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2012年11月29日 (木)

終末期医療 ガイドラインは滲透したが

先日は高齢者の救急搬送患者に対して救命センターでも過半数の医師が延命治療を差し控えた経験があるというニュースを紹介しましたが、高齢者に限らず終末期医療の問題は医療訴訟のリスクとも密接に結びついてくるだけに法的に万全な対応をしなければならないと考える医師も多く、本当は無駄、無意味だと感じていながら治療を行ってきた経験を多くの医師が持っているものと思われます。
近年そうした風潮に対してガイドラインというものを用意することで一定の効果が見られているようですが、先日は救急医学会がこんな調査結果を発表していました。

ガイドライン、終末期診療への導入進む- 日本救急医学会が調査(2012年11月22日CBニュース)

 日本救急医学会が2007年に公開した「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」を、患者の終末期の診療に取り入れている救急科専門医が増えていることが、同学会のアンケート調査で分かった。ガイドラインは、救急医療で直面する終末期医療に関する諸問題を検討するために組織された、同学会特別委員会がまとめたもので、主に救急科専門医や臨床救急看護師らが使用している。

 この調査は、2012年5月8日から同20日までの13日間、救急科専門医らを対象に実施。救急科専門医658人から回答を得た。ガイドライン公開後の08年に行われた調査では、救急科専門医の73.3%がガイドラインの内容を認識していたが、今回は、その比率が82.4%まで上昇。ガイドラインを終末期の医療に取り入れている専門医も3.1ポイント増の24.8%となり、ガイドラインに則った実践が徐々に浸透していることがうかがえる。

 一方、ガイドラインにより、専門医の7.4%が「暗黙のうちに行われてきた治療の撤退がかえってしづらい」、4.3%が「主治医の判断が軽視されているように感じる」と回答。説明責任を重視することや、チーム医療で終末期医療に当たることに何らかの疑問を持つ専門医が、ガイドライン作成後も一定数いることが明らかになった。

 終末期症例に関するウェブサイトについての専門医の認知は、約半数にとどまっており、実際に症例を登録したのは、1.7%にすぎなかった。ガイドラインを診療に適用したものの、結局反映できなかった理由として、「家族らの意見がまとまらなかった」が最も多く、次いで「法的な問題が未解決である」、「終末期の問題について、社会の合意が得られていない」などの回答があった。日本救急医学会は、「今後、救急医療における終末期医療の在り方を検討していく上で、なぜガイドラインを適用する意図がなかったのかについて、分析を行う必要があると考えられる」としている。【新井哉】

ガイドラインの内容についてはこちらのリンクを参照いただくとして、「そのまま辿れば何らかの目的に至るような」ものではなくあくまで「”考える道筋”を示したもの」だとうたわれてはいても、やはり何かあったときに「ガイドラインに則って対応しましたが何か?」と言えるだけのマニュアルめいたものとして期待してしまうのが人情と言うものですよね。
逆にガイドラインの言うように考える道筋として一つの例を示しただけだったとしても、こうしたものの存在によって担当医の判断が掣肘されてしまうのもやむなきところで、それが「治療の撤退がかえってしづらい」「主治医の判断が軽視されている」といった答えにも現れているのではないかと思います。
さて、医療現場を実際に担当する多くの人間がその存在を知るようになったガイドラインによって医療がどのように変わってきたのかですが、実のところやはり積極的な治療中止については未だに躊躇せざるを得ないというのが現実であるようです。

人工呼吸の中止、水分・栄養補給の制限や中止に依然抵抗感(2012年11月26日日経メディカル)

 日本救急医学会救急医療における終末期医療のあり方に関する委員会は11月5日、「救急医療における終末期医療に関する提言(以下、ガイドライン)」に対する救急医療従事者の意識の変容について、アンケートの結果を発表した。ガイドラインを出してから5年が経過し、認知度は高まっているものの、現場での適用については依然課題が残る状況が明らかになった。
(略)
 同学会のガイドラインでは、終末期と判断される患者については、家族の総意などを確認した上で延命措置を中止することができるとしている。その上で、延命措置の中止や積極治療をしない方法として、人工呼吸の中止、人工透析を行わないなど4つの方法を提示している。「こういった方法について許容できるか」を聞いた設問では、方法によって許容できる度合いが異なる傾向が示された。

 具体的には、「人工透析、血液浄化などを行わない」「人工呼吸器設定や昇圧薬投与量など、呼吸・循環管理の方法を変更する」については、許容できると肯定的に回答した救急科専門医は多く、それぞれ83.2%、76.9%を占めた。一方で、「人工呼吸、ペースメーカー、人工心肺などを中止、または取り外す」「水分や影響の補給などを制限するか、中止する」という方法については、許容できると肯定的に回答した救急科専門医が、それぞれ42.5%、67.0%。抵抗感を持つ救急科専門医が少なくないことが分かった。こうした傾向は、08年の調査時と大きく変化していなかった

 これまでの5年間にガイドラインを適用しようとした症例があるかどうか聞いた設問には全体の20.5%が「適用しようとした症例があった」と回答。08年の調査時の13.8%に比べて増加した。

 ただし、「適用しようとした事例がなかった」と答えた471人(71.6%) のうち、253人(53.7%)は「適用する意図がなかった」と回答した。
(略)
 今回の調査では、ガイドラインの認知度は高まっているものの、現場への浸透には課題が残る結果が示された。

何であれ治療を行わないという行為に関しては肯定的意見が多い一方で、ひとたび始めていた治療を中止することには抵抗感が強いという傾向が見て取れますが、ガイドラインが着実に滲透している中でこうした意識はほとんど変化していないということにも留意ください。
例えば目の前に死にかけた人が運ばれて来て、積極的な延命処置を講じないまま亡くなったとあればこれは自然死と捉えられますが、現に濃厚治療が行われ当面の維持管理が出来ている人の治療手段を中止した結果亡くなったとなれば、これは人為的な死ではないかと感じられるのはもっともですよね。
百歩譲ってそれを行う医師自身は中断行為に納得出来ているとしても、周りで見ている家族やその場にいない遠い親戚の全てまでが同じように納得出来ているかどうかは判らない以上、後日何かのはずみで係争化したときに余計な火種になりかねないことには手を出したくないと言うのは当然の人間心理です。

係争化のリスクなどを抜きにしても自分の手で人の命を積極的に終わらせるというのは心理的重圧も当然大きく、例えば死刑執行などは執行される側は元より執行する側にも大きなストレスだと言いますが、まして医師と言えば人の命を救うことを目指して仕事をしている人間も多いわけですから、言ってみれば聖職者に自ら聖典を焼けと言うようなものではないでしょうか。
このあたりは例えば日本でも尊厳死、安楽死というものが合法化されたとして、ではそれを誰が実際に行うのかという実行の部分で押し付け合いが起こるだろうとは誰でも想像出来るところで、海外などで定期的に「素人でも安全?確実に実行出来る安楽死装置」なるものが登場してくることもそのあたりと無関係ではなさそうです。
医療行為を行うというのであればこれは法的にも技術的にも医療専門職でなければ無理かも知れませんが、例えば人工呼吸器のスイッチを切ることにどんな専門知識が必要なのかと言われれば誰でも操作出来るはずですから、積極的治療中止が違法行為ではないというならご家族が納得した上で自らスイッチを切るということでも何ら不都合はないはずですし、それによって後の不毛なトラブルも多くが回避できそうですよね。
終末期の議論のたびに「法的整備が必要だ」という声が出るのは今さらではありませんが、どうせなら「複数の医師によって判断され家族の同意を得た治療中止は違法な行為ではない」式のことではなくて、現場がどこに引っかかっているのかをよく見極めた上での整備を目指してもらった方がより実用的なものになるんじゃないかという気がします。

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コメント

終末期ってムンテラもデリケートだからガイドラインによる対応にもともと無理があるような気が

投稿: アメーバ | 2012年11月29日 (木) 09時19分

住民と顔見知りの田舎病院と救急車で運ばれてくる一見さんばっかの都会じゃ事情がぜんぜん違いますな
田舎の爺ちゃん婆ちゃん相手にガイドラインがどうのって言っても「わしらわからんから先生にまかせる」で終わりだから
でもなあなあで通用するだけ楽なところも多いんだから助かるんだけど

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年11月29日 (木) 10時33分

ガイドラインはこうすべきというよりも、最低限これをクリアしておけばという基準を示すものである方が現実的なんでしょうね。
もっとも今回の場合は救急専門医の終末期医療の考え方が医師全体のコンセンサスを得られているかという検証も必要になりそうな結果ですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年11月29日 (木) 12時13分

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