« 高齢者医療・介護問題 ベストな距離感 | トップページ | 生保支給水準切り下げ 総選挙の結果如何を問わず確定的? »

2012年11月20日 (火)

医師業務改善に思いがけない伏兵?

世の中には時々よく判らないニュースも流れていますが、先日出ていたこちらのニュースなどもその一つになるのでしょうか。

研修医の給与が高過ぎる病院に批判相次ぐ(2012年11月14日CBニュース)

2015年度からの新たな臨床研修制度の導入に向け、現行制度を検証している医道審議会臨床研修部会のワーキンググループ(WG)は14日の会合で、年内の取りまとめに向けて、基幹型臨床研修病院の指定基準などをめぐって議論した。この中で、臨床研修医の年間給与が1000万円ほどに上る病院が一部にあることについて、研修医が過酷な労働を強いられている恐れがあるなどとして、批判が相次いだ

厚生労働省の調査によると、臨床研修医の年間給与は、ほとんどの基幹型臨床研修病院で320万―720万円の範囲内にあるが、一部では920万円超に上る
これについて岡留健一郎委員(済生会福岡総合病院長)は、「1000万円近くもらっている研修医がいること自体が非常にナンセンス。研修ということと、労働力をはき違えているのではないか」と厳しく批判した。神野正博委員(董仙会恵寿総合病院理事長)は、「当直回数や時間外勤務が多く、過酷な労働があるから元が取れる病院なのかと思う」との懸念を表明。こうした病院に対して第三者が調査を行う仕組みを提案した。
(略)

昨今大人気?の僻地枠などで卒業後一定年限を指定病院で働かなければ補助金分を返済しなければならないというルールがありますが、全国各地の病院経営者からは「そんな借金くらい肩代わりするからうちに来てくれ」という公然たる声もあるようで、そう考えると普通に考えて研修医に高給を出すと言えば囲い込みたいのだろうなと想像出来るわけですね。
医療現場に限った話でもないのでしょうが、一般論として給料の高い人間よりも安い人間の方がこき使われることは国公立大学病院における研修医と看護師・事務員との関係を見ても判ることで、逆に考えればわざわざ高い金を払ってまで研修医集めをしているような病院がせっかく集めた人材を使い捨てにして終わりにしているとはちょっと考えにくいところがあります。
ところが記事を読んでみますと「研修医に高給を出す=きっと重労働をさせているに違いない=とんでもない病院!」という妙な三段論法が出ていて驚くのですが、さらに驚いたのはネット上でも一般人らしい方々から「その通り!なんとひどい病院だ!」という声が少なからずあることで、これも時代が変わったというべきなのかも知れませんが何とも不思議な感じがしないでもありません。

いずれにせよ本当に主張したい部分は後半の部分だと思われ、うがった見方をすればこうした会議に出ているのは各地の病院のトップですから、自分たちのところでは到底そんなお金は出せないから金満病院を公権力で潰しにかかっているとも言えるし、研修医は需要と供給の経済原理から隔絶しているべきだという主張は裏を返せば研修医は計画的に配置されるべき共有財産であるという考え方にも通じていると言えそうです。
そして臨床研修制度が変わって以来昔のように研修医=タダ同然で働く奴隷という存在ではなくなってきたことは事実で、研修医が9時5時で終わる結果その上の年代にしわ寄せが来ているという声も一部にありますけれども、先日こんな記事も出ていたことを紹介しておきましょう。

勤務医の半数に健康不安 長時間労働、強いストレス 労組が2千人調査(2012年11月19日47ニュース)

 医療機関で働く勤務医の47%が健康に不安を覚えたり、病気がちだったりすることが「全国医師ユニオン」(東京)などが約2千人を対象に行ったアンケートで18日、分かった。

 71%はストレスを抱え、そのため投薬などの治療を受けている人もいたほか、62%は「最近辞めたいと思うことがあった」と回答。当直明けに、そのまま終日勤務している人は79%に上った。

 全国医師ユニオンは「過酷な長時間労働が常態化している。医師不足を解消し、勤務状態を改善する必要がある」としている。

 調査は6~10月、小児科学会など4学会や医療団体を通じて実施。全国の2108人から回答があった。勤務地別では「都市部」が55%、「過疎地」が4%、その他の「一般地域」が41%。勤務形態別では常勤が82%、非常勤が8%でその他は研修医などだった。

 健康状態に関しては「不安」が38%、「大変不安」が5%、「病気がち」が4%。ストレスについては「強く感じている」が13%、「感じることが多い」は54%、「(ストレスのため)投薬などの治療を受けている」は4%だった。

 「最近、職場を辞めたいと思うことはあったか」との質問には8%が「いつもあった」、26%が「時々」、28%が「まれに」と答えた。

 「あなたの病院で医師不足を感じているか」には「はい」が83%、「いいえ」が17%だった。

 また患者側との医療トラブルをめぐっては「診療に支障を来すストレスがある」が18%、「かなりストレスがある」が41%、「多少ある」が41%で「ない」は0%だった。

記事を見てみますとかつては実に96%に上るとも言われた当直開けの終日勤務がわずか?79%にまで減少していると考えるべきか微妙なのですが、やはり客観的に見れば多くの医師は未だに日常的に過酷な勤務条件の中にあり、そして相応に多くの医師達がその状況に疲れ不安を覚えているということは言えそうです。
ただたとえ過酷な労働でも給料が高ければいいという先生や、安月給でもまったり出来るのがいいという先生もいて、今現在はかつての医局人事による強制配置から各人が自ら適材適所の環境を求めて流動しつつある過渡期とも言え、その意味では医師個人個人が自分の望む労働環境を考え求めていくという自助努力が必要になるはずです。
そしてもちろん職務上やむを得ないという労働は逃散等で対応するしかないケースもありますが、最近この季節になって意外にこれは大変なのではないか?という新たな業務が、それも全国的にかなり広範囲にわたって発生しそうだというニュースが出ています。

新型インフル予防接種、医療者負担に懸念も- 有識者会議 (2012年11月12日CBニュース)

 政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議「医療・公衆衛生に関する分科会」の12日の会合で、全国民に対し、新型インフルエンザワクチンを予防接種する際に必要な医療従事者の業務量に関する試算結果を厚生労働省が公表した。それによると、全国の内科や小児科などの医師が1人当たり61時間、看護師や保健師などは1人当たり14時間、接種業務に当たる必要があることが分かった。同省は全国民への接種を3か月程度で完了することが望ましいとしているが、意見交換では、通常の診療業務と併せ、医療従事者の負担の大きさを懸念する声が上がったほか、「現実的でない」といった意見も出た。

 試算では、医師2人、看護師や保健師などの補助者2人と、事務従事者で構成されたチームが、1時間当たり40人に接種すると仮定。
 新型インフルエンザワクチンの接種回数を国民1人当たり2回とすると、総接種回数は2億5552万回。医師1人が1時間に20回、接種を実施すると仮定した場合に、総接種回数をこなすためには1277万6000時間が必要になる。この時間を全国の内科系や小児科、外科系、産科婦人科系、救急・麻酔科系の医師と臨床研修医を合わせた21万1121人で割ると、60.52時間となる。例えば、約3か月の接種期間中に、医師1人当たり1日6時間ずつ10日間程度、接種業務に当たる計算になる。

 試算結果に対し、小森貴委員(日本医師会常任理事)は「『国民全員に接種する。しかも3か月以内に』と想定して数字を出すのは構わないが、これはできないという結論しかない」と指摘。
 また、坂元昇委員(川崎市健康福祉局医務監)は「医療従事者の派遣をお願いする医療機関との調整は最も重要。かなりの準備期間や訓練を行う必要がある」と強調。さらに、「患者が発生する中で、医師が予防接種のために診療所を空けられるかどうか。また、長時間、集団接種に拘束した場合に、診療所で患者を診ない分、かなりの損害が生じるが、それをどうするか」などの課題を指摘した。【津川一馬】

そういえばこの新型インフルエンザ対策というもの、いざというときには国民にワクチン緊急投与を行うといったことを確かに聞いたような気もしていましたが、実際にその仕事量を考えてみるとこれは大変だなと思われる話ですよね。
本気で全国民に一斉接種を行うなら単純計算で国民600人に一人の医師がいるわけですから、二回打ちを行うならざっと医師一人が1200回の予防接種を担当する計算になりますが、日常臨床でいくら予防接種に力を入れている先生方でもこれだけの数をこなしている先生はまずいないでしょうね。
しかもそれが一年を通じてというわけでなく短期間で集中的にこなさなければならないのですから、これは物理的に今のやり方ではちょっと不可能なのではないかと考えざるを得ないニュースですし、このままの形で計画だけが進んでいくようではいざというとき大変なことになってしまいますよね。

昨今ちょうど予防接種後の重大な副作用発生というケースが報道されていて、あらためてワクチンというものには相応の危険性があるということが注意喚起されていますけれども、個人防御のために行う任意接種ならともかく、この場合は集団での流行の抑制を狙ったものですからとにかく接種率を引き上げないことには話になりませんよね。
もともとインフルエンザワクチンはそれほど深刻な危険性もない比較的安全なものと見なされていて、卵アレルギーの除外など最低限の注意事項さえ守っていればまず大過なく行えるはずですから、ただでさえ新型出現!とパニックになって押しかけてくる患者で右往左往しているはずの医療現場に無理や無茶を押しつけるぐらいなら、あらかじめ実効性ある対策を講じておかなければなりません。
ちょうど昨今ナースプラクティショナー等の議論も盛り上がっていて、以前に取り上げた特定行為のガイドライン案にはこの予防接種の可否の判断などは特に取り上げられていないのですが、本当にこうした大量投与を必要とするのであれば例えば緊急時に医師が対応出来る等の条件下で問診から実際の接種までを看護師以下で行えるようにしておけばまだしも話は簡単になりそうですが…

|

« 高齢者医療・介護問題 ベストな距離感 | トップページ | 生保支給水準切り下げ 総選挙の結果如何を問わず確定的? »

心と体」カテゴリの記事

コメント

こういうときこそ保健所長と医系技官に活躍してもらえば無問題>新型ワクチン接種

投稿: 柊 | 2012年11月20日 (火) 09時30分

本当に全国民に大慌てで接種するなら誰から打つかで大騒ぎになるんじゃないですか?
国がきちんと順番を決めておいて欲しいですね。

投稿: ぽん太 | 2012年11月20日 (火) 11時19分

そのときになればワクチン接種以外の業務だけでも十分忙しいでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2012年11月20日 (火) 13時12分

【社会】医師の悲痛な声 「過労死する」 モンスター患者に不満も

「このままでは過労死する」。全国医師ユニオンなどが実施したアンケートには、医師の悲痛な声が寄せられた。
一方で、軽症なのに時間外に来院する「コンビニ受診」や、理不尽な要求をする「モンスター患者」への不満もあった。

アンケートには「ストレスで寿命が縮まっています。自殺してもおかしくない状況」(岩手、30代男性)、
「このままでは過労死する」(香川、20代男性)、「友人の研修医が過労で鬱病に」(東京、20代男性)といった回答も。
「当直明けは必ず休める体制を」などと改善を求める声が相次いだ。

また、「深夜のコンビニ受診、暴言など患者側の態度を見ていると、
何のために自分の健康を犠牲にしてまで勤務するのかとむなしさを覚える」
「コンビニ受診やモンスター患者が多く、ストレスが大いに増大している」との回答もあった。

msn産経ニュース 2012.11.18 17:56
http://sankei.jp.msn.com/life/news/121118/bdy12111817590000-n1.htm

投稿: 別ソース | 2012年11月20日 (火) 13時20分

>「当直明けは必ず休める体制を」などと改善を求める声が相次いだ。

でも給料はそのままで、って言うんだよねw

投稿: あかさたな | 2012年11月20日 (火) 17時23分

>>「当直明けは必ず休める体制を」などと改善を求める声が相次いだ。

>でも給料はそのままで、って言うんだよねw

そんな厚かましい事 言わない言わないw
医師はヤ○ザじゃなくって、堅気のイチロウドウシャなのですから。
働いた分だけの御給金を頂戴できれば 必要充分とする立ち位置です。

ただ今後「当直手当て」なんて誤魔化しではなく
真っ当な「夜勤手当て」を当たり前の労働者の権利として
要求する流れになっていくのでしょうね。
そうなると結果として給料は「そのまま」どころか
アップするケースが殆どなのではないでしょうか。

投稿: 福京 | 2012年11月20日 (火) 18時47分

大丈夫です。ワクチンが供給されるころには、接種対象者は半分くらいになっています。
そして1か月後の2回目をするころには、多分1/3くらいになってますよ。

で、最後に大量に余ったワクチンが、医療機関の負担ということで、押し付けられるんでしょう。

投稿: | 2012年11月20日 (火) 18時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/56147307

この記事へのトラックバック一覧です: 医師業務改善に思いがけない伏兵?:

« 高齢者医療・介護問題 ベストな距離感 | トップページ | 生保支給水準切り下げ 総選挙の結果如何を問わず確定的? »