいらない。以上。

投稿: てんてん | 2012年12月13日 (木) 10時19分

地域の基幹病院とはいえ単なる市中病院が(言葉は悪いですが)経営者が変わっただけでいきなり大学病院。
臨床で求められる能力と教育者として求められる能力はまた違うんじゃ?
スタッフは全部そのままって言っちゃってあとで困らないのかなと心配です。

投稿: ぽん太 | 2012年12月13日 (木) 11時18分

国が新設に極めて慎重なのは明らかなのに、こうして相次いで手を挙げてくる理由を図りかねています。
大学にとっては学生数が減り続ける中で医学部に何かしらイメージリーダー的な役割を期待しているのでしょうか。
ただ早稲田にしても同志社にしてもあまりバリバリの理系っぽいイメージはないように感じるんですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年12月13日 (木) 11時37分

人口2000万人弱の近畿圏に国立医4校、公立医4校。
人口3400万人の首都圏には国立医3校、公立医1校。
授業料の安い(年間53万円)の国公立医が少ない首都圏と、比較的多い近畿圏の違い。
こういう格差を埋めるほうが先では?
もちろん、首都圏の状況の改善です。

高額学費の私立医大は、もう増やさなくていいです。

投稿: とある内科医 | 2012年12月13日 (木) 14時10分

単純に大学定員と医師数が比例するってもんでもないですわな
大都市部なら他地域から流入するし田舎なら流出する
医学部新設で地域の医師数管理しようとしても効率悪いんじゃないかな

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年12月13日 (木) 15時11分

全体としては、医学部の新設には賛成・反対どちらとも言えないです。
地方大学にいると実感するのですが、地元民ならともかく入学枠が増えても出身大学で医師資格を取得→大都市圏に行って研修し、そのまま戻ってこない、というパターンが前以上に増えています。
もちろん大学での研修やキャリアパスが大都市圏や有名研修病院に比して良くないことがメインの理由と考えます。
現状では医師配置の問題が大きいと感じますので、①「医学部造設枠に特定の地域や診療科への就職条項をつける」もしくは②「大学や地方の病院に残りたいような魅力的な環境にする」のどちらかとは思います。
ただ、今でも地元枠で入っても少なくない「違約金」を払って逃げちゃう人も多いので①は上手く行かなさそうです。
②も望みうすかと…自分も尊敬する先輩がいるので地方大学勤務ですがその人がいなかったら直ぐに出ていくクチですし…

投稿: 地方大学勤務医 | 2012年12月23日 (日) 01時03分

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