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2012年10月26日 (金)

江戸川病院死亡事故 事故調議論と絡めて

腎移植後の死亡事故ということで移植関連死かと思いきや、どうやら中心静脈カテーテル抜去後の空気塞栓症だったと言う不幸な死亡事故が報道されていました。

江戸川病院で腎移植の患者死亡 業務上過失致死容疑で捜査(2012年10月24日産経ニュース)

 東京都江戸川区の江戸川病院で昨年11月、生体腎移植を受けた男性が手術の9日後に死亡していたことが24日、関係者への取材で分かった。体内からカテーテルを抜いた直後に容体が急変しており、警視庁小岩署は業務上過失致死容疑で、医師らから事情を聴いている

 遺族側代理人によると、死亡したのは関東地方に住む60代の男性。重度の腎不全のため、昨年10月29日に妹をドナーとする腎移植手術を受けたが、11月3日に医師が静脈カテーテルを抜いた直後に心肺停止状態となり、7日に死亡した。

 主治医は遺族に「カテーテルを抜いたことが原因になったかもしれないが、他に主因がある」などと説明。男性を火葬する直前に、遺族に「医療ミスがあったので、遺体を確認したほうがいい」と匿名の情報提供があり、遺族が同署に相談していた。

 同署が司法解剖した結果、死因は肺動脈に空気が詰まる「肺動脈空気塞栓(そくせん)症」だった。

 代理人によると、通常、カテーテルを抜く際は空気が入ることを防ぐため、患者をあおむけにする必要があるが、当時、男性はあぐらをかいた状態で処置を受けたという。同署は処置と死亡との因果関係を慎重に調べている。

 日本移植学会は同病院に対し、調査委員会の設立と調査終了までの移植手術の中止を勧告した。同病院は産経新聞の取材に「調査委員会の結論が出るまで何も話せない」としている。

手術後に死亡、腎移植中止を勧告 学会、東京の病院に(2012年10月24日朝日新聞)

 東京都江戸川区の江戸川病院で昨秋、生体腎移植を受けた60代男性が手術から約10日後に死亡していたことが分かった。家族から調査を求められた日本移植学会は今年8月、病院に対して原因が判明するまで腎移植を中止するよう勧告した。勧告に拘束力はないが、極めて異例の措置だという。病院側は調査委員会を立ち上げた。

 遺族から連絡を受けた警視庁が遺体を司法解剖した結果、死因は「肺空気塞栓(そくせん)」と判明。同庁が業務上過失致死容疑で調べている。

 患者側の弁護士らによると、男性は慢性腎不全で、親族から腎臓を提供された後に死亡した。患者の体内に入れていたカテーテル(管)の手術後の処置が原因の可能性があり、患者側弁護士は「血管に空気が入るミスがあり空気塞栓で死亡した」と説明している。

不幸な事故で亡くなられた患者さんのご冥福をお祈りいたしますが、こうした重大事故に関しては極めてまれであるとは言え思いがけず発生してしまうのも事実だと思います。
試みに某大学付属病院のCVカテ運用マニュアルを拝見しましたところ、一般病院では毎回ここまで事細かに出来るかどうかと思うほど詳細にルールが定められていて感心するのですが、カテ挿入時の詳細な指示に対してカテ抜去時に関してはわずかにこれだけの記述しかないのですね。

15 カテーテルの抜去

カテーテルの抜去は研修医が単独で行ってはならない。
固定糸を切るときにはカテーテルから距離をとってはさみを扱い、カテーテルを切断しないように細心の注意を払う。はさみは眼科用はさみなど先端が細いものを使用する。
抜去時は複数の医師又は医師と看護師のダブルチェックによりカテーテルの全長が抜去されたことを確認し、カルテに「カテ先OK」の記載をする。
疑問の残る場合は胸部X 線写真で確認する。

同マニュアルでは患者同意書に関してもカテによる空気塞栓のリスクに関しては「その他 空気塞栓(静脈の穿刺時やカテーテルの挿入時に血管内に空気が入る)や、穿刺する静脈の近くにある器官の損傷(神経損傷、胸管損傷)、使用する薬剤のアレルギーなどがあります。」と簡単に記載されているのみで、件数に大差があるとは言え例えば気胸の詳細な記述と比べ結果の重大さに相応したものではないようです。
末梢ルートからの点滴で少々空気が混入したくらいでは無問題ですが、中心静脈の場合はカテ自体の太さもさることながら留置期間が長期に及ぶためか、今回の症例のようにカテ抜去後に穿刺部からの空気流入が発生するケースがあるようで、当然ながらその場合多量の空気が知らない間に血管内に入り込む恐れがあり、特に基礎疾患によってはこうしたリスクに留意する必要がありそうです。
実際に医療安全全国フォーラムでこの空気塞栓についてまとめていただいているので是非参照いただきたいと思うのですが、今回同様腎不全でCHDF導入後シャントを造設し内頚静脈のカテを抜去した60歳女性の場合、用手圧迫10分に鎮子圧迫30分を追加、さらにドレッシング材貼付で刺入部を保護していたものの安静解除直後ポータブルトイレを使用した直後に倒れ、頭部・肝臓・腎臓に多発性空気塞栓が確認されたと言います。

今回の事故で手技的な影響がどの程度あったのかははっきりしませんが、よほどに慎重に対応していてもどうしても一定確率で発生してしまう事故に関しては手技そのものの是非よりも、今回のように担当医が気づかないまま後になって別方面から明らかになると言った純医療面以外でのトラブルが事を大きくしがちなのは留意すべきかと思いますね。
医療安全向上のためにも本来患者側、医療側双方が協力して事実の究明と教訓の拾い上げを行っていくべきところですが、最初に公になった時点でこのように紛争化してしまうと裁判などの関係もあって、むしろ事実関係が完全に究明されないままになってしまう可能性もあるということは医療全体にとっても残念なことだと言うしかありません。
その意味でかねて言われている医療事故調も原因究明と再発防止を目的として早急に創設すべきであるという総論部分については大多数の関係者に異論がないところですが、やはり意見が分かれているのはそれ以外の部分まで手を広げてしまうと結局事実の究明から遠ざかってしまうということにあるようです。

医療事故調、創設の糸口議論- 患者側・医療者側の弁護士らで(2012年10月22日CBニュース)

 医療事故の原因調査と再発防止を担う第三者機関をつくるには、どうすればいいのか-。医療問題弁護団(代表=鈴木利廣弁護士)が20日に東京都内で開催したシンポジウムで、患者側・医療者側双方の弁護士や、医療事故の遺族らが調査機関のあり方について議論し、創設の糸口を探った。

 医療事故の調査機関をめぐっては、患者側・医療者側の双方から必要性を訴える声が上がっており、厚生労働省の検討部会が、事故調査と再発防止の仕組みのあり方の議論を進めている。また、同省の補助事業として全国10都道府県で医療事故の原因を調べている日本医療安全調査機構でも、調査機関について構想するために立ち上げた企画部会が報告書をまとめたところだ。

 シンポジウムで日本医療安全調査機構の矢作直樹・企画部会長(東大大学院医学系研究科教授)は、同機構には警察のような権限がないため、現在は医療機関の提出資料から事故原因を調べており、「この姿勢はちょっと弱い」と指摘。企画部会の報告書では、調査に非協力的な医療機関を公表するなどの対応を考慮することにしたと説明とした。
 厚労省の検討部会の委員を務める宮澤潤弁護士(全日本病院協会顧問)は、調査には事故関係者から話を聞く権限が必要との認識を示した上で、「臨床の現場には、刑事責任を問われたらどうしようという恐怖感がある。『刑事罰は課さないから、本当のことを話してください』と言うのが、一番真実が出てくるはず」と述べた。

 また、患者側の弁護を多く手がける細川大輔弁護士(医療問題弁護団副幹事長)は、「病院自身がきちんと調査して反省し、患者が納得するまで説明するのが、本来あるべき姿」と述べた。ただ、「今は十分に機能していない」として、しばらくの間は公的な第三者機関が必要だと主張。これに対し、宮澤弁護士は、遺族が調査を依頼できる第三者機関の必要性を認めた一方で、「病院内の事情を一番知っているのは院内の人間だし、自分たちで調査しないと反省するきっかけにならない」と述べ、外部の有識者を交えて医療機関内で調査した方が、再発防止につながると指摘した。

 親族を医療事故で亡くして調査を受けた経験を持つ川田綾子・NPO法人架け橋副理事長は、「第三者的な要素は絶対必要だが、事故後に関係ない人がいきなり踏み込んでくるのは、遺族にとって、(親族が)亡くなったことと併せて二重でショックだ」と述べ、遺族の感情に配慮した制度設計を求めた。【佐藤貴彦】

先日は診療関連死の届け出先については、現在法律で定められている警察から死因究明を目的とする第三者機関に変更すべきだという提言が 医療安全調査機構からなされていましたが、これなどもまさに「何かあったときに司法の手が介入してくるのでは真相究明の妨げになる」という意見が根強くあるからに他なりません。
その意味で医療側からはかねて航空機事故調など世界的に主流の考え方にならって「完全な真相究明を行って全ての教訓を拾い上げ、再発防止につなげるためには免責の担保が必要である」と主張しているところですが、患者側の立場になってみれば「真相を究明した結果誰かが悪かったと言うことになった、それでも責任を問うてはならないのか」と納得出来ないだろうことは容易に想像出来ます。
以前にも書いたことですが、個々の事例で正義を追求しすぎると社会全体にとって大きな不利益になってしまうということはままあることで、特に原発事故などレアなケースでは一件一件の事故から手には入るだけの教訓を得ないことには後に大きな禍根を残しかねず、その目的に反する個人への責任追及は免責してでも事実を究明すべきだという考え方がようやく日本でも出てきているようです。
一方で交通事故など日常的に発生しているようなものでは今や真相究明よりも厳罰優先主義(これも一応は再発防止のためというタテマエですが)に傾いていますが、医療がこれら両極端の中でどのあたりに位置づけていくべきなのかというコンセンサスがないが故の事故調議論の迷走であるとも言えそうですね。

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コメント

残念な事故ですが事件性はないような気がしますが。>江戸川病院
この担当医は普段から人望がなかったんでしょうかね?

投稿: ぽん太 | 2012年10月26日 (金) 10時00分

これ通報したの誰かバレバレでは?

投稿: アラン | 2012年10月26日 (金) 12時34分

情報を知り得た人は限られるかも知れませんが、先日の事例のように最終的にチクったのは近所のおっさんだったということもありますので。
いずれにしてもこういう情報源はあまり突き詰めるべきではない気がしますが。

投稿: 管理人nobu | 2012年10月26日 (金) 12時50分

名古屋大のマニュアルは詳しく書いてありました。>カテーテル抜去時の注意
http://www.jmdp.or.jp/documents/file/04_medical/f-up03d.pdf 9ページ

>この担当医は普段から人望がなかったんでしょうかね?
そうみたいですね。
http://www.j-cast.com/tv/2012/10/25151331.html?p=2

投稿: JSJ | 2012年10月26日 (金) 14時39分

少々のマニュアルからの逸脱であっても大部分は問題ない結果で終わるし、まれな事故が起こったら起こったで残念でしたで済む話なんですが
それでもたまたままれな事故が起こった時に起こした医師と病院が悪評高いとこうも大騒ぎになるんですな
大きな手術をする際には多少の腕の差よりも人物人格優先で担当医を選んだ方がいいってことですか

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年10月26日 (金) 15時56分

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