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2012年12月27日 (木)

続く医学部新設論争 でもそれよりも先にやることがあるかも?

日経メディカル主催のディベート第四弾として行われてきた「医学部新設、是か非か」という企画が26日で投票締め切りとなりましたが、新設賛成派の論者が東大医科研の上昌広特任教授だと言うのが本気度の高さを感じますね。
一般論としてはディベートというものは討論の技術を競うものであって、別に論者がその主張の信奉者である必要性はないわけですけれども、上氏の場合は以前からの熱心な新設論者であることが知られているだけに、ディベートの主張にも熱が入ろうと言うものでしょう。
上氏の奮闘にも関わらず中間集計の段階では世論を反映してか新設反対派が圧倒的多数を占めるという状況のようですが、寄せられたコメントの中から幾つか引用させてもらいましょう。

【第4回 中間集計結果】医学部新設、8割超が「反対」(2012年12月21日日経メディカル)より抜粋

(略)
◆地域枠の定着率から考えると100%残るような仕組みであれば、いいのであるが、現時点では地域枠は埋まらない、卒業後、他県に出る事例も認められる。医学部増員だけでは効果として乏しく、またこれを新設したからと行って効果を発揮するかと考えると疑問である。また既に設立している大学が有力病院を押さえている現状を考えると、これからの新設医学部に残留しても、あまりメリットもなく、場合によってはキャリア形成に大きな問題を呈する可能性がある。(略)
(略)
◆これ以上、底辺私立を増やしてどうするのでしょう。誰のため?(略)

医師の人数に眼が行き過ぎている。何故、「足りない」のか。仕事量なのか、それとも金銭的な問題や、社会からの扱いなどの問題なのか。現在医師である人たちの視点をみな話し合っていないのが、医療や医師数の問題の根本ではないか。(略)
(略)
◆今の問題(医師の偏在、職種の偏在、労働環境の問題)を解決しないで、医学部だけを増やす事の意義があまり感じられない。(略)

◆私が医学部入学した昭和44年は、いわゆる新設医大は有りませんでした。その後、1県1医学部の構想の基に各県に医学部ができました。しかし、医師偏在は無くなりませんでした。(略)
(略)
◆地域偏在と診療科偏在、女性医師の活用不足を解消すれば、あと数年で好転すると思います。例えば病院保育士1人増員で、女医さん3名はカバーできます。その方が効率的です。
(略)
◆吉村氏の議論は、地域偏在(とくに東西差)について、全く論じていません。東に医師の存在が薄いのは、議論の余地のない事実です。また今、医師がやらされている無駄な仕事についても、考えていません。医師数を増加させ、その中で医師の役割分担を進めない限り、解決の道はないと考えます。
(略)
◆既婚・子持ち女医ですが、最小限の産休以外は男性医師と同等に働いています。結婚、子育てをきっかけに常勤を退く若い女医が多いことには憂慮していますが、医学部定員をこれ以上増やすよりも、既に多くの税金をかけて育った女医を社会で有効に活用できる社会をつくった方がずっと効率がいいと思います。医学部新設より、保育所新設の方が安いですし、他の職種で働く女性にもメリットがあるのではないでしょうか?(略)
(略)
◆医師の偏在が医学部の偏在に依存するなら、東京大学がまず田舎にいったら?でしょ! 医療の作業効率を上昇させるには医学部を論じても無意味ですよ。日本に必要な医療のminimum requirementとは?のコンセンサスの民意誘導が無いと日本の医療は変わらない。(略)
(略)
◆医師は十分いるが、コメディカルがやるべき仕事までさせられているため足りないようにみえる。

◆医学部を新設しても問題の解決にはならないであろう。卒業生が地元に残るような方策をとらないと意味がない
(略)
◆医療に投じられる公的資金が限られていて、もしそれ以上の利用を希望するなら自費という条件を加えて推計すると医療需要は今の予測よりかなり減るのではないかと思います。
(略)
◆18歳人口の700人に1人から130人に1人と医学部入学者の門戸が拡がっているという吉村氏の主張には説得力がある.医師国家試験に合格できない学生が増えてきていること,また最近の研修医のレベルにも反映されていると思う.(略)
(略)
◆尊敬する上先生の主張ではありますが、これから国の財政を考えると、医療、特に高齢者に対するそれは、量および質的に減らしてゆかざるを得ないと考えています。現在と同じレベルの医療水準を維持することは、30年後には不可能となってゆくでしょう。(略)
(略)
◆今後、医療需要が急増する中で、勤務医を増やすための施策を議論すべき。個人的には自由開業制の制限はやむを得ないと考えます。可能であれば、勤務医を続けることで制度上、経済上の優遇策を行うべき。(略)

一頃には医師不足なのか医師偏在なのかという議論が盛んだったことがありますが、医療資源が需要と供給との間に何らかのミスマッチが存在するのは事実であり、その意味では医師不足の有る無しに関わらず医師偏在というものは確かに存在する、ただしそれは単に田舎に医師がいないというレベルの問題ではなく診療科間、施設間、そして基礎と臨床といったあらゆる方面で起こっている現象だということだと思いますね。
管理人個人としては原因が医師不足であると言うのであれば医学部増員で十分対応出来るはずであり、一方単なる増員では医師偏在には対応出来ないと言うのであれば例えば特定地域に対象を限った自治医大方式にしなければ無意味だろうと考えていますが、これとても卒後一定期間の間は多少の強制力を発揮する程度で永続的な医師配置是正につながるものではありません。
また今後高齢者医療がどんどん大変になっていくから医療需要は増える一方だよと言う予測が当たり前のように提示されてきた中で、ようやく「でもそれなら医療給付抑制策を講じるのが先じゃね?」という主張が増えてきた、そして国も看取り促進など高齢者医療のダウンサイジングを図ろうとしている中で現状の濃厚医療路線を前提に医療需要予測を語るのはおかしいと考える人も少なくないわけですね。

そもそも偏在解消策としてしばしばしば登場する「今後現場に出てくる医師には○○させろ」式の主張などはさすがに好き放題やってきた現役医師の既得権益と言われても仕方がないところで、そうであるからこそ医師の仕事量を軽減するための努力こそまず必要なのではないかという「皆が平等に幸せになろうよ」式の主張が増えているのだと思いますし、チーム医療推進やNP制度なども本来その文脈で進められるべきはずですよね。
実際に医師が医師でしか出来ない仕事に専念するためにサポートスタッフを増員し、そして昨今では看護師業務に対してもサポートを行うことで病院全体での症例数も大きく増やしながらスタッフの時間外業務自体はどんどん減っている(当然これは病院にとっても割高な専門職時間外給与削減というメリットをもたらします)という好循環に入っている、福井県済生会病院のような例も出てきているわけです。
要するに一頃は「そんなの人も金もないし無理。診療報酬も下がる一方だし…」と後ろ向きに語られることの多かった医療現場の業務改善というものが、実際にやってみると案外うまくいくどころか各方面に非常に好意的に迎えられているという実例が増えてきているというわけで、当然ながらこうした施設には医師ら専門職スタッフもよろこんで行きたい!ということになりますよね。

また待遇改善ということでは先日青森県は十和田市立中央病院の例が紹介されていましたが、一般に業務実績ではなく医師免許取得後年数など「年功序列」で画一的に決まることの多い医師給与に、診療報酬の10%に相当する手当を加算するようにしたところうまくいっていると言います。
もちろん待遇改善=給与引き上げという単純な図式もどうかとは思うのですが、現実的に勤務状況の改善が困難な施設では仕方がないところではあるのでしょうし、バリバリ働いている先生の不公平感是正解消のみならず、実はあまり働きたくない人間にとっても「もっと働け!売り上げを伸ばせ!」と迫られるより安心してマイペースで仕事が出来るというメリットも期待出来そうですね。
また同病院で研修医手当を削ってその分を指導医につけるようにしたところ一時的に研修医募集が減ったものの、指導医が熱心に教えるようになった結果むしろ研修医が増えてきたというのも興味深い話なんですが、先日出ていましたスタンフォード大とユタ大の「上司達の価値」を検討した共同調査によってこんな話が明らかになったという記事を紹介してみましょう。

やる気を引き出す良い上司の“素質”とは?(2012年12月10日X BRAND)より抜粋

(略)部下の生産性を引き上げる「良い上司」の重要な特質は、ビジネス書などでよく取り上げられる「やる気を引き出す」能力や、「チームを細かく管理する」能力ではないということが判明した。本当に良い上司とは、部下たちに仕事のやりかたやさまざまなスキルを教える能力の高い「良い教師」であるという結果が出たのだ。つまり、上司と部下の理想的な関係とは上司が教えて、部下が学習するというもの。良いボスになるには、ムチを振るったり、アメを与えたりするだけではダメで、部下たちにどうすれば仕事をこなすことができるのかを具体的に教える必要がある。

また、この調査では下位10%の「ダメな上司」を上位10%の「良い上司」と入れ替えたところ、9人のチームが10人目のスタッフを加えたのと同じくらいの生産性の向上が見られたという。「自分でやったほうが早い」と思っても、結局は親切に部下に教えることが能率アップへの近道なのだ。

医師不足解消のためにひたすら数の議論に終始するだけではどうしようもないということはそろそろ多くの人達が気づいてきていると思いますが、同じ人材であっても適材適所の配置最適化を行うことで非常に生産性を高めることが出来るとなれば、これはコストも手間もほとんどかけず簡単確実に皆が幸せになれる可能性があるということですよね。
医師と言う人種は理系最高峰と自負するほど平均知的水準は高く、また多くの場合力押しで正面突破出来てしまう力量を持っているため「俺のやり方が一番正しい」的な思考に陥ってしまいがちですけれども、目の前に次々と現れる業務をひたすら力尽くで片付けているばかりですと案外楽な脇道があることを見過ごしているのかも知れません。
ここらで一歩を引いた目で全体を俯瞰し、ごくごく平凡な人材も数多く抱えながら世界一の工業立国を築き上げてきた他業界でのちょっとしたコツのようなものをうまく取り入れることも出来るようになれば、今まできついきついと思っていた日々の業務も意外に楽にこなせるようになるかも…と夢も膨らむ気がしないでしょうか。

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コメント

実際に一番よく働いているのは若手医師なんだから、長期間定着してくれなくても数さえ揃えば十分戦力でしょう。
でも義務年限だけで終わるかそのあとも残ってくれるかは魅力次第じゃないですか?
環境を整える努力もしないで医師が残ってくれると思うのは虫が良すぎますよ。

投稿: ぽん太 | 2012年12月27日 (木) 09時44分

定員増じゃダメで新設ならいいって理屈がわからない
定員200人にしたら新設と同じことじゃないの?

投稿: cocca | 2012年12月27日 (木) 10時55分

たぶん定員百人の大学二つより二百人の大学一つの方が効率的ではあるんでしょう。
教室が狭い時は講義の手間は増えますが2クラス制にしてもいいでしょうし不可能ではなさそうな。

投稿: 管理人nobu | 2012年12月27日 (木) 12時26分

まあ地方大学の定員をいくら増やした所で、卒業したらバイバイだから無意味。
医師不足地域の病院の給与を2〜3倍くらいにしても来るかどうか?それくらい今の地方は魅力に乏しい。
かえって閉鎖的社会環境に辟易して1〜2年ももたず出ていくケースが後をたたない。
本来、若手医師は期間限定でも地方へ定点配置して強制労働させるしかないのかもしれないが、今や地方は指導医すらまともにいなくて診療科自体が廃止消滅してしまってる病院も多いし、そんなバックアップの乏しいリスクだけ抱える病院で危ない勤務医など誰もやるわけがない。
首都圏も人口に見合った医師数がいるとはいえない。高齢開業医も増えてるし病院勤務医は充足してるとはいえない地域も少なくない。
日本は医師の雑用が多すぎるのでまず

投稿: 逃散前科者 | 2012年12月27日 (木) 17時40分

とりあえず苛政(過酷な勤務、理不尽な訴訟リスクetc)さえなくなれば給料そこそこでも残る人は増えるんじゃないでしょうか。
当然そのためには金が必要ですが、済生会病院がどうやって補助スタッフを確保しているか分かれば参考になるのではないでしょうか。

投稿: 吉田 | 2012年12月27日 (木) 22時46分

ざっと考えて医師3人に1人くらいの数でサポート雇えば全員の外来につけられるものとして。
コスト考えたら医師の給料100万ずつ上げるのとサポート必ずつけるのとどっちが医師呼べるかってことじゃない?
ほんとに雑用なくなって定時帰りできるなら給料据えおきでもいいって人はいそう。

投稿: akira | 2012年12月28日 (金) 07時29分

>ほんとに雑用なくなって定時帰りできるなら給料据えおきでもいいって人はいそう。

給料半額でもおkな奴隷医多数www

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年12月28日 (金) 10時24分

医療費の伸びよりも医師数の伸びが大きいのだから一人当たりの取り分は徐々に下がっていくはず。
それならお金よりは労働環境で争った方が分がよさそうだってことでしょうかね。
もう奴隷とは言わせない!ってくらい労働環境が改善出来たらすばらしいことですけど…

投稿: ぽん太 | 2012年12月28日 (金) 11時27分

ちなみにスレタイの件ですが、日経メディカルの最終集計ではやはり新設反対派が圧倒的多数だったそうです。
コメントを見ると何故新設でなければならないのかという点で説得力が弱かったということでしょうか。

第4回 医学部新設、是か非か ~最終集計結果~
圧倒的多数が「医学部新設は必要なし」
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/debate/201212/528423.html

投稿: 管理人nobu | 2012年12月28日 (金) 11時47分

専門医資格取得前の卒後教育も専門医資格取得後も、病院の労働環境や教育環境がよければ、医者は集まってきますが、逃げられている、集まらない、というのは労働環境も教育環境も劣悪だからでしょう。
そこを度外視して、医者をよこせ、じゃ、お話にならないんじゃないのですか?

それに、いまの日本では大都市圏に人口が集中し、高齢の患者も、一般の患者も大都市圏に多く、医療需要も高い、大都市圏の医者も不足するというデータは厚労省や文部科学省の会議で提出されています。

投稿: とある内科医 | 2012年12月28日 (金) 21時01分

田舎者が分不相応な贅沢言うのが間違いのもと
それを甘やかせてきた世間と政治家も悪い

投稿: | 2012年12月28日 (金) 21時44分

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