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2012年8月30日 (木)

安全にもコストがかかるという当たり前の事実

先日日本病院会が診療報酬改定の影響を調査し公表していますけれども、今回は時代を反映してかネットでの調査になったようですね。

今年度診療報酬改定、看護配置で明暗か- 日病・改定影響調査速報版(2012年8月27日CBニュース)

 日本病院会(日病)は現在、会員病院の2012年度診療報酬改定の影響度調査を進めている。27日の定例記者会見で公表された速報版の調査結果によると、看護配置7対1以外の入院基本料を算定する病院の診療収入が前年度を下回ったのに対し、7対1を算定する病院では、1.26%のプラスだった。これについて同会の堺常雄会長は、報酬改定で急性期の診療が重点的に評価された影響だとみている。

 日病は12年度診療報酬改定の影響を調べるため、11年と12年の6月の月別診療収入や延べ患者数などを回答するよう会員病院に依頼。インターネットなどを通じ、21日時点で875病院から有効回答を得た。

 それによると、12年6月の患者1人1日当たりの診療収入は、前年同月と比べ、入院が2.80%、外来が2.61%、それぞれ増加。一方、1病院当たりの延べ患者数は、入院が1.44%、外来が3.67%、それぞれ減っていた。その結果、1病院当たりの入院収益は0.98%増、外来収益は0.42%減で、入院・外来合計では0.56%増にとどまった。

 報酬改定を踏まえた12年度の損益予測を尋ねたところ、増収・増益と答えたのは31.5%だった。増収・減益の20.0%と減収・減益の22.2%を合わせると42.2%で、増益予想の病院を上回った。また、一般病院では、病床規模が大きいほど増収・増益と答える病院が多い傾向が見られ、増益予想の病院が最も多かったのは「500床以上」(48.0%)だった。

 報酬改定の影響度調査にインターネットを用いたのは、今回が初めて。堺会長によると、これまで低かった200床未満の中小病院の回答率に、大きく改善の傾向が見られたという。堺会長は「(診療報酬などの)議論は、ほとんどが大きい病院のデータを基としており、実際の影響度を反映していないのではないかという危惧があった。中小病院のデータをなるべく多く集めて集約し、示していきたい」とした。

 同会は、確定版の調査結果を来月にも公表する方針だ。【佐藤貴彦】

しかし急性期に手厚くという診療報酬改定の大方針から当然に予想された結果ではありますが、特に今回中小病院の回収率向上が見られたということで大病院に対する格差がより一層浮き彫りになった感があります。
この結果に対して「結局、厚生労働省の考えている入院基本料のほとんどの部分が、看護料なのではないかという危惧がある」と述べ、「看護師以外の病院のスタッフが、平等に評価される入院基本料であってほしい」と主張していますけれども、厚労省の目指す医療資源集約化の流れはともかくその手段として看護師配置だけを過度に重視するのはどうかという声は根強くあります。
一例として大学病院や公立病院などはその規模や診療科の多さから地域の基幹病院と認識されている場合が多いですが、これらの施設はまた看護師が当たり前の仕事を当たり前にしないことでも有名で、こうした施設が名目だけ施設基準を満たすために何ら社会のお役に立っていない看護師を抱え込むことで市中病院が大いに割を食っているということですね。
ま、そうした脱線はともかくとして、この日病の言うところの看護師以外の病院のスタッフも平等に評価する報酬体系というものを、少しばかり違った視点から考えてみましょう。

医療安全に掛かるコストは- 医療経営学会がセミナー (2012年8月24日CBニュース)

日本医療経営学会はこのほど、東京都内で「医療安全の視点からみた医療経営」をテーマにセミナーを開いた。この中で、手術における安全性を高めるには、IT化推進など多額の設備投資が必要なことが指摘されたほか、医療安全管理業務の人件費分を診療報酬では十分賄えていないといった調査結果も示された。

新潟大医歯学総合病院手術部の堀田哲夫副部長は、「手術の採算性の実態と安全管理」をテーマに講演した。
全国の国立大学病院(42施設)では2010年度に、平均6201件の手術を行い、手術料で19億221万円(前年度14億3200万円)、麻酔科で4億4500万円(同5億7800万円)の収入があった。1件当たりの売り上げは平均38万円となっている。
ただ、国立大学病院の総収入における手術料(麻酔料を含む)の割合は14-19%で、さらに人件費、医療機器への投資、施設・設備の減価償却費を考慮すると、手術単体では大きな黒字を生むとは言えないと堀田氏は指摘した。だが、手術を行うことで外科系病棟の入院料が発生し、検査料も増加するため、重要な収入源であることは間違いなく、病院の総収入は手術件数に比例するとした。
また、医療事故が生じた場合、病院の評判は低下し、手術件数にもブレーキが掛かるため、安全対策を講じることが重要とした。
堀田氏は医療安全に投資するメリットとして、医療者の倫理観が向上することによる医療行為の質の向上が期待され、患者からの信頼が高まるほか、訴訟も減少することを指摘。さらに、手術で最も事故を減少させる方法として、IT化を進めることを強調した。
IT化の例としては、▽リストバンドとバーコードリーダーを使った患者照合▽輸血認証システム▽HIS(病院情報システム)との連携による患者情報の取得と照合▽手術オーダーによる確実な機器準備▽滅菌物品のトレーサビリティーの確立-などを挙げた。
堀田氏は課題として、手術室のIT化は多額の費用がネックとなり、十分普及していないことを指摘。また、手術室に専任のリスクマネジャーの配置が必要なほか、看護師が行う清掃作業などをアウトソーシングして、手術の安全に注力させるべきとした。

■医療安全管理の人件費は660億-1320億円

横浜市立大附属市民総合医療センターの安全管理指導者の寺崎仁氏は、医療安全管理に要する人的コストについての調査結果を紹介した。
寺崎氏は、医療の安全確保のための体制整備に要する人件費が、病床当たりでどれくらいになるのかを、「要員調査」(調査時期08年6月)と「業務調査」(同09年3月)の2つの側面から調査し、比較した。
「要員調査」では、医療安全管理にかかわる職員が、業務の中でどのくらいのウエートを安全管理に置いているのかを大まかに把握し、民間病院の職種別給与に当てはめて算出した。1463施設中436施設が回答した(回答病院の平均病床数は335床)。
「業務調査」では、医療安全管理業務の内容を幾つかに分類し、それにかかわっている職員一人ひとりの業務時間を全勤務時間に占める割合で把握して、人件費に換算した。1514施設中843施設が回答した(同313床)。
「要員調査」によると、1病院当たりの医療安全管理業務に要する年間人件費は平均3582万5069円で、1床当たりでは10万6464円だった。外れ値とした20施設を除外した場合の平均値は、1床当たり月間8701円、1日290円だった。
また、「業務調査」における1床当たりの医療安全管理業務に要する人件費の平均値(外れ値とした40施設を除外)は、月間6176円、1日203円だった。
寺崎氏は、これらの調査結果から、医療安全管理業務に要する人件費は、1床当たり1日150-300円の範囲と推計した。
しかし、500床の急性期病院(平均在院日数14日、病床利用率90%、年間入院患者1万1732人と仮定)が「医療安全対策加算1」(85点)を算定しても、1床当たり1日54.6円にとどまり、人件費の半分も賄われていないと指摘した。
また、国内の病院病床数を約120万床とすれば、医療安全管理業務に関する人件費は年間で約660億-1320億円に上るとした。【大戸豊】

医療の安全ということでマスコミなどは何でもかんでも「あってはならないこと」の一言で片付けようとしますけれども、実際にはそんな単なるあるかないかの定性の話ではなくて「どの程度あってはならないか(すなわち、どこまでなら許容されるか)」という定量的な考え方で捉えなければ仕方がありません。
例えば「絶対に事故を起こさない車を作れ」などと言うのは車を走らせれば必ず事故にあう可能性はゼロには出来ず、仮にずっと動かさずに駐車させているだけだったとしてももらい事故などの可能性がゼロに出来ない以上、車など一切作らずこの世から無くせというのと同義にしかなりません。
だからこそ仮に事故を起こしたとしても少しでも安全な車にするにはどうすればいいかということをメーカーは工夫するわけですが、その過程で必ず考えなければいけないのはそれを実現するためにどれだけのお金がかかるのかというコストの問題で、いくら優れた性能を持っていてもマーケッティング上許容されざる高コストを要するようでは売れるはずもありませんよね。
そしておもしろいのは車であれば1000万円のベンツよりも100万円の軽自動車が安全性に劣っているんだろうなということは何となく皆承知しているし、それはそれで仕方ないことだろうと納得して利用できているにも関わらず、これが無料あるいは無料に近い原価無視の設定で提供されている公共サービスなどになると途端に「軽だからと言って安全性が劣るのはケシカラン!ベンツと同じにしろ!」と叫び出すということです。

医療の場合も全国一律の完全な公定価格で同じ医療を行えば原則収入は同じですが、患者支払い額の上限が定められているせいか多少なりとも手厚い医療を受ければすぐ上限の定額払いに到達してしまい、結果として前述の患者要求水準の際限なき上昇を招きがちなのですが、これに対して安全確保にかけられるコストの方には当然ながら厳しい制約が存在していて、これをどう割り振るかということも工夫のしどころです。
例えば最新式の機材などハードウェアに関してはやはり資本のしっかりしていて症例数も多い大病院でなければペイしないということもあり、最大公約数的に安全に係わるコストと言うものを考えるとやはり人件費ということを抜きには語れませんが、前述のように看護師あるいは医師に関しては診療報酬にも関わる定数が設定されている一方、それら専門職をサポートするスタッフには十分な評価が為されていません。
検査伝票を運んだりベッドメーキングをしたりという雑用的な業務はコストの安い非専門職スタッフに担当させれば、同じ数の専門職スタッフでもより高度な医療行為を行えるようになり、当然ながら隅々まで目線が届きやすくなる理屈なのですが、今のところこうした分業体制は診療報酬で十分には評価されずいわば病院側の持ち出しで行われているわけですね。
よくしたもので今の専門職不足の時代にあっては、こういう見えにくい部分にしっかり配慮された病院は当然スタッフ受けもよくなり、より多くの医師、看護師がやってくることによって結果として収入も増え規模も拡大していくという構図になってはいますが、やはり医療安全の向上を要求するのであればそのためのコストも応分に出していただくのが筋というものではないでしょうか。

実際にどの程度のコストが必要なのかということは各施設の実情もあり直ちに算出するのも難しいことですが、とりあえず医療現場の過酷な勤務状況が離職や逃散の原因と言われる中、他方では医療を主導にした経済成長をなどと言い出している、そして世の中職を求める若い人達も大勢いるわけですから、サポート役のスタッフの人件費を考慮していただくのがまずは最優先なのかなという気がします。
医療安全の人件費が1000億円規模というくらい何しろどこの病院でも仕事はあるわけですから、例えば各病棟に雑用係(と言う言い方がいいのかどうかはともかく)を配置する、外来にも介護や案内も行うサポートスタッフを置くといったところから始めても幾らでも雇用を創出できそうです。
もちろんそうした人材が医療安全のために有効活用されるためには専門職が専門職らしい仕事をきちんとこなすという大前提が必要なのであって、いずれにしても看護師が業務の何たるかも学ばないまま何の役にも立たない看護研究(笑)なるもので一生懸命時間を潰しているのは壮大な無駄と言うしかないということですよね。

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コメント

だが腐ったリンゴにいくら新しいリンゴを追加しても腐ったリンゴが増えるだけとも言うw

投稿: aaa | 2012年8月30日 (木) 09時31分

適切な労働に対する評価のためにも各人がどんな仕事をしているかという情報は必要なんですが、公務員の方々はそういうことには断固反対なんだそうで。

投稿: 管理人nobu | 2012年8月30日 (木) 10時22分

みずから損になることを求めるのはマゾか本物の人格者だけ

投稿: | 2012年8月30日 (木) 10時40分

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