« 難病との戦いにこそ先立つものと正しい知識が重要 | トップページ | 今日のぐり:「あっぱれ すし丸 鶴新田店」 »

2012年9月 8日 (土)

日医にとっての理想的な医療は社会にとって?

先日は患者側も医療費負担で苦労しているという話を紹介しましたが、実際のところどの程度の影響があるのかを日医がこのたび調査したという記事が出ています。

経済的理由による受診控え、3割負担患者の1割が経験(2012年9月6日日経メディカル)

 日本医師会は9月5日の定例会見で、患者の窓口負担に関するアンケート結果を公表した。調査では、3割負担の患者の7割近くが窓口での支払いに負担を感じており、過去1年間に経済的な理由で受診しなかったことがあると回答した患者も約1割いたことが明らかになった。受診しなかった患者の半数以上は、受診控えによる症状悪化を経験していた。

 日医常任理事の石川広己氏は「患者負担割合と受診行動が密接に関係していることが分かった。診療へのアクセスを妨げられないよう、今後も患者負担の引き上げには反対していく」と話した。

 調査は、日医が会員の中から医療機関の開設者、管理者を地域ブロックごとに無作為に抽出して調査票を発送。各会員が外来患者に調査票の記入を依頼した。調査票は診療所765施設、病院74施設に配布し、回答率はそれぞれ43.9%(336施設)、41.9%(31施設)だった。

 外来受診の窓口での支払いについては、3割負担の患者の66.5%、2割負担の患者の58.3%、1割負担の患者の38.2%が「負担」と感じていた。過去1年間に経済的な理由で受診しなかったケースは、3割負担の患者では11.5%、2割負担の患者では10.2%、1割負担の患者では6.6%が「あった」と回答した。受診を控えた結果、症状が悪化したことが「ある」と答えたのは3割負担の患者の6.5%、2割負担の患者の7.1%、1割負担の患者の3.4%で、いずれもその過半数が受診控えによる症状の悪化を経験していた。

 今後、窓口での支払い額が増えた場合には、3割負担の患者の50.8%、2割負担の患者の52.7%、1割負担の患者の33.0%が「受診回数を減らしたい」と答えた。特に、これまでに一度でも受診を控えたことがある患者では、「受診回数を減らしたい」と回答した人が79.7%に上った。受診を控えたことのない患者で「受診回数を減らしたい」と回答したのは40.5%だった。

 調査結果を踏まえ、石川氏は「1割負担と2、3割負担の患者では負担感や受診行動に明らかな違いがある」と指摘。特に2、3割負担の患者では経済的な理由による受診控えを1割以上が経験していたことや、一度でも受診控えを経験した患者では今後の負担額が増えた場合も受診回数を減らしたいという回答が多かったことから、「受診時定額負担をはじめとする患者の負担額の引き上げにより、患者の受診抑制が広がる可能性もある。さらなる負担引き上げは慎重に検討しなければならない」と訴えた。

しかしこの調査、1割負担や2割負担の患者というと企業等が補助を出しているといった例外的なケースを除けば高齢者だったのではないかと思うのですが、年齢と共に有病率も高くなるのですからきちんと年齢補正しないことにはまともな結果は出ないんじゃないかと思いますけどね。
特に日医の場合は「だから窓口負担を減らして治療費は公費負担とするべきだ」と主張しているわけですが、そうであるならこの調査は「窓口負担は減らす代わりに税金や保険料は今まで以上に沢山とりますがよろしいですか?」という話も合わせて行わなければならないはずなのに、単に「窓口負担が高くなったら病院にもかかりにくいですよね?」と言われればそれは誰だって「まあそうですよね」と答えるのは当たり前のことです。
元々受診するような金も暇もない若年層の中には近年「何故使いもしない保険証のために毎月高いお金を支払わなければならないのか」という不満が鬱積し、場合によっては国民皆保険制度の破綻にもつながりかねないと危惧されている中で、日医のこうした姿勢は主義主張のためとは言え何とも中途半端あるいは為にする議論のための恣意的調査と言われても仕方がないでしょうね。

さてそんな日医ですが、記事中にもあるようにこうした調査を行う意図として「診療へのアクセスを妨げられないよう」にとはっきり明言しているのはよいことで、結局窓口負担が増えるとお客さんが減ることが彼らにとっての大問題であると言うことなんですが、しかしそもそも医学的に適正な受診回数と患者にとって望ましい受診可能数とが必ずしもイコールであると考える根拠はないわけです。
それは誰だって料金が高いよりは安い方がいいでしょうし、窓口負担が高ければそれだけ不要不急の受診を控えようかと考えるのは当然ですが、医療費無料の生活保護受給者などは常識的にもあり得ないような過剰診療が問題化してきている一方、高齢者による病院外来の集会所化も長年の懸案とされている中で、そもそもどのくらいが適正な受診と言えるのかという評価抜きに議論するのは不可能でしょう。
例えば日医が利益を代弁してきた開業医などでは、未だに安定期の慢性疾患持ちの高齢患者に二週間処方などを続けていたりしますが、本来ならばより不安定な患者が多く密な診療が必要なはずの基幹病院があまりに多忙すぎて二ヶ月、三ヶ月毎の受診にせざるを得ないといった状況にあることを思う時、何かがおかしいと言わざるを得ないですよね。
一方で国の方も国の方で医療費抑制という自らの主義主張実現のために為にする議論を繰り返してきた訳ですからどっちもどっちですが、そんな国と顧客を増やし医療費を沢山使いたい日医との間で話が合うはずもなく、先日の厚生労働白書にこんなことを言ってかみついています。

日医、厚生労働白書の問題点を指摘- 「社会保障に関する国民意識調査」引用で(2012年9月5日CBニュース)

 日本医師会(日医)の石川広己常任理事は5日の記者会見で、8月28日に発行された厚生労働白書で引用している「社会保障に関する国民意識調査」の「所得の高い人は、所得の低い人よりも、医療費を多く払って、よりよい医療を受けられる」との考え方が正しいとする国民が半数近くに達しているとの記述について、「公的医療保険の給付の範囲縮小に向けて、調査が恣意的に活用されたものと考えざるを得ない」と述べ、調査手法などに問題点があるとの認識を示した。

 厚生労働白書と同じ28日に発表された「社会保障に関する国民意識調査」と白書について、石川常任理事は、▽医療を直接的に質問した項目はほとんどないにもかかわらず、白書は、国民が所得の違いによって医療に格差が生じることを容認しているという結果を強調▽民間会社のネットリサーチに登録したモニタに回答を依頼しており、このサイトの登録者が国民を代表しているか疑問▽先進諸国との比較と日本の経年比較が掲載されているが、その調査と今回の調査は手法が異なる―などの問題点を列挙した。

 石川常任理事は、「手法が異なる調査結果を一つのグラフにして比較したり、各国で公的医療保険制度が大きく異なるにもかかわらず表面的かつ第三者的な考察を行うなど、初歩的な課題がある」と指摘。さらに、今年4月に発表された日医総研の「日本の医療に関する意識調査」を引用し、「所得の高い低いによって、受けられる医療の中身が異なるのはやむを得ないという考え方に賛同する国民は1割強にとどまっており、増加傾向は見られない。日本人は、所得によって受けられる医療に格差のない社会を望んでいることは明らかである」と述べた。【新井哉】

この「社会保障に関する国民意識調査」はこちら厚労省のHPから参照いただけますが、無論医療のみを対象にしたものではないのはその通りとして、日医が噛みついているのはその中の「所得の高い人は、所得の低い人よりも、医療費を多く払って、よりよい医療サービスを受けられる」という問いに賛否を回答した部分であるようです。
諸外国と比べると「正しい」という回答が多かったというのですが、よく見ると注釈部分で「日本では約5割の高所得者が良い医療サービスを受けられるのは正しいと思っており、先進諸国で最も多く、背景には、医療の平等性に関する意識の違いがあると考えられる」と書いてあって、どうもこれ自体は「生保受給者が一番良い医療を受けられる」という現状への不満でもあるようなんですね。
先日紹介しましたように「自腹を切ってでもよい医療を受けたい」という高額所得者向けの医療サービスが徐々に増えてきていることを考えるとき、日医の考える「誰も彼も全く同じ医療しか認めない。お金を余計に払ってよりよい医療を望むなど以ての外」という考え方が果たして国民の望むところとなっているのかどうか、もう一度再検討された方がよろしいのではないでしょうか。
ところでこの意識調査、社会保障全般について高齢者ほど負担を増やしても給付の充実をと訴える一方、特に若年者ではこれ以上の負担増は許さないという声が強いということなんですが、実際に負担をする者とその恩恵にあずかる者が誰なのかということを考えた場合になかなか興味深い結果でもありますよね。

いずれにしても厚生労働白書にもあるように日本の医療費は公的負担はOECD諸国並み、一方で民間負担は低く全体としてはやや低めという水準なんですが、逆に言えば日医の言うように現状でもすでに多めになっている公的負担のみをどんどん肥え太らせるというのもおかしな話で、何か別の方向を模索しなければならないのではないかと思われるところです。
医療費が非常に高くついていることで有名なアメリカなどは医療のコスト意識が非常にシビアになっていて、今春に米国9学会がお金がかかるばかりで有益でないばかりか時に有害ですらあるという「不要な検査リスト」なるものをリストアップしていたりもするのですが、そういう意味で日本ではまだ医療コストということに現場も患者も意識がおいついていないところがありますよね。
その理由が誰でも好きに病院に受診でき、望むだけの医療を上限定額で受けられる国民皆保険制度そのものにあるのだとすれば、日医の考えている「理想的な医療」とは無駄なコストの削減とは全く真逆に向いているように感じられますし、結果として必要な部分にコストが十分回らないということにつながっているとも言えそうです。

|

« 難病との戦いにこそ先立つものと正しい知識が重要 | トップページ | 今日のぐり:「あっぱれ すし丸 鶴新田店」 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

×日本人は、所得によって受けられる医療に格差のない社会を望んでいることは明らかである
○日本人は、所得に関わらず最良の医療を受けられる社会を望んでいることは明らかである

平等であっても低レベルな医療しか受けられないなら誰がそんなもの支持するかってw

投稿: aaa | 2012年9月 8日 (土) 10時43分

まぁ結局はそういうことなんでしょう
イギリスじゃ誰でも受けられるが質の低い公的保健医療を受けるか、それが嫌なら自分で金出していい医療受けなさいって二本立てで医療満足度は日本よりずっと高いって事実があるんだけど
ところが医師会はそういう患者の選択権を用意するのもいけないって考え方だからねえ

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年9月 8日 (土) 11時15分

日本の場合、いくらでもそれなりの落としどころはありそうなんですけどね。
総合感冒薬はいい加減保険で処方するのをやめた方がいいと思うのですが・・・そういう現代医療に照らし合わせてどうよ?って部分を削るだけでも結構医療費が削れるのではないかなと。

投稿: クマ | 2012年9月 9日 (日) 08時24分

日医がダメだと判っていてもそれに代わってしっかりした意見を発信出来る団体が育っていないですからね。
個人レベルについて言えば組織化する必要はないと言う意見が優勢なんですが、日医があの程度のことを言ってドヤ顔しているのも見てて不愉快です(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2012年9月10日 (月) 10時38分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/55600061

この記事へのトラックバック一覧です: 日医にとっての理想的な医療は社会にとって?:

« 難病との戦いにこそ先立つものと正しい知識が重要 | トップページ | 今日のぐり:「あっぱれ すし丸 鶴新田店」 »