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2012年7月12日 (木)

結核はもちろん過去の病気ではありませんが

忘れた頃にやってくるのが結核という病気ですが、今度は非常に大きな集団感染となったようで、しかも背景事情を知るほどに「起こるべくして起こった」という印象なのですね。

認知症治療病棟で結核感染78人、3人死亡/東京(2012年7月9日読売新聞)

 東京都は9日、医療法人岩尾会が運営する「東京青梅病院」(東京都青梅市)の認知症治療病棟(120床)で、今年2月以降、入院患者53人と職員25人の計78人が結核に集団感染したと発表した。

 10人が発症し、うち60歳代の男性患者3人が死亡した。

 都や同病院によると、認知症治療病棟で今年2月1日、肺炎症状のあった60歳代の男性患者が検査で肺結核と判明し、個室に隔離した。2日後には別の60歳代の男性患者が肺結核と分かった。2人は2月21日と4月12日に肺結核などで死亡。3月3日に誤嚥(ごえん)性肺炎で亡くなった60歳代の男性患者も、4月末になって肺結核だったと分かった

 同病棟には患者62人と職員53人の計115人がいたが、死亡した3人を除いて75人が感染した。この中で発症したのは職員3人を含む7人で、うち2人は転院、5人は同病院で治療を受けている。発症していない68人のうち48人は投薬を受けながら発症を抑え、20人は経過観察中という。

入院患者の徘徊などで拡大か 東京青梅病院の結核集団感染/東京(2012年7月9日産経新聞)

 東京都青梅市の精神科病院「東京青梅病院」(東京都青梅市)で、入院患者と職員が結核に集団感染し、このうち3人が死亡した問題で、都は9日、2月に結核と判明した入院患者の徘徊(はいかい)行為などで感染が広がった可能性があることを明らかにした。他人に感染させる恐れがある患者は個室で治療中といい、これ以上の感染拡大の可能性はないとしている。

 同病院では今年2月、入院患者2人が結核と判明。このうちの1人から感染が広がったとみられる。都福祉保健局によると、患者には徘徊行為があったほか、入院患者が病室ではなくホールで過ごすことが多かったこと、認知症のため発病に気づきにくかったことなどが拡大の要因という。

 今回、集団感染した78人のうち発病したのは認知症病棟に入院する60~80代の男女7人と、20代と40代の女性職員3人で、このうちいずれも60代の男性入院患者3人が死亡した。死因は1人が結核で、2人が誤嚥性肺炎だったという。肺炎で死亡した患者は誤嚥が多いなど結核が発病しやすい状況だったが、直接的な因果関係は不明という。

 都によると、10人以上の結核集団感染は平成17年6月以来。22年調査では都内の結核新規登録患者は3045人、死亡者は250人でともに全国最多。人口10万人当たりの罹患(りかん)率は全国3位、死亡率は9位という。

すでに亡くなった方々もいらっしゃるということでお悔やみを申し上げますが、当然ながらこうした状況での発生となれば見舞客やスタッフなどを介して広大な範囲に拡散している可能性が否定出来ず、都の公衆衛生担当者としても非常に頭が痛いところではないかと思います。
東京都の結核患者が非常に多いというのは西成区を抱える大阪と同様、山谷地区などで結核患者が非常に多いという事情もありますが、何しろ外国人も含めて人の出入りが多く、いざこうした感染症の集団発生が起こってしまうとその影響は非常に広範囲なものにならざるを得ません。
こうした結核の早期診断において今も胸部レントゲンの有用性は変わっていませんが、どうも胸部レントゲンなど肺癌検診目的には無意味であるという主張(これはこれで根拠があるのですが)が人口に膾炙されるようになってからと言うもの、「どうせ無意味ならレントゲンなんて撮っても仕方ないんじゃないの?」などと妙な誤解をする人が増えてきた印象があります。
先日も川崎市で結核の集団感染が発生した際にも、職場健診で異常を指摘されながら医療機関に受診しなかったことが感染を広げる一因となったということですが、こうした職場検診のレントゲンとは環境因子に起因する疾患のチェックに加えて、結核など集団感染を起こし得る感染症をチェックするためにも行われているのだということをもう一度認識していただきたいと思いますね。

公衆衛生学的な話はそれとして、今回集団感染が発生したのが認知症患者を収容する精神科病院であったということが非常に示唆的ではないかと思うのですが、元々精神科は身体的疾患の診療に関しては非常に不得手であるという事情もあって、ちょっと医学常識的にそれはどうよ?と思うようなとんでもない治療が漫然と行われているケースがままあります(無論、その逆も多々あるはずですが)。
咳が出た、しんどそうにしていると聞けばとりあえず抗生物質を使っておく、それも切れがいいと強力な抗生物質ばかりを使い耐性菌まみれにした挙げ句「肺炎です。後はよろしく」と精神科から送りつけられてきた患者を診てみれば心不全だった、なんて笑い話のような話もよくあることですが、今回のケースにしてもきちんと早い段階で適切な診断が為されていればこうまで大事にならなかったのかも知れません。
ただこのケースが精神科だけの特別な事例ではないと感じるのは、昨今こうした認知症症例の増加によってどこの療養型病床でも類似の患者が多数入院している、そしてこうした病床では診療に要する経費は出来高算定ではなく丸めの低額支払いですから、本来当然に行われてしかるべき検査や処置すらコストが取れないと省かれていることがままあるということですよね。

さすがに結核が過去の病気であるなどと考えている先生方は今どきそう多くはないのだと思いますが、薬や検査は可能な限り減らせと日々経営側から指導されている雇われ勤務医などにとって、損を承知で一体どこまでやっていいのか迷うところなしとしないのは想像に難くないところです。
近ごろは古い時代に結核治療を受けた人が高齢になってから再燃するというケースも問題視されていて、もともと日本は先進国では例外的に結核が多い中でとりわけ高齢者の結核対策が重要視されているのですから、医療機関の持ち出しに頼るのではなくきちんと対策をとろうというインセンティブが働くような診療報酬を考えていただくべきかと思いますね。

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コメント

当院の外来でも先日一人見つけましたけど、派遣登録してあちこち行ってる人なのでちょっとした騒ぎになりました。
職場検診から漏れている非正規労働者のチェックをどうするかも大事な問題じゃないでしょうか。

投稿: ぽん太 | 2012年7月12日 (木) 09時08分

労働者のほとんどがどこかの企業に所属する正社員であるという社会モデルはすでに崩壊してますからね。
大阪・西成でも色々と試みがなされていますが、本人自ら進んで受診しようという動機付けになるような条件設定を考えていかなければならないでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月12日 (木) 11時28分

満員電車の中に結核患者が紛れ込んでたらどうしようもないじゃん?

投稿: | 2012年7月12日 (木) 11時40分

新型インフルエンザの大騒ぎに比べてずいぶんと平穏なのが慣れと言うものの恐ろしさ?
死亡率を考えるとこっちの方がずっと怖いはずなんだけど

投稿: 柊 | 2012年7月12日 (木) 13時50分

夜間の咳だけでずっと痰も出ず発熱もないまま3カ月経過して、ある日突然38℃以上の発熱でレントゲン撮影で漸くわかった方がいました。
痰が全く出ないので、胃液採取でPCR検査とかして確定診断となりました。
結核は一般肺炎と違って聴診では全くわからない事が殆どなのでレントゲン撮らないと永遠に診断されないですからね。
私の知人は結核ハイリスク地域の訪問診療を実施しているので放射線技師を雇ってポータブルレントゲンで巡回して撮らせているほどです。

認知症のBPSDで徘徊しまくる人とか暴れまくる人はレントゲンやCTや痰培養などの検査自体が不可能?なのでどうしたんでしょうかね?
死のリスクを冒して注射薬でセデーションでもかけたのでしょうか?認知症患者は結核の診断するのも命がけでしょうね。
これから認知症もどんどん増加しますし、認知症対応施設もどんどん増えるでしょう。70~90歳代の認知症年齢の方々は結核流行時のキャリアーばかりですから、これからこういう不幸事は続々と増えそうな悪い予感がします。

投稿: 元神経内科 | 2012年7月12日 (木) 16時04分

うちはベルトで固定しても暴れる時は古株の技師さんが押さえつけて「俺(の被曝)に構わず撮れ!」ってやってますな

投稿: | 2012年7月12日 (木) 23時26分

入院患者に結核が出るとメンドクサイですよね。
同室者、接触したスタッフのフォローや投薬、病院負担になるので困ります。
外来患者の結核はスルーしていいってのも矛盾を感じますね。

投稿: | 2012年7月13日 (金) 21時13分

外来で見つけて専門施設に送るとき田舎だと車で行けるんだけど、都会だと満員電車に乗って行くって何か嫌な感じ

投稿: akio | 2012年7月14日 (土) 07時32分

>満員電車に乗って行く

あるあるw
マスクは渡すけどなるべくタクシーで行ってって言う
タクシーの運ちゃんにはもうしわけないけど

投稿: | 2012年7月15日 (日) 16時03分

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