« 医療費自己負担是正 日医と現場の温度差拡大 | トップページ | 変わりつつある高齢者救急医療 »

2012年11月13日 (火)

医学部定員上限が140人まで引き上げに

何気なくニュースをチェックしていましたら、先日こんなびっくりするようなニュースが目に入りました。

なんと東大法学部が初の定員割れ 法曹志望、公務員志望減少が影響か(2012年11月7日週刊ダイヤモンド)

 今年、東京大学法学部が初めて定員割れした。最難関の大学、そのなかでも看板学部の定員が割れた。こう聞くと、驚く人もいるかもしれない。

 ただ、これは東大特有の仕組みがあるがゆえの話。決して入学試験の定員が割れたのではない。東大は、文科I、II、III類、理科I、II、III類という区分けで入試を行う。入試時点では学部の枠で募集をしないのである。専門課程の学部に入るのは大学3年からだ。

 文科I類(以降、文I)は、入学者の多くが法学部に行く。実は定員割れをしたのは文Iではなく、専門課程としての法学部である。なんだと思う人もいるだろう。しかし、法学部の定員割れの裏には、司法試験離れ、公務員離れがあると推測されるから、事情は単純ではない。

 まず、東大における3年以降に所属する学部学科を決める仕組み、進学振り分け制度を説明しよう。2段階に分けて、選抜をしていくのだが、大学2年の6月時点で学部学科の志望を第1段階、第2段階に分けて登録し、9月上旬に第1段階、同下旬に第2段階の進学内定者が決定される。

 法学部の場合、文Iからの受け入れ人数が圧倒的に多いのだが、文科I類以外からの受け入れ枠もある。今回、定員割れをしたのは、第2段階の文Iからの受け入れ枠である。118人の枠に対し113人にしか志望者がいなかった

 文Iであるから、ほとんどの学生が入学時には法学部を志望していたはずである。文Iの入学者数は440人強。一方、文Iからの法学部の受け入れ枠は、第1段階と第2段階会わせて395人と文Iの入学者数は40人強少ない。入学当初から法学部以外に進学すすることを予定している学生もいるにしても、定員割れをしたという事実は文I生における法学部人気の陰りを意味していると言える。

 東大法学部は、法曹志望者、公務員志望者が多いのは言うまでもない。授業もきびしく、履修者の4分の1が単位を落とす科目もある。法曹や公務員志望者ではない民間企業への就職志望者を下に見る風潮があるという。当初から民間企業に就職するつもりあれば、わざわざ授業が厳しい法学部に行かなくてもよいと考えても不思議はない。

 今や司法試験に合格しても、弁護士として就職するのは楽ではない。財政危機ゆえに公務員の人件費削減が声高に叫ばれ、いわゆるキャリア公務員の天下りに対する目は厳しくなっている。そうであれば、東大生であっても法曹や公務員志望が減るのは無理もない話だ。法学部の定員割れはそうした志向が端的に表れたケースと言えよう。

記事にもあるように東大法学部と言えば官僚予備校的な側面もあり単純に法曹離れとは言い切れないところがありますが、司法の道に進むにしても法科大学院が余りすぎて定員縮小が言われている中、わざわざ留年のリスクが高い東大でなくとも良いという考えも影響していたであろうことは想像に難くありませんね。
先日も書きましたが高い学費と長年の年月を費やして法科大学院に進んでも合格率は低い、一方でやる気のある優秀な学生には予備試験経由での司法試験合格というバイパスルートが用意されているため、今年の国試では法科大学院修了者の合格率が24%にとどまったのに対して今年初めて参加した予備試験組は実に合格率68%と、圧倒的な格差がついたという事実があります。
元を正せば弁護士人口を増やすということで始まった現在の新司法試験制度ですが、そもそも「目標と実績の乖離が大きい」と総務省からもチェックが入るような見通しの甘さが顕在化していて、しかもすでに弁護士過剰で就職もままならないと現場が悲鳴を上げているとなれば、結局制度改革の意味とは何だったのかと言われかねませんよね。

以前にも何度か取り上げて来たところですが、近年弁護士のみならず歯科医公認会計士など相次いで定員を増やしてきた、そしてその結果だぶつきが発生し歯科などすでにワープア化しているとも言われている中で、今最も注目されているのが医師もその後を追うのかどうかと言う点ではないでしょうか?
すでに医学部定員が大幅に増やされ「そろそろこれくらいにしておいては…」という声もある中で、地方からは医師数地域格差是正のためという名目でさらに医学部新設も図るべきだという声も根強くありますが、地域の医大卒業者の過半数が県外に出て行くような状況でさらに新設をしたところで必ずしも偏在が解消するという保証もありません。
新設にかかるコストやその効果を考えれば国にしても今さらおいそれと新設を認める機運にはないらしいとは感じられるのですが、その代償的行為というべきなのでしょうか、以前にその概略が伝えられてきたあの話がいよいよ本決まりになったというニュースをお伝えしましょう。

医学部「入学定員」の上限は、“125人”から“140人”へ(2012年11月5日旺文社教育情報センター)

「地域枠」定員増を対象に、25 年度~31 年度までの臨時的措置

文科省はこの程、地域の医師確保と地域医療向上のため、都道府県の「地域医療再生計画」に位置づけられる医学部入学定員の「地域枠」における定員増を対象に、現行の入学定員125 人の上限を140 人に引き上げる大学設置基準の改正を固めた。
今回の大学設置基準の改正は、25 年度から31 年度まで適用される臨時的な規定である。また、定員増に伴い、十分な教育体制が確保できるように入学定員数(収容定員数)に応じて、専任教員数等も改正される。

<医学部の定員数等に関する規定>
○ 大学設置基準改正の背景
医学部(医学科。以下、同)の入学定員数(収容定員数)については、現行の大学設置基準上、“原則120 人”(収容定員数720 人)までとされている。
このような原則規定を維持しつつ、「地域の医師確保、地域医療の向上」のための定員増に資するよう臨時的な措置や制度改正も行われている。

① まず、22 年度の「地域の医師確保対策」に対応して、22 年度~31 年度までの10 年間、「地域枠」の入学定員を増員する場合、入学定員を“暫定的に125 人”(収容定員750 人)まで増員できるとされた(21 年、大学設置基準改正)。
② 上記①の定員増措置から3 年目を迎えた24 年度現在、医学部を設置する国公私立79大学のうち、入学定員が既に125 人に達している大学は、弘前大/岩手医科大/東北大/秋田大/山形大/福島県立医科大/新潟大/山梨大/三重大(地域順)の9 大学で、東北地方の大学が多い

ところで、文科省は先ごろ、25 年度の医学部入学定員増について、22 年度~24 年度と同様の枠組み、つまり、「地域枠」「研究医枠」「歯学部振替枠」の3 つの枠組で臨時的に医学部入学定員増を行うことを発表した(後述)。このうち、都道府県の定める「地域医療再生計画」に基づく「地域枠」による定員増については、もともと医師が少なく、高齢化が進んでいて、東日本大震災の被災地でもある東北地方の各県からの更なる定員増の要望が高いという。
こうした状況から、文科省は、上記①の臨時的定員増と同様、「地域枠」の入学定員を増員する場合、25 年度から31 年度までの臨時的措置として、医学部入学定員の上限を現行の“125 人”(収容定員750 人)から“140 人”(収容定員840 人)に引き上げるために大学設置基準を改正する。
(略)

○ 25 年度定員増に向けたスケジュール
中教審の大学分科会(第110 回、24 年10 月29 日)は、今回の大学設置基準の改正諮問を田中眞紀子文科大臣から受けて審議し、了承可決(10 月29 日)、答申した(10 月30 日)
医学部入学定員増の認可申請(申請期限の特例:24 年11 月12 日~11 月16 日)を行った大学は、24 年11 月中に予定されている大学設置基準の法改正(公布日=施行)の後、大学設置・学校法人審議会の審議・答申、文科大臣の認可を経て、24 年12 月中には医学部の定員増が決まる予定である。
(略)

しかし最近話題の某文科相の名前が出ていますが、今の情勢で本当にすんなり決まるものだろうかと一縷の不安はありますけどね…
上記の「入学定員が既に125 人に達している大学」の顔ぶれを見ても判る通り、東北を初めとするいわゆる医療過疎地域からの強烈な突き上げが背景にあったということなのでしょうし、いわゆる医師余りへの懸念に対する答えが地域枠限定ということなのでしょう。
「都道府県の定める地域医療再生計画に位置づけられる医学部定員増の場合、一定の要件の下、これまでの臨時的定員増と同様に平成31年度までの間臨時的に医学部収容定員を840人(入学定員140人)とすることを可能とする。」という文言通り自治体のバックアップの元で運用するようですが、この地域枠というものは地域で一定期間就業する代わりに学費は負担しますという制度になっているわけですね。
せっかく定員を増やしても地域に残らなければ意味がない以上これは当然の流れにも思えますが、教員増加や奨学金支給等々といった応分の負担が発生するわけですから、関連する諸経費をどのように分担するかで今後は摺り合わせが必要でしょうし、いずれどこかの議会でも取り上げられることになるのかも知れません。
また卒後数年間の御礼奉公を果たした後はむしろ今まで以上に県外脱出が増えてくるかも知れず、長期的に地域の医師数が本当に増えるのかどうかは今後野検証を待たなければならないところです。

この地域枠問題も以前から何度か取り上げて来たところですが、やはりもともと医師が行きたがらない地域で勤務を義務づけるという関係上応募してくる学生は地元の人間が多いというのは良いとして、多くの大学で地域枠定員割れを起こしていることからも判る通り、医学部人気の今の時代にあっても決して一般入試ほどに多くの志願者を得ているわけではないようです。
これに対して大学側は合格基準を引き下げてでも確保に努めたいと考えているようですが、その結果学生の質が低下し講義について行くこともままならない、留年者・休学者も増えてきていると言われると、このままでは一般入試組の入学者との間で同じ教育を受けることも出来なくなるのではないかと危惧されますよね。
もちろん医師国家試験というものがあって最低限の知識レベルは担保されているじゃないかと言われるかも知れませんが、国試に通りさえすれば何とかなると在学中ひたすら国試予備校まがいの勉強ばかりしてようやく国試に合格した学生がそれほどに質の高い医師に育つとも思えず、結局こうした医師不足地域の医療は今後そうした医師達によって占められていくのでしょうか。
医学教育は基本的に学部内の学生の質が大きく変わらないという前提の元に行われてきたわけですが、これからは卒業後の進路なども含めた多面的なファクターを考慮に入れた上での各人なりの最適な教育プログラムを組んでいかないことには、最終的にそのツケを支払うことになるのは彼らの教育にお金を出した地域住民ということになりかねませんね。

|

« 医療費自己負担是正 日医と現場の温度差拡大 | トップページ | 変わりつつある高齢者救急医療 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

弁護士業界:苦しい台所事情 「司法改革で三重苦」
毎日新聞 2012年11月11日 14時25分(最終更新 11月11日 14時41分)
http://mainichi.jp/select/news/20121111k0000e040150000c.html

さあモラルハザードがはじまってまいりました

投稿: いらち | 2012年11月13日 (火) 08時29分

地域枠ってなモノは「奴隷枠」的な立ち位置としか思えませんから人権的な面からも
そして入試の公正性を阻害する面からも、撤廃すべきシステムだと思っています。
旭川医大なんかは「AO北海道特別選抜 40人 道北・道東特別選抜推薦 10人」と
推薦だけで定員125の内 50人=40%が占められていますね。
なんだそりゃ!?と言いたい所ですが、それはそれとしての話をさせて下さい。

H23年ですが年初の挨拶で、こちらの学長先生が
「地域枠と一般入試の学生の間の、入学後の成績に有為差は見受けられない」
「入学試験での得点順位と、入学後の成績には、相関関係は見受けられない」と仰ってます。
http://www.asahikawa-med.ac.jp/index.php?f=show_topic&topic_cd=467
正直なトコロ私も、地域枠の学生が増えるほど
「学生の質が低下し講義について行くこともままならない、留年者・休学者も増え」るモノと聞けば
「まあ そりゃそうよねえ」と思っていたのですが、この学長先生の話によるとそうでもないような、
おそらく数字の裏付けを持った上での講話であったろうと思われます。

すると「学生の質が… 云々」の話は、「何となく」や「思い込み」ではなく
数値化されたデーターが何処かで出されているのか?
この点についてネットを漁ってみましたが、納得の行くモノを見つけられませんでした。

「どうも~のようだ」とか「一部では~と言われている」と言った不確実な噂ではなくって
どなたか確かなデーターを持ってらっしゃいませんか?

投稿: 福京 | 2012年11月13日 (火) 08時36分

>「どうも~のようだ」とか「一部では~と言われている」と言った不確実な噂ではなくって
>どなたか確かなデーターを持ってらっしゃいませんか?

大事な指摘だと思います。
当方でも探してみますね。

投稿: 管理人nobu | 2012年11月13日 (火) 11時20分

岩手あたりの状況聞く限りじゃ東北は医療資源の使い方も下手なんじゃないかな
医療が専門分化してるのに全県平等に分散配置はもう時代遅れだろと

地域性としての田舎と医療資源分布上の田舎はまた別物なんで医師がどっち見て勤務先決めるかだね
千葉の片田舎にあっても亀田は研修医にも大人気な理由を考えて見るべきでしょ

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年11月13日 (火) 12時56分

>千葉の片田舎にあっても亀田は研修医にも大人気な理由を考えて見るべきでしょ

どっちにも行った事がない九州男児のおいどんからすっと岩手よりは千葉のが大分マシっぽく思われるんですが…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年11月13日 (火) 17時32分

>H23年ですが年初の挨拶で、こちらの学長先生が
「地域枠と一般入試の学生の間の、入学後の成績に有為差は見受けられない」
「入学試験での得点順位と、入学後の成績には、相関関係は見受けられない」と仰ってます。

まず、データがないとはっきりしたことは言えません。
東北大学の先生が調査したデータがあって、医学部ではありませんが、推薦等の入学者と一般入試の入学者では、入学後の学力差が明確で、一般入試入学者の成績が良かった、という内容。
大手メディアの教育記事として掲載されました。
それで、軽量入試の問題点として指摘され、大学生の学力低下と結び付けられました。

旭川医大に話を戻すと、推薦・地域枠入試入学者の学力が低く、一般入試入学者の学力も同じくらい低いから、という説明もできます。
旭川医大のかたには、申し訳ないコメントになりますが。
いま、地方の新設の国立医の偏差値は、都市部の国立医とは偏差値の比較でみれば、学力差があります。
つまり、旭川医大だから、ということです。
もちろん、地方国立医とはいえ、一般入試の偏差値は、理系学部全体のなかでの比較では、高い部類に属します。

投稿: とある内科医 | 2012年11月13日 (火) 17時35分

今から30年前の話ですが、文I→法、文II→経、理III→医は、進振りがありませんでした。文III→法と理I→医が若干名、理II→医が10名だった記憶があります。

投稿: 今日はanonymous | 2012年11月15日 (木) 18時30分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/56098286

この記事へのトラックバック一覧です: 医学部定員上限が140人まで引き上げに:

« 医療費自己負担是正 日医と現場の温度差拡大 | トップページ | 変わりつつある高齢者救急医療 »