« 今日のぐり:「うどん商人つづみ屋」 | トップページ | 厚労省が病院の情報開示を規制?! »

2012年7月 2日 (月)

終末期医療問題 一見すると関係なさそうな搦め手からの話題

先日も全医連主催の終末期医療に関するシンポジウムが開かれるなど、高齢化が急速に進行する中で国全体でも人生最後の看取り方というものへの関心が高まっていますけれども、終末期医療をどこまで積極的に行うべきかということについても様々な意見があるところですよね。
今年になってから老年病学会が終末期の胃ろうなどいわゆる延命的処置を中止してもいいと言う新指針を打ち出してきましたが、そもそもこれも厚労省と連動して出てきた話であることからも判るように国も非常に前向きであって、さっそく超党派議員連が積極医療を行わない場合でも医師を免責すべきだと言う法案を打ち出してくるなど、立法府も含めてのバックアップが検討されている状況です。
ひとたび集団が動き始めると一気に突っ走り始めるのが日本人の特性と言うものなのでしょうか、今度は透析学会からもこんな提言が出てきました。

終末期の人工透析、家族意向で中止も…学会提言(2012年6月24日読売新聞)

 重い慢性腎不全の患者が受ける人工透析について、日本透析医学会(理事長・秋沢忠男昭和大教授)は、終末期の患者家族が希望した場合などについて、透析の中止や開始の見合わせも可能とする提言をまとめた。23日、札幌市で開かれた同学会総会で明らかにした。

 国内で人工透析を受けている患者は約30万人いるが、70歳以上での開始が約半数と高齢化している。終末期の患者への透析のあり方が現場で議論になっていることから、同学会は作業チームを設け、導入や継続を見合わせる際の具体的な手順について検討してきた。

 体調が悪化し医学的理由から安全に行うことができない場合だけでなく、判断能力がある患者が自ら透析を拒否した場合や、自分では判断能力がない終末期患者でも家族が拒否した場合は、見合わせや中止の対象とする。医療側から見合わせや中止を提案し、同意を得て行うこともあるとした。

終末期でしばしばその是非が話題になる積極医療としては「うかつに外せば殺人罪」の人工呼吸器などもそうですが、一見それほどの派手さが内人工透析なども患者数が多いことに加えひとたび始まると年単位の長期にわたって継続される、そして何より非常にランニングコストが高くつく(年間500万円)ということもあり、かねて無制限に続けてよいものかと議論になっていたところでした。
近年どこの先進国でも医療費の増大は非常に大きな問題となっていますが、海外諸国ではこうした点からイギリスのように50歳以上は新規に透析導入はしないとか、ドイツのように60歳以上は医療保険の対象から外すといったことを行っている国々も多い中で、日本は非常に低額(患者負担は月額1万円)で年齢制限等もなく幾らでも透析が続けられることが一つの特徴であったわけですね。
もちろん社会的活動性の高い人々に対して単に年齢が来たからと直ちに打ち切るというのも無情な話ですが、誰がどう見てもそこまでの医療費をかけるのはどうなのか…と思われるような寝たきり高齢者などもただ中断すれば殺人罪に問われかねないからという理由で延々と透析を続けられているというのは、やはり医療従事者にとっても家族にとっても違和感を感じる部分は多々あったはずです。
無論国にしても透析だけで年間1.4兆円もの医療費を削減できれば願ったりかなったりで厚労省も超党派議員連も協力を惜しまないのではないかと思いますけれども、いずれにしても終末期医療、特に高齢者のそれは倫理面のみならずお金の面からも規定されるのがかつての日本でも世界的にも当然であって、むしろそうした考えが忌避されてきた過去半世紀の日本こそ異端であったとも言えそうです。
そんな中でこれまた終末期医療のあり方に大きな影響を与えそうな話が、一見すると全く関係なさそうな文脈で出てきたことに注目しているのですが、こちらの記事をみていただきましょう。

精神科への入院、原則1年以内に…厚労省が方針(2012年6月29日読売新聞)

 厚生労働省は28日、精神科への入院を原則1年以内とする方針を決めた。

 入院治療の必要性がない患者を早期に退院させ、地域で暮らせるようにするのが狙い。退院支援に携わる精神保健福祉士らを配置するなどの取り組みを、早ければ来年度から始める。

 同日開かれた有識者検討会のとりまとめを受けた。

 国内の精神疾患による入院患者は約33万人(2008年)で、約22万人が1年以上の長期入院だ。10年以上の入院も7万人を超える。統合失調症が多いが、近年は認知症も増えている

 入院期間を短縮させるため、発症間際で症状が激しい患者に対応する医師の配置基準を、現在の3倍と一般病院並みに増やす。精神保健福祉士や作業療法士など、退院支援に当たる専門職も置くようにする。

入院患者が外出中に殺人事件を起こしたことで被害者家族から外出を認めた精神科病院が訴えられたという「いわき病院事件」に関しては以前にも取り上げましたが、逆に言えばこうした事件が起きるほどに近年「精神障害者だからと病院に押し込めておくのは人権侵害だ」という声が人権団体等から高まっている、そして病院側もなるべく入院期間短縮を図っているというのが世の流れであると言えそうです。
そうした文脈で見ればこれは精神障害者の人権を守るために国もようやく意見をするようになったかで終わる話なんですが、実は記事中にもあるように22万人を数える1年以上の長期入院患者の中で「近年は認知症も増えている」というところがくせ者なのです。
ひと頃から「まだ治りきっていないのに三ヶ月が過ぎたからと転院を迫られた」なんて話が盛んに聞かれるようになりましたが、とにかく日本という国は必要もないのに家庭の都合で入院を続けている社会的入院が極めて多く医療費を押し上げていることもあり、国は「とにかくさっさと退院させろ」という方向で診療報酬改定を続けてきたという背景があります。
それでも現実問題として継続的な医療を必要とし在宅介護や介護施設入所も難しいような寝たきり高齢者は少なからずいるわけですから、身体的な問題で介護度の高い人などは療養型病床などで長期入院も可能な報酬体系になっているのですが、一方で「これは長期入院させるほど赤字になる」という報酬額になっているのが身体は元気だが認知症などで問題行動が著しいというタイプの方々です。
理屈の上ではこうした方々が必要なのは医療や介護など専門的対応ではなく見守り等のケアに過ぎず、それなら専門家が相手をせずともいいはずだと言えるのは確かなのですが、ともかく始終徘徊をしたり何をするか判らないような人々の受け皿として精神科がその一翼を担ってきたのは紛れもない事実なのですね。

もちろん問題行動に対する薬物治療という面では精神科医療の方が数段手慣れているのは事実でしょうが、逆に言えばそうした専門的医療ががっちり行われるほどに内科などがみている一般の療養病床では対応しがたくなってくるというもので、例えば何かしら身体的な急病で搬送先を探さなければならないという場合でも精神科加療中と言えば一気に搬送先を見つけ出すのが困難になるといった現実があります。
厚労省も当然にそうした現状は把握していると思われますが、保険診療というものの性質上精神疾患のための薬を使っている患者さんなら本物の精神病患者であれ認知症のお年寄りであれ同じ精神疾患の保険病名がつけられているはずですから、例えば認知症のお年寄りはその例外としようとしたところで表向きはっきりとした区別をつけるのは難しい理屈で、急にこんなことを言い出して大丈夫なのかと心配にはなりますね。
ただこういう話をすると「なんたる老人に対する不当な虐待!これだから日本の政治はダメなんだ!」という話になりがちですけれども、繰り返しますが高齢者だろうが年齢制限一切無しに若者と同じ治療を無制限で行える、むしろ医療費などの面で安上がりになるように優遇しているなんて国はむしろ例外的で、世界的には若い人と高齢者では同じ疾患でも対応を分けるという方が当たり前なのです。

日本でもつい数十年前までは高齢者は静かに家族で看取り、医者に診てもらうのは翌朝死亡確認をしてもらう時だけと言ったことが普通だったわけですが、皆保険制度により誰でも望む時に安価に医療を受けられ、特に高齢者に関しては数々の優遇措置を取ってきた結果、終末期医療に手を抜くなど親不孝だ、一番いい病院で最高の医療を受けさせるのが当たり前だという親族やご近所のプレッシャーが強まってきた側面があります。
その結果県内随一の高度医療を提供するはずの基幹病院が郡部の開業医から次々と送られてくる「ただ看取るだけ」の高齢者達によって常時ベッドが埋め尽くされ、本当に緊急で医療が必要な若い世代が締め出されてしまうなどという本末転倒なケースも見られますが、世界的に見れば高齢者医療に対して慣習や経済面から様々な制約を課している国々は少なくありません。
自力で食事を食べられなくなれば延命的処置など一切何もしない、その結果「寝たきり老人など存在しない夢のような国!すばらしい高福祉国家だ」だと日本でも有名な北欧諸国などはその一例ですし、生涯に受けられる公的医療給付は給与から強制的に積み立てられた金額の範囲内までで、余った分は家族内で使い回せるようにして実質的に過度な終末期医療を抑制しているシンガポールのような例もあるわけですね。
医療のあり方を経済面から歪めていくと言えばどうしてもネガティブな印象がつきまといますが、誰しも「これはちょっとおかしいんじゃないか?」と思っていることでも横並び意識から何となく言い出せない傾向の強い日本のような国にあっては、案外こういう強制的な圧力が加わった方が劇的に改革が進んでいく早道になるのかも知れません。

|

« 今日のぐり:「うどん商人つづみ屋」 | トップページ | 厚労省が病院の情報開示を規制?! »

心と体」カテゴリの記事

コメント

一年たっても治らないのが急に退院できるようになるわけないw
こりゃいずれトラブル多発で大騒ぎになるな

投稿: aaa | 2012年7月 2日 (月) 08時54分

>>一年たっても治らないのが急に退院できるようになるわけないw

一回でも退院させれば、症状再発とか重症化ってことで、また一年入院ってことになるのでしょうか?

投稿: 浪速の勤務医 | 2012年7月 2日 (月) 09時06分

精神科の病床管理が現状どうなのか知らないですが、内科同様に関連施設との間で出たり入ったりで調節するんですかね?
うちの近くの精神科病院ではもう久しく前から認知症は取らない方針になったようですから、こういうことになるという情報はあったのかも知れないです。

投稿: ぽん太 | 2012年7月 2日 (月) 10時55分

10年でも20年でもずっと座敷牢に閉じ込めておくしかないのがいるだよ
年とってただのボケ老人と同じに扱えるようになるまで閉じ込めておくしかない
それまで厚労省の役人がつきっきりで面倒みるのか?

投稿: | 2012年7月 2日 (月) 11時55分

透析がこのような動きなら、
癌治療についても、本人の選択ができる時代になるでしょうね。

本人や社会にとっていいことと思いますが。

投稿: 重 | 2012年7月 2日 (月) 13時17分

枯れ木に水の透析医療にもついにメスが入りますか
こういうことは誰もが望んでいるんだから早めに制度化すべきでは
まずは医師免責の保証が必須になるのかなあ?

投稿: 柊 | 2012年7月 2日 (月) 13時35分

退院後の受け皿の整備も 勿 論 セットで進めるのですよね、厚労が。
都合の良い時だけ"民間活力がうんたら"とか言わないですよね、ねね?

投稿: kawashima | 2012年7月 2日 (月) 14時00分

>それまで厚労省の役人がつきっきりで面倒みるのか?
>退院後の受け皿の整備も 勿 論 セットで進めるのですよね、厚労が。

お忙しい厚労省のお役人がそんなことをするはずもない
言いつけを守れない悪い精神病院は黙って診療報酬を削るのみ

投稿: kan | 2012年7月 2日 (月) 14時23分

本県じゃつぶれかけだったボロい精神病院がとうとうお上に営業停止くらった
一人きりで何とか維持してた老院長が入院して回診もろくにしてなかったのがいけないんだと
そりゃまともな医療とは言えないけど今まで抱えてた患者をどこが引き取るってのよ?
先進国ならこんなババ抜きみたいなことさせんなよ!

投稿: 贅肉マン | 2012年7月 2日 (月) 14時33分

>10年でも20年でもずっと座敷牢に閉じ込めておくしかないのがいるだよ
10年以上保護室にいた患者が主治医が転勤で交代しただけで1年とたたずに落ち着いて施設に退院、ってケースをいくつか経験していますからねえ。
入院患者の主治医が何年も変わらないというのは、いろんな意味で怖いです。

投稿: クマ | 2012年7月 2日 (月) 21時36分

それ精神科だけでなく普通にあるので主治医制も良し悪し

投稿: | 2012年7月 2日 (月) 22時36分

チーム医療もいいと思うんだが、熱心に反対する先生もいるからな
DPC病院でパス通りに進むような仕事は主治医制の意味は乏しいと思うんだが

投稿: kan | 2012年7月 3日 (火) 09時52分

「ヘタレの尻ぬぐいさせられるのはかなわん」と実際拒否した先生がいたな>チーム医療
いまになってみると典型的な奴隷根性の染みついた人だったなと感じるが

投稿: あん | 2012年7月 3日 (火) 10時56分

科によって向き不向きがあるとは思いますけどね。
ただ医療の標準化が正義とされる世の中では俺じゃないと出来ないという医療は異端視されるようになっていくかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月 3日 (火) 12時39分

昭和52年に亡くなった祖父は、末期癌でしたが
最期まで自宅で祖母が介護していました。
夜毎、激痛で叫びまくる祖父と徹夜で手足を
摩っていた祖母。当時小学5年生だった私は祖母
の為に早く祖父が楽になってくれれば…と思った
ものでした。今なら経口モルヒネ等の緩和ケアで
もう少し安らかな最期が迎えられたんだろうなぁ。
夏休みの一日、いつにない静けさで目を覚ましたら
祖父は息を引き取った後でした。

その日、家族といつも往診を頼んでいた近所の先生
が祖父を囲んでいる後ろ姿が忘れられません。
苦悶のうちに…だったので私は起こされなかった
そうです。
私にとって「看取り」の原体験でした。痛みだけは
コントロールして欲しいけど、それ以上の医療は
せず、自宅で最期を迎えたいというのが中年になった
今の希望です。

投稿: 七実 | 2012年7月 3日 (火) 14時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/55099102

この記事へのトラックバック一覧です: 終末期医療問題 一見すると関係なさそうな搦め手からの話題:

« 今日のぐり:「うどん商人つづみ屋」 | トップページ | 厚労省が病院の情報開示を規制?! »