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2012年11月26日 (月)

権利と責任 専門家としての関わり方も問われるようになる?

通学途中の児童の列にクレーン車が突っ込んで6人が死傷した栃木の事故では、運転手がてんかん発作による事故を繰り返していながら服薬を怠った上に運転を継続していたことが社会的にも大きな問題になりました。
遺族は母親と勤務先を訴えての民事訴訟を継続中ですが、先日その公判で母親側の尋問が行われたというニュースを紹介しましょう。

母親「私が止めても運転」 鹿沼6児童賠償訴訟で尋問(2012年11月22日下野新聞)

 鹿沼6児童死亡事故で、遺族計34人がクレーン車を運転していた日光市大沢町、無職柴田将人受刑者(27)=自動車運転過失致死罪で懲役7年確定=と母親、勤務先だった鹿沼市の重機会社に計約3億7770万円の損害賠償を求めた民事訴訟の第5回口頭弁論が21日、宇都宮地裁(岩坪朗彦裁判長)で開かれ、母親と遺族の尋問が行われた。事故について母親は「申し訳なかった」と謝罪する一方、「私が止めても(柴田受刑者は)クレーン車を運転した」などと主張。遺族は「(母親は)事故を防ぐことができた」と訴えた。

 裁判で原告側は母親の責任について「違法な運転を助長し、事故当日も運転を制止すべき注意義務を怠った」などと主張。これに対し母親側は「柴田受刑者は成人で、親に注意義務違反はない」と全面的に争っている。

 この日の尋問で母親は、柴田受刑者が中学2年ごろから暴力を振るうようになったことや、2011年1月にてんかんの薬を飲み忘れたことを注意した際に殴る蹴るの暴行を受けたことなどを説明。

 母親は事故について道義的な責任を認めつつ、当時は柴田受刑者が言うことを聞く状況ではなく「私が止めてもクレーン車を運転した」などと強調した。

 遺族側の弁護士は、柴田受刑者が事故前にてんかん発作が原因とみられる事故を複数起こしながらも、母親がクレーン車の免許取得に協力したり、車を買い与えたりしていたことを指摘。「運転をやめさせる機会は何度もあったのでは」などと母親を追及した。

当の運転手は過去の記事を読む限りでも必ずしも志操堅固、品行方正というタイプの人物ではなかった印象を強く受けますし、母親としては注意義務違反の有無はともかくとして物理的に制止は不可能であったという主張にもある程度理解はできるのですが、その結果過去に何度も他人を傷つけてきた経緯を思えば警察に相談するなど何らかの行動は取れなかったものだろうかとも思えてなりません。
ちょうど先日は一昨年に引きこもりを続けてきた無職青年がプロバイダー契約を解除されたことに腹を立て家族5人を殺傷した凄惨な事件に懲役30年の有罪判決が出たところで、やはり今の時代下手に家族内で問題を抱え込むことは結局かえって世間にも自分達自身にとってもよい結果にならないと考えるべきなのでしょう。
てんかん患者による運転の是非についてもたびたび取り上げて来た中で、先日も運転免許取得に関して医師からの届け出を促すなど規制強化がほぼ決まったという話を紹介しましたが、いたずらに個人の権利を抑制すべきではないと考える立場に立つ人々ほど、やはり社会的に妥当性を感じさせるような自律ということをも重視してもらわなければなりません。
自由主義社会における自由という権利は一定の社会的義務と表裏一体の関係にあって、社会からこいつらは適切な義務を果たしていないのでは?と見なされた場合ほど本来の水準を超えて厳しい反動が発生しがちであるということを考えておかなければならないということですが、そうした観点から見てなかなかに興味深い裁判が現在進行中であるというニュースが出ていました。

「心神喪失状態」と無罪主張 傷害容疑で不起訴後に2人刺殺の男(2012年11月20日産経ニュース)

 平成22年に知人男性2人を刺殺したとして、殺人の罪に問われた矢野裕一被告(47)の裁判員裁判初公判が20日、大阪地裁(岩倉広修裁判長)で開かれ、弁護側は「心神喪失状態だった」と無罪を主張した。

 検察側は冒頭陳述で、矢野被告が20年以上前から傷害事件などを繰り返し起こしていたと指摘。20年にも傷害容疑で逮捕されたが心神喪失を理由に不起訴処分となり、約4カ月前まで医療観察法に基づく入院治療を受けていたと述べた。

 その上で、「退院後に暴力団組長を自称していたが、間違いを指摘され激怒し、その場にいた2人を殺害した。病気の影響は少なく、完全責任能力があった」と主張した。

 起訴状によると、矢野被告は22年5月14日夕、大阪市西淀川区の自宅を訪問した稲塚和広さん=当時(41)=と真鍋英士さん=同(37)=をペティナイフで刺殺したとしている。

【大阪】「命を狙われていた。やられる前に殺した」 西淀川マンション男性2人刺殺 無職男(44)を逮捕(2010年5月15日神戸新聞)より抜粋

(略)
捜査1課によると、矢野容疑者は容疑を認め「2人は暴力団関係者で顔見知り。遊びに来させたがトラブルになった。命を狙われていたので、自分がやられる前に殺した」と供述。同課はトラブルの原因を調べている。

逮捕容疑は14日午後0時半ごろから午後5時10分ごろまでの間に、自宅の部屋で、いずれも住所、職業不詳の稲塚和広さん(41)と真鍋英士さん(37)の胸や背中などをナイフで刺し、殺害した疑い。

捜査1課によると、稲塚さんらには、それぞれ10カ所以上の刺し傷があった。

矢野容疑者は手にけがをした状態で自ら通報。駆けつけた西淀川署員に「3人でいたら黒人が入ってきた」などと説明していた。

ぱっと見ではまた例によって心神喪失者の凶悪犯罪か…と思ってしまいそうな話なんですが、行きずりの他人を刺したのではなく知人の間違い指摘に逆上したということで、必ずしも何故そうなる?と了解不能な事件でもなさそうにも思えます。
当時おかしな説明をしていたようですが被害者は加害者宅に遊びに来ていたといい、そもそも暴力団組長を名乗るというくらいですから一定の社会性はあったでしょうに何度も無罪放免になっているとは?と釈然としないものを感じておりましたら、以前の記事からこんな話が出ていたので驚きますよね。

殺人罪で男起訴 西淀川2人刺殺事件(産経関西)過去に精神鑑定で不起訴(2012年12月10日産経ニュース)より抜粋

(略)
 起訴状などによると、矢野被告は5月14日午後5時ごろ、ともに住所・職業不詳の真鍋英士さん=当時(37)=と稲塚和宏さん=同(41)=の胸などをナイフで刺し、殺害した。

 矢野被告は平成13年にも知人男性=同(47)=に対する殺人・死体遺棄罪で懲役8年の実刑判決を受けたが、被告人質問で「統合失調症の者は人を殺しても罪に問われない。今回も免責されると期待して自首した」と供述したという。

 矢野被告は7年に銀行への強盗未遂容疑で、また9年に航空機のハイジャック処罰法違反容疑でそれぞれ逮捕されたが、いずれも精神鑑定の結果、起訴猶予や不起訴処分となっていた

「どうせ罪に問われないから自首してきた」とはとんでもない放言というもので、今回の「黒人が入ってきた」云々の話も何らかの計算に基づいたアリバイ発言か?とも思えてしまいますし、過去にも様々な事件を起こしていながら統合失調症であることを理由に罪に問われずに来たことが同被告の現在を形成してしまっただろうことは想像に難くありません。
こうした話を聞けば誰でも権利と義務とのバランスが崩れているのでは?と疑念を抱かずにはいられないものですが、記事を見ていただくとおり過去には実刑判決を受けた経歴もあるということで、病気であることそのものに責任能力がないと判断されたわけではなく、最近入院していたなどそのコントロールの状況がどうであったのかが問われることになりそうですね。
先のてんかん運転免許厳格化規制の際にも医師によるコントロール不良患者の届け出を義務化すべきかどうかという点が議論になったようですが、医療従事者としても「いわき病院事件」のような形で患者の管理責任を問われるということがすでに発生しており、今後それがさらに一般化、大規模化していく可能性もあるとは考えておくべきでしょう。
とくにてんかんなどは患者数に対して専門医が決して多くなく、他疾患を診ている専門外の一般臨床医がそのまま担当医のような形になっている場合も多いと思いますが、こうなると以前にも紹介しましたように「どうしても手に余る患者はさっさと放り出せ」とも受け取れるような判決も出ていることも忘れるべきではないかも知れませんね。

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コメント

生保マニュアルでもまずは精神科を受診しろって言ってたような気が
もう退院したってことは今は責任能力あるってことだと思うけど、担当医もうっかりそんなこと証言したらお礼参りが怖そう…

投稿: ぽん太 | 2012年11月26日 (月) 09時20分

これってホシもガイシャも両方ナ○ポ?

投稿: イミダス | 2012年11月26日 (月) 10時45分

医療は厳密には「商売として行ってはならない」って倫理観が一応あるんだけどな

「市場に任せる」ってうんこ経済屋脳のやり方を踏襲すると
気の弱い患者の足元見まくって不要な医療をオレオレ詐欺のごとく押し付ける詐欺師とか
シャブの売人と化した低能(自称)精神科医が睡眠薬バンバン出して患者を重症ジャンキー化させるとか
そういう連中が生き残ることになる

つーか実際既に「世間から」評判のいい精神科って通ってる患者が全員重症ジャンキーにさせられてる
「世間の評判の良い医者」=「きちんと治療能力のある医師」では決してなく、むしろ逆のことが多い

投稿: コピペ転載 | 2012年11月26日 (月) 10時59分

おっしゃるとおり「危ない連中はさっさとぶち込んでおけ」という社会もよいものではないわけですし、まっとうな医師ほどそんなことには関わりたがらないでしょう。
ただ好むと好まざるとに関わらず、このままだと医療の側も関わらざるを得ないことになるかも知れないと言う危惧はありますよね。
医師の判断に社会的責任が伴うようになってくれば、医学教育の段階から今までのやり方を変えていかなければならないかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2012年11月26日 (月) 12時17分

暴走する子供を止めるどころか便宜を図ってやる親ww
どうせ子供に賠償能力なんてないんだろうから親が便宜を図ってやるんだろww

投稿: てっかん | 2012年11月26日 (月) 15時37分

基本的に担当医は警察から責任能力の有無について聞かれても、わからないって答えることが多い。
最近は警察も安易に病気=心神喪失とはしない。本人の行動に悪いことをしたとの自覚を感じる行動があれば(盗んだ物を隠すとか)たいてい書類送検になる。微罪だと厳重注意で済ませることもあるけど。

最近私が問題だと思っているのは精神疾患で殺人事件→責任能力ありで実刑→満期出所→26条通報で措置入院→退院できずって流れ。どう考えても人権上問題があると思うけれども・・・

投稿: クマ | 2012年11月26日 (月) 20時49分

だから法と権力が市民を守ってくれないんだから自衛するしかないだろ?
無法な既知外が暴れたら使えるだけの手段使って座敷牢コースだよ

投稿: kankan | 2012年11月27日 (火) 09時09分

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