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2012年7月 6日 (金)

職業人としての信頼のあり方

警鐘を鳴らす意味もあって、本日まずはこちらのニュースを紹介させていただきましょう。

てんかん申告せず免許更新 道交法違反容疑で医師逮捕/千葉(2012年7月4日日本経済新聞)

 持病のてんかんの症状を申告せずに運転免許証を更新し事故を起こしたとして、千葉県警は4日、同県柏市船戸、整形外科医、綱川慎一郎容疑者(38)を道交法違反(免許証不正取得など)の疑いで逮捕した。県警によると、持病の不申告による免許証不正取得での逮捕は珍しい。「申告すれば免許が更新できないと思った」と容疑を認めている。

 逮捕容疑は昨年11月7日、以前てんかんで意識を失ったことを申告せずに免許証を更新し、正常な運転ができない恐れがあるのに3月21日、柏市若柴の市道で乗用車を運転して物損事故を起こした疑い。

 道交法では、てんかん患者でも5年以内に発作がなく、今後も起きる恐れがないと医師が診断するなどの条件を満たせば、免許証を取得できると定めている。

 県警によると、綱川容疑者は数年前に発症し、2009年ごろから通院。4つの病院から運転をしないよう指示されていたが、車で通勤を続けていた。県警が3月の事故後、運転の適性検査を受けるよう指導したが、応じなかったという。〔共同〕

てんかん申告せず免許証を更新、医師に逮捕状/千葉(2012年7月4日読売新聞)

 持病のてんかんの症状を申告せず運転免許証を不正に更新したとして、千葉県警は、同県柏市の30歳代の男性医師について、道交法違反(免許証不正取得、過労運転等の禁止)容疑で逮捕状を取った。

 県警によると、持病の不申告による同法違反容疑での逮捕は全国に例がないという。

 捜査関係者によると、医師は2011年秋頃、運転免許センターで免許証を更新したが、持病のてんかんによる発作があったのにこれを申告せず、書類にうその内容を記載。今年3月、正常な運転ができなくなる可能性があることを知りながら、乗用車を運転した疑いが持たれている。

 この医師は同月、柏市内で交通事故を起こし、県警が持病を把握。この事故前に別の医師による診察で「運転を控えるように」と指導されていたこともわかった。このため県警が自動車運転の適性検査を受けるよう何度も指導したが、医師は「自分には問題がない」として応じなかったという。

 道交法では、てんかん患者でも発作が5年間なく、その後も発作が起きる恐れがないと医師が診断するなどの条件を満たせば免許証を更新できるが、県警は今回のケースは該当しないと判断した。

コントロール不調なてんかん患者による重大事故が相次ぎ全国的に話題になったことは記憶に新しいところで、特に患者を指導すべき立場にもあるはずの医師がこういうことをやっていたのでは全く言い訳のしようもないというものですが、特に今回注目していただきたいのは周囲の対応です。
相次ぐ事故もあってのことでしょうか、「4つの病院から運転をしないよう指示されていた」という点で担当医達が非常に社会的責任を重んじて診療に当たっていたということが想像されますし、千葉県警にしても「3月の事故後、運転の適性検査を受けるよう」何度も指導するなど、単なる法規的な対応を越えて慎重に取り扱っていたということが判りますよね。
何しろその道の専門家が一致して運転をするなと言っているにも関わらず「自分には問題がない」として医師の指示も警察の指導も華麗にスルーしていたのですから、全国にも例がないという持病の不信国による道交法違反での逮捕に踏み切ったことも当然ですし、警察も過去の教訓にきちんと学んでいるのだなと再確認できるケースです。

ところで臨床現場では患者が医師の指示、指導に全く従わないということは日常茶飯事で、かつてであれば無理矢理に入院させてでも治療するといったケースもあったのでしょうが、近ごろではご存知のようにインフォームドコンセントだ、患者の権利尊重だということで本人の同意がない治療は原則やってはいけないという世の中になってしまいました。
定期的な検査が求められる疾患ではどうしてもやらざるを得ないのですが、当然ながら面倒くさい、お金もかかる、そして結果が悪ければまた先生にぐちぐち言われる(苦笑)と言う事で拒否される患者さんも少なからず、時にはそれが思いがけない裁判に結びついたりと言うこともあって世の臨床医には「どないせえっちゅうんじゃい!」と憤懣やるかたない方々も多いことでしょう。
特に慢性疾患の患者の中でもこの方面で担当医を悩ませずにはいられないのが糖尿病持ちということで、世の中にはその独特のキャラクターを称して「糖尿病気質」などという言葉も出回っているようですけれども、何しろ数が多い上に食生活の変化やメタボ検診などで今後も恐らく増えていく一方だろうということで、臨床現場は否応なしにその対応を迫られている最中です。
そうした現場の実情を学生教育にも反映させるということは一般論としては非常に結構なことなのですが、どうも見ていて「それはちょっと違うんじゃない?」と首をかしげずにはいられないケースもあるということを、以前に当「ぐり研」にも取り上げさせていただいた厚労省医系技官でありながら厚労省批判の急先鋒という木村盛世氏が指摘しています。

医師国家試験問題から読み解く、厚労省の現実離れぶり(2012年5月14日木村盛世氏ブログ)より抜粋

(略)
今回は、今年の医師国家試験問題を引用し、そこから、今の厚生行政のおかしさを指摘したいと思います。
その問題とは、これです。

52歳の男性。糖尿病治療目的で外来通院中である。
体重を減量する必要性を本人も理解しているが、
これまでの5回の受診で体重が漸増している。
身長165 cm、体重82 kg。HbA1c 7.6 %(基準4.3~5.8)。
医師の発言として適切なのはどれか。
a  「何度説明しても無駄ですね」
b  「減量では何がつらいですか」
c  「体重が増えて透析になっても知りませんよ」
d  「次回までに体重が減らないと私は責任が持てません」
e  「今回できなかった分も加えて次回までに減量しましょう」

HbA1cというのは、糖尿病のコントロールの善し悪しを示すもので、()にあるように、コントロールが良い場合は、低い数値に保たれます。
この症例は、明らかにコントロール不良な糖尿病患者です。
さて、みなさんはこの問題を読んでどの答えを選ぶでしょうか。
おそらく、正解は「b」です。
えー、どうして?と思われる方、自分が思ったとおりだった、と納得される方、様々な反応があると思います。
なぜ、正解が「b」かというと、その背景は次のように考えられます。

まず、医師たる者、患者を突き放しネガティブな事を言ってはいけない、という姿勢が求められる、という前提があります。
それとともに、患者の困っている事を把握して、それを解決してゆくことによって、減量を達成させることが重要である、という強いメッセージが受け取れます。
こんな解説をしていると、私自身、なんて優等生的な解答をしているのか、悦に入ってしまいそうです。

でも、現実は本当にそうなのでしょうか
患者の弱点を把握して指摘すれば、その人は減量に成功するのでしょうか。
(略)
国試問題の答えをもう一度みてみましょう。
答えは「b」だろうと書きましたし、おそらくそれが正解です。
しかし、現実の世界では、aからeまで、どれも有り得る解答です。
おそらく、この問題は、臨床現場をよほどわかっていないか、あるいは、メタボ対策を推奨し、厚生労働省のお褒めをいただきたい人が作ったのではないか、と思います。

私自身、この陳腐な問題をみて、現実の厚生行政も、現実とはかけ離れた、机上の空論で作成されている事実がダブって、笑うに笑えない気持ちになりました。

さてさて、どれも微妙な選択肢が並んでいる中で自分がもしこの患者の担当医であれば過去の受診時に医学的には妥当な対応をしてきているものとして、最も近いのはdの「次回までに体重が減らないと私は責任が持てません」かなと思うのですが、それでも今度来てもダメだったと言うのであれば残念ながら自分ではお力になれないようですと紹介状を用意するしかありませんかね。
国試的には消去法的にどうしてもbを選んでしまう学生が多いのでしょうが、逆に臨床現場に出てこういう患者に遭遇した場合、体重が増えて透析になるというリスクを何度も繰り返し説明した上で、それでも自分の手には負えない患者をいつまでも漫然と抱え込むような医師は今のご時世「無責任」と批判されても仕方がありませんし、何かあればそれこそ巨額の賠償金という形で責任を取るしかなくなってしまいます。
厚労省がどのような意図でこうした問題を出しているのか今ひとつ釈然としませんし、仮にbが正解で他が不正解だというのが正しい医師のあり方だなどと考えているのであればとんでもないことですけれども、医師の側は患者の無理解で四苦八苦しているというつもりでも、一方で患者の側では「この野郎、いつも上から目線で偉そうなことばかり言いやがって…」と不満をため込んでいるかもしれない…という視点は重要でしょうね。
先日こういう記事が出ていたのですが、以前から「治療費を現金で前払いしないことには何もしてくれない」と悪評の高い中国の病院ではもはや双方の感情的なもつれが行き着くところまでいってしまっているようなのですね。

中国で頻発する「医者殺し」 患者とのトラブル増加(2012年06月22日WEDGE Infinity)より抜粋

今年3月23日夕、中国黒竜江省のハルビン医科大学付属第一病院で、難病患者の少年A(17)がナイフで医師を刺し、1人が死亡、3人が負傷した。
(略)
 なぜ「殺医」(医者殺し)「医閙」(医療トラブル)という新語ができるほど、中国の患者たちは医者や病院に対して怒っているのか。中国メディアの報道から同事件を再現し、医療問題の現状を探った。

「病気の苦しみを理解してもらえず」

 「女の大きな悲鳴が聞こえたので事務所のドアを開けたら、血だらけの床に医師が倒れていた」。女性看護師は震える声で事件を振り返った。少年Aは病院前のスーパーで果物ナイフを買い、医師の事務所まで戻って、4人の医師に襲いかかった
 殺された医師はインターンの王浩さん(28)。事件から5日後、王さんが待ち望んでいた香港大学博士課程の入学許可書が届き、同僚たちの涙を誘った。
 Aはくびや腰、手足の関節などが動かなくなる慢性の免疫疾患、強直性脊椎炎を患っていた。リウマチに似た難病で、治療は難しく、薬で進行を遅らせることしかできなかった。Aは事件後「病気の苦しみを何度も医師に訴えたが、理解してもらえず、発作的に襲ってしまった。罪もない医師を殺すべきではなかった」と語った。
 医者の側に手落ちはなかったようだ。

「医者殺し」 65%が支持

 凄惨な事件は中国全土の医療関係者を震え上がらせた。さらには事件についての世論調査が医師の怒りと悲しみをかきたてた。インターネットの世論調査で、事件について、回答者6161人のうち65%に当たる4018人が「うれしい」と回答したのだ。
 匿名で無責任な回答になりがちなネット調査とはいえ、「医者殺し支持」の多さは、中国での医師の信用失墜をはっきりと示していた

 衛生省の統計によれば、2006年の医療トラブルは1万248件、09年は1万6448件、10年は1万7243件と年々増加
 医学界のサイト、丁香園の調査によると、00年から現在までの12年間に患者に殺された医師は公表されただけで14人に上るという。
(略)
 「良い治療を受けられるのは、金と権力(コネ)がある勝ち組だけ」「病院や医師は患者を搾取している」との不満が中国の庶民の間に広がっている。
 ただ、客観的にみれば、常に医師、病院側が悪いわけではない。国民の権利意識の高まりもあって、診断や治療、手術に過誤があった、として患者が医師や病院を相手取って損害賠償を起こすケースも多い。
 医療トラブルの交渉、解決を商売にする者も現れ、病院に通って「依頼人」探しにいそしんでいるという。最近では「もうけたいなら、手術しな。その後、医者を訴えろ」というざれ歌まであるという。
(略)

まあしかし、今の時代どこの国でも…と思ってしまうような記事でもありますかねえ…
元記事はそれなりの長文ですので是非リンク先を参照いただきたいと思いますが、中国における「殺医」の現状については以前にもその一端を取り上げたように、単純に病院内でのトラブルだけに留まらず医療保険制度の不備や過度のコネ社会など中国社会全体の歪みが病院という場で噴出しているのかなという感触も受けます。
しかし彼の地でしばしば問題になるという金銭的トラブル云々を抜きにしても日本とも大いに共通する問題だなと感じるのは、医師の側では患者と手に手を取り合って病気に立ち向かって行こうという認識であったとしても、患者の側では病気そのものよりもむしろ医師という存在そのものが苦しみをもたらすものとして認識される可能性があるということですよね。
前述の国試の問題にしても結局のところ言いたいのは患者の苦痛に対する共感的姿勢が必要であると言うことなのだと無理矢理好意的に解釈してみることも出来ますが、この本来そうあるべきではないはずの医師と患者の対立関係というものは国や文化的背景を選ばず発生し得る普遍的な問題であるようで、例えばアメリカンジョークなどでもこういう話が伝わっています。

弁護士と会計士、医師が悪夢について語り合った。
弁護士曰く、「私にとっての悪夢とは依頼主全員が敗訴してしまうことですね」
会計士曰く、「私にとっての悪夢とは顧客企業全部が倒産してしまうことです」
医師曰く、「私にとっての悪夢とは患者が全員完治してしまうことだ」

ご存知のようにアメリカンジョークというものはとにかく弁護士=悪の権化のような構図があって、その弁護士よりも性悪のように描かれる医師への社会的認識もどうなんだと言うものですけれども、もちろん職業別好感度調査によってもジョークのネタへの取り上げられ方を見ても、一般論として彼の地における医師への信頼感は弁護士に対するそれに数倍すると考えていいようです。
そうした社会的認識を前提にした上でも言わずにはいわれない、そしてそれがジョークとして誰にでも通用してしまうというところにこの問題の難しさがあるのだと思いますが、これを解消するためには糖尿病患者に減量のつらさ苦しさを尋ねてみるという程度の話では到底追っつかないでしょうね(苦笑)。
いずれにしても社会常識的に考えても最低限言えることは、思わず患者も「お前が言うな!」と突っ込みたがるような指導をしていたのでは患者もついてこないだろうと言うもので、幾ら整形外科医とは言っても自分の持病を放置したまま好き放題やっていたのでは社会的ペナルティーを負うことになる以前に、一職業人としてもそれはいささかどうなのよと思われてしまうのは仕方のないことです。

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コメント

しょせん骨接ぎ屋なんてそんなもん

投稿: | 2012年7月 6日 (金) 09時02分

この国家試験の問題は、医者が思うことはいろいろあるでしょうが、「接遇」という面からはb以外の発言はあり得ません。cやdの発言をするにしても、もう少し言い方を変える必要があります。そうでなければ無用なトラブルが増えちゃいます。

投稿: クマ | 2012年7月 6日 (金) 09時06分

>もう少し言い方を変える必要

一般論としてはおっしゃる通りですが、こういう輩に婉曲に言っても伝わりませんからねえ…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年7月 6日 (金) 09時49分

ちょっと話題になってる問題ですね。
意図的に患者を不快にさせる発言もまた大事な診療技術なんですけど、国試に出すには応用よりも基礎だろってのは判ります。
ただ選択肢自体をもう少し練り込んだ方がよかったし、これ見るとやっぱり現場での苦労が判ってない人が書いた問題だなって感じてしまうんですよね。
認定医・専門医試験に比べると国試ってわりあいによく出来た問題が多かったって印象だったけど…

投稿: ぽん太 | 2012年7月 6日 (金) 11時11分

>医師曰く、「私にとっての悪夢とは患者が全員完治してしまうことだ」

日本では治らない=再診よりも一度完治した=初診にさせていただいた方がコストが取れると喜ぶ医師が多いかと

投稿: あげは | 2012年7月 6日 (金) 12時03分

ま、何を言っても馬耳東風というのも疾患的な特徴ですから、ファーストチョイスとしてbが正解なら正解でいいのですが、その後に続く対応として他の選択肢も用意しておく必要はあると思います。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月 6日 (金) 12時45分

ようするに医者も分をわきまえて患者のために黙って働けってことだな

投稿: | 2012年7月 6日 (金) 14時11分

黙って働き続けたらこうなったんだよw

投稿: aaa | 2012年7月 6日 (金) 17時52分

改めて問題文を読んだら、この患者さんの体重増加が本人のコントロール不良によるものかどうか、どこにも書かれてないですね。
ちゃんと患者さんが食事制限していてそれでも太るってことなら、別の原因を探さなければならないですし、そう思うとbと言う選択肢も微妙に思えてきます。

投稿: クマ | 2012年7月 6日 (金) 19時37分

医師としての接遇を問うことが主眼のようだから鑑別等々はあまり考えなくてもいいという前提で、
何も知らない人間が読むと糖尿病患者はだらしなくて不摂生だと思わせかねない文章でもあるんですねこれ
問題出した人間が一番ステロタイプな偏見持ちってオチですか?

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年7月 7日 (土) 10時22分

私の建設業界の建築士・建築施工管理技士の合格率はさておき、日本の年間の交通事故負傷者数を91万人、日本の人口を12.5,75億人として計算してみると0.9928..という数値。年間1%近い方々が何らかの事故に遭う確率。

投稿: 智太郎 | 2012年7月27日 (金) 11時23分

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