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2012年7月18日 (水)

救急医療 誰だってスーパードクターにあこがれるものです

先日とあるブログでこういう記事が出ていたのですが、これは公権力のあり方というものを考える上でもなかなかに興味深い話ですよね。

人命救助して罰金1万8000円(2012年7月12日ブログ記事)より抜粋

鎌倉在住の知り合いが怒っている。
かんかんに怒っている。
私もその怒りは正当だと思う。
ぜひ、状況を読んでいただきたい。

話はこうだ。
彼は路上で倒れて歩けなくなっている人を見つけ、
車を降りて、その人を助けた
鎌倉の駅前近く、駐停車禁止でもない場所で、
多くの人がその状況を見ている。
ところが、駐車監視員はそれを駐車違反だといって
罰金1万8000円なりを言い渡した
向こうの言い分はこうだ。
決まりは決まり、ハザードつけようが、心肺蘇生しようが、関係ない
車を放置したあなたが悪い、それが法律だ。
気に入らないなら裁判だな、とも。
(略)

ちなみに道路交通法によれば「急病人の搬送、救護等人の生命、身体に係る緊急やむを得ない理由により使用中の車両」は駐停車禁止の除外対象になるということで、これを知ったブログ主氏はわざわざ神奈川県警に電話までしているのですが、「違反ではなかっとしてくれるかどうかはその所轄の署の判断になるので、結果がどうなるかは分からない」と言われたそうです。
そうこうしている間に当の知り合いが神奈川県苦情センターの窓口と話をしたところ「理由はともあれ、放置したあなたが悪いから、払え。文句があるなら。裁判で戦いましょう」とこれまたはっきり言われたのだそうで、まあ確かにこういうことになってしまうと「余計腹が立つ顛末になった」と感じてしまうのも仕方がないんだろうなと思えますね。
もちろん公権力を行使しているとは言えあくまで現場に立つのは組織の末端を構成している一個人ですから、現場が勝手に恣意的な解釈をするようではかえって専横だ、公権力の私的乱用だと問題になりかねず(事実、そうした事例がしばしば報道されますよね)、それなら原則一律の対応をしておいて揉めるようなケースは司法の場できっちり判断をしてもらうべきだという基本原則は十分理解出来ます。
ですからお役所仕事として理の上では御説ごもっともということなのですが、ここで考えていただきたいのはこうした状況を体験した当事者であるとか、こうしたことになるということを見聞した人々がどう考えるかで、よほどに高尚な精神をお持ちでない限りまず大部分のごく普通な人間であれば「そんなことになるなら面倒には最初から関わらないでおいた方がいいってことだな」と考えるのもまあ当たり前だろうということですよね。

世の中にはもう少し周囲が善意に基づく努力を発揮していれば何とかなっていたんじゃないかと思われる悪い結果に至った事例というのは幾らでもあって、そのたびに「現代社会は他人に冷たすぎる!これを何とかしなければ!」と批判する声が挙がりますけれども、誰でも他人の前でいい格好をして気分良くなりたい気持ちは持っているわけですから、何故そうしないのかという理由を理解しないことには対策も講じようがありません。
例えばひと頃から中国では道で倒れた老人を誰も手助けしないということが大きな社会問題となっていますけれども、これなども元を正せば助けた人間が当のご老人から「こいつに突き飛ばされたんだ!治療費を払え!」などと言いがかりをつけられるトンデモ事件があったためであって、根本原因への対策を放置したままいくら共産党が国民の道徳教育を強化したところで恐らくどうにもならないでしょう。
日本でも先年来救急車の「たらい回し」という表現をマスコミが好んで使うようになりましたが、何故たらいが回されるのかということをきちんと検証し根本的な対策を講じないことには、いつまで経っても本質的な解決には結びつかない道理ですよね。

“たらい回し”解消へ検証必要 県内の救急搬送 /栃木(2012年7月15日下野新聞)

 県内の救急搬送患者数が過去最多を更新する中、救急医療の現場からは、重症患者の“たらい回し”を減らすため、関係機関による搬送実態の検証を求める声が上がっている。

 消防庁の調査によると、本県は重症患者が医療機関に搬送されるまで30分以上かかる割合や、受け入れを3回以上拒否される割合が2009、10年とも全国平均を上回り、ワースト10に名を連ねた。

 搬送時間短縮などを図るため、県は10年8月、救急隊や医療機関を対象に「傷病者搬送・受け入れ実施基準」の運用を開始。同年11月の搬送状況を事後検証したが、重症患者の搬送時間の短縮はみられなかった。11年度は東日本大震災の対応を優先したため、事後検証は見送り、本年度は実施する方針という。

 12日に県庁で開かれた県救急医療運営協議会で、鈴川正之自治医大病院救命救急センター長は、搬送するまで救急隊が医療機関に10回以上照会している例があることを指摘した上で「どうして搬送が困難な事例があるのか、話をする場が必要だ」として、医療機関や消防など関係機関による検証を進めるよう求めた。

 県内では5カ所の救命救急センターを中心に、各地域で消防や病院などの関係機関が搬送について協議する場があるが、県は開催状況を把握していない。県が率先して検討を促す必要がありそうだ。

いやしかし「どうして搬送が困難な事例があるのか、話をする場が必要だ」って当たり前の話に聞こえるんですが、まさか今まで関係各所に何ら話を通すこともなく一方的に通知するだけで終わりにしていた、なんてことはないんですよね?
この県によって策定された受け入れ基準なるもの、相次ぐ「たらい回し」報道を受けて患者を搬送する側の消防庁が主導して消防法を改正した結果各県で策定されてきたものですけれども、そこに見られるのはあくまでも患者を送りつける側の消防救急側のロジックであって、受け入れる側の医療機関の意志が反映されたものではないということに注意する必要があります。
救急隊は患者を病院まで運び込めばそれで仕事が終了ですからそれこそどんな手段を使っても、嘘をつくとまでは言わないまでも素人にも判るような明白な事実を隠してでも「ババを引かせれば勝ち」ですけれども、受け入れる側の病院では年々医療に対する要求度が高まった結果、加古川心筋梗塞事件等の判例によって「100%完璧な対応が出来ないのなら受けてはならない」の原則がJBM的に定着した感すらありますよね。
無論、そうした判決が出てきた背景には御高名なる功名心先生などを始めとする無茶な鑑定医の方々や、各学会を主導される偉い先生方による「で、それがどれだけ実際の現場で実行できるの?」という厳しいガイドラインの存在も無視出来ない要因であり、そうしたことはむしろ医療業界自身の内部的な問題として今後議論を深めていかなければならないでしょう。
しかし一方で経営的にも判例的にも今や多く手がけるほどにリスクばかりが幾何級数的に増大する一方で何らメリットの伴わない救急など今や「受ければ負け」と言われているのが現状であるのに、ただ「こういうルールだから」と言うだけでは現場はルールを要領よくかいくぐるよう工夫するか、あるいはそんな現場から立ち去るばかりだとすでに実証されているはずですよね。

さすがに国も現場のモチベーション向上ということに配慮したのか、近年診療報酬において救急医療に加算をつける方向で改訂を行ってきていますけれども、これらはあくまでも施設に対して支払われるものであって現場でリスクを背負っているスタッフには何のインセンティブにもならないのですから意味がない話ですよね。
そもそもお金をもらえば今までよりも頑張れるかと言えば、もともと救急を一生懸命やっているような基幹病院は給与面では冷遇されていて、救急指定など元から受けていないような病院にでも務めた方が金銭面ではずっとお得であるわけですから、今もこうした現場に残っているスタッフはもともとお金だけでその行動を決めているわけではないということでしょう。
送りつける側の論理だけでなく送られる側が何を求めているのか、それは救急をやっても黒字になるような十分な手当なのか医療行為に伴う免責なのか、はたまた単に労基法を遵守した労働環境を求めているだけなのか、まず何故そうなったのかを知らずして対策も何もあったものではありません。

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コメント

結局この国の国民の多くは北朝鮮や中国と何ら変わらないメンタリティではないかと。
それを強く推し進めているのが官公庁関係であり、それに追随する大マスコミの姿勢。
親方が言えばそれに盲従するだけ。反論は一切受け付けない。民主主義国家ではない。戦前と何ら変わらないのではないか?
結局欧州諸国のように民衆が力で勝ちとった民主主義ではないから国民にそういう意識がない。
だから官公庁関係者は権力を笠に好き放題。これはこの国の体質なので今後も変わらないと思いますね。

投稿: 元神経内科 | 2012年7月18日 (水) 09時45分

誰かが主導権を握って話を進めないと何も決まらないのがこの国の体質だから、消防庁がひとまずルールを決めたのはまあ判る
それに対して病院の側から何も言わなければこのルールに同意したと見なされ、従わなければ自動的に悪者になってしまうんだがな
いままで一度でも当直や救急担当者の生の声をまじめに聞こうとしてきたのか疑問に思うんだが、聞こえるほど大きな声をあげない者が悪いのだろうか

投稿: kan | 2012年7月18日 (水) 10時01分

日本、北朝鮮、中国、欧州。遺伝子の違いはどれぐらい?
そう。当たり前。日本人が特別なんてことは、ありえない。
日本人も北朝鮮や中国や欧州の民となんら変わらないのが、当たり前です。
欧州だって最近のユーロ騒ぎ見る限り、日本人と変わりません。

投稿: | 2012年7月18日 (水) 11時33分

とんでもないクレームつける人が多いのでどうしても決まり通り対応しないとならないんです
駐車監視員だってたいへんなんです

投稿: ひとこと | 2012年7月18日 (水) 11時46分

>聞こえるほど大きな声をあげない者が悪いのだろうか

未だに救急なんかやってるのは糞喰って喜ぶ類の変態だから今頃聞こえる程大きな声でよがってますよ、きっとw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年7月18日 (水) 11時46分

>とんでもないクレームつける人が多いのでどうしても決まり通り対応しないとならないんです

これが他の用事でちょっと停めただけなのにって理由だったら自分勝手だって言われてたかも知れない
でも監視員が勝手に判断出来ないのは判るけど、裁判で争う前にもう一段階ステップが欲しい気はするなあ

投稿: 柊 | 2012年7月18日 (水) 13時26分

鎌倉の駐禁のブログコメント欄炎上してて吹いたw

投稿: 関係ないけど | 2012年7月18日 (水) 14時58分

>裁判で争う前にもう一段階ステップが欲しい

刑事罰でなく行政処分なので神奈川県に異議申し立ての窓口が用意されてるようですね。
いずれにしてもおかしいと思ったら支払う前にきちんと抗議しなければ認めたということになるようです。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月19日 (木) 10時23分

>駐車監視員だってたいへんなんです

今回の件は、
単に駐車監視員が道路交通法を理解してないことが問題なんじゃないですか?
クレーマーの対応で大変かどうかとは関係ない。

アルバイトやパート感覚でやっていて、「大変なのです」と思うような方には、
(みなしとは言え、ほぼ)公務員は務まらないと思うのでとっとと辞めてもらってイイ。

投稿: | 2012年7月22日 (日) 18時23分

嫌なら辞めろ
かわりはいくらでもいる

投稿: | 2012年7月23日 (月) 11時42分

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