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2012年9月10日 (月)

高齢出産時代に向けた技術的進歩は何をもたらすのか

医療の世界も技術は日進月歩ですが、安全性評価等でなにかと時間のかかりがちな治療技術に比べますと、診断技術の方は開発されてから臨床現場で行われるまでのサイクルが随分と短く、特に元々自費診療の出産関係では保険収載されずとも自費でという需要がそれなりにあるのでしょうね。
高齢出産全盛期になってそれだけ需要が増しているということなのでしょうか、先日は採血一つでダウン症がたちどころにピタリと診断出来るという新検査法が登場したと紹介したところですが、本日まずはこれまた微妙に議論を呼びそうな新しい検査法が臨床現場で用いられるようになっているというニュースを紹介しましょう。

あなたは何歳まで子供産めるか?残り卵子を1分で検査―妊娠限界年齢判定(2012年9月6日J-CASTニュース)

「女性のみなさん、自分が何歳まで子どもを産むことができるか考えたことがありますか」。キャスターの菊川怜が真剣な表情で語りかける。検査によって、女性それぞれの持っている卵子の数が分かるようになってきたのだ。その最前線をレポートした。

女性一人一人で違う減少スピード

独身女性のAさん(32)は「結婚してすぐに子どもが産めるかどうか、一度測ってみたかった」と不妊専門クリニックを訪ねた。Aさんが測ってもらうのは卵子の数。アンチミューラリアンホルモン(AMH)を調べるこことで、自分に残された卵子の数がわかるのだ。それによって、自分が何歳ぐらいまで子どもが産めるか知ることができる。検査の方法は血液の採取だけなので約1分で終わる。結果が分かるのは1週間後である。

一般的に女性は200万個の卵子を持って生まれてくる。しかし、そこからは減少する一方で、初潮が始まる12歳では30万個、その後も1回の月経周期に約1000個ずつ減っていく。子どもを産むには数だけでなく、質も重要だ。卵子は年齢とともに古くなり、20代前半を境に妊娠する可能性も低下していく。

Aさんの結果は「AMHの値1.77ng/ml」。個人差があるが、適正値は2.8~5.6ng/mlといわれ、Aさんの卵子の数は同年代の約半分だった。32歳の一般的な女性の卵子の数は約6万個だが、Aさんは約3万個。子どもを産める時間がそれだけ短くなるということだ。医師は37~39歳を妊娠の限界と考えてほしいアドバイスする。

不妊専門クリニックで5000円~1万円

こうした検査を受ける女性が増えている背景には、晩婚化による高齢出産の増加がある。夫婦でクリニックを訪れた人もいる。仕事を持っている34歳の妻がまだ仕事を続けるべきか、それとも出産を先にすべきか知りたかったためだ。

アナウンサーの森本さやかが言う。「いま高齢出産が当たり前みたいになって、有名人の高齢出産のニュースが伝えられますと、それを見て、私も、と思っても、そうできない人もいるわけです。この検査はいつ子どもを産むか、人生設計を考える目安になります」

司会の笠井信輔が菊川に聞く。「あなたは何歳まで産めます。あなたの卵子は多いです、少ないですって、知りたい?」

菊川「いやあ、正直、今わからないですよ」

「日経ウーマン」発行人の麓幸子さんは「まず正しい知識と情報を知ることが一番大切です。それによって、人生の選択肢や優先順位を考えることができる。これまで望まない妊娠をしないための情報はいっぱいあったが、望んだ場合の情報があまりなかった」という。

この検査は全国の不妊専門のクリニックで受けることが可能で、費用は5000円~1万円で、保険適用なしだそうだ。

試みに「アンチミューラリアンホルモン」でググってみますと、検査をやっていらっしゃるクリニックのサイトと並んで「AMHがゼロと言われた!もう妊娠できないってこと?!」なんて切実な疑問も出ていて何とも言いがたいのですが、正直本当にギリギリのところにいらっしゃる方々にとってはなかなかに微妙な問題をはらんだ検査という気もします。
補足するならば卵子の数の目安となる検査がこのAMHですが、妊娠のしやすさはもう一つ卵子の質と言うことも重要で、仮にAMHがまだ高く年齢不相応に(失礼)卵子の数は多くとも質が悪ければ妊娠しづらい、一方比較的若年からAMHが低くなってくる人もいますが質が保たれていれば案外妊娠は出来たりと、これ一つで妊娠可能性を全て説明出来るというものでもないようです。
いずれにしても「際限なくお金がかかる。いつまで続ければいいのか」と言う声もある生殖補助医療において一つの目安になる指標であるはずですが、実際にこうしたことを気にする人達というのは当然自然妊娠が厳しい状況であるにも関わらず出産希望の方が多いと思われますから、「あなたはちょっと厳しいですよ」と言われてそれじゃもうやめときますという気にはならないかも知れません。

さて、一般論として診断技術というものはそれが治療に関与するようになって初めて意味が出てくるものであって、例えば何ら積極的治療を希望されない寝たきりの御老人の肝腫瘤が原発性肝癌なのか転移性肝癌なのかと各種検査を駆使して鑑別を試みたところで、余計な医療費と患者さんご家族さんの心身の負担が増すだけと言うものですよね。
その意味ではこうした不妊関連の諸検査もそれによってどのような治療法が選べるのかという段階に至って初めて本当に意味が出てくるのだと思いますし、検査結果によってそれぞれこうした方針が取り得るという情報提示なくして無闇に行われるべきものでもないと思いますが、先日のダウン症出生前診断においてもまさしくその部分の徹底が必要だと言う意見が多数派であったようです。
そうした大前提に同意した上で、ということなのでしょうか、先日医師専門サイト「メドピア」でこうした調査が行われたのですけれども、結果だけを見ますと思わぬ大差がついたという形だったと言う点は意外と受け取るべきなのでしょうか。

新出生前診断に80%肯定的 医師向けネット調査で(2012年9月7日47ニュース)

 医師向けコミュニティーサイトを運営するメドピア(東京)は7日、おなかの中の子どもが染色体異常のダウン症かどうか、妊婦の血液で高精度に判定する新しい出生前診断の普及に、約80%の医師が肯定的だったとするネット調査の結果を発表した。

 サイトに登録する医師約5万人のうち、呼びかけに応じて8月31日~9月4日に回答した2353人分のデータを集計した。同社は「自主的に回答した一部の医師の考えで、医学界全体の声を反映したものではない」と断りつつも「これまで実施したネット調査と比べて回答の集まりが非常に良く、関心の高さがうかがえた」と話している。

サイト自体は医師限定の会員サイトですので直接一般の方が閲覧することが出来ませんがこの調査、「新型の出生前診断の国内への導入・普及を、どのように考えますか?」というかなり自由回答に近い形式であったようなんですが、反対は全体のわずか6%であったと言いますから圧倒的と言っていい結果ですよね。
正直もう少し意見が割れるものかと予想していたのですが、わざわざネットでこうしたサイトに登録するような方々という点で多少なりともバイアスがかかったということなのでしょうか、ともかくも別ソースから結果を引用させていただきましょう。

メドピア、医師対象に「新型の出生前診断」に関する調査結果を発表(2012年9月7日日経プレスリリース)より抜粋

(略)
調査内容:妊婦の血液から胎児の染色体異常を判断する「新型の出生前診断」に関する調査
調査期間:2012年8月31日~2012年9月4日
有効サンプル数:2,353サンプル
対象:医師(全診療科目対象、MedPeer会員医師、全国の医師)

<調査結果(要旨)>
 ・約8割は、国内導入・普及に肯定的な見解(「賛成」、「一定の条件を設けたうえで、賛成」)
 ・約4割は、検査条件は可能な限り緩和されるべき等、積極的な賛成意見(「賛成」)
 ・「反対」は5%未満に留まる

 ※グラフ資料などは添付の関連資料「リリースの詳細」を参照

(産婦人科医のみ抜出)
 ・90%(84人)は、導入・普及に肯定的な見解(「賛成」、「一定の条件を設けたうえで、賛成」)
 ・44%(41人)は、検査条件は可能な限り緩和されるべき等、積極的な賛成意見(「賛成」)
 ・「分からない、きめかねる」「反対」は10%(9名)
(略)

これこれの検査をしていいか?してはならないか?と言われれば、個人の選択の自由を保障する意味でもそれは一律に禁止するのもおかしいだろうと言うもので、一般論として考えても反対とも言いにくいだろうなとも思うのですが、賛成意見を見てみますとどうせ希望者はやるのだし、羊水穿刺よりもリスクがないのだからいいじゃないかという現実的な声も多いようです。
結局のところ医療側が何と言おうが障害者の親となるのは妊婦の側ですから、産まれた後の事を考えると様々な事情を承知した上でそれでもと言う希望者にまで無碍に拒否するのは難しいのも事実ですが、そうした点を考えるとむしろ数少ない反対意見の論点がどこにあるのかが気になりますよね。
見ていておもしろいのは内科など他診療科の医師は「胎児の権利」だとか「親の責任」といった倫理面からの反対意見が並んでいるのに対して、当の産科医の意見はやはり現場でどうするかという判断に直結するためかずいぶんと即物的に見えるということでしょうか。

「判らない、決めかねる」より抜粋

偽陽性の多さを皆さんがどれくらい認識して検査を希望するか、そこらが非常に危うい気がします。本当は陰性なのに偽陽性だったと言うだけで中絶したりしそうで。(50代、産婦人科)
・ 精度が高いことは、本当は異常がないのに中絶されていたケースも多々あることを思うとよいと思います。ただ、このような検査、異常のある場合の中絶が普通になっていくのがよいのかどうかはわかりません。(30代、産婦人科)

「反対」より抜粋

・ 出生前診断はやむを得ないが、今回のターゲットはダウンと他2種類のみで、意図するかは別であっても明らかにダウンがメインターゲットになってしまうから。(50代、産婦人科)
・ 料金が高すぎるし、3種だけで良いとは思えない。(50代、産婦人科)

数ある異常の中でもダウンだけをという点にひっかかりを覚えるのも確かなんですが、実際問題妊婦の高齢化が進んでダウンのリスクが上がっているというのもあるでしょうし、何しろ有名な異常だけにどうしても注目を浴びざるを得ないということはあるかと思います。
ただダウン症児などは知的障害を持つとは言えいかにも子供らしい子供達なのに、何もそんなに目の仇にせずとも…という声も根強くあるわけですから、当面ごく限定的に対象を絞って検査を行っていくということであれば可能な限り障害児の実際というものをも理解してもらった上で判断出来ればいいですよね。
一番良くないことはこうした出生前診断が過度に行われた結果世の中から障害児というものの存在自体が表立って見えなくなってしまい、その実態を知らないことの結果として彼らに対する妙な誤解や偏見が蔓延してしまうことではないかと思います。

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コメント

>・ 料金が高すぎるし、3種だけで良いとは思えない。(50代、産婦人科)

料金高すぎますかね?
これで一回数千円也だったら全員が検査を希望して産科の先生方が大変なのでは?

投稿: ぽん太 | 2012年9月10日 (月) 09時36分

子供と親の人生がかかっているのに高すぎるということはないと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年9月10日 (月) 10時40分

ダウン検査を受ける親は異常値があれば中絶をするという前提だろうが
AMHを人生設計のために調べるという患者がどれほどいるものだろう
低値だと言われて救済はあるのかどうか?

投稿: kan | 2012年9月10日 (月) 11時49分

>異常のある場合の中絶が普通になっていくのがよいのかどうかはわかりません

異常があれば即中絶がいいのかどうかどうかよりも、中絶しないのに検査を受けることがいいのかどうかなのでは?
結果がどうなっても妊娠継続するなら検査を受ける必要がないだろうに

投稿: まめっこ | 2012年9月10日 (月) 14時34分

でもあらかじめ心の準備がいるかも知れないし

投稿: | 2012年9月10日 (月) 19時32分

タレントでパーソナリティーの坂上みき(53)が10日に第1子となる男児を出産していたことが分かった。

投稿: 流行ってンの? | 2012年9月11日 (火) 15時02分

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