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2012年12月26日 (水)

蔓延するノロウイルス感染症 「ノロを疑ったらすぐに病院へ」?!

全国的にノロウイルス感染症が大変な流行を見せていますが、急性期の施設は元より高齢者対象の慢性期施設なども大変な勢いで病床が埋まっていっているようですね。
そんな中で一つのテレビ番組の中での医師のコメント、そしてそれを紹介したとある記事が話題になっているようですが、まずはこちら問題の記事を紹介してみましょう。

ノロウイルス感染の疑いが出た場合に 「病院に行ってはいけない」は本当か?(2012年12月8日J-CASTニュース)

  感染性胃腸炎のノロウイルスが猛威をふるい、大阪の病院では2人の死者が、広島市では弁当を食べた1381人が集団感染するなど史上最悪になりつつある。感染すると激しい下痢と嘔吐を伴い悶えるほどの苦しさだというが、感染の疑いがある人は「病院に行ってはいけない」のだそうだ。
   それは、感染力が強力なためと、ノロウイルスと診断されたところで特効薬などは無く、結局は自宅のトイレで耐えるしかないからだそうだ。果たして本当なのだろうか。

ノロと診断されること自体にも意味は無い?

   フジテレビの朝のワイドショー「とくダネ!」では2012年12月18日にノロウイルスにかかったらどうすればいいか、の特集を組んだ。厚生労働省の調査では感染が確認されたのは12月11日現在で2467人と史上2番目の最悪に近い数字で、これからますます増えていくと予想した。
   予防するには石鹸を付け流水でよく手を洗うことと、食器は塩素系漂白剤で消毒するか、85度以上のお湯で1分以上の加熱が必要。ただし感染力が強いため、例えば、ノロウイルスにかかった人の後にトイレを利用するのも危険だと説明した。

   番組コメンテーターで産婦人科医の宋美玄さん(36)は、1週間前にノロウイルスにかかり、その辛さを「つわりの再来」「おむつが必要なほど」と表現した。ノロウイルスには抗生物質も下痢止めも効かず、特に下痢止めを使ってしまうとウイルスの排出を妨げる。特効薬などは無いため、イオン飲料と糖分を摂取し、ひたすらトイレで耐えるしかなかった、という。そしてこう語った。
    「時々、ノロウイルスかどうか診断してもらって来い、という学校や職場があるけれども意味が無い。ノロと診断されること自体にも意味は無く、病院に行くのはやめたほうがいい
   つまり、ノロウイルスだった場合は、病院に来ている人は弱っているため感染しやすく迷惑。通院すること自体も辛いし、お金もかかる。特効薬もないわけだから自宅で耐えるしかなく、症状が酷かったり、ぐったりした場合を除いての通院は無意味だというのだ。番組全体でも、病院に行ってもしょうがない、という論調だった。

感染が疑われた場合は病院に来てください

   確かにノロウイルスの感染力は強く、06年に東京・池袋のホテルでノロウイルスに感染したという事案では、感染者の吐しゃ物の処理が充分でなかったため、乾燥した吐しゃ物が空気ダストを通じホテル内に広がり300人以上の人々が感染したと報道されている。感染者はむやみに出歩かないほうがいい、ということも考えられる。
   しかし病院に行かないほうが本当にいいのだろうか。都内にある2つの大学病院に問い合わせたところ、担当者は驚いていて
    「ノロウイルスに感染したのか、それともインフルエンザなのか、単なる胃腸炎なのかはご自身では判断できませんから、病院で診断を受けるのは当然です。また、ノロウイルスの場合は、感染経路を知る必要もありますので、『病院に行くな』はありえません
   2つの大学病院ともにテレビの内容を全面否定した。そして、厚生労働省のサイトの「ノロウイルスに関するQ&A」には、「感染が疑われた場合、どこに相談すればいいのですか?」という項目があり、回答が「最寄りの保健所やかかりつけの医師にご相談下さい」と掲載されているため、病院や医師はいつでもノロウイルスの相談を受けるはずだ、と話していた。

しかし門外漢のコメンテーターなる人物がずらりと並んで的外れなコメントをつけることは日本のテレビ番組独特の慣習なんだそうですが、宋先生には失礼ながら普通まともな知性の持ち主であればノロの特集と題して産科医に語らせようとは思わないはずですけども、「専門家」と称して皮膚科医に内視鏡を語らせるのが当たり前というのがマスコミの感覚らしいですからねえ…
それはともかく、記事の文面だけを見ていますと何となく言いたいことが判るような判らないような不可思議な内容で、それもあってか医療従事者も含めてコメントが多数ついているようなんですが、この報道に関する宋医師のツイッター発言を見ますと例によっての報道の切り貼りで余計に判りにくくなっている部分もあるようですね。

ということをとくダネで言ったのです。“@NATROM: 「ノロウイルスに感染したのか、それともインフルエンザなのか、単なる胃腸炎なのか」は患者さんはご自身では判断できないけれども、症状が軽微であれば別に判断する必要はないのだよ。どうせ医師も正確に判断できない。”

この記事は余りに酷い。私がコメントした内容は多くの臨床医が同じように考えていることですし、重症なら病院に行くよう言いました。取材先の大学病院の名前と担当者の役職を記載して下さい。医師とは思えないので。タイトルにも悪意があり抗議します。そちらの見解を求めます@jcast_news

しかしまあ、「ノロを疑ったらすぐに病院へ!」などとコメントして医療関係者から遭う袋叩きを想像すれば、ネットニュースに歪曲記事を書かれることくらい「予想された合併症」だが。

この種の大規模感染症についてはどう対応するかということに関して偉い先生方のかくあるべし論と現場の感覚とが乖離してしまうというケースがしばしば見られるものですが、ノロウイルスは怖い怖いと言われていても症状に個人差が大きく、軽症例なら水分補給で自宅療養で十分な場合も多いでしょうから、確かに単に「ノロを疑ったらすぐに病院へ!」などと言って終わるよりはよほど議論の広がりそうなコメントではありましたよね。
最近ではどこのマスコミも「ノロは怖い!死ぬ!疑わしきはすぐ病院へ!」と個々の症例の軽重や患者の状態も無視した事ばかり言うし、コメントを求められた大学の先生方にすればそう言っておけば責任を問われることもないですからそう答えるでしょうが、現実問題として軽症患者までも殺到してパンク寸前の末端医療現場にはまた別な言い分があるんじゃないかという気もします。
それでもインフルエンザなどは特効薬とも言うべき抗ウイルス薬が登場してから幾分か事情が変わりましたが、特別の治療法のないノロの場合何が何でも病院にかかって全例確定診断する必要があるのかどうかと言われればこれもまた極端な話で、つまりはマスコミが求めるような「一言きりのコメントで全てを語り尽くせる」といった類の問題ではなかったということでしょうか。

もちろん施設内での大規模発生に関しては感染防御対策や公衆衛生学的な対応も必要になってしまい全く事情が変わりますから、一般人が特に集団発生を疑う状況でもなく家庭内で発症したという孤発発生例だけを対象にして考えて見ましょう。
「疑わしくは病院へ」というシンプルな方針はどこの保健所や大病院も言っていることですが、一方では国立感染症研究所の予防マニュアルにも「医療機関・施設においてはノロウイルスを持ち込ませないようにすることが重要」と書かれているように、重症患者も多いのにむやみやたらとウイルスを持ち込んで欲しくないと言うのも現場の本音ではあるでしょう。
それだけに患者側にとっては病院に行くべきかどうか迷わしいところですが、特に脱水など体調変化に弱い乳幼児や高齢者で重症感のある場合はもちろん、若年健康者であっても嘔吐や下痢が続き水分も取れずぐったりしているというケースについては直ちに受診していただくべきだろうことは、多くの医療従事者にも異論がないところだと思います。
それではどこで意見が分かれるかと言えば、例えば軽い軟便やちょっとした下痢程度で特に全身状態にも問題なく元気な人の場合、あるいはそうした軽微な症状のみで自然軽快してしまったという方々が記事にもあるように後日になって「ノロでないと証明してもらわないと出勤できない」などと言って来院するケースでしょうか。

基本的に元気であれば特別な対応はなく、下痢などもむやみに止めることは薦められないという疾患ですから、特に多忙な夜間・時間外救急に従事している先生方が前者のような不要不急の症例に遭遇すると「そんなもんスポーツドリンクでも飲んでおとなしくしてろ!」と言いたくなるのは理解できることで、その意味ではノロウイルス感染が疑われるからと全例病院にかからなければならないというわけではないと思いますね。
ただウイルス排泄は症状消失後も一週間ほどは続く(一ヶ月続いたという話もあるようです)となると二次感染のリスクは常にあるのですから、その意味では後者の例に見られるようにノロであるか、そうでないかということで社会的活動の再開時期が大きく変わってくる可能性はあるということです。
そう考えると医学的に「ノロと診断されること自体にも意味は無」いと考えられる状況であっても社会的には相応に意味はあるケースは少なからずあると思われ、特に大勢の顧客に多大な被害を及ぼす可能性がある食品産業従事者や、医療・介護領域で全身状態の悪い患者さんと濃厚な接触が避けられないといったケースでは積極的に診断を確定していくことにも相応の意味はあるとは言えそうです。
もちろんそうした意味も意義もなくただ単にマスコミ報道を真に受けて「気になるから来ました」といった軽症例が多数病院に殺到しているからこそ「病院に行くのはやめたほうがいい」と言いたくもなる先生方が増えているのでしょうから、こうした安心を求めて来院する方々は殺気だった現場の空気を読んでいただいて、まずは電話等で相談してみるということも一つの手ではないでしょうか。

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コメント

コメントの意図としてはそこまでおかしな話じゃなかったってことですか
この人もマスコミに関わる以上このくらい当たり前、って覚悟決めてるのはえらいね

投稿: 荒木 | 2012年12月26日 (水) 10時05分

ノロは最初軽症だと思っても途中からひどいことになることありますよね。
そうなると病院にも来れないのでとりあえず先に来て薬と点滴だけでもしといたら?といった感じです。
何度も来なくていいように時間外で来た人にもちょっと多めに薬出しちゃいますね(ほんとはダメなんですが)。

投稿: ぽん太 | 2012年12月26日 (水) 10時28分

施設ごとの状況で対応は変わるものだと思います。
ノロの場合テレビでやるなら実際に手洗いを実演してみせるのが一番いいのかなとも思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年12月26日 (水) 12時32分

ノーウォークウイルスから数えると、「発見」されてから40年以上にもなるというのに
特効薬が存在しない、またはインフルエンザのごとくワクチンも存在しないというのは
なんか事情でもあるのでしょうか。

(それとも私が無知なだけで実はある、とか)

投稿: 名無子 | 2012年12月26日 (水) 20時04分

ワクチンの方は変異株が多すぎて難しいんじゃないかと。
だいたいがこの手のウイルス感染症って病院くる頃にはもう周りじゅうにばら撒いちゃってるのが厄介ですがね。
たぶん一番に必要なのは家庭用の安全簡単な消毒薬じゃないですか?

投稿: いっこうさん | 2012年12月27日 (木) 09時00分

誤解を恐れずにレスすると、ノロ発病者全員が医療機関に殺到するとパニックになるだけなので迷惑という事。
それに医療機関自体がノロ感染のハイリスク温床になるだけ。
元々基礎疾患のない健常者の発病者は1〜2日で治まるし、重症化する可能性も極めて低いし、点滴も不要。
家で大人しくおさまるまで寝てるのが一番。
ただ超高齢者や乳幼児、重症度の高い基礎疾患や後遺症のある発病者は時として脱水症を契機に致死的になる危険性があるから、病院へ行くべきだし、状態に応じて点滴も必要。
こんな事、ちょっと考えれば医者でなくても誰でもわかる事なのに、誰も言わないで放置している。
だいたい明かな流行時期に胃腸炎にかかった者に、会社が「ノロかどうか診断してもらってこい」とか意味不明
胃腸炎症状で受診した人間全員にノロの確定診断などしてられないが、今は検査しないとマジ切れする患者とかもいそうで怖い。実際、インフルの流行期だと簡易キット検査をしないとマジ切れする患者は多い。
会社や家族など周りの低レベルな思考回路による圧力もかなり問題。
受診する国民が低レベル=医療後進国。感染流行期のパニックは毎度バカバカしい事この上ない。
まあ日本の場合、多くの医療機関がそれで利益を享受しているという事実があるのだが。


投稿: 逃散前科者 | 2012年12月27日 (木) 12時10分

このまえ嘔吐下痢症かかりました。
病院いかないで家で寝てたけどキツかったです。
吐き気だけでもどうにかしてくれって感じでした。
元気だったら病院行かないほうが…って言われるとやっぱキツイかも。

投稿: 小市民A | 2012年12月27日 (木) 12時34分

流行期の胃腸炎ならまず感染性なんだから会社も一律一定期間休業前提で対応すべきでしょ
そうすりゃ診断のためだけに病院にウイルス広めに行く必要もないんだし
それを許さないなら会社が悪いってことじゃないのかな

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年12月27日 (木) 13時57分

10年くらい前に宴会で集団感染した。
自分や同僚は一日で治り 身体的被害は少なかったのだが
宴会で利用した店は閉鎖され、その後、利用者は激減した。
被害者それぞれに詫び状をくれ、医療の全額負担もしていたため相当な被害だったはず。

そのようなことも忘れていた昨日、
レストランで子供が嘔吐してしまった。
お店のかたが親切に掃除してくれ、そのまま帰宅したが
もしノロだった場合 その店に迷惑がかかる。
ノロじゃないことを確認するために子供の検査を行いたいが今日は日曜。

ネットで調べると、検査は保険適用外で
かつ 通常の医療機関では 正確な検査は無理であるとの話。
これから保険所に相談してみるが 社会的被害の拡散防止のためにも
公的機関には抜本的な対策をお願いしたい。

不特定多数の人々の来店を拒否できない飲食店経営者が気の毒だ。

投稿: 集団感染 その後 | 2014年4月 6日 (日) 08時22分

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