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2012年11月 1日 (木)

インフルエンザシーズンを前に

インフルエンザが心配される基節になってきましたが、先日こんなちょっとびっくりするような話が出ていました。

インフルエンザ対策? 保育園で次亜塩素酸ナトリウム溶液を加湿器噴霧(2012年10月22日日経メディカル)

 医療機関や介護施設では、さまざまな感染症対策が施されているが、なかには的はずれだったり、逆に悪影響が懸念されるものもある。山口大学医学部附属病院薬剤部の尾家重治氏は、例えばインフルエンザ対策においては、感染経路として飛沫感染のみならず、近年関与が否定できないとされている空気感染(飛沫核感染)のリスクも考慮する必要はあるものの、空気中の噴霧消毒は意味がないだけでなく、危険であることを、第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3~5日、開催地:沖縄県宜野湾市)の初日に行われた第6回老健医療研究会のシンポジウム「エビデンスに基づいた感染症対策」(座長:医療法人和香会・江澤和彦理事長)で指摘した。 

 医薬品、医療器材の微生物汚染とその対策や消毒薬、抗菌薬の抗菌効果と適正使用を専門とする尾家氏のもとには、感染症対策に関する多くの相談が持ち込まれる。シンポジウムでは、一部の相談事例が紹介された。

 ある保育園から相談されたのは、超音波加湿器による室内空気の噴霧消毒の是非。現場に行ってみると、強アルカリ性消毒薬の次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする哺乳瓶消毒剤の希釈溶液を超音波加湿器に入れ、園児のいる保育室空中に噴霧していた。理由は「インフルエンザ予防のため」。確かに、インフルエンザウイルスに対して次亜塩素酸ナトリウムは有効な消毒薬の1つだが「毒性を考えると、噴霧は非常に危険と思われ、すぐに止めてもらった」と尾家氏。「消毒剤と加湿器がセットになっている商品も売られているようだが、噴霧してどれほどの効果があるかは疑問だし、何より人体への悪影響が心配される。基本的に消毒剤の噴霧は望ましくない」と注意を呼びかけた。「もしインフルエンザ感染予防のために室内消毒するのであれば、次亜塩素酸ナトリウムと同じくインフルエンザウイルスに有効で、毒性は低い消毒用エタノールを使ってテーブルなどの上を清拭するのは効果があると思われる」とした。
(略)

いやあそれにしても、同保育園ではさぞや目がチカチカしてたんじゃないでしょうかね…
何も知らなければ人間こういう振る舞いに及ぶこともあるんだなと感じるようなびっくりする話なんですが、ちなみに器具の消毒に用いる次亜塩素酸ナトリウムは濃度や量にもよりますが人体には重大な症状を招く恐れがありますので、くれぐれもこうした使用法はなさらないよう強く推奨いたします。
冬のシーズンになってきますとどこの医療機関や介護施設でもこのインフルエンザ対策に頭を悩ませるもので、一般外来においては感染症患者の隔離など小児科での対策を参照してもう少し工夫してもいいんじゃないかという気もするのですが、それ以上にやっかいなのが入院患者、入所者への蔓延ですよね。
近年インフルエンザに関してはワクチンの見直しや抗ウイルス薬の登場によってその対処法が次第に積極的なものになってきていますけれども、やはり発症してから必死に治療するよりは発症させないことを優先すべきであるのは当然で、先日日経メディカルで出ていた感染予防の記事を引用してみましょう。

インフルエンザ発症14時間後に個室隔離 高齢者施設で他入所者の発症、不顕性感染を阻止(2012年10月26日日経メディカル)

 高齢者施設で入所者1人がインフルエンザを発症した。標準予防策に加え、発症14時間後に個室隔離とするなどの対策をとった結果、その後施設内の発症、不顕性感染は見られず、感染拡大を阻止できた――。さいたま市の介護老人保健施設うらわの里施設長の五島敏郎氏が、第23回全国介護老人保健施設大会 美ら沖縄(ちゅらうちなぁ)(10月3~5日、開催地:沖縄県宜野湾市)で報告した。

 インフルエンザウイルスの感染経路は、基本的には飛沫感染とされる。つまり、くしゃみや咳、あるいは話をするときに出る唾液飛沫によって伝播、感染する。ウイルス量が多いほど、また距離が短いほど伝播しやすい。伝播したウイルスは、気道粘膜に感染し、増殖する。感染後1~4日、最長7日の潜伏期間を経て発症する。ウイルスを排泄する可能性がある期間は一般に、発症前日から発症後7日間の計8日間と考えられている。患者との距離が2~3m以内の接触者は飛沫感染の可能性がある。また、接触者の20~30%は不顕性感染を起こし、新たな感染源になるとも言われている。ワクチンによる発症予防効果は必ずしも高くないため、速やかに飛沫感染対策や発症者・非発症者の動線・空間分離、個室隔離、抗インフルエンザ薬投与などを行うことが望まれる。

 高齢者施設は、病院に比べ、入所者間の接触機会が多く、インフルエンザが発生した際、より蔓延しやすい傾向にある。また、高齢者はしばしば症状が明確に現れず、このことが発見を遅らせ、蔓延を助長する。2011~2012年シーズンにおいては、各地の高齢者施設6施設でインフルエンザ集団感染が発生し、なかには職員含め、70人以上の患者が出た施設もあった。死亡は全国で10例以上に及んだ。

 このように蔓延しやすい高齢者施設では、より早期の対策着手が求められる。今年8月、日本感染症学会は「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」という提言を発表したが、そのなかでも、抗インフルエンザ薬の使用に関して「フロア全体や入所者全員の予防投与を病院の場合よりもさらに早期から積極的に実施することを提案」している。

 五島氏らの施設では、今年2月、入所者1人がインフルエンザを発症した。80歳代の女性で、入所1日半後の夜間より咳嗽、その約6時間後に体温上昇(38℃)が認められた。咳嗽の程度は軽かった。感染拡大を阻止するため、発症14時間後に個室隔離し、マスク着用とした。発症(咳嗽)19時間後(発熱13時間後)の迅速検査で、A型インフルエンザと診断された。

 感染の可能性がある入所者は、患者と同室であった2人、ホールで3m以内にいた接触者4人の計6人。この6人中5人と患者は、前年秋にワクチン接種を受けている。6人はいずれも、その後、発熱や上気道症状を呈することなく経過した。患者の血清抗体価を調べると、H1N1抗体価はほぼ不変だったが、H3N2抗体価は1280倍に上昇していたため、H3N2ウイルス感染と判断した。これに対して、同室者や接触者(脳梗塞で転院した1例除く)はH1N1抗体価、H3N2抗体価とも上昇が見られず、不顕性感染も否定された。他の入所者、職員においても発症は認められなかった。

 感染拡大を阻止できた理由について、五島氏は「標準予防策に加え、発症14時間で早期隔離を行ったこと、さらに発端者の咳嗽が軽度であったこと、不顕性感染者がいなかったことなどが考えられた」と指摘した。

しかしこうして見ると一見発症者もなく感染拡大を阻止できているようでも、発症者周囲には思いがけずに大勢の不顕性感染が発生しているのだなということがよく判る報告ですよね。
別の高齢者施設では来所者全員に対して職員が玄関に出向いて確認しながら手洗いを行わせ、さらに有症状者のマスク着用や立ち入り禁止を求めるなどしたところ、インフルエンザの発生が6シーズンでわずか4件に留まったと言いますから、持ち込み対策としては単に掲示等で済ませるのではなくきちんとマンパワーを使って強制力を発揮していくことも必要だと言えそうです。
いざ患者が出た場合もまずは隔離がよいと判っていても部屋の都合などもあってなかなか難しいという施設も多いのではないかと思いますが、とりあえず個室とは言わず大部屋であっても感染症部屋を用意しておくこと、そして早期からの治療介入や場合によっては抗ウイルス薬の予防投与を行っていくことも望ましいでしょうね。
今年の夏に感染症学会の提言があって、病院や高齢者施設では積極的に抗ウイルス薬を予防投与していくべきだということになっているのですが、一つ気になるのは近年耐性化が進んでいるというタミフルなど抗ウイルス薬の製剤別の効果がどれほど差があるのかという点も気になりますよね。

今年のシーズン始めに分離した株による検討ではいずれの抗ウイルス薬に対しても感受性低下は認められなかったということでまずはよかったというところですが、一般的な感染症治療の原則に従って考えても単一の薬剤に偏っていてはいずれ耐性化が進行してくることは目に見えています。
ひと頃は猫も杓子もタミフル、タミフルという感じでしたが、耐性の問題もあってか昨シーズンの使用実績ではタミフルが約半分にまで減り、その分イナビル、リレンザが増加しつつあるようで、こうした実態も反映してか先日は厚労省から抗ウイルス薬のストックについては現状で8割を占めるというタミフル以外の備蓄も増やしていくようにという提案が成されたと言います。
ただ世界的に見るとここまで抗ウイルス薬使用に偏重した対策を取っている国はむしろ例外的で、特に若年健常者の軽症例まで全例抗ウイルス薬を含めたフルセットの治療を行っていくべきなのかどうか、耐性化以外にも医療財政上の観点からも検討していくべきなのかなという気もしますね。
インフルエンザの場合最も周囲への感染力が高いのは発症前から発症後ごく早期の時期とも言うだけに、特に昨今の厳しい世情ではとりあえずは市販薬で様子を見てみるという方々も多いはずですが、今後は周囲への感染リスク評価に基づいた治療法選択やOTC薬の活用など、コストやアクセス面にも比重を置いた対策が望まれるところかも知れませんね。

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コメント

ところで最近はやってる熱が出ない風邪はRSなんだろか?

投稿: ikeya | 2012年11月 1日 (木) 09時26分

今年はマイコも流行ってるらしいですからインフルエンザまで出始めると大変ですよ
高齢者や基礎疾患ありの人にはさっさとワクチン打っとけと言ってます

ところでワクチンに絡んで死亡事故があったのにマスコミも昔ほど大騒ぎしなくなったような?
ワクチン禍だ人災だと騒ぎ立てて日本がワクチン後進国と呼ばれるようになった現状に多少は反省もしてるんだろうか ( ´・ω・`)

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年11月 1日 (木) 11時09分

>多少は反省もしてる

噂に漏れ聞く近頃のマスコミの内情から察するに、記事を書いている記者達は先輩のやってきたそうした過去の行為については全く知らない可能性もあるかと。

投稿: 管理人nobu | 2012年11月 1日 (木) 11時34分

反省だけなら猿でも出来るw

投稿: aaa | 2012年11月 1日 (木) 12時28分

免疫力をつけて身体がウイルスに感染することを何とか避けたい。
同時にパソコンがウイルスに感染することも避けたい。
gooブログにアクセスすると、ウイルスに感染することがあるから、近寄らないことが望ましい。
URLがblog.gooで始まっている。また角の中にgが入った赤いマークが付いている。
ウイルス対策ソフトがパソコンに入っておれば問題ないと思われるが、念のため。
君子危うきに近寄らず。

投稿: 危険goo | 2012年11月 1日 (木) 13時52分

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