市販薬=安全な薬ではない
すでに一部報道などでご存知の通り、市販薬の副作用で重大な障害を負うことになった方々が意外なほど多かったということがニュースとなっています。
市販薬で副作用か 5年間で24人死亡(2012年9月2日NHK)
かぜ薬などの市販薬を服用したあと、副作用で死亡したとみられる患者が、この5年間で24人に上ることが、厚生労働省のまとめで分かりました。
厚生労働省は、薬の服用後に体調が悪化した場合は、早めに医師や薬剤師に相談するよう呼びかけています。これは、厚生労働省が医療機関や製薬会社からの報告をまとめたものです。
それによりますと、ことし3月までの5年間に、薬局などで処方せんなしに購入できる一般用医薬品を服用したり使ったりしたあと、副作用で死亡したとみられる患者は、合わせて24人に上るということです。
このうち半数の12人は、かぜ薬を服用した患者で、服用後に肝障害や肺炎などを起こして死亡したということです。
このほか、痛み止めを服用したあとにぜんそく発作が起きたり、漢方薬を飲んだあとに肺炎を起こたりして死亡したケースも報告されているということです。
市販薬による副作用は、年間およそ250件ほど起きていると報告されているということです。
厚生労働省は市販薬でも重い副作用が出る場合があるとして、薬の服用後に体調が悪化した場合は、早めに医師や薬剤師に相談するよう呼びかけています。
大衆薬で24人死亡の可能性 過去5年の副作用で(2012年8月29日産経ニュース)
厚生労働省は29日、医師の処方箋がなくても購入できる一般用医薬品(大衆薬)の副作用で平成23年度までの5年間に24人が死亡した可能性があると発表した。因果関係が不明なケースも含んでいるという。
製薬会社からの報告を集計。かぜ薬が最も多く12人で、皮膚が壊死したり肝機能に障害が生じたりするなどの症状が出た。軽い症状も含めると副作用の報告は大衆薬すべてで計1220人。そのうち15人では、死亡には至らなかったものの重症化して後遺症があった。
厚労省安全対策課は「容易に手に入る大衆薬でも重い副作用が起きる恐れはある」と指摘。「薬の説明をしっかり確認し、異変を感じたら早めに医療機関に相談してほしい」と呼び掛けている。同課によると、大衆薬でも入院治療が必要なほどの副作用があれば、公的な救済制度を利用できる場合がある。
アレルギーなどもありますからどのようなものであれ重大な副作用が発生する可能性があるということはもちろんその通りなのですが、市販品であっても比較的安全性が高い成分を主体にしているというだけで、特に用法・用量を守らずに大量服用することで容易に重大な副作用を来す可能性のある成分があることは従来から知られています。
ただそれが一般に必ずしも十分に承知されていないということもあるようで、その昔市販薬を「まあこのぐらいだろう」と全く用法・用量を無視して使っている人を実際に見て驚いたのですけれども、どうも病院で出す薬はきつい、怖いという意識の裏返しなのか、「市販薬は何をどうやっても安全」と考えている人も一定数いらっしゃるようですね。
最低限正しく使うというのは薬に限らない常識であるし、最近は市販薬のCMなどにおいてもお定まりのテロップ表示に留まるのみならず、きちんと俳優が出てきて直接「用法・用量を守ってお使いください」などとメッセージを発するようになってきたのは良い傾向だと思いますけれども、実際のところこうした市販薬による副作用がどれほど正しく拾い上げられているのかということも問題でしょう。
例えば外来に感冒様の症状を訴えて来る人々は非常に沢山いて、どうも悪そうなので検査をしてみますと思いがけないほど大きな異常値を示すということも時折ありそこから様々な疾患が見つかる可能性がありますけれども、「頭が痛かったので市販の薬を飲んでいたが…」と言われてその用法・用量まで確認する先生はさほど多くは無さそうですよね。
市販の鎮痛剤などは中毒量と含有量から考えればパッケージ丸々一気飲みするくらいの量が必要になるはずですが、実際にそうしたケースがたびたびあるというのは平素から日常的に過剰摂取が行われていたと疑われるケースもあるようで、特に自分が間違った使い方をしていると自覚している患者の場合それを隠すこともあり得ますから注意が必要です。
ともあれ、これだけ重大な副作用があるというデータが出てくれば必ず安全性が議論になってくるはずで、特に以前から異論も多々ある薬の通信販売の拡大であるとか、処方箋無しで買えるOTC薬をもっと大々的に活用していこうという動きに対して一定の掣肘を加えるということになるかも知れません。
最近ではドラッグストアチェーン店などで薬剤師の進出が進んでいて、いずれ全ての薬局薬品店に薬剤師が配置されるようになればある程度きちんとした患者教育が出来るようになるのでは…と期待している人もいるかも知れませんが、そもそもそうした店舗を利用している方々は病院や院外調剤薬局で長々と手間取ることを嫌っている人々も多いでしょうから、どの程度の指導・教育が行えるものかは疑問です。
何しろ24時間の店などでは入れ替わり立ち替わりであれだけ大勢のお客さんがやってくる、そして薬というものはどんなに安全性が高いものであっても使用者の絶対数が増えれば副作用の数も増えてくるものですから、なんでもかんでもきちんとした説明をしてから購入をさせるなんてことは実際問題として不可能ですよね。
そういう点でテレビや新聞といった大衆を相手にするメディアが「あなたが普段何気なく使っている薬にはこんな恐ろしい副作用があるんですよ!」なんて広報活動をするのが一番効率的なはずなんですが、連日あれだけ広告費を出している一大スポンサーの売り上げを落とすようなことを彼らに求めるのはいささか無理がありそうでしょうか。
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コメント
6年制で鍛えた薬剤師とOTC薬拡大で薬局がプチ診療所化するなんて予想もあったんですがね
病院と違って効いた効かないのフィードバックもないしなにかあったら病院に丸投げだし6年制になったありがたみって薄い気が
投稿: 元僻地勤務医 | 2012年9月 4日 (火) 10時18分
こういう問題が大きくなってきちんと自己責任でやっていくという習慣が根付いていけばそれはそれで雨降って地固まるだと思いますけどね。
ただ現状では新たな薬害問題だとか何とかで、またぞろ保護と規制の強化に突き進みそうな気がしています。
投稿: 管理人nobu | 2012年9月 4日 (火) 11時58分
>きちんと自己責任でやっていくという習慣が根付いていけば
間違いなく最後に診た医者が悪いと訴えられるなw
投稿: aaa | 2012年9月 4日 (火) 13時23分
どこまで規制しても、理解の足りない患者が使う限り、安全な薬などあり得ません
安全と効率性とはTrade-offですから、この程度のリスクは安い医療のコストとして受け入れるべきなのでしょう
偽薬どころか、インチキ健康食品の宣伝・広告が大手メディアでも主たる収入源になっている現状では、薬剤に対する正しい啓蒙活動をメディアに求めることは出来ないでしょう
むしろ、メディアが黙る(インチキ商品を宣伝しない)ことのメリットの方が大きいとすら私には思えます
投稿: Med_Law | 2012年9月 5日 (水) 02時10分