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2012年10月 2日 (火)

偽医者騒動から見た医師負担軽減策

先日も東京で偽医師騒動があったことをお伝えしましたが、その続報が入っているようです。

評判がよかった「なりすまし医師」 免許もないのになぜ…(2012年9月30日産経ニュース)

 優しくて丁寧な先生は偽医者だった-。東京都板橋区の高島平中央総合病院で、偽医者の男が健康診断の問診などを行なっていた事件。警視庁生活環境課に医師法違反と詐欺などの容疑で逮捕された世田谷区に住む無職、黒木雅容疑者(43)は、長野県や神奈川県などの病院や医療系予備校でも“医師”の肩書を使って勤務していた。高度な医学の知識を必要とするはずの医師に、どうしてなりすますことができたのか。捜査関係者への取材などから事件を追った。(西尾美穂子)

丁寧で優しく お年寄りに親切な「医者」

 昨年、高島平中央総合病院の診察室では、近くに住む無職女性(72)が黒木容疑者から丁寧な問診を受けていた。
 「大きい病院で再検査した方がいいですよ」
 白内障の疑いがある女性の検査結果を見ながら、丁寧に説明する黒木容疑者。大きい声に、ゆっくりした口調で、病状を説明するため、お年寄りにもわかりやすかった
 「優しそうな雰囲気」
 無職女性は、好感を抱いた。まさか、無資格の偽医者だとは思いもしなかった。黒木容疑者の指示に従って大型病院で治療を受けた。
 今年9月に入り、黒木容疑者が偽医者だったことが発覚し、女性は驚いた。
 「偽医者だったとは信じられない。とんでもない。目の状態は悪くなっていないけど…」
(略)
 「医学部看護学科を卒業」「医師免許所持
 さいたま市の医療系予備校の講師になる際、黒木容疑者は予備校側に、こう説明していた。
 予備校講師は医師である必要はないことから、予備校側は医師免許証の提示など、厳密な身分確認をしなかった。黒木容疑者は予備校生からは「わかりやすい先生」と評判がよく、校内には黒木容疑者に疑いの目を向ける人はいなかった
  「独学で看護師としての知識を勉強した」。捜査関係者によると、黒木容疑者は警視庁の調べにこう供述している。さらに黒木容疑者は人材紹介会社にも医師として登録。病院でも働き、医師として健康診断の問診、採血、レントゲン、心電図の検査なども行うようになった

インターネットでばれたずさんなウソ

 しかし、ウソはあっけなくばれる。
 「○○大学医学部看護学科を卒業」「医師免許所持」
 さいたま市の医療系予備校のインターネット上のホームページに掲載されていた黒木容疑者の略歴を見た人から「○○大学には看護学科はない」という声が寄せられたのだ。
 予備校側が調べたところ、この大学は黒木容疑者が「卒業」したという当時、大学ではなく、短大だったことも判明。予備校側が今年2月末の契約更新の際に、履歴書の再提出を求めると、黒木容疑者は退職し、姿を消した。その後、予備校に「経歴は嘘だった」との告白メールを送ってきた。
 黒木容疑者は、それでも病院には偽医者であることを明かさなかったが、予備校側から「経歴詐称の可能性がある」と情報が寄せられ、事実関係が発覚。警視庁も捜査に乗り出し、黒木容疑者は逮捕された。

高額な報酬 世田谷の住宅で余裕の生活?

 「生活費や子供の教育費を稼ぐためだった」
 捜査関係者によると、黒木容疑者は医師になりすました理由をこう供述したという。逮捕容疑では、高島平中央総合病院に対して医師と偽ってだまし、平成22、23年の44日間の勤務で計約260万円の報酬を受け取っていたとされているが、別の病院では、少なくとも1100万円以上の報酬を受け取っていたことも確認されている。
 黒木容疑者の医師資格を確認もせず採用する病院は少なくなかった。多くの人が受ける健康診断シーズンでは、都市部でも医者が不足する。健康診断だけの医師の「バイト料」は高く「3時間勤務で4万円」と掲げる病院もあった。
 「医師」という肩書きを利用して、高額な報酬を得ていた黒木容疑者。世田谷区の住宅地で暮らすなど、余裕ある生活を送っていたようだ。ある業界関係者は「簡単に医師になりすませるのはおかしい。医師の身分確認をしっかりできるような制度にしないと、より大きな問題が起きる」と話した。

ま、「看護学科を卒業」し「医師免許所持」などというトンデモ経歴の時点で誰もツッコミを入れなかったのがそもそもの間違いなのでしょうが、医療系予備校とは言ってもこの程度の基本的な嘘が通用してしまうものなんですかねえ…
いずれにしても資格詐称に関してはきちんと確認しなかった関係者各位がきちんと再発防止策を講じていくしかないところですが、記事を見ていて興味深いなと思ったのは実際に診察を受けた人々から「優しそうな雰囲気」の先生で「まさか偽医者だったとは」「信じられない」といった声があることです。
井上ひさしの「吉里吉里人」で偽医者(無免許医師)が何故優れているのかを延々と説くくだりがありましたが、実際にはブラックジャックのように免許はなくとも超絶的な技量で需要が絶えないというタイプでなくとも、単に接遇技術さえしっかりしていれば知識や技能は素人並みでも顧客からは「医者らしい」と見えてしまうものであるということでしょうか(もちろん、健診業務など特定の状況に限定してのものでしょうが)。

近年にも何人か偽医者騒動がありましたが、報道から見る限り大抵は患者さんから「なんだあの態度は!」などとクレームがつくようなタイプではなく、むしろ非常に懇切丁寧な接遇を行っていたというケースが多かったようですが、逆に言えば多くの場合技術や知識よりも単に話をしっかり聞くだけ等々の接遇技術向上によっても顧客満足度は十分高められるということでしょうね。
最近ようやく医学教育の場においてもこうした接遇面の重要性が認められ始めたというのは必ずしも顧客満足度云々からというわけではなく、どちらかと言えば医療訴訟にもつながっていくようなトラブルは多くの場合初期対応段階での接遇面での問題が感情的行き違いに発展していくものであるからというようですが、いずれにしてもさして元手がかからず行えるお得な医療の質向上対策であることは言うまでもありません。
ただ実際には多くの医師達が過労と言う段階にまで追い込まれて仕事をしている中で、そのうえ余計な愛想まで振りまいていられるか!と言うのももっともなところだと思いますが、興味深いことに過労に追い込まれた医師ほど訴訟リスクをより身近に感じているというのですから、実利的な意味からも対策を講じる必要性と意義は十分にあると言えそうです。

勤務医の苛酷な労働環境が明らかに JILPT「勤務医の就労実態と意識に関する調査 」公表(2012年9月25日QLifePro)

「職場の医師不足」は、過疎地ほど感じている

独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)は、「勤務医」を対象としたアンケート調査を実施し、その結果について公表しました。
この調査は、民間の医療領域専門調査会社(アンテリオ社)が保有する医師モニターのうち、全国の 20 床以上の病院に勤めている 24 歳以上の医師を対象(医院・クリニックの院長は除外)に実施。
配信数は、11,145 票、回収数は 3,528 票(回収率 32.0%)となり、無効票を除いた有効回収数 3,467 票(有効回収率 31.0%)を分析対象としています。

昨今深刻な問題となっている「医師不足」については、現場の医師も当然感じており、全体で見ると68.6%が「感じる」(「非常に感じる」「まあ感じる」の合計)と回答。また地域別で見ると、「政令指定都市・東京23区」では59.1%、「過疎地域」で働く者の方の割合はより高く、78.5%となりました。

週当たり全労働時間は、4割が「60時間以上」!

主な勤務先での1週間当たりの実際の労働時間(時間外労働(残業)時間を含む。休憩時間は除く)は、平均で 46.6 時間。診療科別に見ると、「外科」 43.1%、「救急科」41.7%、「脳神経外科」40.2%、「小児科」39.5%となっています。
また、主な勤務先での 1カ月間の平均的な「日直回数」は「1~2回」が 51.0%ともっとも割合が高く、次いで「なし」38.2%、「3~4 回」6.3%、「宿直回数」は、「1~2 回」が 34.8%となっており、次いで「なし」32.6%、「3~4 回」21.8%となりました。

日直「5 回以上」の割合
・「救急科」(33.4%)
・「麻酔科」(8.5%)
・「産科・婦人科」(8.2%)

宿直「5 回以上」の割合
・「救急科」(63.9%)、
・「産科・婦人科」(27.8%)
・「小児科」(21.0%)

「疲労感」は、「ヒヤリ・ハット」を引き起こす

宿直1回当たりの平均睡眠(仮眠)時間は、「4 時間以上」が 52.7%ともっとも割合が高く、次いで「3~4 時間未満」27.7%、「2~3時間未満」10.4%、「2時間未満」5.8%となり、「ほとんど睡眠できない」 3.5%と答える者もいました。
睡眠時間がほとんどないにも関わらず、「宿直翌日」の勤務体制は、「通常どおり勤務する」が 86.2%。このような勤務状況が続くため、当然のことながら、 「疲労感」「睡眠不足感」「健康不安」について、それぞれ「感じる」(「非常に感じる」「まあ感じる」の合計)と回答した者の割合は、「疲労感」が 60.3%、「睡眠不足感」が45.5%、「健康不安」が 49.2%となっています。
気になるのが、「ヒヤリ・ハット体験」の状況。「ヒヤリ・ハット体験」について、「何らかのヒヤリ・ハット体験がある」(「ほとんどそうである」「ときどきそうである」の合計)とする割合は 76.9%に。また、患者からの「訴訟リスク」に対する認識の有無別に疲労感をみると、「訴訟リスク」を「感じる」と答えた者のほうが「疲労感」を感じ、その割合は 78.9%となっています。

田舎病院ほど当直回数が増えるだろうというのは医師数を考えれば当たり前なのですが、当直回数もさることながら当直空けに相変わらずほとんど全員の医師が通常勤務に従事しているということで、医療安全面からも深刻な危機感を抱かなければならないはずですよね。
最近では年々伸び続ける医療費を何とか削減すべく日本でも医療技術評価に費用対効果という考え方を取り入れようという動きが出てきていて、無論アメリカ式になんでも費用対効果で評価し意味がないと判断されれば医師の指示も拒否される、なんてことになればさすがに窮屈ではあるにしても、全くコストを考えないで医療を行う医師はまず病院の経営側からも一言なしでは済まされない時代ですよね。
患者に対する丁寧な対応を心がけるには当然ながら余計な時間が必要で、仕事量がそのままで接遇改善に余計な時間だけ使えと言われれば誰だって勘弁してくれよ!ですけれども、後々のトラブルなどのリスクも含めて評価した場合に今よりももう少し丁寧で顧客から好印象を持たれ、なおかつ経営的にも損にならない程度のバランスというものがどこかにあるはずです。

この場合注意しておきたいのは病院へのアンケート評価などを見ていると傾向が判りますが、懇切丁寧に時間をかけて対応するのは必ずしも医師である必要性はないということで、もちろん最低限どのスタッフも悪印象を持たれない程度の接遇努力は必要としても、健康相談などの形で専任スタッフがしっかり話を聞くということでも十分顧客満足度を引き上げられる可能性があるということです。
もちろんただ聞くだけでは世間話に終わってしまいますが、例えば昨今話題になっている特定看護師などによりこの段階で患者の振り分けなども行えるようになれば、「こんな専門外の患者に診察室に居座られても…」と辟易している医師達の負担軽減にも直接結びつけることも出来るでしょう。
最近では医療費削減のためか国も地域限定で色々と実験的な試みをしては効果を見るということをやっていますが、接遇面での改善にきちんとした評価基準が策定できるという前提で、それに対して適切な報酬体系を用意した上でこれまたどこかで実験してみてもおもしろいかも知れませんね。

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コメント

>興味深いことに過労に追い込まれた医師ほど訴訟リスクをより身近に感じているというのですから、実利的な意味からも対策を講じる必要性と意義は十分にあると言えそうです。

そんな病院、とっとと辞めちまえばよろしいw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年10月 2日 (火) 09時28分

バイトの健診医師に採血や心電図までさせてたんですか?
そりゃ今どきそんなことまでさせてたら医師が集まらないのも当然では?

投稿: ぽん太 | 2012年10月 2日 (火) 09時57分

資格が必要な仕事に資格を確認せず人を使った病院が悪いでしょ
まずは患者に謝罪と賠償だな

投稿: タラバ | 2012年10月 2日 (火) 10時26分

ものは言いようと言うのか、院長先生も78歳だそうですからこのあたりの言い回しはちょっとキレがなかったんでしょうかね。
むろん、少なからずマスコミによるバイアスもかかっているのでしょうが。

投稿: 管理人nobu | 2012年10月 2日 (火) 14時04分

放置したら死ぬしかない患者がまだ残ってるのに自分だけ逃げたのは事実
それで謝罪する必要はないって社会常識じゃありえないんだけど

投稿: | 2012年10月 2日 (火) 16時09分

釣れますかw?
…でしょうねえポイント間違ってるしw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年10月 2日 (火) 16時50分

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