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2012年9月14日 (金)

医師偏在解消へ新専門医制度の役割

先日も医学部定員をさらに増やすというニュースをお伝えしたばかりで、医師の数は毎年4000人ずつ増えているという状況ですけれども、不足だ不足だと言われる診療科では必ずしも順調に人手が増えてきてはいないというニュースが先日出ていました。

産婦人科医の現状認識、「停滞局面」に移行- 日産婦会の意識調査(2012年9月10日CBニュース)

 日本産科婦人科学会はこのほど、現場の産婦人科医に現状認識などを尋ねた「産婦人科動向意識調査」の結果を公表した。調査結果によると、1年前に比べて産婦人科の状況が「良くなっている」は30%で、「悪くなっている」の10%を大きく上回った。しかし、2008年の調査開始時と比べると、「変わらない」がほぼ倍増した一方、全体で見ると、昨年から「良くなっている」の割合が減少し続けており、同学会は、産婦人科の状況が「足踏み状態」から「停滞局面」に移ったとみている。

 調査では、08年から毎年、産婦人科専門医研修指導施設の産婦人科責任者を対象に質問をしている。5回目となる今年の調査では、対象723施設のうち349施設から回答を得た。回答率は48%。

 調査結果によると、産婦人科全体の状況が1年前より「良くなっている」と答えたのは30%(「良くなっている」2%、「少し良くなっている」28%)で、10年に43%の最高値を記録して以来、2年連続で減少している。一方、「悪くなっている」と答えたのは11%(「悪くなっている」1%、「少し悪くなっている」10%)で、08年の47%以来、毎年減少している。

 良くなっていると感じる理由(複数回答)は、「志望者増」が37施設で最も多かった。以下は「人員増」28施設、「地域医療システムの改善」9施設、「待遇改善」6施設などが続いた。

 一方、悪くなっていると感じる理由(同)は「産婦人科医師数減」が12施設で最も多く、「地域格差拡大」が6施設、「産婦人科新規専攻医減」「分娩施設減」が共に4施設の順となった。このほか、「女性医師の増加・男性医師の減少」と「周産期高次施設減」をそれぞれ3施設が理由として挙げた。

 同学会では、「学会として優先的に取り組む課題」に▽産婦人科医を増やすための努力▽勤務医の労働条件および処遇の改善▽女性医師の勤務環境改善▽地域偏在対策―を挙げる回答が多かったことから、今後もこの4点が活動の中心軸となると考えられる、と分析。また、「専門医申請要件・指導施設要件の厳格化」への批判的な意見が目立ち、「大学産婦人科への囲い込みを図るもの」との批判が認められたという。【新井哉】

しかし素直に調査結果を見れば産科医の集約化が進んだ結果、勝ち組と負け組が固定化してきているということに感じられますが実際のところはどうなんでしょうね?
世の中の少子化進行などを見れば産科や小児科は先のない衰退産業であるという意見も一部にありますが、産婆が適当に(失礼)取り上げていた時代と違って今の時代お産と言えば医療安全を非常に重視しなければならない分野の筆頭であり、まして妊産婦の高齢化で各種リスクも跳ね上がっていることから必要とするマンパワーは決して減ってはいないと思われます。
一方では診療報酬上は優遇されてきていると言っても正常分娩なら自費診療ですからコスト無視のダンピングを続ける公立病院が地域の価格決定を主導していて、産科という商売自体昔のように儲けにならないという状況が続いている訳ですから、多忙な割に実入りが少ない、そして訴訟リスクだけは極めて高いと言われればそれはよほどに変わった感性の持ち主しか産科には行かないでしょう。
ところが一方で順調に増え続けているどころか、すでに地域によっては過当競争によるワープア化著しい歯科のようになってきている診療科もあるようで、例えばあまりに数が増えすぎている都内眼科開業医の場合など保険収入は全国平均の2/3にまで低下していると言いますから、高い家賃を払った上でどうやって食っていくべきかと工夫を凝らさなければならない時代になってきているということですね。
こうした状況を見ればそろそろ医師は不足というより偏在なのでは?という声がまたぞろ勢力を得て来そうな気配なのですが、以前から言われているような大都市圏の集中などに象徴される地域的な偏在に加えて、今後は診療科毎の偏在ということもポイントになってくると思われ、その点で厚労省が絶賛推進中の新専門医制度というものはこの両者をまとめて一挙解決し得る妙案?にもなる理屈ですよね。

専門医の「集約」容認する声も- 厚労省検討会(2012年9月7日CBニュース)

 厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」(座長=高久史麿・日本医学会長)の会合が7日に開かれ、専門医の「地域偏在」をめぐり、さまざまな意見が出た。制度設計によっては、地域偏在が助長されるとの懸念の声が上がった一方で、「地域にどうしても専門医が必要と言われると、無理が出てくる」として、専門医の「集約」を容認した上で、医師間の連携を構築することなどが重要だとする意見も出た。

 この日の会合では、前回会合で了承された中間まとめで「引き続き議論が必要」とされた、▽専門医の資格を認定・更新する仕組み▽専門医を認定する第三者機関の在り方―などについて、自由に意見交換した。

 この中で山口徹委員(虎の門病院長)は、診療実績を資格更新の要件にすべきだと主張。「少し勉強すれば、診療を全然していない状況でも資格を更新できるのはおかしい」とした上で、「専門領域における能力だけを認定するのでなく、その領域の診療に社会的責任を持っているという意味合いを付けていただきたい」と求めた。
 この提案に強い反対は出なかったが、藤本晴枝委員(NPO法人地域医療を育てる会理事長)は、診療実績が問われることで、患者が多い都市部に医師が集中するとの懸念を示した。

 これに対し池田康夫委員(日本専門医制評価・認定機構理事長)は、患者数に比べて医師数が過剰になれば、都市部の医師は資格を更新できなくなると説明。医師数と患者数の関係で資格更新の可否が決まるよう制度設計をすれば、地域偏在の助長を防げるとの見方を示した。
 一方、金澤一郎委員(国際医療福祉大大学院長)は、「地域にどうしても専門医が必要と言われると、無理が出てくる」と主張。「専門医の集約は当然起こる」とした上で、医師間の連携構築などが重要だと訴えた。

 また、こうした議論に関連して、地域偏在の解消と、新たな専門医制度を併せて検討することへの慎重論も出た。桃井真里子委員(自治医科大教授)は、「当然、地域偏在は考慮して制度設計をしなければならない」としながらも、「専門医制度によって(地域偏在を)抜本的に是正するのは無理がある」と指摘した。

 高久座長は、最終取りまとめに向けて、いわゆる「総合医」と、従来の領域別専門医の連携などについて議論する中で、地域偏在についても「ある程度は議論せざるを得ないだろう」との認識を示した。【高崎慎也】

今まで学会が認定してきた専門医制度というものはいわば名誉称号のようなもので、大学などで行うような特殊な治療など限定された用途以外では無くて困るというものではありませんでしたし、また一定の技量を担保すると言うより認定する学会へのお布施の多寡で手にするものという側面も少なからずありました。
新専門医制度は表向きそうした旧弊を打破するということで第三者機関による統一感を持った基準での認定を行っていくという話なんですが、当然ながら専門医資格を与えられるというのは大変な利権でもあって、認定研修施設をどのように設定するかによって医師達の配置をかなり管理することが出来るようになってきます。
それに加えて今まで自由であった標榜診療科を専門医取得をその要件にするという話もありますが、長期的には専門医の数を診療科毎あるいは地域毎に細かく設定していくことによって、医師の就職先や進路までも間接的にコントロール出来るようになるということですよね。
前述の記事を見ていると地域偏在を助長するかも知れないという懸念が表明されたということですが、厚労省としては識者の間にこうした意見が根強くあるという言質を手に入れた格好ですから、今後如何様にも管理を強化していく大義名分を得たということになるでしょう。

もちろんこうした会合に出てくる人達というのは厚労省の意に添って選任されていると見なされるものですから当然なのですが、しかし山口委員の言うところの「診療実績を資格更新の要件にすべき」「その領域の診療に社会的責任を持つべき」云々の発言は、取りようによっては非常に恣意的に引用されかねない文言ですよね。
将来的に標榜診療科が専門医必須となれば、特に日医支持母体である全国開業医の先生方にとっては死活問題ともなりかねませんけれども、仮に○○科が専門だと名乗ることがその科の診療に社会的責任を持つこととイコールで結ばれるようになれば、ろくな診療機材を持たない開業医にとっては大変に高いハードルになるだろうことは容易に想像出来ます。
結果として「いや、うちでは到底責任を負いかねますので」と責任を引き受けたがらなくなる開業医が増えれば、当然ながら大病院に患者が集中することになる理屈なんですが、いわばこうした部分を厳しく追及しすぎないことで辛うじて維持されてきた日本の医療そのものにとって、この新制度が大きなダメージを与えるということにもなりかねません。
厚労省としてはその対案としてそうした責任を持たない「総合医」なるものをセットで出していますという腹づもりなのでしょうが、面倒な患者が集中し社会的責任までも押し付けられるということになれば、わざわざ国の思惑に乗ってまで苦労して専門医を取ることへのメリットやモチベーションを彼らがどう担保していくつもりなのかも気になりますね。

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コメント

厚労省がどこまで仕掛けてくるか、それに日医がどんな取引で応じるつもりなのか。
医師達の運命を彼らが決めようとしている時に肝心の医師達の声がちゃんと届いているのかどうか。
現場不在の議論が続いてる気がして仕方がないんですが。

投稿: ぽん太 | 2012年9月14日 (金) 09時16分

国が配置を管理するというなら労働環境も国が責任を持つことになるんでしょうね。
まさか人手が足りないから週70時間働けとも言えないでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2012年9月14日 (金) 12時29分

要求すべきことはただ一点、労働条件をきちんと守ることだけでいいのではないかなあ
それに対応出来ない病院は自然に淘汰されていくのだろうし

投稿: kan | 2012年9月14日 (金) 15時22分

>国が配置を管理するというなら労働環境も国が責任を持つことになるんでしょうね。


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投稿: JSJ | 2012年9月14日 (金) 16時21分

医局みたいに病院と交渉するなんてこともしないんでしょうなあ
結局逃散が一番効果的なのは変わらずってことでFA?

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年9月14日 (金) 17時02分

でも専門医ダシにするってよく考えたよね
偉い先生は自分に関係ないから反対するわけないし

投稿: キンタ | 2012年9月14日 (金) 20時24分

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