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2012年8月14日 (火)

精神障害者問題 義務と権利は等価交換

先日は精神障害者の雇用を国が義務づけるという話を紹介しましたが、これに対して「『幻覚を見て、何を言っているかわからない』人と一緒にどうやって仕事をするのでしょう」などと編集後記に書いた雑誌が精神科病院教会などから抗議を受けたと言います。
ちなみに厚労省の指針によると雇用義務づけになるのは社会復帰可能な3級準拠の精神障害者で、幻覚が見えているとすればこれは1級2級の対象になるからそもそも認識が間違っているという指摘もあるようで、仮に政策に対して意見があるにしても後書きなどで放言して終わるのではなく、きちんと取材をしちゃんとした批評に耐える記事として問題提起すべきであったとは言えそうですね。
一方で精神障害者に限らず社会において何事であれタブー視することは言われなき差別と全く同根の問題ですから、今回のことで精神障害者についての議論など一切してはならないんだと勘違いしてしまうことも避けなければならないのですが、先日またしても賛否両論ありそうな判決が出てきたと言うことでじわじわと各方面の話題を集めています。

「発達障害への偏見ある」 求刑超え判決、日弁連が批判(2012年8月10日朝日新聞)

 大阪地裁の裁判員裁判で先月、被告が発達障害の一つ「アスペルガー症候群」であることを理由に求刑を上回る懲役20年の判決が言い渡されたことについて、日本弁護士連合会は10日、判決を批判する山岸憲司会長名の談話を出した。「発達障害への無理解と偏見がある」とし、評議の中で、裁判員に刑の重さを判断するうえで必要な医学、社会福祉関連の情報が提供されるよう求めた。

 判決は、社会で受け皿が用意されておらず、再犯のおそれが強い▽許される限り長く刑務所に収容することが社会秩序維持に役立つ――と指摘。懲役16年の求刑を上回る量刑とした。日弁連は談話で「受け皿が各地に整備されつつある現状を見過ごしている」「刑務所での治療体制は不十分で、長期収容による改善は期待できない」などと指摘した。

 この判決に対しては、日本自閉症協会などからも抗議声明が出ている。

発達障害者に求刑超え異例判決 「社会秩序のため」に賛否分かれる(2012年7月31日J-CASTニュース)

  姉を刺殺した発達障害のある42歳の男性被告に、裁判員裁判で求刑を超える懲役20年の実刑判決が言い渡された。その理由に、「社会秩序の維持」を挙げており、識者の間でも論議になっている

   障害を理由に減刑することは、刑事裁判では、よく見られる。この判決が異例なのは、逆に刑を重くしたことだ。

障害者団体などは、「無理解、偏見」と批判

   報道によると、大阪市平野区の無職大東一広被告(42)は、大阪地検の精神鑑定で、社会的なコミュニケーションに問題があるとされるアスペルガー症候群と診断された。そのうえで、地検は、大東被告に責任能力はあるとして、殺人罪で懲役16年を求刑していた。

   一方、2012年7月30日の大阪地裁判決では、アスペルガー症候群であると認定しながらも、大東被告がまったく反省していないうえ、家族も同居を望んでいないため、社会の受け皿がなく、再犯の可能性があると指摘した。そして、「許される限り刑務所に収容することが社会秩序の維持にも役立つ」として、殺人罪の有期懲役刑の上限を適用した。

   判決によると、大東被告は、小学校5年で不登校になってから約30年間の引きこもり生活は姉のせいだと逆恨みした。そして、11年7月25日に生活用品を市営住宅の自宅に届けに来た姉に対し、腹などを包丁で数カ所刺して殺害した。

   これに対し、弁護側は、「主張が認められず遺憾だ」として、控訴する構えを見せている。法廷では、障害の影響があったとして、保護観察付きの執行猶予判決を求めていた

   社会秩序維持を挙げた判決について、障害者団体などからは、「無理解、偏見に基づく判決だ」などと批判が出ている。とはいえ、ネット上では、その反応は様々だ。

識者から「裁判員の判断の方が常識」の意見も

   判決について、「犯した罪ではなく、出所後の受け皿の有無で刑が決まるとかおかしい」「福祉の存在意義を真っ向から否定する言い分だな」といった疑問は多い。一方で、「病人だとはいっても、このような人間を受け入れられる施設が刑務所以外にあるのだろうか」などと判決を支持する声もあり、「無期禁固でいい」といった極論すらあった。

   識者の間でも、意見は分かれているようだ。

   日経の記事によると、判決について、板倉宏日大名誉教授(刑法)は「障害がある場合、量刑が軽くなるケースが大半。法律の専門家からすれば違和感が残る」と指摘した。一方、産経によると、元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授は「検察側の求刑が軽すぎた。裁判員の判断の方が常識にかなっている。裁判員裁判を導入した成果といえるだろう」と述べた。

   発達障害について、家族がいないと社会の受け皿がないというのは本当なのか。

   大阪市内で発達障害者の支援に当たるある相談員は、取材に対し、「受け皿は少ないのが実情」と明かす。「グループホームに発達障害に特化したところはなく、どこも満杯です。ですから、社会復帰する施設は、なかなかありません」。

   独り暮らしをしたとしても、実情は同様だ。2005年に発達障害者支援法が施行され、自治体が障害者を支援することになっている。しかし、本人が相談などをせずに引きこもっていた場合、行政が乗り込むのは難しいようだ。

   ただ、前出の相談員は、判決については、「刑務所に発達障害対応のプログラムがあるとは思えず、理不尽だと思います」と漏らした。

ちなみに犯行に至るまでの状況ですが、別記事によればこうした経緯であったようで、「全ては障害のせいで普通ならあり得ない事件だ」と主張する山根弁護士には失礼ながら、昨今の世相においてはむしろ障害の如何を問わず幾らでも起こりそうな事件ではあるかなという印象を受けます。

厳罰という名の隔離 発達障害被告に求刑超す判決(2012年8月10日中日新聞)より抜粋

 大東被告は小学5年で不登校になり、約30年間引きこもり生活を送っていた。本人も家族も障害には気づいていなかった。被告は不登校になった時に「転校や引っ越しをして、やり直したい」と両親に頼んだが、実現しなかった。それを姉のせいだと思い込んだ

 20代のころにはインターネットで自殺の方法を調べようと、姉に「パソコンを買って」と頼んだが、新品を買ってもらえず、さらに恨んだ

 犯行時は母親と2人暮らし。結婚して家を出た姉が被告のために生活用品を届けた際、「食費やお金は自分で出すように」と置き手紙で自立を促したことが、今回の犯行の引き金となった。

 大東被告は逮捕後の検察の精神鑑定で初めて、広汎性発達障害の一つ、アスペルガー症候群と診断された。この障害には、他人の感情や意図を理解することを苦手とする傾向がある。コミュニケーションがうまく図れず、いじめられて不登校になったり、障害者本人が被害感情を募らせてしまうこともある。

 担当した山根睦弘弁護士は「障害のせいで、自分の苦しみはすべて姉のせいだと思い込んだ。通常なら考えられないような動機だ。家族への甘えが入り交じった複雑な恨みの感情を30年も募らせた末の犯行であり、あかの他人への再犯はあり得ない」と説明する。

近年ネット上ではこの「アスペルガー」という言葉が非常に便利に使われていて、なにかヒキヲタの代名詞か何かのようにも連呼されていますが、もともとは知的障害のない自閉症の一種とされているもので、表情やボディランゲージ、言葉のニュアンスを理解出来ない等から特に対人関係において問題が生じやすいにも関わらず、一見正常な人のように見えるために社会的支援を得られにくいと言う事情があるようです。
この判決に関しては二つのポイントがあって、一つには精神障害者に対して一般人と同様に刑事罰を課すべきなのかどうかということで、実際に弁護側は障害による影響があったとして執行猶予判決を求めていたということですけれども、こうまで情状酌量の余地のない犯罪行為に対してそうした「特別扱い」を求めてしまうとますます精神障害者は責任能力のない人々なんだという「偏見」を助長しかねません。
冒頭に紹介したケースにもありますように、関係諸団体の立場としては軽症の精神障害者は一般人と何ら変わりのない社会生活を送っていけるのだというタテマエになっているわけですから、社会進出を望むならむしろアスペルガーなど事件には何も関係がないのだ、障害者だからと特別視せず普通の人と全く同じに扱ってもらいたいと主張するべきであったんじゃないかとも思います。

その点で今回求刑よりもより重い判決を出したということにも注目すべきで、事件の背景事情に加えて本人も全く反省していないということで元々の求刑が軽すぎただけだという声もあるようですが、一方で判決でははっきりと「社会の受け皿がないから」と言う理由で出した結論であると言い切っているのが気になりますよね。
確かに親族が親身になって養ってきたにも関わらずそれを裏切った人間が、しかもすでに40も過ぎては障害の有無に関わらず今さら劇的に対人関係の対処能力が改善するはずもないでしょうし、またアスペルガー程度では措置入院扱いで一生病院に閉じ込めておけるわけでもないとすれば、「そんな危ない人間を野放しにするのは困る」と言うことで少しでも長く刑務所に、と考えたくなる心情は理解出来ます。
しかし刑務所とは犯した罪に対して応分の刑罰を受ける場所であり、他に行き場がないからと犯した罪以上の刑罰を与えるというのは明らかに筋違いというもので、今回の判決は刑法の意味をいささか独自解釈し過ぎたという点で大いに批判されるべきなんじゃないかと思うのですがどうでしょうか?
ただしこの点に関しては別に精神障害者であるから駄目だというわけではないのは注意すべきであって、仮に今後更正が見込めない凶悪犯罪者も同様な理屈で一生刑務所に押し込めておけと言う判決が出たとすれば、今回の事件と全く同程度におかしな判決として批判されるべきなんじゃないかということです。

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コメント

>許される限り刑務所に収容することが社会秩序の維持にも役立つ

近ごろの裁判官は余計なことばかり言い過ぎる
こんなことは裁判官が口にするこっちゃないだろ

投稿: take-R | 2012年8月14日 (火) 09時23分

アスペルガー症候群の方は他人の感情や意図を理解することを苦手としますが、他人もアスペルガー症候群の方の感情や意図を理解することが難しいというのを前提に考えなければなりません。
ニュースでは「尽くしてくれた姉に逆恨み」のような論調で書かれていますが、本当にそれが正しいのかについて若干の疑問を感じます。共依存状態に陥っていた可能性はなかったのかなと。当事者を診ずに判断することは慎まなければなりませんが・・・

投稿: クマ | 2012年8月14日 (火) 09時39分

>他人もアスペルガー症候群の方の感情や意図を理解することが難しい

おっしゃるような相互理解の困難さが怖さにつながるという例は精神疾患に限らず日常的に起こることです。
このところのいわゆるゆとり問題も結局そうした文脈で理解出来るのかなと(OSが違うのだと言う人がいてちょっと納得なんですが)。

http://news.livedoor.com/article/detail/6770534/

投稿: 管理人nobu | 2012年8月14日 (火) 09時58分

精神医療素人なんですが、アスペルガーの診断基準は厳密に決まってるものなんでしょうか?
新型うつのように変なことに悪用される可能性はないのかなと。

投稿: ぽん太 | 2012年8月14日 (火) 11時31分

人殺しするような輩って精神構造がふつうじゃない
ふつうじゃないから免罪ってありえんだろjk

投稿: | 2012年8月14日 (火) 15時55分

全く反省してなくて、受け皿がなくて、求刑が軽かったと言われてるのだから、応用を利かせた良い判決かと。
まともな子供を殺された親にまた一緒に暮らせと?

受け皿があるというなら日弁連で面倒見ろよー。実際ないぜー。
知り合いは息子がボーダーラインだとかで暴力をふるうのでしょっちゅう大けがしていて、最近は親の方が住処を転々として居所を知られないようにしてる。大変だぜー。
受け皿があるって聞いたこともないし、あってもおとなしいヒッキーにしか意味ないんじゃ?

投稿: | 2012年8月14日 (火) 16時40分

刑務所とは何ぞや?ということについては いろいろ考えがあると思いますが、
「社会にとって危険な人物を隔離する場所」という考えは、社会自身にとって最も危険なものだと思います。

それと自閉症自体は予防したり治療したりできるようなものではないと思いますが、
社会との折り合いを学ぶことはできますし、
多くの反社会的性向の直接的原因であろう二次障害は もしかしたら防げるかもしれない、と考えれば
家族には全く責任はない、とも言い切れないのではないでしょうか。
専門家のご批判を待ちます。

投稿: JSJ | 2012年8月14日 (火) 19時46分

島流しとか追放とか、共同体から出て行けっていう昔の刑罰はあれでよく出来てたんだなと思うわ
どこかに大人版ヨットスクールでもありゃいいんだけどジンケン屋の皆さんがうるさいんだろ~な~

投稿: けんちゃん | 2012年8月15日 (水) 07時30分

ぽん太さまへ
アスペルガー症候群の診断は、生育歴の聴取、問診、心理検査の結果などから総合的に判断するのですが、知能検査などでアスペルガー症候群の診断がつくように嘘をつくのは非常に困難ではないかと思われます。

あと、ボーダーラインのことを書かれている方に。最近、ボーダーラインと診断される方は極端に減っています。よく調べたら他の病気であることが多いのが原因と思われますが・・・知り合いの息子さんの診断、正しいのでしょうか?

投稿: クマ | 2012年8月15日 (水) 07時43分

そもそも裁判官とか医者とかに高機能広汎性発達障害(PDD)とか沢山いるんじゃないでしょうか?
人の痛みがわからないとか全く反省しないとか。極端に社会性が乏しい方が多いのではないかという印象ですが。

投稿: 元神経内科 | 2012年8月15日 (水) 10時01分

>クマさま

>アスペルガー症候群の診断は、生育歴の聴取、問診、心理検査の結果などから総合的に判断するのですが、知能検査などでアスペルガー症候群の診断がつくように嘘をつくのは非常に困難ではないかと思われます。

ご教示ありがとうございます。ある程度厳密になされているということですね。
ただあちこちググってみて感じたのは、診断が確定している数よりも実数ははるかに多いのではないだろうかと。
今回の被告ももともと何らそうした障害があるとは思われておらず、事件を起こした後の鑑定で診断されたということですし。
同様に様々な精神疾患の隠れ患者が多数いる可能性があるのだとすれば、過去に言われてきた精神障害者の犯罪発生率なども再検討する必要があるのでは?と感じました。

投稿: ぽん太 | 2012年8月15日 (水) 10時21分

アスペルガーやその他障害者の人達によって健常者達がとてつもなく被害に遭ってる。
ならばそれを排除していた昔のが余程秩序が保たれていたのでは。
その障害者の人権を守っているが故に、健常者達が無理な理解を強いられ、我慢させられ、傷つけられ、時には精神疾患になるほど、時には自殺、他殺にまで発展する。
介護、介助にしても、その人たちのために健康で元気な人が労働を強いられる。
その面倒を診なければいけない家族に選択肢を与えた方がいい。
人権云々ならその処遇が適切かどうかの裁判があってもいいと思う。
付きっきりで介護し自分の人生を台無しにしている人、アスペルガーとの心の通わない結婚生活で病む人、子供に遺伝しやすく被害がどんどん広がること
実際昔より増えてるんじゃない?
規制や早期療育で被害の拡大を防がないと、そのうち殆どがアスペルガーになりそう。

投稿: | 2016年8月 9日 (火) 17時37分

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