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2012年9月13日 (木)

さらなる医学部定員増が意味するもの

かねて医師不足が言われている中で医学部定員が近年大幅に増やされていることは周知の事実ですが、その割には医師不足が解消されたという声はさほどに挙がっていない印象があります。
もちろん定員増の効果が本格的に現れるにはまだ時間がかかるのは当然なんですが、単純に定員を増やせば全体に医師の数が均一に増えていくというわけではなく、やはり従来から医師不足が言われていた現場には相変わらず人手が集まっていないという状況から見る限り、医師の情報収集能力もそれなりに高まってきたということなんでしょうか?
臨床の第一線におけるいわゆる現場仕事以外にも研究職や公衆衛生関連など、医師という人材が求められている潜在需要がそれだけ大きかったということもあるのでしょうが、そんな状況の中で特に医師不足が言われる地域からの突き上げが続いているのでしょうか、先日こんな記事が出ていました。

医師不足解消狙い定員増へ 東北などの医学部(2012年9月10日東京新聞)

 文部科学省は10日、医師不足や地域による偏在を解消するため、1校当たり125人が上限の医学部の入学定員を一部の大学に限り、来年度から増やす方針を固めた。

 対象は東北地方などで定員が120~125人の国公私大で、増加人員は全体で数十人程度。10月末ごろまでに対象校や人数を決める。今春、国公私大79校で8991人だった医学部定員は、増員によって今後、9千人以上になる見込み。

 65歳以上が日本の人口に占める高齢化率は2060年に約40%に達し、医療ニーズが広がる見通しだが、東北地方を中心に医学部定員が上限に達し、医師確保策を望む声が高まっていた。(共同)

医学部定員上限引き上げる方針取りまとめ- 厚労・文科省(2012年9月10日CBニュース)

 厚生労働省と文部科学省は10日、地域の医師不足を解消するための方針の「地域の医師確保対策2012」を取りまとめた。同方針には、十分な教育環境が整っている場合に限り、13年度の医学部の定員を、暫定的に126人以上に引き上げることを認めることなどが盛り込まれた。

 医学部の入学定員は、08年度から毎年増加。卒業後に地域医療に従事することを条件付ける「地域枠」を設置する場合や、複数の大学で連携して研究医の養成拠点をつくる場合などに増員が認められたことで、07年度に7625人だった医学部全体の定員は、12年度に8991人まで増えた。
 一方、同省の省令は、大学医学部の定員数を1校125人までと定めており、12年度は、東北地方を中心に、9大学の定員数が上限に達していた。両省は同方針の中で、「十分な教育環境が整った大学」に「125人を超える定員増を可能とする」ことを明記した。

 また、出産や育児などで離職している女性医師などの復職支援策を強化し、▽医学生へのキャリア教育の導入▽病児・病後児保育、0歳児保育、24時間保育の推進▽複数主治医制の導入推進-などで、文科省が来年度に1億5000万円程度ずつの予算事業を実施するなどとした。
 このほか、方針には、今後の社会保障全体の在り方の検討や、これまでに医学部定員を増やした効果の検証結果などを踏まえて、医学部新設やメディカルスクールについて引き続き検討することや、地域の病院や「地域医療支援センター」と連携して医師養成などを行う大学の支援を検討することなどが盛り込まれた。【佐藤貴彦】

記事中にあるように厚労省と文科省が共同で取りまとめた「地域の医師確保対策2012」についてはこちら同省HPを参照いただきたいと思いますけれども、その冒頭部には「基本的な考え方」としてこんな文言が掲載されています。

地域の医師確保のためには、文部科学省・厚生労働省の密接な連携の下、医師養成の現状や高齢化等の社会構造の変化を踏まえた取組が必要。このため、医師のキャリア形成支援という視点に基づき、医師の偏在解消の取組、医師が活躍し続ける環境整備及び医療需要の変化に対応した人材育成を行うとともに、医学部定員の増を行う。あわせて、東日本大震災の被災地における医師確保の支援を行う。

すなわち今回の対策においては偏在解消や医療需要の変化に対応して医師を育てていく手段として医学部定員増を行うということですけれども、中でも特記して被災地支援という文言が盛り込まれていることからも当面まずは東北諸県での医学部定員増ということになったということで、今後さらに自治医大など全国の「十分な教育環境が整った大学」で定員増が認められる事になるのでしょうか。
定員増については地域や大学からの要請上も可能な大学には認めるというのは妥当なところかなとも思うのですが、偏在解消を目的とするのであれば単に地域の医学部定員を増やしただけでは全く不十分であるということはすでに明らかになっている中で、どのように増えた定員を地域に還元していくのかが最大の課題になってきます。
「対策2012」ではこれに対して1)地域枠の活用、2)入試等で地域医療を志す学生を選抜、3)地域医療に情熱を燃やせる教育の充実などの露骨な(苦笑)学生囲い込み策と平行して、専門医取得などに配慮した研修プログラム等地域医療従事者に魅力ある体制構築を求めていて、特に随所に出てくる「優れた取組を行う大学に対する支援を検討」という文言が何を意味するのかが気になりますね。
仮に大学の間でも地域医療に対する貢献度に応じて何らかの格差が設けられていくということになると、例えば「おたくの大学は地域医療頑張っていないから定員減らしてね」なんてことを言われれば関連病院が悲惨なことになるのは明らかですけれども、逆に言えば文科省とタッグを組めば厚労省単独で行う以上に医療現場に強力なプレッシャーをかけられるということでもあります。

その他には例によって女性医師らの復職を容易にするだとか、チーム医療を推進し勤務医負担を軽減するための方策を考えるといった以前から言われてきた対策も列挙されていますけれども、これらはどうやってそれを実現するのかというところですっかり足踏みしている話ばかりですから、まずは実効性あるプランを練り上げていかないことにはいつまでも画餅のままというものですよね。
なお、今回の「対策2012」中では「今後の社会保障全体の在り方の検討や、これまでの定員増の効果の検証等を踏まえ、引き続き検討する」こととされている医学部・メディカルスクール新設に関して、むしろ注目すべきなのはこちらのニュースなのかなと思うのですが、平野文科相のコメントを記事から紹介してみましょう。

当面の医師不足解消に「医学部新設ない」-平野文科相(2012年9月11日CBニュース)

 平野博文・文部科学相は11日の閣議後の記者会見で、地域偏在による当面の医師不足解消策について、医学部を新設せず、育児などで現場を離れている女性医師を復職させたり、医学生の教育体制が整っている大学医学部などの定員を増やしたりすることで対処する考えを示した。

 平野文科相は、医学部の新設に賛否両方の声が上がっていることを指摘。当面の医師不足解消のため、「むやみな定員拡大は、質の問題を含めて慎重にしなければならない」とした上で、「それぞれの大学における設備、教授陣等々の内容が、可能なキャパシティーの所。ならびに、地域における偏在を解消できるという所については、定員枠を広げて対処する」と述べた。また、医療現場で働いていない医師の復職を促すため、医師の働きやすい環境づくりも併せて行うとした。

 同省が前日、厚労省と合同で取りまとめた「地域の医師確保対策2012」では、現行の1校125人の定員上限を超える定員増を、十分な教育環境が整っている大学には来年度から認めたり、出産や育児で離職している女性医師などの復職支援のための取り組みを、より充実させたりする方針を盛り込んだ。医学部新設やメディカルスクール創設については、今後の社会保障全体の在り方の検討状況や、これまでの医学部定員増の効果の検証結果などを踏まえ、引き続き検討することとした。【佐藤貴彦】

もちろん終わりつつある政権の大臣が何をコメントしたところで次の政権ではひっくり返る可能性も少なからずありますけれども、失礼ながら医療行政に通じているとも思えない大臣がいきなりこうしたデリケートなテーマに独断で言質を与えるとも思えないところですから、これは厚労省内で検討された結果の反映であると考えておくべきなのでしょう。
医学部新設については様々な議論があるのは周知の通りですが、少なくとも毎年4000人という単位で医師が増えている中でたかだか新設によって定員100人程度が増えたところでさしたる劇的な影響はないはずで、それよりも医師の就労先を実質的にコントロールするための対策が優先されるべきだというのは(彼らの立場からすれば、ですが)全く妥当な判断だとは思います。
その意味でも「地域医療への従事を条件とした奨学金、選抜枠の設定(地域枠)を行う大学の入学定員の増員」だとか、「歯学部入学定員を減員する大学についての医学部定員の増員」など露骨な文言が並んでいるというのは、彼らが公的な医師配置の管理に対して並々ならぬ決意を持って当たってきているということを示してもいるのでしょうね。
こうなると現場で働く医師達にしても何故こういう事態になっているのか、それを解消するためにどこをどう改めてもらえばいいのかということをきちんと意見していかないと、意味不明で実効性にも乏しい医師不足解消策なるものを押し付けられさんざん振り回された挙げ句、最後にはこれだけやってもダメだったのだからと公権力による医師強制配置を押し付けられて終わりということになりかねません。

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コメント

医学部新設の前に今ある大学ポストの整理も必要なのでは?
この調子で講座ばかり増えていけばますます医師不足助長しかねない気が

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年9月13日 (木) 09時18分

日医は定員増を評価してるらしい
いったいどこまで増やさせるつもりなんだろう?
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/38097.html

投稿: | 2012年9月13日 (木) 09時40分

かつては医師を増やすなと言ってた方々が今さら何を言い出すやらです。
当時医学部定員を絞ってなければ現状はなかったかも知れないのに。

投稿: 管理人nobu | 2012年9月13日 (木) 10時48分

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