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2012年7月10日 (火)

専門医制度 その行き着く先は未だ明らかならず

かねて専門医制度のあり方というものが検討されてきたわけですが、先日こういうニュースが出ていました。

専門医認定の第三者機関、来年度にも設立- 厚労省方針(2012年7月6日CBニュース)

 厚生労働省は6日、学会ごとに運営している現行の専門医制度に代わる新制度を運営する第三者機関の、2013年度設立を目指す方針を明らかにした。14年度に初期臨床研修2年目の医師を対象に研修希望者の募集を始め、15年度から研修を開始。3年間の研修を経て、18年度に第1期の認定を行う予定だ。

 専門医認定の見直しを検討している同省の「専門医の在り方に関する検討会」(座長=高久史麿・日本医学会長)で、こうしたスケジュールと、新制度の案を示した。

 この中で厚労省は、現行制度をめぐる課題として、▽研修内容の質が一定していない▽各病院が、研修医の受け入れ定員を設定していない▽研修中の医師の人数、地域分布を把握していない―などを挙げた。

 これを踏まえ、新制度では、▽経験すべき症例数を設定する▽研修プログラムをあらかじめ用意して、複数の医療機関(教育病院群)で研修を行う―などにより、専門医の質を担保する。また、教育病院群の症例数や指導医数に応じて、研修プログラムごとに定員を設定する。
 さらに、各病院の受け入れ状況を踏まえて、各診療科の専門医の養成数を管理・調整したり、教育病院群を、基幹病院と地域の協力病院で構成し、一定期間は地域の協力病院で研修を受けるようにしたりすることで、専門医の地域間・診療科間の偏在是正にも役立てたい考えだ。

 厚労省では、8月に開かれる次回検討会でまとめる中間報告までに合意が得られなくても、参考資料としてこれらの案を添付する方針だ。【高崎慎也】

以前にも紹介しました通り、この検討会では将来的には専門医を取得した人間でなければ標榜科を掲げることが出来ないようにすべきだという意見も出ているようなんですが、その結果何が困ると言えば中小医療機関ほど標榜科を掲げるのが難しくなるということが考えられます。
専門医制度というものでは各学会の認定施設で一定年限の研修を受けることが多くの場合求められてきたわけですが、この施設認定の要件からして市中の中小医療機関にはハードルが高いものが多く、結果として大学病院や基幹病院で数年間のご奉公をしなければ専門医資格は取れないということになっています。
特に開業医などは今の時代親の後を継いでの継承開業でなければまず黒字化は難しいなどとも言われていますが、こうした先祖代々開業医という家系では当然ながら高度医療機関で長期間研修を積むということも難しくなるでしょうし、また僻地診療のドサ回りが義務づけられている自治医や地域枠入学者などにとっても専門医取得のハードルがますます高くなりそうですよね。
また病院側にとっても専門医研修施設としての認定を取れるかどうかが人材集めの上でも標榜科掲載の上でも非常に重要になってきますが、今回の新専門医制度は専門医の数や分布を国が強力にコントロール出来るという点に特徴があります。
こうなると今まで以上に持てる施設と持てない施設の格差が広がることになり、最終的には厚労省の目指すところの医療資源集約化という方向性にとっても非常にメリットがある話だと言えそうです。

ただしこうなりますと当然ながら医師にとっても専門医を取れる、取れないで格差が広がってくることになり、とりわけ元々専門医よりも総合医をというgeneralist志向の先生にとっては下手をすれば何一つ診療科を掲げることが出来なくなるという可能性も出てきそうですよね。
もちろんこうした地域の開業医に不利益になるようなシステムは日医を始めとする権益代弁団体によって強烈な反対を受けそうですし、最終的には新たに診療科を標榜する場合はだとか複数の診療科を標榜する時はといった制限事項がつく可能性もありそうですが、ともかく医者として働くなら専門医の一つも取っていなければどうしようもないと言う制度が良いのか悪いのかです。
厚労省の方でもこうした声が出てくることには配慮しているということでしょう、以前から専門医に対するもう一つの概念として総合医という資格を作ろうと画策していることはご紹介した通りですが、こちらの方の議論も相変わらず百論噴出といった体で前に進んでいる気配がないようなのですね。

「総合医」の名称に意見さまざま- 専門医在り方検討会(2012年7月6日CBニュース)

 6日に開かれた厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」(座長=高久史麿・日本医学会長)では、いわゆる「総合医」の名称をめぐり、さまざまな意見が出た。検討会では、8月に開かれる次回会合で中間取りまとめを行う方針だが、それまでの名称統一は難しい状況だ。

 「総合的な診療能力を有する医師」の必要性をめぐっては、これまでの会合で、「幅広い視点で患者を診る医師が必要」「複数の問題を抱える患者に対し、効率的で質の高い医療を提供する必要がある」などの声が上がった。ただ、その名称については、「総合医」「総合診療医」「家庭医」「プライマリ・ケア医」などさまざまな言葉が使われており、統一すべきとの意見が出ていた。

 6日の会合では、小森貴委員(日本医師会常任理事)が、「総合診療医という形が最も適切」と主張。これまでに日医が提出した「臓器に偏らず、幅広い領域を総合的に診療するというのであれば、それは『総合診療医』である」などとする資料を紹介した。
 一方、高久座長は、総合診療医と総合医の違いに言及。病院の総合診療科で従事する医師が総合診療医で、地域住民への健康教育なども含めて、幅広い役割を担う医師が総合医だとの認識を示した。福井次矢委員(聖路加国際病院長)は、「高久座長がおっしゃったように、社会的な側面も含めてアプローチが必要なところも専門分野になる」とした上で、「(両方を合わせて)総合医という言葉で定義し直した方がいい」と述べた。

 また、総合医を専門医制度に位置付けることについて、「『専門』と『総合』は相反する言葉だ」との声もあった。これに対し福井委員は、「深く掘り下げることのみが専門性で、一つ一つは深くなくても、幅広く網羅することが『専門性』という言葉で記述されないと皆さんが思うとすれば、大きな問題だ」と指摘。藤本晴枝委員(NPO法人地域医療を育てる会理事長)は、「臓器別の専門領域としての専門医と、総合医を含めた専門医を分けるよう、意識して言葉を使ってほしい」と求めた。【高崎慎也】

正直総合医だろうが総合診療医だろうがどうでもいいじゃないかと思えてしまうノンポリの皆様方もいらっしゃるかと思いますが、確かに何科に行くべきか迷うような人に全身を診てまず診断をつけるという仕事をしている人と、地域の医療サービスの中枢として住民の総合的な健康管理を担当している人とでは全く仕事の内容が異なるのは確かですよね。
あるいは何の専門性もない人には総合医なんて適当な仕事を与えて雑用をさせておけばいいだろう、といったような消去法的な考え方で総合診療を担当させられている窓際な先生もいらっしゃる一方で、各科横断的に多様で網羅的な知識を持ちどんな難しい症例もピタリと診断をつけてしまう先生もいらっしゃったりと、そもそも総合医なるものの位置づけがもう少し明確にされていないところもあります。
そして仮に議論に出ているような全ての領域を総合医なり総合診療医なりという一つの資格に集約するというのであればさすがに範囲が広すぎるという気もするのですが、場合によっては複数の資格にさらに小分けするということも必要になってくるかも知れません。

ただそうなりますとまた新たな資格を認定する組織が一つ余計に必要になってくるわけですが、今のところ第三者機関の認定する専門医と、既存の各学会が認定している専門医との関係がどうなるのかは手つかずのまま先送りされているとしても、言葉は悪いですが大きな学会ともなれば権威のみならず巨額のお金も集まる利権があるだけに、今後一体どのように調整をしていくつもりなのかが問題になりそうですね。
特に冒頭の記事に出ている厚労省案をそのままに読めば、今後第三者機関に全ての医師を抱え込まれて既存の学会は立ち消えして行くしかないということになりかねませんが、それを各学会の重鎮の先生方やその徒弟の皆さん方がどう考えるかです。
仮に新たな第三者機関なるものが出来ても既存の学会がそのまま看板だけを掛け替えるのであれば何ら新設の意義はないわけですし、逆に役員から何から全部入れ替えるとなればまたぞろ天下り先として厚労省にいいように壟断されかねず、下手をするとこれを潔しとしない既存の学会もそのまま残っての二重構造になってしまうかも知れません。
ただ専門医制度を取っている学会はすでに何十もありますが、オタクい好き者同士が集まって何でもかんでも学会だ、専門医だと好き放題に数を増やされ続けたのでは意味が判らなくなって来かねないのも確かですから、当面既存の制度を残すにしても第三者機関に全面移行するにしても何らかの公的な基準のようなものは必要になってくるんじゃないかという気はします。
ともかくおよそ厚労省の検討会などに出ているような先生方はそれぞれの学会においても重きを為している方々ばかりですから、最終的に話がまとまる、まとまらないでまた一悶着なしでは済まされないかも知れませんね。

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コメント

記事にはさらっと書いてますけどものすごく強力な研修医囲い込みじゃないですか?
これで誰も反対意見のひとつも出してないようなのが不思議…

投稿: ぽん太 | 2012年7月10日 (火) 09時00分

>これで誰も反対意見のひとつも出してないようなのが不思議…
現行の専門医が、博士号並みに使えない資格ですからねぇ。
既に持っている人は、まさか自分の称号が取り消されるとは思わないだろうし(私も思っていません)、大した影響を受けるとは思っていないでしょう。
大きな影響を受けるであろう当事者は、まだ医師にすらなっていない人達だから、現実感ないでしょうし。

新しい専門医制度では、おそらく地域毎に(何次医療圏毎にするのかは知りませんが)研修定員を定めると思います。
確か、(仮称)総合診療専門医研修で、そういう議論がなされていたと思います。当然、他の専門医研修もそうなるでしょう。
医師の不足・偏在の解消という政策とリンクさせる意図だと思います。
個々の医師の就労地を指定するよりは、よほどスマートな制度だと思います。

少なくとも、まともな専門医研修が受けられることが担保されるならば、後期研修医を離島の診療所所長にするよりは、はるかにましだと思います。

巨大な利権と権力を持った組織ができるのは不気味ですが、今のまま(今の使えない専門医を維持するために、いつまで学会に貢げばよい?)でいいとも思われませんし、
いろんな意味で、厚労省の50年の大計ですな。

投稿: JSJ | 2012年7月10日 (火) 10時08分

一部の処置は既存の学会専門医資格を施行の要件にしていたはずですが、それがどんな扱いになるんでしょうかね。
今までと取得の条件が異なるのに資格として同じにされるのも釈然としないし、違うのであれば取る意味がないし。
当面新旧専門医を共存させるのか、それとも専門医を持ってる人は一律新資格を認定して一気に移行を図るのかしら?

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年7月10日 (火) 10時50分

今回の新専門医制度(仮称)、かなり強力な医師管理のシステムとして使えそうなんですよね。
これを考えた人は頭がいいんだと思いますけど、素直に受け入れられるかどうかです。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月10日 (火) 11時47分

つまり学会への新入会はゼロになる?
学会そのものがなくなっていくってこと?

投稿: | 2012年7月10日 (火) 12時23分

どういう位置づけになるかでしょう
新旧全く同じ扱いでなければ両方を取得せざるを得ないのでは?

投稿: 柊 | 2012年7月10日 (火) 14時03分

これまでの専門医と同様移行措置で既に持ってる人はおkって事になるでしょうね。
*ちなみに麻酔科はそれを潔しとせず、エライ教授先生とかも揃って専門医試験受けたそうですが。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年7月10日 (火) 18時01分

さすがに落ちなかったんでしょうな?

投稿: | 2012年7月11日 (水) 06時32分

マイナー科だとまだ大丈夫なのでは?
内科専門医なんて範囲が広すぎて専門に特化したベテランの先生より国試の知識がある若い先生の方が強いんじゃないかと

投稿: ぽん太 | 2012年7月11日 (水) 08時59分

自分達は移行措置で取った先生方が後輩には厳しい試験を課すってどうなのかなと思いますが…

投稿: 管理人nobu | 2012年7月11日 (水) 10時47分

専門医持ってないと診療報酬下げられそう。
専門医偏向でさらに博士号取る人がさらに減りそう。
医学研究する人はどんどん貧しくなるなぁ。

投稿: この制度の初年度になろう者 | 2012年9月27日 (木) 12時24分

自分もこの制度に引っかかりそうですね。2年度生まれなので。
しかし内科とか色々別れすぎてて訳が分からない感じになってるがどうすんだろう?
あと開業医であっても40くらいまで大学病院などにいる人も結構多いので問題ないような。

投稿: h2年度生まれ | 2012年12月30日 (日) 19時19分

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