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2012年12月12日 (水)

救急搬送 さらに増える

本日まずは順調に利用者が増えているという話題を紹介してみましょう。

救急車の出動件数、搬送人員共に最多- 消防庁調査 (2012年12月4日CBニュース)

 救急車の昨年の出動件数は570万7655件で、過去最多を記録したことが、総務省消防庁の集計で分かった。前年比24万3973件(4.5%)の増。搬送人員も20万3192人(4.1%)増えて518万2729人となり、過去最多を更新した。

 前年に比べ、出動件数の増加率が最も高かったのは宮城県(13.4%増)で、次いで岩手県(11.3%増)、鳥取県(7.8%増)の順だった。
 救急車の搬送者を傷病別に見ると、急病(322万8856人)が最も多く、次いで一般負傷(73万9910人)、交通事故(55万3796人)と続いた。

 119番通報があってから救急車が現場に到着するまでの時間は、全国平均で8.2分(前年8.1分)で、統計を取り始めた1985年以降、過去最長だった。通報から病院収容までの時間も、過去最長だった前年の37.4分から0.7分延びた

 昨年に救急隊が搬送した心肺機能停止傷病者(12万7109人)のうち、家族など一般市民によって応急手当てが行われた5万4652人の1か月後生存率は6.2%で、行われなかった7万2457人の5.1%に比べて約1.2倍高かった。

 また、一般市民がAED(自動体外式除細動器)を使ったのは1433件で、前年に比べ135件増えた。公共施設などさまざまな場所に配備されてきたことが、AEDの使用件数増に結び付いたとみられる。【新井哉、兼松昭夫】

以前から救急搬送が絶讚急増中であり、またその大多数が入院等必要がないような軽症例であるということが問題視されてきましたが、消防庁の偉いところは組織として救急搬送改革を目指し動いてきたということ、その試みの一環としてたとえば救急搬送の統一基準を作るなどしてきたわけです。
不要不急の救急車利用はやめようという呼びかけがなされるたびにマスコミなどからは「救急搬送拒否で患者死亡!」といった事例が報道されてきましたが、救急・医療の領域は人間相手の不確実なものである以上は一定のレアケースは発生するものであり、なおかつ万に一つもそのレアケースが発生しないよう100%の安全を目指そう!などと言うことが成立しないものでもあります。
このあたりの「医療に100%はありえない」ということは最大多数の最大幸福ということにも大いに関連していて、例えば近年では国の強力な政策誘導もあって病院の平均在院日数はどんどん短縮されてきている、一方で早期退院をしたはいいが何かしらトラブルが発生したためまた病院に舞い戻ってしまうという症例も必ず発生するわけですよね。
患者からすれば「もう少し長く病院においてくれたらこんなことにはならなかったのに…」と思いたくもなる話ですが、そうやって各患者をもう少し長く病院におく設備やマンパワーを使えば圧倒的多数の患者にさらなる医療を施せるとなれば、結局どちらが社会全体にとって得であるかということは明らかです。

救急も全く同じ理屈であって、何でもかんでもとりあえず何かを感じたら救急車を呼べと言うのでは現場が疲弊し本当の救急が受けられない、いやそれを見越して供給体制を整えておくべきでは?という意見もあるかも知れませんが、救急など不採算分野は経営厳しい市中の病院にとってお荷物以外の何物でもなく、そろそろ需要の側を抑制すべきだと言う意見が昨今ようやくコンセンサスを得つつあるということです。
無論こうした話には見込み違いなど一定のリスクは最初からあるものと見込んだ上で制度を整えておかなければならないのは当然で、運悪く万一に当たってしまった人にはきちんと対応出来るようにしておかなければならないのは言うまでもありませんが、それもこれも現場が万一が起こった時のための余力を相応に残しておけるからこそということですね。
その意味で気になるのが特に改善したという話も聞かない割に一頃ほど報道されることもなくなったのが救急受け入れ困難というケースですが、これだけ救急搬送が増えている以上当然医療の側でもあっぷあっぷしているのではないかと言う想像の通り、こちらも非常に逼迫した状況が続いているようです。

医療機関の救急搬送拒否、最多に 11年、3回以上受け入れず(2012年12月7日47ニュース)

 2011年に重症患者の救急搬送で医療機関から3回以上受け入れを拒否されたケースが、過去最多を更新する1万7281件に上ったことが7日、総務省消防庁の集計で分かった。前年に比べ900件の増加で、消防庁は高齢化に伴うお年寄りの搬送増加に加え、救急病院の減少が理由とみている。

 3回以上の受け入れ拒否を都道府県別にみると、東京が3500件で最も多く、次いで埼玉2448件、千葉1114件の順だった。

 10回以上拒否されたケースも753件あり、最多は大阪府の事例で41回だった。

 集計結果は、消防庁が7日開いた有識者検討会で報告された。

もちろん消防庁としては救急の現場がこれだけ需給逼迫して余力がないということを裏付けるためのデータとして採取しているのでしょうが、こういう話を単に数字だけで捉えても仕方がないことで、どういう症例が受け入れ困難なのかを検証しないと何の意味もないですよね。
以前にこれまた消防庁の調査で急性アルコール中毒や精神疾患の患者、未受診妊婦などが特に搬送先探しに苦労するという結果が出ていましたが、何故苦労するかと言えばそうした症例は様々な意味で現場が対応に苦慮するというケースが非常に多いからという当たり前の理由があるわけです。
アル中や未受診妊婦などは自己責任以外の何物でもありませんからきちんと社会的な予防策を講じるのも必要ですが、心肺停止患者などのように多くのマンパワーや高度な設備が必要な症例であるから受けられる施設が限られてくるのであれば、そうした対応が可能な施設が不要不急の患者への対応で追われないように環境を整えることも必要でしょうね。
近年では脳梗塞や緊急帝王切開など極めて時間要件の厳しいガイドラインが整備されるようになった結果、最初から最短経路で専門施設に搬送されなければ時間切れになってしまうという懸念からも専門外の患者に手を出すことは難しくなってきていますが、そうであるからこそ専門性の高い医療が出来る施設をどう温存していくかと言う配慮も求められるはずです。

またこれは昔から言われていることですが、搬送困難というケースは単純に医療資源が不足しているから起こるという訳ではなく、例えば地域内に病院が一つしかないような田舎では搬送困難などまず発生しない一方で、先の記事にもあるように東京都内のように医療機関が幾らでもあるような地域でこそ多発しているという現実があります。
もともとどこの医療機関も法定労働時間の上限を超えてスタッフを働かせているのが常ですから、受ける側の心理としてこれだけ病院があるのだからうちだけが更に頑張ることはないだろうと考えているのでは?という推測もありますが、同時に明らかにそれはうちの施設では無理だと言う専門外あるいは対応困難な症例が照会されて来た場合、いくら受ける気満々でも物理的に受け入れ不能となってしまいますね。
救急隊の側からすれば病院まで搬送するのが仕事ですから、快く受けてくれる施設があればとりあえずそちらに送っておくのが一番面倒がないのかも知れませんが、地域内での搬送先の選択は当然ながら一義的に救急隊の責任であるはずですから、各施設の専門性や負担の公平化も考慮した賢い受け入れ要請を行っていくことも最低限必要ですよね。
未だに詐欺まがいのことを告げても患者を引き取らせようとする救急隊もあるようですが、ただのアル中親父を「意識障害です!」などと称して脳卒中専門施設に押し込むようなことをしていたら、いざ本物の脳卒中患者が出た時に手が空いている専門施設が一つも残っていなかった、なんてことになっては目も当てられません。

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コメント

理由がわからないが当地では他院かかりつけ患者の搬送依頼が妙に多い。
ひどいのになると入院中に抜け出して救急車呼ぶってどうみてもDQNハイリスク症例です本当に(r

投稿: てっちゃん | 2012年12月12日 (水) 09時18分

同じ区の救急隊の要請なら、よっぽどでない限り受け入れるように努力してます。逆に隣の区とか隣のそのまた隣の区
からの搬送依頼って受けたら地雷(札付きのモンペでどこの医療機関からもブラックリスト扱いで搬送拒否、しかも踏み倒し常習)
が多かったです。

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年12月12日 (水) 09時50分

救急隊と病院ともギブアンドテイクの関係ですよね。
ところで病院間の患者搬送で医師同乗を求められるようになったのは全国的傾向ですか?

投稿: ぽん太 | 2012年12月12日 (水) 11時20分

まず時間外救急のフリーアクセスを廃止して、早く救急車も有料化にしないとどうしようもないでしょう。
不要不急の救急患者(無駄な仕事)を減らすにはそれしかない。もちろん前払い制で、救急車呼んだら乗る前に5万円払う、外来に着いたら診察前に前金3万円払うとか。それくらいしないとモンペの地雷は排除できない。
救急外来は素性のわからんアル中や妊婦やモンぺやらどんな輩が来るかわからんので誰も好きこのんでやりたいと思わない。まして殆どの病院は救急専門でもく知識も経験も乏しい一般医が輪番でやってるわけで。
岩手、鳥取...病院勤務医が続々と逃散して医療過疎の地域ほど増えているというのは皮肉なことで。
医療だけ100%を求められてもね。救急のような難しい状況ならなおさら不確実予見不能要素は高いわけで。
まあ今の状況を見て見ぬ振りして放置していれば搬送先がない地域が増えるだけでしょう。ご愁傷様です。

投稿: 逃散前科者 | 2012年12月12日 (水) 14時50分

救急もそんなに頑張らなくていいんだという意識改革が進んで、ほどほどのところに落ち着いていくようになるんじゃないかと感じています。
救急車を呼べば10分以内に専門医が診てくれるなんて状況を当然のことだとしてしまうと医師にとっても患者にとってもかえって不幸なのではないかと。
その点まずは医療を提供する側の意識改革も必要な気がしますが。

投稿: 管理人nobu | 2012年12月12日 (水) 15時12分

救急病院が採算取れなくなったのは、診療報酬制度のせいではなく、採算が取れない程度の患者ばかりになってしまったこと。
患者数が増えて忙しくなるばっかりで、一般外来程度の収入しかなかったら、そりゃ採算も取れんだろう。

投稿: | 2012年12月12日 (水) 17時42分

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