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2012年7月13日 (金)

救命救急士による医療行為はじまる

本日の本題に入る前に、近ごろではすっかり当初のマニフェスト放棄がデフォになったかのようにも見える民主党政権において、珍しく未だに言っていたんだなと思いつつ記事を読んでいましたのがこちら、政府の掲げる新たな経済成長戦略に登場する文言です。

環境・医療で新市場創設、「成長マネー」拡充も=日本再生戦略案(2012年7月10日ロイター)

[東京 10日 ロイター] 2020年までの成長戦略を描いた「日本再生戦略」の原案が10日、明らかになった。政府が掲げる名目経済成長率3%、実質2%の実現に向けて戦略的に重要な38の重点施策を示す。

環境関連や医療、介護などの分野で新市場を創設するほか、成長マネーの供給拡大に向けた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的マネー改革も滑り込ませた。

日本再生戦略は、近く開催する国家戦略会議(議長・野田佳彦首相)でまとめ、月内に閣議決定される見通し。原案は、11の成長戦略と38の重点施策が柱。グリーン成長戦略と位置付けた環境関連では、50兆円超の新規市場の創出や140万人の新規雇用を盛り込んだ。

環境や介護、健康関連分野で約50兆円、284万人の雇用を創出するほか、科学技術イノベーション・情報通信戦略で官民合わせた研究開発投資をGDP比4%以上にすることなども明記。成長マネーの供給拡大に向けた公的マネー改革も盛った。

日銀には「デフレ脱却が確実となるまで強力な金融緩和を継続するよう期待する」とのスタンスを明確にした。

また、規制・制度改革、予算・財政投融資、税制など最適な政策手段を動員し、「2013年度予算編成プロセス等においてさらに対応を具体化する」と明記。過度な為替変動が経済・金融の安定に悪影響を及ぼすとし、「引き続き緊張感を持って市場の動向を注視し、適時適切に対応する」とした。

これだけですと何が何やらなのですが、ロイターの記事から医療分野での概略というものを引用してみますとこんな感じになるようです。

〔情報BOX〕日本再生戦略の原案概要(2012年7月10日ロイター)より抜粋

<ライフ成長戦略>

*医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出:新市場約50兆円、新規雇用284万人
(うち革新的医薬品・医療機器の創出並びに再生医療、個別化医療および生活支援ロボットの開発・実用化、先端医療の推進による経済波及効果:1.7兆円、新規雇用3万人)
(健康関連サービス産業:市場規模25兆円、新規雇用80万人)

*海外市場での医療機器・サービス等ヘルスケア関連産業での日本企業の獲得市場規模約20兆円

これを見ますと基本的に需要に見合って医療・介護業界を拡大させていくという方針に読めるのですが、医療財政が相変わらず緊縮を保たれている中で果たしてそんな巨大な新市場が獲得できるものなのか、少なからず疑問なしとしません。
ちなみに2010年1月に政府が発表した医療主導による成長戦略なるものを当時ご紹介したものですが、当時はこんなことを言っていたのですね。

医療・介護で新規雇用約280万人―政府が新成長戦略の基本方針(2010年1月4日CBニュース)より抜粋

 政府はこのほど、「新成長戦略」の基本方針を決定した。新たな需要の創造によって雇用を生み、国民生活の向上を目指す。「高い成長と雇用創出が見込める」として、成長けん引産業と明確に位置付けた医療・介護分野では、2020年までに新規雇用約280万人、新規市場約45兆円を創出することを目標として掲げた。
(略)
 医療・介護など健康分野では、サービスの基盤強化を柱の一つとして挙げた。具体的には、医師の養成数を増やすとともに、勤務環境や処遇を改善することにより、勤務医や医療・介護従事者を確保する。医療機関の機能分化や高度・専門的医療の集約化、介護施設や居住系サービスの増加を加速させ、質の高い医療・介護サービスを安定的に供給できる体制の整備を目指す。

 また、日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発促進も盛り込んだ。創薬ベンチャーの育成を推進するほか、新薬や再生医療などの先端医療技術、情報通信技術による遠隔医療システム、医療・介護ロボットなどの研究開発や実用化を促進する。そのため、ドラッグラグやデバイスラグの解消を喫緊の課題と指摘しており、治験環境の整備や承認審査の迅速化を進める。

 さらに、高齢者が住み慣れた地域で暮らすため、地域主導で地域医療の再生を図ることが重要と指摘。その上で、医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携や、情報通信技術を活用した在宅での生活支援ツールの整備などを進めるとした。

 このほか、今後独居や介護が必要な高齢者が増加することを踏まえ、バリアフリー化された住宅の供給を促進することや、アジア市場での医療関連サービスの展開や医薬品などの海外販売を促進することなども盛り込まれている。
(略)

今回のライフ成長戦略では「医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出」が約50兆円、284万人の新規市場を目指すということで、これがちょうど前回の新成長戦略に見られる医療・介護分野での努力目標に相当するものだと思うのですが、それと並んで「海外市場での医療機器・サービス等ヘルスケア関連産業での日本企業の獲得市場約20兆円」という文言が目につきます。
無論、以前から今後はメディカルツーリズムにも力を入れますだとか、海外に日本の医療サービスを拡大していきますだとか言う話も出てはいたのですが、いずれも極めて限定的なニッチマーケットという印象が強く、いったいこんな巨大な数字がどこから出てきたものなのかと疑問に感じずにはいられません。
胃カメラなどは日本企業が実質的に世界市場を独占していますが、関節鏡など全部含めた内視鏡全部の世界市場で見ても2016年でやっと337億ドル(2.7兆円)規模だと言いますし、一体この20兆円市場をどうやって見つけてくるつもりなのか、そもそもどういう根拠で算出してきた数字なのか詳細を知りたくなりますよね。
ということで、いずれにしてもこのあたりは続報待ちということになろうかと思いますが、本日本題として取り上げますのが以前から議論の多かった救命救急士による医療行為の拡大がいよいよ実施段階に入ってきたという話題です。

救命士の医療行為拡大 実証研究モデル地域に/山梨(2012年7月11日読売新聞)

 救急救命士による医療行為を拡大し、救命率の向上を狙う国の実証研究のモデル地域に山梨県が選ばれた。11月からの3か月間、本人か家族の同意を得られた場合に限り、糖尿病患者らに対する処置を、医師の指示に基づいて救急救命士が行う

 実証研究は全国39か所のモデル地域で行われる。県内では、救急救命士196人全員が12日から、県立中央病院(甲府市)で実証研究に必要な研修を受ける予定だ。対象となる処置は、〈1〉低血糖になった糖尿病患者に対するブドウ糖溶液の投与〈2〉重症のぜんそく患者への吸入薬投与〈3〉心肺停止前のショック状態にある患者への点滴――の3種類。携帯電話などで医師の指示を受けて行われる

 8月1日から3か月間は、3種類の処置を行わない従来のデータを蓄積。11月1日からの実証研究開始後は、救命率向上や後遺症軽減などの効果があるかどうかを検証する。実証研究は1月に終了するが、期間中のデータによって効果が認められれば、2013年度にも救急救命士による処置範囲の拡大が正式に始まる

 実施主体は、県内の病院や消防本部でつくる県メディカルコントロール協議会。同協議会によると、ブドウ糖溶液の投与は、知能障害などの重い後遺症を回避でき、ぜんそく治療薬の吸入では、発作による死亡者の減少が期待される。また、心肺停止前の点滴が可能になれば、重い外傷を負ったり、失血が多かったりした場合、病院に搬送された直後に輸血が可能な状態を維持できるという。救急救命士による点滴は、心肺停止後しかできなかった。

 救急救命士が3種類の処置を行うためには、同意書への患者本人の署名か、家族の署名が必要となる。同協議会委員で山梨大医学部付属病院救急部の松田兼一教授は「処置範囲拡大が始まる11月までに、多くの患者に仕組みを説明し、いざという時にすぐ処置できるよう理解を得たい」と話している。

救急救命士 現場で三つの処置導入 千葉市11月から厚労省プログラムで/千葉(2012年6月29日東京新聞)

 千葉市は二十八日、救急搬送時の患者に対し、心肺機能停止前の点滴など、これまで医師しか認められなかった処置を、救急救命士が現場で施す実証研究に乗り出すと発表した。厚生労働省のプログラムに基づき、実際に患者に処置を行うのは十一月から来年三月まで。新たな救急処置の導入で、救命率の向上を目指す。

 対象となるのは心肺機能停止前の点滴のほか、低血糖発作を起こした糖尿病患者へのブドウ糖投与▽重症ぜんそく患者への気管支拡張剤の使用-の合わせて三つの処置。心肺機能が停止していない二十歳以上の患者に、本人、家族の同意を得て処置を行う

 市の救急救命士で、薬剤投与の認定を受けた七十四人が七月から専門の研修を受ける。実際に処置を行う際は、現場から携帯電話で指令センターに常駐する医師の指示を仰ぐ

 市によると、救急搬送される患者で、この三つの処置が必要なケースは年間約二百五十人いる。救命士が現場でいち早く処置できれば、後遺症の防止や救命率の向上につながるという。厚労省のプログラムには千葉市のほか、県内では木更津市、成田市などが参加している。   (宇田薫)

救命救急士の医療行為に関しては様々に議論がありますが、ある種の医療行為に関してはとにかく素早く行うということが非常に大事であるということ、そして諸外国においては救命救急士も医療専門教育を受けたスタッフとして相応の医療行為を行っているということはまず大前提としておかなければならないでしょう。
特にしばしば問題になるのが気管内挿管が是か非かといった話ですが、例えばひと頃から救急搬送が非常に難儀するようになり受け入れに時間がかかるようになったと騒がれている、その理由の一つとして現場で救命救急士が余計な医療行為をしようとして時間を無駄にしているからだという主張も一部から出ていたわけですね。
一方では以前からあちらこちらで騒がれた救命救急士の無許可での医療行為(すなわち違法行為ということですが)などは社会的にも倫理的にも未だ広く受け入れるところではないにしても、世間全般の規制緩和の流れに加えて医療専門職の不足が騒がれている中で、例えば介護施設のスタッフにも吸痰などをやらせてみましょうという話が一つ一つ実現してきた背景があります。
その意味で今回まずは限定的な地域で試行的に行ってみる、それも誰が見ても緊急性が高くリスクを利益が大きく上回るだろうと想像出来る行為に限って行っていくというのは無難なところだと思いますし、当面こうした実績を積み上げることで社会の認知も進み、いずれ次の段階に進むべきかやはり無理だったと中止するかという判断の根拠となるエヴィデンスも蓄積されていくことでしょう。

しかし実施面を考えて見ると必ずしも問題なしとしないところで、いずれも寸秒を争うような処置を本人あるいは家族の署名が必須だと言うのもおかしな話ですし、そもそも低血糖状態にある糖尿病患者の署名に法的効力が発生するものなのかどうか、昨今の交通事故における議論からしてもいささか考えてしまいますよね。
また当面はあくまでも医師の指示の元に行うということになっているのは確かに妥当ではあるのですが、例えば処置をした後になって実は禁忌であったことが判明した、あるいは実際にアレルギーなど有害事象が発生した際に、電話での限られたやりとりで指示を出すことを求められる医師が全責任を負うべきだと言われるとさすがに躊躇しますよね。
このあたりは元々消防救急は何かあった時にも現場スタッフ個人ではなく組織として対応するということが一番の強みであるわけですから、きちんとしたマニュアルを用意し原則として手順通りの作業を粛々と遂行するという形にしておいた方が、後々もめることになった場合にも良いのかなという気がしないでもありません。
その意味で指令センターに常駐することになる医師の責任は当面極めて重いということになるのですが、責任も取らせるというのであればどのような方法で人選が行われるのが妥当なのか、実際常駐した医師達の評判はどうなのかということも今後重要なデータとして蓄積していかなければならないでしょうね。

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コメント

ショック状態の人間に同意書もらってからってw
救急隊の方がインフォームドコンセントが徹底してるじゃないかオイww

投稿: aaa | 2012年7月13日 (金) 08時52分

まずは慎重なスタートを切ったってとこですか。
点滴は単なるルート確保か補液かで全く意味が違ってきますけど、輸液速度等はその都度医師の指示を仰ぐんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2012年7月13日 (金) 10時44分

今のところはまずは試行段階ということにしても、実際に全国展開するならもう少しやり方を工夫する必要はありそうですが。
今後どこまで対象を広げていくのかも気になるところですが、防衛医療全盛の医療と比べて救急のイケイケぶりは対照的ですね(現場はどう考えているのでしょう?)。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月13日 (金) 11時47分

>(現場はどう考えているのでしょう?)。

以前中間管理職先生んとこに投稿されてた救急関係者らしき方によると、このテの医療行為の類に熱心な隊員(「少しエライ」くらいに多いらしい)は「医者モドキ」と呼ばれ、大多数からは莫迦にされてるそうです。「オレ達は迅速に運んでナンボだろが」、との由。

もちろん真偽のほどはわかりませんが…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年7月13日 (金) 13時06分

さもありなん
田舎でとりあえず病院に患者を連れてくるだけで1時間はかかるような場合なら意味もあるにしろ、すぐ目の前に病院があるような都市部でわざわざ搬送遅らせてどうするんだと
なにをやるにしてもまず最短時間で病院に運ぶ努力を最優先にしないと、いずれ救急隊が患者を殺すことになるでしょうよ

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年7月13日 (金) 14時21分

これ走ってる救急車の中でやるんだよね?
まさか現場でやるじゃないよね?

投稿: | 2012年7月13日 (金) 15時31分

独居で家族がどこにいるかわからんような人とか道中で倒れている人を処置するのに同意が必要って???
まず家族がそばにいない事が圧倒的に多い。本人は重症でショック状態だから、同意書読んでサインできる状態ではない。
家族がそばにいても気が滅茶苦茶動転している最中で「同意書にサインしてください」って(苦笑)誰が冷静に同意書読んでサインできるか?
一刻一秒を争う救急の現場を全く経験したことのない臨床経験のゼロの技官?御役人?の創作の愚もここに極まれりという感がありますね。
残念ながら現実的に救命士のできる事は今までと変わらないようでガッカリです。

投稿: 元神経内科 | 2012年7月13日 (金) 17時36分

意識のあるDM患者なら自分で砂糖でも舐めるでしょう。
意識がないなら、救命士にはDMで低血糖って判断すらできないんじゃなかろうか?

重症の喘息発作に吸入薬なんか効果あるのだろうか?
吸入やりすぎて心臓が....とかw

ルート確保は日ごろの実践が大事だと思いますけどね。
看護師だってショック状態の患者にルート確保するのは難しいでしょうに。

机上の空論としか思えませんね。

投稿: | 2012年7月13日 (金) 21時09分

しかし、社会主義ともいえる医療の世界を「成長分野」ってどうなんでしょうね。
成長させるためには金が要りますが、医療介護分野は公定価格で、しかもそれを増額するつもりは(結果として)全くないのに、どうやって成長するんでしょう。

あーあ、30年前の爺医どもがうらやましいっす。

投稿: | 2012年7月14日 (土) 09時57分

たしかに末梢循環不全ショック状態の人への末梢ルート確保ほど難しいものはない。ベテラン熟練ナースでも難しい。
院内でショック状態になれば大概Drが中枢ルート確保しますからね。
救命士にしても看護師にしても結局何かコトがあれば叩かれるのは間違いないわけで。
Drが救命士や看護師のミスで責任取らされて、その病院の救急医全員が逃散なんてことも十分ありうる。
むしろこの厚労省プログラム(苦笑)の浅知恵によってトラブルを多発させて救急医療崩壊を促進させるだけでは?

投稿: 元神経内科 | 2012年7月14日 (土) 10時36分

過去の判例等を見ても消防救急に関しては個人責任を問うことはまずないので、その意味では例えば特定看護師などよりはよほど守られた立場にあると思います。
ただ現場の気持ちがどうかというのはまた別問題なので、しょっちゅうトラブル続きなら勘弁してくれと思いたくなるのも人情でしょう。
ま、結局はやってみてどうなるかを見てみないことには判らないんですけど。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月14日 (土) 11時19分

これだけハードルが高いと短い期間内で有意差が出るものかな?

投稿: kan | 2012年7月14日 (土) 22時10分

色々やるより早く病院にお連れしたほうがよいのではないでしょうか?

投稿: よっちゃん | 2012年9月16日 (日) 11時05分

病院から5分の現場だったのに低血糖発作の患者に点滴ラインを取ってブドウ糖の静脈注射をしようとして点滴ライン確保に失敗し病院に来たときはさらに血糖が下がっていました。病院では一発で点滴ラインを確保でき治療はできました。どのような環境下救急隊が点滴ラインを確保しようとしたかわわかりませんが正に五分という距離なのに余計な事をせずに病院に運んだ方が安全でした。臨床経験がない救急隊が医療行為をするのはあまり安全とは言えないような気がします。本来の目的である適切な医療機関の選定、応急処置、迅速な搬送が主たる任務だと感じます。

投稿: 救急認定看護師 | 2016年2月16日 (火) 16時51分

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