« 今日のぐり:「かっぱ寿司 倉敷店」 | トップページ | 新専門医制度 厚労省検討会中間まとめ出る »

2012年8月 6日 (月)

クレーマー対策はまず最初の一歩から

先日日経メディカルで医療現場のトラブル対処に関する新連載が始まったのですが、この尾内氏はなんでも医療機関の抱えるトラブルの解決屋的な仕事をしていると言いますからついにそういう時代になったかと感慨深いのですが、とまれその第一回にこんな症例が掲載されていました。

◆なにわのトラブルバスターの「患者トラブル解決術」キレやすい患者に想定した最悪のシナリオ/尾内康彦(2012年7月27日日経メディカル)
より抜粋

(略)
【ケーススタディー】「薬が効かない、責任を取れ!」

非常にキレやすい患者がいて困っています。すぐに激高して『訴えたろか』とか『痛い目に遭いたいのか』と暴力的な言葉を吐き、しかも『タダで目を治せ』と言ってきています。どうしたらいいのでしょうか」

 また、眼科医からの電話だ。偶然かどうか分からないが、このところ立て続けに眼科医からの相談に乗っている。眼科は、比較的トラブルの少ない科目と思っていたが、考えを改める必要がありそうだ。

 問題の患者は21歳男性。麦粒腫(大阪では「めばちこ」という)の治療で、2カ月ほど前に来院した。初診時に切開手術を選択し、翌日、翌々日と来院。4日目に4日分の薬を出した。院長は、まだ治療を続ける必要があると考えていたが、その後、来なくなった

 ところが、その1週間後くらいに、患者から突然電話がかかってきた。最初からケンカ腰な感じの口調で、すぐに激高してこう怒鳴った。
おまえのところでもらった薬は全然効かない。知り合いがくれた紫色の薬の方がよく効く。どういうつもりで薬を出しとんのや! そっちにも、知り合いのと同じ紫色の薬があるやろ。なぜ、それを出さないんだ!」
「まず、治療を受けに来てください。それと、念のため、その紫色の薬の名前を教えてもらえませんか」
 スタッフが言うと、こうまくし立てた。
「もう、使い終わって、手元にないわ。薬をくれた知り合いも、遠くに行ってしまって…。そんなことより効かない薬を出した責任はどうなんや。そっちに何日通ってもなかなか治らん。そんなもん、治療代を払う義務なんてないで。効かない薬を出した責任はそっちにある。タダで治せよ。当然やろ。近いうちにそっちに乗り込むからな!」

 電話では、こんなやり取りがしばらく続いたそうだ。

 私は、院長に追加で少し聞いた。
「この患者は、今回、初めて来院したのですか」
「いや、以前から何度か来ており、調べてみたら、15歳の時、初めて受診しています。麦粒腫の治療をしたこともあったし、うちで視力検査をして眼鏡をつくったこともあります」
(略)

こういう症例をどう考えるかなんですが、この種の「キレやすい患者」なるものは枚挙にいとまがないものの、今回の場合注目すべきなのはこの患者が一見さんなどではなく長年の常連顧客といっていい相手であること、今までは特に目立った問題行動もなかったらしいのに今回に限って唐突にキレだして執拗に絡んでいるということでしょうか。
この理由として大阪府保険医協会事務局次長を勤める尾内氏と担当医との推定が一致したところでは、どうやら問題の患者は最近になって何らかの理由で治療費支払いに困難を来すような状況に陥ったのではないか、そうであるからこそゴネることによって無料で治療を受けられることを期待しているのではないかということでした。
尾内氏はこうした推定に基づいてスタッフ間で情報を共有し仮に患者が再度来院した際には必ず複数で対応すること、万一の事態に備えあらかじめ警察ともコンタクトし協力を取り付けておくこと、そして長年の顧客であることから場合によっては経済的な相談に乗る用意があることといった対策をアドバイスしたそうですが、幸いにも再び来院することはなく終わったということです。

多くの顧客トラブル解決の専門家が口を揃えて言っていることですが、トラブル解決の第一歩はまず患者の行動の背景にある動機、あるいは真の要求が何かということを知ると言う点にあるようですね。
例えば近年ではいわゆる団塊世代のモンスター顧客化が社会的にも問題になってきていますが、彼らの多くはこうすればうまくいったという成功体験を豊富に持っている世代であり、またつい先年までは職場の管理職クラスとして大きな顔をして指図をしていた立場であったことから、退職していきなりその他大勢の老害扱いされるようになったという現状に大きな潜在的不満を抱いているとも言います。
つまりこうした手合いにおいてはクレームの内容そのものが重要なのではなく、俺の言う事を黙って聞けということが本質的な欲求であるわけですから理を以てその非を説くなど愚の骨頂で、貴重な御提言ありがとうございます参考にさせていただきますととりあえずヨイショしておくのが基本戦略であるということになるようです(実際にそれを受け入れるかどうかはともかくとして)。
無論、そういった形で個別の戦略を練って対応するのが最善であることは言うまでもないのですが、実際問題としてどこの職場でもクレーマーやモンスターと呼ばれる顧客が増加している、そしてそれに対して専門的対応が可能なスタッフを揃えていられる職場ばかりでもないとなれば、まず初診において大コケせず、こじれた際にスムーズに専門家に引き継ぎ可能な初期対応能力はスタッフ全員が保持しておくべきなのでしょう。

帰ろうとしない患者の対応に苦慮-病院勤務の警察OBらが勉強会(2012年8月3日CBニュース)

病院に勤務する警察OBを中心に、院内暴力対策に取り組むネットワーク「HKO会」(事務局=慈恵大学総務部渉外室・横内昭光顧問)はこのほど、東京都内で勉強会を開いた。「院内暴力対策として今何をなすべきか―悪質クレーム・暴力の具体的対応方法―」と題したパネルディスカッションが行われ、病院から帰ろうとしない患者への対応に、病院側も苦慮している状況が明らかになった。

パネルディスカッションでは、参加病院の幾つかの事例を基に、対応策を議論した。
会場から、身寄りがなく生活保護を受給する患者が、医療費を支払わない上、診療が終わっても、バス代がないとして家に帰ろうとせず、病院に居座り続けることを繰り返し、その対応に困っているという事例が寄せられた。
当初はお金を貸したり、家まで送ったりしていたが、それが恒常的になった。さらに、その患者が警察の説得にも応じないほか、救急車を呼んで繰り返し病院に来るなど、職員も対応に疲れているという。

聖路加国際病院の院長付参与の佐藤太郎氏は、同院でも多く見られるような事例で、対応に苦慮しているとした。実際の対応として、帰ろうとしない患者の話を聞いた上で、状況によっては家まで送ることがあるという。
佐藤氏は、病院職員がこのような患者に対応するのは非常に難しく、警察OBの対応が求められる場面と指摘。必死に説得を続けながら、ケース・バイ・ケースで対応していくしかないとした。
会場からは、不退去の患者がいる場合、外来診療が終わる午後5時までは様子を見て、それ以降は不法侵入の扱いとして、警察に連れて行ってもらっているとの声があった。また、お金を渡したり、送り届けたりしていては、患者がそのことを当然とみなすようになるのでは、とした。

弁護士の逢坂哲也氏は、こうしたケースについて、病院を退去してもらうという問題と、医療費の自己負担分を支払わずに来院を繰り返す患者への対応の問題が混在していると指摘。
前者については、不退去や建造物侵入などの刑事領域として扱えるケースでは、警察に対応してもらうことも考えられるが、救急などで24時間対応している病院はなかなか難しいとし、基本的には現場で根気強く帰宅するよう説得して、長時間居座ったり、暴力を振るったりするなどの悪質なケースについては、刑事事件として警察に対応を求めるという選択になるとした。
また、後者については、医師や医療機関の応召義務を考えると、医療費を支払わないからといって、診療拒否は基本的にできないとしつつも、不払いにも受忍限度があると指摘。医療費を支払わないのに繰り返し診療に来る患者に対しては、その都度、「いつまでに、いくら払います」などの念書を取っておき、それが相当回数となり、相当額となった場合は、悪質な医療費不払いを理由に、診療拒否が認められる可能性もあるとした。
逢坂氏は、「頻度と金額にもよるが、受忍限度を超えた場合、思い切った処置も考えられる。その間はもちろん、患者に根気強く説明をし、説得をすることが必要」とした。【大戸豊】

前述の眼科クリニックのケースにも通じるものがありますが、生活保護受給者など何らかの理由で医療費負担無しの特権を持つ人々の中には、病院内では一切金を使う必要がないのだと誤解(曲解?)している方々が一定割合で見られるようで、こうしたケースは程度の差こそあれ非常に多く見られるんじゃないかと思いますね。
この場合はとにかくお金は一切払いたくない、むしろ送迎など便宜を図ってもらいたいというのが根源的な欲求であるわけですから、その欲求を満たさせないように対応していくことが噂が噂を呼び同類が群れ集う病院にならないための第一歩だと思いますが、医療業界の場合しばしば言われることに応召義務があるのだから受診を拒否できないのでは?と言う点がありますよね。
ただしよく考えてみれば彼らは受診することが目的ではなく、受診の結果何らかの利益を得るということが目的であるわけで、その点でよく考えて見れば応召義務とはあくまでも受診の求めを拒否してはならないというだけのことでどのように応じるべきかは全く規定されていないわけです。
そう考えていくと日常診療を面倒くさく縛り付けている各種関連法規や保険診療上のルールなどは、うまく使うことでクレーマーと対峙するに当たって最も有用な楯にもなり得るということですし、長年規制緩和規制緩和と言われるほどお上の規制が諸事厳しい日本においては医療に限らず、あらゆる業界で似たような方法論が活用できる可能性はあるということですね。

もちろん昨今では暴力行為や不法侵入など明らかに法を犯している相手に対して警察等と共同して対処することに躊躇する理由はないですし、特に検死業務などで警察とコネクションをつけやすい医療機関が不法行為許すまじ!の先鞭を付けることによって、社会的にも毅然とした対応をしていくべきだという世論を先導することも可能でしょう。
実際にこのところ各地の病院で警察OBを雇用するということがちょっとしたブームになっていて、もちろん「単なる新たな天下り利権じゃないか」という批判もあるでしょうけれども、少なくとも面倒な顧客を引き受けてもらうためにその筋の方々にみかじめ料を払うなどよりはよほど健全ではあるでしょうし、いずれはそれ専門の教育を受けたスタッフが病院内の専門職として成立する時代も来るかも知れません。
ただそれでも今現在第一線臨床を担当している先生方、とりわけ開業医など物理的にも経営的にも脆弱な立場にあって狙われやすい先生方ほど「患者サマを警察に?!とんでもない!」と言う空気の中で医療を学んできた方々でしょうから、今さら警察の手など借りたくないと言うのであればそれ以外の方法で解決するだけのスキルを身につけておかなければならない理屈でしょう。
最終的には当該顧客に「こんな糞病院二度と来ねえよコンチクショウ!」と自ら進んでお帰りいただけるような穏便な対応が出来ればいいわけですが、そのためにも今後は医療そのものと同様にクレーマー対策に関しても実地医家諸氏の真摯な学習努力が必要になってきそうですね。

|

« 今日のぐり:「かっぱ寿司 倉敷店」 | トップページ | 新専門医制度 厚労省検討会中間まとめ出る »

心と体」カテゴリの記事

コメント

うちでも前任者から引き継いだ患者を整理してやっと外来が平和になりました。
あと地区内で問題患者の情報が回ってくるんですが、対処法も共有して一致団結して当たった方がいいんじゃないかなと。
誰かにババをひかせて終わりじゃ結局堂々巡りです。

投稿: ぽん太 | 2012年8月 6日 (月) 08時55分

なんか同僚がこじらせた患者がよくこっちに回されてくるんですけどまさか狙われてんのかしら?
医師が毅然と対応しないとコメディカルは大変なんですけどヌルい先生結構いますね
最後まで自分で面倒みるなら勝手にすればいいんですけど人に尻ぬぐいさせないで欲しいなと

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年8月 6日 (月) 10時30分

こういう場合悪いのはどっち?

・4日午後5時ごろ、札幌市営地下鉄南北線の幌平橋―中島公園両駅間で、真駒内発
 麻生行きの車両(6両編成)の乗客3人が、携帯電話の利用をめぐり口論となり、
 中島公園駅に停車後、22分間出発できなくなるトラブルがあった。この影響で同線は
 全線で6分から22分の遅れが出て、乗客5700人に影響が出た。

 市交通局によると、南北線幌平橋―中島公園両駅間を走行中の車両内で、専用席付近にいた
 40代女性が、20代女性客に携帯電話を使用しないよう求めたが、応じてもらえずに騒いだ。
 さらに、仲裁に入った20代男性客を傘で突くなどした。

 この男性客は車両内に設置された非常通報装置を押して乗務員に通報。中島公園駅に
 到着後、40代女性が「携帯を使うな」などと叫び続けた。駅員が40代女性に「他の客の
 迷惑になるので降りてください」と説得を続けたが「私は悪くない」と応じなかった。このため
 駆けつけた札幌南署員が降車させ、列車は午後5時22分に出発。男性客を含む乗客に
 けがはなかった。

投稿: ところで | 2012年8月 6日 (月) 10時48分

>専用席付近にいた40代女性が、20代女性客に携帯電話を使用しないよう求めたが、応じてもらえずに騒いだ。

専用席って何かと思ったら、札幌の地下鉄だけは優先席じゃなく専用席って呼ぶんですね。
ちょいと調べて見ましたら専用席周辺では電源を切る、その他車内ではマナーモードという明確なルールがあるようです。

携帯電話の取り扱い
http://www.city.sapporo.jp/st/faq/keitai/keitai.html

なので、事情が判明した時点で真っ先にルールに従った携帯使用を指導しなかったのであれば、余計に話をこじらせた乗務員が一番悪かったということになるかと思います。
ただ経緯の如何を問わずある程度以上の迷惑度になりますとそれなりの対応をしなければなりませんので、最終的に警察を呼んだのは正しい判断だったでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2012年8月 6日 (月) 11時11分

>対処法も共有して一致団結して当たった方がいいんじゃないかなと。

ノウハウ共有はいいが、患者の情報収集力向上を考えると相手にも対策の余地を与える危険があるのでは?
m3なども全く守秘は成立していないしどうやって情報を共有すべきかな

投稿: kan | 2012年8月 6日 (月) 12時36分

高い専門書としてハウツー本を出版する
マジで効果的かもw

投稿: | 2012年8月 6日 (月) 14時31分

病院職員がこういう患者さんに対応するのが困難な一番の原因は、そんな時間のゆとりが無いからです。
いっそ病院で一人弁護士さんを雇って、そういう患者さんの対応してもらったほうがはかどるような気がする。

投稿: クマ | 2012年8月 7日 (火) 00時13分

弁護士先生って生の対決に強いのかにゃ?
原作版ペリー・メイスンみたいな弁護士だといいにゃ

投稿: | 2012年8月 7日 (火) 01時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/55358942

この記事へのトラックバック一覧です: クレーマー対策はまず最初の一歩から:

« 今日のぐり:「かっぱ寿司 倉敷店」 | トップページ | 新専門医制度 厚労省検討会中間まとめ出る »