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2012年8月10日 (金)

厚労省発 認知症患者の追い出し計画

いきなり降って湧いたようにと言うべきでしょうか、このタイミングで唐突な爆弾が炸裂した印象がありますが、まずは記事からご紹介いたしましょう。

患者の5割が2カ月で退院できる体制に 認知症対策で厚労省指針(2012年8月8日産経ニュース)

 厚生労働省がまとめた「認知症に関する医療体制の構築に係る指針」が8日、明らかになった。在宅での治療を重視し、新規入院患者のうち50%が2カ月で退院できるような体制整備を求めている。都道府県が策定する来年度から5年間の医療計画に反映させる。

 症状が疑われる初期の段階で認知症を発見して重症化を防ぎ、患者が自宅や地域で暮らし続けられるよう措置するのが狙い。専門的な診断ができる中小病院や診療所を新たに「身近型認知症疾患医療センター」に指定し地域の認知症治療の拠点にできるよう「認知症疾患医療センター」を高齢者6万人に1カ所の割合で整備する目標も掲げた。

 認知症のかかりつけ医となれる診療所・病院は、介護支援専門員(ケアマネジャー)などと連携し日常的な診察を行うことや、認知症と判断した場合に速やかに専門医療機関に紹介を行えることを条件にした。入院医療機関については退院支援部署を有することを打ち出し、在宅治療への移行を促す

 厚労省は職場での鬱病や高齢化に伴う認知症の増加を踏まえ、医療計画に盛り込む疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)に新たに精神疾患を加えることを決めている。介護を必要とする65歳以上の認知症患者は2030(平成42)年に現在の約208万人から約353万人に増えると予測され、指針の内容が焦点となっていた。

認知症患者「2カ月で退院」 厚労省、都道府県に通知へ(2012年8月9日中国新聞)

 認知症患者の長期入院を解消するため「新たな入院患者のうち半数は2カ月以内に退院する」ことを目標に医療態勢を整備するよう、厚生労働省が都道府県に月内に通知することが8日分かった。都道府県は通知に沿って2013年度からの医療計画を策定する。

 認知症患者は、地域の受け入れ態勢が不十分などの理由で、支援があれば自宅で生活できる人でも入院し長引く傾向がある。厚労省は住み慣れた地域で生活できるよう退院を促し、自宅や施設で医療や介護を受けられる環境を整える方針だ。

 精神科に入院する認知症患者数は08年で約5万2千人。早期退院を推進することで、不必要な医療費の支出を抑制する効果も期待できる。ただ一方で、地域の受け皿が整わないまま退院促進策のみが先行することを懸念する声もある。

 厚労省は6月、認知症対策の報告書をまとめ、精神科へ入院した認知症患者のうち半数が退院するまでの期間を、現状の6カ月程度から、20年度には2カ月以内にすると明記。厚労省は、通知により全国的な態勢整備を具体化させる。

 通知では「半数が2カ月以内に退院」との目標を達成するため、各都道府県に医療態勢を整えるよう求める。都道府県は通知を踏まえ13~17年度の医療計画をつくり、地域の実情に応じた目標値を定める見通し。

 このほか、詳しい診断や専門的な医療相談ができる「認知症疾患医療センター」について、65歳以上の人口が6万人いる圏域に1カ所程度整備することなどを求める。

認知症患者をそう簡単に在宅で面倒みられるようなら社会的入院などというものがこれほど多数にのぼるはずもありませんし、そもそも認知症に限らず長期入院患者の施設受け入れも全く進んでいない状況で一体何を言い出すのかと誰でも思う話ですが、月内に都道府県に通知して来年度からさっそく医療計画を策定させると言うのですから議論も何もないまま既定の方針として進められているということですよね。
昨年のデータですが身体的あるいは精神的に重度の障害があり、介護保険で「要介護」の判定が出た人々が入所する施設である特別養護老人ホームの入所待機者数だけで実に42万人とされ、当然ながらさらに介護度は低いものの自宅での対応が困難な方々の施設入所待機者も多数にのぼっているのが現状です。
とりわけ認知症患者の場合は身体的には元気なため「要介護」よりもレベルの低い「要支援」になるケースも多く、施設入所などでもどうしても優先順位が低い扱いを受けてしまいますから、行き場のないお年寄りが病院内でただ入所待機するだけの日を過ごすということも珍しい話ではない訳ですね。
各種資料によって施設のベッド数が順調に増えているように見えるかも知れませんけれども、実は高齢者人口もそれ以上に順調に増えているため対高齢者人口比で見れば決して増えていない、そして核家族化が当たり前になり家庭の介護力はそれ以上に低下してきているわけですから、入所待機者が病院ベッドを埋め尽くすのは当たり前に予想された現象なのです。

そもそも何故こんなミスマッチが放置されていたのかと誰でも疑問に思うでしょうが、介護業界の低報酬に見られるように介護そのものを儲からない状態で放置してきた理由の一端として、国としてはせっかく介護保険という形で医療と介護を切り離したのに介護に金など使いたくないという心理があったようです。
驚くべきことに国は特養など入居系サービス利用者を要介護2以上の高齢者の37%までに抑えるという目標を設定してまで施設入所を抑制しようとしてきたのですから、いくら需要が見込まれてもそんなお上に睨まれる未来図が明らかな業界に新規参入してくる勇気ある人々もそうはいないですよね。
今年になってようやくこの目標が撤廃され都道府県の自主的な判断に委ねるということになりましたが、介護給付費の1/4を負担している自治体にすればこの財政厳しい折りに無闇に支出が増えるのも全くうれしくないのは当たり前のことで、当然ながら国のもくろみ通り自主的に判断して抑制をかけるという状況には大きな変化がなさそうです。
となると、行き場のなくなった高齢者がどこに行くことになるのか、家庭の介護力が短期間でそう急激に向上するはずもありませんから、今まで以上に医療現場が悪者になって面倒を押しつけられることになるんだろうなと暗い未来絵図が想像されるのは自分だけでしょうか。

今さらながら認知症患者を自宅で面倒を見ることがいいのか悪いのかという議論もなしでは済まされませんが、核家族化どころか共働きが当たり前になった今の時代に一人の老人の介護に一人の家族を求められれば仕事も辞めざるを得ないのは当然で、ただでさえ労働生産性が低下している時代にますますそれを引き下げてどうするんだというものですよね。
これが施設であれば単純にスタッフ一人あたり何人もの老人を相手に出来て効率が良いというのみならず、家庭内介護であれば単なる非生産的な行為にしか過ぎないのに対して、職業として介護を行うのであればこれは立派な内需喚起に他なりませんから、本来民主党政権が一生懸命進めている医療・介護主導の経済成長戦略に最も合致するビジネスモデルのはずなのです。
国としてはお年寄りは家庭内で面倒を見るか、それが嫌ならお金を出して有料老人ホームをご利用ください、お年寄りが社会保障にタダ乗りできる時代は終わったのですと言う方向に話を持っていきたいのだろうし、増え続ける高齢者に対してただ無条件の優遇措置ばかりを講じていられる時代でなくなっていることは言うまでもありませんが、大事なことであるほどに何事にも慎重な前振りというものが必要だろうと言うことです。
何でも出来ることは全部やってくださいで平均寿命が世界一になったと喜んでいられたのも今や昔で、今やお年寄りにどう亡くなっていただくべきか、そのためのコストはどこまで許容されるのかという国民の認識の変化が絶対に必要になっているのに、横からわざわざ感情的反発を招くようなことを真っ先に言い出すとはなんとも余計なことをしてくれたなと思わずにはいられません。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

厚労の意図は、"ルールを無視して医療費を浪費する悪い病院を正義のお上が成敗する"というフレームで、子飼いのマスゴミに宣伝させて
馬鹿な国民を煽り、医者叩きを加熱させた上で、認知症患者の三ヶ月目以降の入院基本料を減額する事にあるのでは、と邪推します。
病院にしてみれば、ENT後の受け皿の無い患者を放り出す訳にもいかないですし、放り出せばマスゴミに攻撃の口実を与えますし、
どちらにしても"詰み"です。
しっかし、所管業界を虐め抜くアイデアだけは本当に豊富な役所だな、と厚労には感銘すら覚えます。

投稿: kawashima | 2012年8月10日 (金) 10時58分

認知症のある患者を受け入れる病院が減って、結局 認知症の患者やその家族が困るだけと思うけど

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年8月10日 (金) 11時14分

グループホームには精神科病院から退院した認知症患者が流れてきますが、グループホームの介護力が特養に比べてかなり低いので、
精神症状がある認知症患者をうまく扱えないので、退院して1~2か月でまたすぐに病院へリターンなんてこともありえますね。
また精神科で抗精神薬などをとことん出された患者が廃人化して退院してくるケースも多いですね。
日本の医療は何か少しでも精神症状があれば患者側も医者側もすぐにクスリに走る傾向がありますからね。
国民全員薬物依存症(中毒)ではないかと思えるくらいで(笑)
いずれにしても高齢化に伴う認知症患者の激増は深刻な社会問題でしょうね。
正直言って今現在保険医療で使用できるクスリで廃人化せずにうまくコントロールできる患者は半分以下でしょうね。

投稿: 元神経内科 | 2012年8月10日 (金) 11時46分

こんな大事がこの段階で急に表に出てきたということの背景にも興味があります。
医師会によると厚労省内のプロジェクトチームが独自に打ち出した話らしいのですが、官僚だけで話をまとめるには社会的影響も大きすぎるのではないかなと思うのですが。

厚労省の認知症報告書「一方的な官僚主導」- 日医が批判
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/37842.html

投稿: 管理人nobu | 2012年8月10日 (金) 12時34分

いまでも長期入院の患者を望んで抱え込んでいる病院がそんなにあるかなあ?
帰せるものならとっくに帰してるだろと思ったけど精神科は診療報酬の計算方式が違うのかしら

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年8月10日 (金) 12時48分

まさか総合診療医に在宅医療させようなんて思ってないよな?w

投稿: aaa | 2012年8月10日 (金) 13時53分

総合診療医に認知症を含めた高齢者の在宅医療を推進しているのは間違いない。診療報酬がそれを証明していますね。
元外科医が認知症の診療を行う医療機関に登録して神経系の薬剤の副作用も理解せずに抗認知症薬や抗精神薬を適当に処方している。
総合診療医(なんでも屋)になるとやたらクスリが増えて15種類とか馬鹿みたいに山盛り処方するみたいで。
医者はなんでもかんでもクスリさえだせばいいと思ってる。その最たる失敗例が認知症医療。

投稿: 元神経内科 | 2012年8月10日 (金) 15時35分

いやしかし認知症患者に在宅医療といっても実際に何がやれるんでしょうかね?
これで病院から投げられても在野の先生方も困るんじゃないかと思いますけど。

投稿: ぽん太 | 2012年8月10日 (金) 16時22分

一般論として、精神病院に長期入院しなければならない認知症の患者さんはそう多くありません。
そういう入院の8割は社会的入院だと思います。
問題は、後の2割・・・保護室のドアを破ったり、強化ガラスをベッド柵だったもので破壊して離院しようとしたり、そういうレベルの「身体拘束反対論者が絶対に看てくれない患者さん」をどうしたらいいのか・・・

投稿: クマ | 2012年8月11日 (土) 10時27分

そこで古典的なジョークを一つ

  風邪の治療に病院に訪れた患者と医者との会話
  医者「家に帰ったら風呂に入り、できるだけ薄着をして、睡眠時間を減らしてみなさい」
  患者「だけど先生、そんなことしたら肺炎になっちまうじゃないですか」
  医者「私は肺炎なら治せるんだ」

投稿: | 2012年8月11日 (土) 11時30分

強制労働省は北欧型の医療制度を導入したいのかなぁ?
あれは一度施設に入ったら、二度と病院には戻らない制度なんだけど、
今の日本人に受け入れさせるのは厳しいと思うけどなぁ。

まぁ認知商患者を、在宅にしろ施設にしろ病院から追い出すなら、
薬でドロドロに鎮静させないと難しいでしょうね。
あ、メーカーからワイロでも貰ったかな?ww

投稿: | 2012年8月13日 (月) 20時19分

「認知症の老人など薬で眠らせておけば家でも面倒見られるじゃないか」
「そんなことしたら床ずれが出来てしまいます」
「認知症は入院させられないが床ずれなら入院できるんだ」

こうですかわかりません・・・・

投稿: | 2012年8月14日 (火) 08時56分

褥瘡で入院......まぁ、可能ではありますが....
褥瘡なんて治らないこと前提になっちゃうから、退院の目途が.....
どうせMRSAやピオちゃんが出てくるだろうし.....
どないせーと....(泣

投稿: | 2012年8月14日 (火) 22時42分

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 株の勉強 | 2012年8月19日 (日) 15時14分

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