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2012年10月20日 (土)

医師不足が最も激しいという時代

本日の本題に入る前に、医師不足ということに絡んで先日愛知からこういうニュースが出てきましたが、まずは記事から紹介してみましょう。

医師不足の状況変わらず 県調査 /愛知(2012年10月16日中日新聞)

 医師不足に関する県健康福祉部の調査で、人手が足りずに産婦人科を休止するなどの診療制限を実施している医療機関(六月末現在)は、県内三百二十五病院のうち21・5%に当たる七十病院に上った。診療を制限している病院は、前年同期からやや減少したとはいえ増加傾向に歯止めがかかっておらず、同部の担当者は「医師不足の深刻な状況は変わっていない。今後も医師確保に努めたい」と話している。

 診療制限には、診療科の全面休止や、分娩(ぶんべん)対応の取りやめ、時間外救急の受け入れ停止などがある。調査を始めた二〇〇七年は六十二の病院だったが、年々増加。一一年には七十二に増え、今回は初めて減って七十になったが、多数に上っていることに変わりはない

 医療圏別では、知多半島(半田市、常滑市など)と尾張西部(一宮市、稲沢市)が、いずれも十九病院のうち六病院(31・6%)で、尾張北部(春日井市、犬山市など)も二十三病院のうち七病院(30・4%)でそれぞれ診療を制限。この三地域が三割を超えていた

 名古屋でも、百三十三病院のうち22・6%に当たる三十病院が診療を制限し、周辺部だけでなく、都市部でも医師不足に苦しむ現状が浮かぶ。

 診療制限がなかったのは尾張中部(清須市、北名古屋市、豊山町)だけだった。

 診療科別では、産婦人科は六十六病院のうち、22・7%の十五病院で分娩の取り扱いを休止するなどしていた。このほかに、診療制限が多いのは小児科14・2%、精神科13・5%、内科10・3%の順だった。

 県などは、名古屋大と名古屋市立大の医学部とは〇九年度から、愛知医科大医学部とは本年度から、県内の病院に勤務することを条件に学費を援助する「地域枠」をそれぞれ創設。出産などで辞めた女性医師の職場復帰を支援するといった対策を進めている。

 県健康福祉部の担当者は「地域枠の学生が医師になるまであと数年かかるので、医師不足の抜本的な解消にはまだ時間がかかる」との認識も示した。 (後藤孝好)

記事では状況は変わっていないということになっていますが、グラフで見ますと診療制限を行っている病院数、割合ともピークは過ぎたかなと言う印象もあって、来年以降改善傾向が見られるということになれば近年行われてきた諸政策がようやく効果を発揮しつつあるという風にも受け取れるニュースですよね。
とは言え未だにはっきり状況が改善されたとも言えないのも確かですから、記事の趣旨からして「状況変わらず」と銘打っているのも間違いではないと思うのですが、個人的にこの記事を見て感じたこととしてはいわば医師不足の一番深刻な時期がそろそろ底を打ちつつあるのだとすれば、はっきり言ってこの程度だったの?という気がしないでもありません。
地域によって深刻さに差があるとは思いますけれども、例えば同じ皆保険制度を取っている往年の医療崩壊先進国(現在は中進国くらいに持ち直しているようですが)イギリスのように急患が丸二日もストレッチャーの上で放置されていたとか、専門医にかかりたいと思ったら予約は何ヶ月も先になるといったレベルとは全くかけ離れていますよね。

「それでも具合が悪くて病院に行ったのに長く待たされるのは困るじゃないか」と言う人はいるでしょうが、日本では日医などの熱心な主張によるものか未だに医療は完全フリーアクセス制をイジしていますから、一部の医療機関に患者が集中すれば待ち時間も長くなるということは星付きレストランで行列待ちが出来ることと全く同じ理屈ですよね。
そうだとすれば現状の日本程度のアクセスの悪化でそこまで医療崩壊だと騒がれるのだとすれば、日本人特有の評価の厳しさを抜きにして考えるならばやはり待ち時間に相応する質の高い(あるいは、付加価値のある)医療を提供出来ていないということが不満に思われているのではないかとも思います。
これまた日医などが長年熱心に主張してきたように日本では全国どこでも同じ質の医療を提供しているというタテマエになっている、そのことが完全公定価格の均一料金での医療提供を正当化してきたとも言えますが、どうも実態の上からも顧客満足度改善という視点からも制度発足当時のような医療貧乏な時代ならともかく、高度医療すら身近なものになった今ではそろそろこの考え方にも無理があるんじゃないかなと言う気がしないでしょうか。
今現在がおそらく医療崩壊、医師不足という現象が一番厳しい状況に置かれている時期だということはある程度見えてきた、そしてそこで露わになってきた諸問題を改善しないままこれから漠然と医師が増えていき問題がごまかされていくとなると、また今後半世紀もこの不完全な制度が温存されていくことになりかねないのがどうなのかとは感じています。

いささか脱線しましたが、いずれにしても今は全国的に医療需給バランスが崩壊してどこも厳しい状況であると言うことになっていますけれども、そんな中で医療が供給過剰で困っているという地域があるらしいというニュースが出ていましたので紹介してみたいと思います。

警戒区域の病院、「仮の町」での再開は困難- 県側「病床足りている」 /福島(2012年10月17日CBニュース)

 福島県病院協会の被災21病院で構成する東電原発事故被災病院協議会(座長=前原和平・県病院協会長)の会合が16日、福島市内であり、警戒区域内にある病院が現状報告した。同病院の関係者は、「今後5、6年間帰れないのなら、被災者が多い地域に移転して、やり直したい」と訴えた。この病院がある町は、住民が集団移転する「仮の町」を設置する方向で、県内の別の地域と調整を進めている。ところが、移転先の地域では病床の供給が過剰で、病院の移転は困難な状況という。この関係者は、「人口の流れを踏まえて(取り扱いを)見直していただきたい」と、県側に柔軟な運用を求めた。

 病床の供給が過剰かどうかは、各都道府県が医療に対する需供バランスを踏まえて二次医療圏ごとに設定する「基準病床数」が判断基準になる。福島県内では、全部で7つある二次医療圏のうち、「南会津医療圏」以外は、「既存病床数」が基準病床数を上回る過剰病床地域に該当する。

 集団移転の受け入れを検討している地域では、病床の供給が既に足りており、県によると、被災者の受け入れに伴う人口増を踏まえても、病院の開設は難しいという。県担当者はキャリアブレインの取材に、「病院の気持ちは分かるが、病床は足りている。そこについては別の整理になる」と話している。

 16日の会合には16病院が参加。警戒区域内にある別の病院の関係者は、「将来的に元の病院での再開を目指すが、(休職中のスタッフに対する)失業給付が切れ、(東電による)就労不能への個人賠償も14年2月末に終わるので、その後は収入が全くなくなる」と、危機感をにじませた。

 東電による損害賠償の支払い状況についても報告し合った。同協議会は8月末には、逸失利益を30年以上にわたって補償することなどを東電側に要望している。
 前原座長はその後の話し合いで、「病院の再開・存続を実現するために検討するという方針を決定した」と説明した。具体的な対応をめぐり、東電側と交渉を進めているという。

 出席者からは、「資金が止まったら組織は終わってしまう。いつまでも待ち続けられない」「病院を生かすような賠償をお願いしているが、(審査の)締め付けがきつくなっている」などの声も上がった。【兼松昭夫】

一応解説しておきますと、日本には基準病床数という摩訶不思議な制度があって、要するに各地域ごとに病院のベッド数の上限は幾らまでと定められている、そしてそこに達してしまうと幾ら需要があろうが地域内ではそれ以上ベッドを増やせないということになっているわけですね。
当然ながら外来治療より入院治療の方が高くつく上に、日本では病床数が多すぎるという指摘が以前からあることから国としてはベッド数はむしろ減らしたいのでしょうが、診療報酬上ベッドは埋めなければ黒字にならないという制約もあり、何より多くの地域で現有病床数がすでに基準を上回っていることから一度減らせば二度と増やせない可能性が高く、どこの施設でも需要の有無に関わらずベッド数を減らすことには極めて消極的です。
その結果需要の多い施設ではベッドが足りなくて患者が受け入れられないという場合もあれば、需要が少ない施設では必要もないのに入院させてベッドを埋めるといった本末転倒なことになるわけで、人口の増減や住民層の変化などによって、地域内でもどういった施設により多くの需要があるのかは時代によって変化していくはずなのですが、現状では地域内・施設間での需要と供給のバランスが規制のために破綻しているということですね。

以前には医療費無料の避難民が病院に押し寄せたため地域の医療が崩壊の危機に反しているといった記事も出ていましたが、それでは自前の医療機関を新たに整備しようとしてもすでに基準病床一杯であれば不可能であって、仮に政策的な配慮を行うとすれば今後この避難地域に放置されたままの「空き病床」が何らかの利権になってくる可能性すらありますよね。
本来であれば医療とはハードウェアより何より医師や看護師など専門職スタッフという人材こそが大事なのですから、顧客の移動に伴ってスタッフも移動出来ていれば当面そう困ることはなかったと思うのですが、同じ県立病院間ならともかく民間病院など雇用形態が異なっていてはなかなか人材の移動も難しいということでしょうか。
そう考えると永続的な措置になる病床数の融通というよりも、例えば期間を限って被災地からのスタッフを雇用した周辺施設には地域の需要に応じて補助金を出すといった形で、人材の融通を活性化させた方がより即効性のある措置になるんじゃないかという気もします。
もちろんそうした人材移動が成立するためには避難地域から脱出した医療機関が人材を手放す、場合によっては廃業するということも必要になってくるわけで、これまた被災地は元通りに復元するのがよいのか、それとも新たな状況変化に応じて柔軟に体制を変化させながら復興を目指すのがいいかという、震災後ずっと問われてきた議論にもつながってくる話ではありますね。

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コメント

どうせそんなに儲かってもいないんだろうしここで一度事業精算した方がいいんじゃないかって気もしますが>避難病院

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年10月20日 (土) 08時35分

上に同じ。
経営者は経営者なりの、従業員は従業員なりの相応の補償をもらって新天地に赴くのが吉だと思います。

投稿: JSJ | 2012年10月20日 (土) 09時19分

失業保険もらう医師w
名義貸しの不労収入だけでも失業保険分くらいもらえるだろうにw

投稿: aaa | 2012年10月20日 (土) 09時39分

正直とっくにやめてるものとばかり思ってました。
民間病院だと自転車操業でやめれば借金返せなくなるのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2012年10月20日 (土) 11時06分

ところで 実際のところは知らないのですが、従業員にとっては
病院が廃業する前に退職するか、廃院が決まった後に退職するかで、転職・転居に対する補償額が違ったりするのでしょうか?

投稿: JSJ | 2012年10月20日 (土) 15時18分

潰れたあとじゃ退職金出ないのでは?
被雇用者の補償が企業を通じてなら損になるような

投稿: 亜蓮 | 2012年10月21日 (日) 17時33分

>失業保険もらう医師w

私貰ってましたが何か?

>名義貸しの不労収入だけでも失業保険分くらいもらえるだろうにw

そらそうですが貰わないとこれまで天引きされてた失業保険料が無駄になっちゃうじゃないですかぁww
*ちなみに単発の当直バイト等を入れるとその日の分のみ貰えず支給がその分延長されます。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年10月22日 (月) 10時22分

「この町のような田舎は国に捨てられているんじゃないか」……被災地で踏ん張って医療活動を続ける町医者に、こんな言葉を吐かせていて、何が「震災復興」だ。何が「がんばろうニッポン」だ。2012年9月9日のNHKスペシャル「シリーズ東日本大震災 追求 復興予算10億円」を観て、憤りを感じた読者は多かったのではないか。
中略
また、宮城県気仙沼市では、いまだに3割の医療機関しか震災前の状況に戻っていない。補助金の配分が公共医療機関に偏っているため、民間の病院や町医者に対する支援が大幅に遅れているからだ。冒頭で紹介した亡国的な発言は、億単位の借金をして自ら医院を再興した医師のものである。そんな借金をする覚悟がある医師は少数で、多くの医師は気仙沼を離れ、別の土地で勤務医などとして働く。
http://getnews.jp/archives/249819

投稿: | 2012年10月24日 (水) 10時27分

>「この町のような田舎は国に捨てられているんじゃないか」……

お前、もしかして自分がまだ捨てられてないと思っていたのかw?
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20121018/plt1210181552007-n1.htm

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年10月24日 (水) 12時52分

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