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2012年10月12日 (金)

てんかん学会が更なる規制緩和を主張

ひと頃話題になったてんかん患者の交通事故問題ですが、世間の注目度が高まったせいもあるのでしょうか、現在に至るも持続的に報道が続いているようです。
注目されればより多くの事故が掘り起こされ、その結果ますます世間の注目が集まるというサイクルが形成されているようで、患者の権利拡張を叫ぶ一部団体の方々にとっては頭の痛いところでしょうね。

てんかん発作で車暴走 浜松の女性略式起訴/静岡(2012年10月2日中日新聞)

 浜松市東区植松町の国道152号で一月、自転車の女子高校生が歩道を暴走した車にはねられ重傷を負った事故で、静岡地検浜松支部は一日、九月二十八日付で、てんかん発作の予兆を感じながら運転したとして中区の元会社員の女性(44)を自動車運転過失傷害罪で略式起訴したと発表した。

 起訴状によると、元会社員は一月十四日午後二時半ごろ、乗用車を運転中、めまいや体の火照りを感じながら運転を継続。約二分後に発作を起こして意識を失って暴走、歩道にいた生徒をはねた。生徒は頭部外傷で一時意識不明の重体だった。

 浜松東署の調べでは乗用車は縁石を乗り越えて幅三メートルの歩道に進入。現場にブレーキ痕はなく、約二百三十メートル暴走して生徒をはねたあと、さらに三十メートル走って止まっていた

 捜査関係者によると、元会社員は医師の指示通り服薬していたとみられるが、事故前日は通常より遅い深夜まで働き、睡眠時間は普段より短かったという。当時勤務していたレンタカー会社のレンタカーを運転し、富士市内から浜松市内の営業所に移送する途中だった。

医師てんかん申告せず免許更新の疑い/千葉(2012年10月2日産経ニュース)

 持病のてんかんの症状を申告せずに運転免許証を更新し事故を起こしたとして、県警は2日までに道交法違反(免許証不正取得など)の疑いで、柏市船戸の綱川慎一郎医師(38)を書類送検した。

 送検容疑は昨年11月、以前てんかんで意識を失ったことを申告せずに免許証を更新し、3月に柏市若柴の市道で乗用車を運転して物損事故を起こした疑い。

 県警によると、綱川医師は数年前に発症し、平成21年ごろから通院。病院から運転をしないよう指示されたのに、車で通勤を続けるなどしたため7月に同容疑で逮捕し、いったん釈放して捜査を続けていた。

しかし医師と言えば患者に対して指導すべき立場でしょうに、自ら法規も医師の勧告も無視して事故まで起こすとは大変な不祥事ですが、こうしたケースはむしろ氷山の一角なのだろうとは以前から言われているところです。
先日カナダからNEJMに出た報告ですが、医師がてんかんなどの患者に対して運転制限等の指導や警告を行った場合、こうした患者による事故の発生率が半減したというデータが出たそうです。
ちなみに彼の地ではてんかんなど運転に支障のある患者については医師に報告義務があって、もし報告をせずに患者が事故を起こした場合は医師が責任を負わなければならないと言いますから、このことがきっかけとなって医師と患者の関係が悪化するというケースもままあるようですね。

日本でもこうした報告義務を設けるべきではないかという声は根強くありますが、現実問題として各疾患にどの程度の運転リスクがあるかという統計学的なデータがしっかりしていない以上、特定疾患だけを狙い撃ちにするような規制には根拠が乏しいと言わざるを得ません。
実際に前述のカナダなどではてんかんの他に睡眠時無呼吸症、高血圧、パーキンソン病など多様な疾患に関して報告を義務づけられているようですが、もともと国民の半数が高血圧ともいう日本でここまで範囲を広くすると実質的に免許を持っている全国民を網羅することにもなりかねず、果たして情報としての意味があるのかということにもなりかねませんよね。
そうした事情もあってのことでしょうか、現在のところではてんかん患者は免許の取得・更新時に患者自らが申告すべしというルールになっていて、何となく皆それでは不足なのでは?と不満には感じながらも許容しているような状況にあるのですが、そんな中で日本てんかん学会がこんなことを言い出したというのですから注目されないはずがありません。

てんかんの運転免許条件「緩和を」 学会が提言(2012年10月10日朝日新聞)

 【土肥修一】てんかんの持病がある人が車の重大事故を起こした問題を受け、日本てんかん学会(兼子直理事長)は運転免許の要件の見直しを求める提言をまとめた。現状は、免許取得にはてんかん発作が「2年間」出ていないことが必要だが、「1年間」に短縮。条件を和らげることで、正しい発作の申告につなげたい考えだ。

 10日、東京都内で開かれた理事会で正式決定した。

 提言では、免許取得に必要な発作がない期間について、現行の2年から1年に短縮するよう求めた。このほか、発作で更新が認められなかった人については、その後1年間発作がなければ、新たに免許を取り直さなくても更新で手続きが済むようにすることも盛り込んだ。

さすがにネット上では「寝言は寝て言え」だの「ちょっとは空気読め」だのとさんざんな言われようですけれども、規制を厳しくしていけば当然ながらそれをくぐり抜けようと嘘をつく人間が増えてくるということで、どの程度の規制の強度が最も把握率を高めるかについては確かに明確なデータはないわけです。
その意味ではまずなるべく多くの患者を把握した上で対策を講じようとするのも必ずしも間違っているとも言い切れないですし、実際に各学会らによる先日の検討会でもこのあたりに関しては大いに意見が割れていたようですね。

罰則規定、各学会に賛否 鹿沼6児童死亡で警察庁検討会2012年(9月20日下野新聞)

 鹿沼市の6児童死亡事故を受け、てんかんなど運転に支障を及ぼす恐れがある患者の運転免許取得のあり方を議論する警察庁の「有識者検討会」(座長・藤原静雄中央大法科大学院教授)の第5回会合が19日、東京都内で開かれた。

 日本てんかん学会など一定の病気に関する各学会等へのヒアリング結果が報告され、争点になっている持病を申告せずに運転免許を取得更新した人への罰則規定に賛否があることなどが明らかになった。提言書は10月中旬にもまとめられ、警察庁に提出される予定。

 ヒアリングの対象となったのは、日本てんかん学会のほか日本糖尿病学会など意識喪失などを伴う一定の持病に関係する各種団体。医師による通告制度の新設などをめぐり、それぞれ立場や考え方が紹介された。

 持病を申告せずに運転免許を取得更新した際の罰則規定に、日本てんかん学会は「事故を減らす実効性を有するか不明」などと反対。一方、日本睡眠学会は「申告を促す目的で限定的に適用するのであれば基本的に賛成」との立場だった。

 非公開の会合後に取材に応じた藤原教授は「各学会から多様な意見を頂いた。提言書に反映できるようにしたい」などと話した。

 委員らは一定の持病の疑いがあると判明した患者に対し、暫定的に免許の効力を停止する案についてもあらためて議論した。

もちろん理想的には何らかのリスクのある基礎疾患持ちはまずその事実をきちんと全数把握しておく、その上で事故率等のデータを集積し個別の対策を考えていくという手順が必要なのでしょうが、「それじゃあれだけの大事故がまた起こる危険性を放置するのか」という声が根強いのも確かですし、実際に飲酒運転などではまずは規制強化という流れで動いてきたわけですよね。
ただどうも気になるのは医療側専門家集団、警察や行政、そして患者団体な一般市民など、それぞれが自分たちの立場に立っていろいろと主張しているのはいいのですが、結局それらを統合してきちんと整合性ある対策としてまとめていく司令塔役がちゃんとしているのかという点が、どうもはっきり見えてこないことです。
いかにも日本的になんとなく皆の意見を聞き総花的な対策を講じましたで手打ちにしたのでは、飲酒運転厳罰化が飲酒事故軽減に役立っていないのでは?などと言われる愚を繰り返すことにもなりかねませんが、このあたりは単に国民世論や圧力団体の声に押されて受動的に流してしまっていい話ではないはずですよね。

根本的には患者が病気を隠すというのもそれが不利になると考えているからで、例えば身分証明書として当たり前のように免許証所有を要求するだとか、就職するなら車くらい運転できて当たり前だとか言った世の中の風潮を改めていかなければ本質的な解決にはならない気がします。
興味深いことに日本でも最近若者の車離れが話題になるほどですが、ヨーロッパ先進国などでも環境保護や経済性の観点から自家用車をやめて公共交通機関や自転車を利用しようという動きが広まってきていることがあり、いずれは車に乗らないということがむしろクールであるという価値観が広まる可能性もあるわけですね。
船や飛行機に乗れないことが特に大きな生活上のハンディキャップにはなっていないのと同様、車に乗らないことが別に不利益でもなんでもない社会になれば誰も持病を隠したりもしなくなるかも知れませんね。

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コメント

It can't be!

投稿: | 2012年10月12日 (金) 09時00分

てんかん学会の提言について。

仮にも学会の提言なのだから、きちんと学術的なエヴィデンスを示して欲しいですね。
さしあたり、
てんかん発作が1年間見られなかった後に発作が出現する確率
てんかん発作が2年間見られなかった後に発作が出現する確率
この程度のデータは出せないとお粗末でしょう。

基準が以前より具体化していて迷う要素が減っている点は肯定的評価できるんですけれどね。
http://square.umin.ac.jp/jes/images/jes-image/drivrepropose2012.pdf

投稿: JSJ | 2012年10月12日 (金) 10時02分

またてんかん協会かと思ったらこれ、てんかん学会が言っててびっくり。
報道バイアスがかかっているかも知れないけど、ちょっと学会のコメントというには根拠にも乏しい話だなって感じます。
これじゃ社会からはとても理解は得られないんじゃないですか?

投稿: ぽん太 | 2012年10月12日 (金) 10時17分

条件を緩和するかわり、事故起こしたら有無を言わさず死刑にすればよろしいw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年10月12日 (金) 10時42分

とにかくデータが欲しいと思います。
データもそろわないのに根拠に乏しいまま前提条件ばかり変えられたんじゃまともな検証なんて不可能でしょう。
なぜてんかん学会がこの時期にこんなことを言い出したのか、根拠があることなら先にそれを出してくれればまだしも理解できるんですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年10月12日 (金) 11時12分

あるいは規制強化既定路線化が先にあって危機感を抱いての提言なのかも知れない

投稿: kan | 2012年10月12日 (金) 11時25分

失礼だがてんかん学会の先生方の頭が心配

投稿: 三毛 | 2012年10月12日 (金) 17時23分

ところで祇園の暴走事故は結局てんかんのせいじゃなかったかも知れないって言ってますな
でもまともな状態なのにあんな事故起こすようじゃよけいに運転適正なかったってことなのでは
この様子じゃ運転免許試験ももう少し厳しくすべきだって声も出てくるかもです

祇園暴走事故から半年 容疑者死亡で真相究明の壁高く
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121012-00000542-san-soci

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年10月12日 (金) 18時29分

患者データは男性と女性を混同して癲癇を考えてほしくない!!女性は妊娠をするんです★知人は①妊娠前に退職、運転免許の返却②妊娠中に胎児への副作用を避け薬の量を減③妊娠中に発作あり。……僻地なので免許はいつか取りたいそうです。実際、子供が熱をだして旦那が帰ってくるまで連れていけずに熱性痙攣を起こしてしまったそうです。都会の人は簡単に引っ越ししたらいいとか言うけど、ムカつく。てんかんだからって子供産んだこと後悔させるような世の中にしないでください。子育て必死にやってるんです。

投稿: 2699 | 2012年10月25日 (木) 18時23分

↑ もう少し落ち着かれたほうがよいかと思います。
感情むき出しのコメントを書いても、余計な反感を買う効果しかないと思います。
あるいは「釣り」でしたら他所でやっていただけたら、と思います。

投稿: JSJ | 2012年10月25日 (木) 19時31分

明日また少しこのネタを取り上げる予定です。
非常に難しいところに差し掛かっているのは確かですね。

投稿: 管理人nobu | 2012年10月26日 (金) 12時46分

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