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2012年8月31日 (金)

高齢出産時代に対応した技術的進歩がもたらすもの

このところ妊娠・出産年齢が上がり続けていることも背景として高齢出産と言うものが社会的にも大いに注目され、そして批判も受けるようになってきていますが、医学的・生物学的に見れば年齢と共に生殖能力が低下し、妊娠能力が落ちるだけでなく合併症や胎児先天疾患等のリスクも急激に高まるということが知られています。
一方で主に美容の方面からも近年アンチエイジングということが流行していますけれども、もしかしたら女性の能力も若返るかも知れないという研究が始まっているというニュースが出ていました。

<卵巣若返り>閉経前後女性に幹細胞注射 厚労省に研究申請(2012年8月20日毎日新聞)

 不妊治療施設の加藤レディスクリニック(東京都新宿区)が、閉経前後の女性の卵巣に自身の皮下脂肪から取り出した幹細胞を注射し、卵巣機能の改善を目指す治療を計画していることが分かった。臨床研究として厚生労働省に申請、20日開かれた厚生科学審議会科学技術部会に報告された。加齢などで機能が低下した女性の卵巣を若返らせるもので、最終的には妊娠を目指すという。

 卵巣は加齢とともに機能が低下する。卵子のもとになる卵胞が育たなくなり、ホルモン分泌も減少。この結果更年期障害が起きる。

 研究計画書によると、同クリニックは卵巣機能が低下し更年期障害の症状が見られる女性の下腹部などから皮下脂肪を取り出して「間葉系幹細胞」と呼ばれる幹細胞を抽出。この幹細胞は、新たな血管を作る役割を持つとされており、卵巣に移植し血流を増やすことで、衰えた卵巣機能の改善が期待できるという。対象は60歳未満の5人を想定している。

 同省によると、早ければ9月にも同審議会の下部組織で検討する。同クリニックの竹原祐志副院長は「動物実験では卵巣機能の改善が報告されている。将来的には病気や加齢で排卵機能が低下した女性への不妊治療に応用できれば」と話している。【斎藤広子】

当然のことながらまだまだ臨床現場で広く用いられるには先の長い話ですし、素人考えでも閉経が遅れいつまでも排卵が続くということになると更年期以降の女性の心身は激変しそうなんですが、それでもやってみたいという希望者はそれなりにいそうでもありますよね。
とかく女性にとって妊娠・出産は男性以上に一生の大事ですが、近年社会的状況の変化もあって必ずしも生物学的、医学的に理想的な環境でそれを行える状況にはない、そして今後もそれが劇的に改善していく見込みは当分なさそうだとなれば、そうした不利な状況にどのように対応していくかということを考えないと仕方がありません。
その点で上記のような高齢妊娠の希望に対応すべく技術開発を進めていくというのも一つの方向性ですけれども、もう少し喫緊の課題として取り上げられそうなあの問題に対しても一つの回答が用意されつつあると言います。

妊婦血液で胎児のダウン症診断…国内5施設で(2012年8月29日読売新聞)

 妊婦の血液で、胎児がダウン症かどうかがほぼ確実にわかる新型の出生前診断を、国立成育医療研究センター(東京)など5施設が、9月にも導入することがわかった。

 妊婦の腹部に針を刺して羊水を採取する従来の検査に比べ格段に安全で簡単にできる一方、異常が見つかれば人工妊娠中絶にもつながることから、新たな論議を呼びそうだ。

 導入を予定しているのは、同センターと昭和大(東京)、慈恵医大(同)、東大、横浜市大。染色体異常の確率が高まる35歳以上の妊婦などが対象で、日本人でのデータ収集などを目的とした臨床研究として行う。保険はきかず、費用は約20万円前後の見通しだ。

 検査は、米国の検査会社「シーケノム」社が確立したもので、米国では昨年秋から実施。妊婦の血液にわずかに含まれる胎児のDNAを調べる。23対(46本)ある染色体のうち、21番染色体が通常より1本多いダウン症が99%以上の精度でわかるほか、重い障害を伴う別の2種類の染色体の数の異常も同様にわかる。羊水検査に比べ5週以上早い、妊娠初期(10週前後)に行うことができる

妊婦血液で出生前検査 異常99%判明(2012年8月29日NHK)

妊婦の血液を調べるだけで胎児にダウン症などの染色体の異常がないかどうか99%の確率で分かるとされる新たな出生前検査が、来月、国内の2つの病院で始まることが分かりました。
検査を希望する人は大幅に増えることが予想され、異常が見つかれば人工妊娠中絶にもつながることから、検査前後のカウンセリングなどの態勢を整えていくことが課題です。

新たな出生前検査を始めるのは、いずれも東京にある昭和大学病院と国立成育医療研究センターです。
検査は、アメリカの検査会社が去年10月から行っているもので、妊娠10週目以降の妊婦の血液を調べるだけで、ダウン症など3種類の染色体の異常がないかどうか99%の確率で分かるとされています。
現在、出生前検査として行われている「羊水検査」は、妊婦のおなかに針を刺すため、0.3%の割合で流産の危険性がありましたが、新たな検査は採血だけで済むため、流産の危険性がなく、同様の検査はアメリカやヨーロッパなどで広がりつつあります
2つの病院のほか、今後、導入を検討している病院の医師らが31日、研究組織を立ち上げ、検査を行う際の共通のルールを作ることにしています。
この中では、検査の対象は、胎児の染色体異常のリスクが高まる35歳以上の高齢出産の妊婦などとしたうえで、検査の前に専門の医師らが30分以上カウンセリングを行うことや、検査後も小児科医らが妊婦のサポートを続けていくことなどを検討しています。
費用は保険が適用されないため21万円かかりますが、高齢出産の妊婦が増えていることなどから、検査を希望する人は大幅に増えることが予想されます。
異常が見つかれば人工妊娠中絶にもつながることから、正しい情報に基づいて妊婦が判断できるよう検査前後のカウンセリングなどの態勢を整えていくことが課題です。

現在の出生前検査は

子どもが生まれる前に病気などがあるかどうか調べる出生前検査は、現在、国内では▽「羊水検査」▽「絨毛検査」▽「母体血清マーカー検査」などが行われています。
専門家によりますと、こうした検査を受ける妊婦は、年間の出産数およそ100万件のうち3%前後に当たる3万人と推計されています。
このうち、羊水や絨毛といわれる組織を採取して調べる「羊水検査」と「絨毛検査」は、胎児にダウン症などの染色体の異常がないかどうか確定診断ができます。
しかし、母親のおなかに針を刺すため、羊水検査は0.3%、絨毛検査は1%ほど流産の危険性があるほか、破水や出血のおそれもあり、母体への負担もあります。
費用は保険が適用されていないため、10万円から15万円かかります。
「母体血清マーカー検査」は、今回の新たな検査と同じように妊婦の血液を調べるもので、流産などのリスクはありませんが、ダウン症などの確率が分かるだけで確定診断はできません

十分な情報提供の態勢を

新たな検査が始まることについて、日本ダウン症協会の玉井邦夫理事長は「海外の動向からいずれ日本でも検査が必ず始まると思っていた。新しい技術ができ、それによって分かることを知りたいと思うのは個人の権利なので、検査の導入は否定できないが、ダウン症の子どもたちや家族を否定するような世の中につながることは絶対にあってはならない。検査が簡単になっても結果の重みは変わらないので、安易な気持ちで検査を受ける妊婦が増え、混乱が広がることが懸念される」と話しています。
そのうえで、「今回、検査を始める病院が共通のルールを作ることは評価できるが、今後、導入するすべての病院がルールを守るようチェックしていくべきだ。妊婦やその家族が正しい情報に基づいて考えられるよう、元気に暮らしているダウン症の子どもをよく知る小児科の医師らが、十分な情報を提供できる態勢を整えてほしい」と話しています。

医学的に見るとこれまで流産等のリスクを冒してまで羊水検査を行うということには躊躇せざるを得ないところがありましたが、これが普通に血液で調べられるということになればこれは大変な進歩ですし、検査希望の妊婦さんに対する医療安全の向上が見込めるということになりますけれども、この問題の場合むしろ医学以外の領域で大きな問題提起をすることになりそうですよね。
先日も東尾理子氏が妊娠中の第一子がダウン症かも知れないと公表し、ダウン症の子供を持つ母親でもある松野明美氏らが不快感を表明するという一幕がありましたが、やはりこれだけ明確にリスクが高まることが判っていれば調べずにはいられないのが人情というものであろうし、その手段がより簡便かつ安全なものになったというのであれば今まで以上に潜在需要を喚起するだろうとは想像に難くありません。
特に今回問題になっているような高齢出産が絡むケースとなりますと、下手すれば長い長い不妊治療の果てにようやく妊娠にまでこぎ着けたケースも少なからず あるとも予想されますから、そうなりますと異常があらかじめ判るからと気軽に検査を受けた妊婦などはいざ異常が見つかった段階になって大変なジレンマに悩 まされることにもなりかねません。
実際に近年は各種出生前診断の発達によるものか胎児異常による妊娠中絶が激増しているという事実もあって、産科学会なども「出生前診断でもあるのだからうかつに胎児エコーなどするな」とわざわざ声明を出すような事態に至っていることは周知の通りですから、当然ながら今回の件に関しても関連学会は素早く反応してきているようです。

新出生前診断導入、日本ダウン症協会は反対(2012年8月29日日本テレビ)

 胎児にダウン症などの染色体異常がないかどうか、妊婦の血液から99%の確率でわかるという新たな出生前診断が、国内の2つの病院で導入されることがわかった。日本ダウン症協会は、出生前診断が安易に行われることに反対している。

 導入が予定されているのは、東京都の昭和大学病院と国立成育医療研究センター。新たな出生前診断はアメリカの検査会社が開発したもので、妊娠10週目以降の妊婦の血液を調べるだけで、ダウン症などの染色体異常がないかどうかが99%の確率でわかるという。国立成育医療研究センターによると、今後、病院内の倫理委員会の審査・承認が得られれば、来月中にも導入される。

 現在、出生前診断として行われている羊水検査は、流産の危険性があるため、新しい診断の希望者が増えることが予想される。一方で、検査結果による人工妊娠中絶の増加も懸念され、日本ダウン症協会は出生前診断が安易に行われることに反対している。

こういった話、最終的には人がどこまで人であるのかといった生命倫理観に突き当たる問題なのかなとも思うのですが、例えば一昔前の日本では7歳までは死んでも人として葬ってもらえなかったなんて習慣がありましたし、一方で卵子が受精した瞬間からそれはすでに人であるということを主張される方々もいらっしゃいます。
このダウン症に関して言えば非常にメジャーな先天異常であり、現実問題として相応の数が出生前診断によって対処されているものでもあるのでしょうから、言ってみればすでに行われている行為の数が増えるかどうかというシンプルな問題だけで済むとも言えます。
しかし技術は日進月歩であるからにはいずれ他の先天疾患、あるいはさらに一歩進んで生まれてくる子の持って生まれた資質といったものにまでいずれ出生前に白黒がつくようになってくるとすれば、それはSFなどで定番となっているように親の意思によって胎児をデザインするということとまさに指呼の間にあるとも言えるのかも知れません。
いずれにしても各人の考え方がそれぞれに異なっているということ自体が尊重されるべき現代社会では、こうしたことは一律にこうであるとルールによって決めてしまうというのも筋が違うのかなという気がしますが、そうであればこそ各人が正しい判断の前提として使えるような正確な情報をきちんと共有していくことこそ専門家集団の最大の責務ではないかと思いますね。

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コメント

>卵巣に移植し血流を増やすことで、衰えた卵巣機能の改善が期待できる

卵子自体の劣化にはあまり効果が無さそうな?
これで妊娠がうまくいくようになるとひょっとして障害児が増えてしまうんじゃ?

投稿: たまごっち | 2012年8月31日 (金) 08時48分

希望者けっこういるでしょうねこれ>ダウン症検査。
ダウンの子はかわいいのが多いんですけど…

投稿: ぽん太 | 2012年8月31日 (金) 11時06分

あ、先に書かれちゃった。
>ダウンの子はかわいいのが多いんですけど…

朝からいろいろ考えてたんですが、
結局残ったのは「人間はどこまで神の領域に手をつっこむのだろう」という感慨だけでした。

投稿: JSJ | 2012年8月31日 (金) 12時18分

おっしゃる通り、実際にダウン症児がどういうものか知っていればまた別な判断もあるかと思うのですが。
もちろん自分達が死んだ後のことを考えると敢えて障害を持った子を残していくのは酷だという考えもあるでしょうし、何が正解と言うこともないんだろうなという気がします。
その点で無意味な差別や偏見という壁によって彼らと身近に触れあい理解する機会を減らしてしまうのは一番避けるべきことでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2012年8月31日 (金) 12時37分

ダウン以外にも診断がつけられるというが遠からずメジャーな先天異常はスクリーニング出来るようになるのでは?
妊娠中絶増加の危惧ももちろんだが検査をせずに産んでしまった場合なぜ検査しなかったとトラブルになるだろう
産科医の先生方はちゃんとリスクも知った上で進んでほしいものだ

投稿: kan | 2012年8月31日 (金) 12時59分

99%の確立っていうのは、偽陰性が01%ってことで良いんですかね?
で、偽陽性についてはほぼゼロってことで。

投稿: Umipen | 2012年8月31日 (金) 13時44分

ダウン症って100%母親の責任なんですか?
こんなの旦那側の親族から絶対言われそう

投稿: 素人ですが | 2012年8月31日 (金) 15時12分

最近は男親高齢化による障害もいろいろ取り沙汰されてますがね
ただ学問的見解はどうあれ親族や世間の目線は女親に厳しいのは変わらずじゃないかと
よかれと思って開発された技術が新たな家庭内不和の原因になどならぬように願います

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年8月31日 (金) 20時50分

続報でこんなのが出てたので紹介


「妊婦全員の検査にせず」一致 新出生前診断、医師らルール策定
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120831/bdy12083122560004-n1.htm

けどこんな思わせぶりなこといっちゃうとかえって注目が集まって希望者殺到する気もしますが

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年9月 1日 (土) 08時59分

検査というのは、結果によってどうするかを決めてからするものである、結果がどうであれやることが変わらないのであれば検査する必要は無いと、オーベンからたたき込まれました。
今回の検査も、結果が陰性であればどうする、陽性であればどうするというのをはっきりさせてからやるべきだとは思います。
(陽性なら中絶するつもりで検査したけど、いざ陽性が出たら中絶したくなくなるってこともあるかもしれませんけれど)

投稿: クマ | 2012年9月 2日 (日) 14時20分

たぶんですが最初はそうとうに対象をきびしく絞ってのスタートになるのでは?
説明段階で気の迷いがあるような方は排除するようになるんじゃないかと。

投稿: ぽん太 | 2012年9月 2日 (日) 19時21分

安全確実な検査があるなら誰だってとりあえず受けておきたいって気にはなるでしょうね。
予想以上に希望者が殺到したときどこまでさばけるか、現場担当者の手腕が問われていくと思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年9月 3日 (月) 10時22分

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