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2012年7月23日 (月)

基準病床の壁 有休病床は東電病院のみに非ず

本日の本題に入る前に、福島の原発事故以来すっかり悪者となった感があり、先日はドイツの環境保護団体から世界で最も環境破壊を行った企業として賞を受け取ったとも言うのがご存知東京電力(東電)という会社です。
正直最近では何でも東電絡みであれば批判の対象になるかのような論調でいささか短絡的過ぎるかなという気がしないでもないのですが、これは事実だとすればさすがにどうよ?と思われる東電ネタがまた飛び出してきたと言いますから嘆息するしかありません。

線量計に鉛板、東電下請けが指示 原発作業で被曝偽装(2012年7月21日朝日新聞)

 東京電力が発注した福島第一原発の復旧工事で、下請け会社の役員が昨年12月、厚さ数ミリの鉛のカバーで放射線の線量計を覆うよう作業員に指示していたことがわかった。法令で上限が決まっている作業員の被曝(ひばく)線量を少なく見せかける偽装工作とみられる。朝日新聞の取材に、複数の作業員が鉛カバーを装着して作業したことを認めた。役員は指示したことも装着したことも否定している。厚生労働省は、労働安全衛生法に違反する疑いがあるとして調査を始めた。

 朝日新聞は、福島県の中堅建設会社である下請け会社「ビルドアップ」の役員(54)が偽装工作したことを示す録音記録を入手した。昨年12月2日夜、作業員の宿舎だった福島県いわき市の旅館で、役員とのやりとりを作業員が携帯電話で録音していた。

 役員はその前日、作業チーム約10人に対し、胸ポケットに入るほどの大きさの線量計「APD」を鉛カバーで覆うよう指示した。だが3人が拒んだため、2日夜に会社側3人と話し合いがもたれた。役員は録音内容を否定するが、この場にいた複数の作業員が事実関係を認めている

下請け会社とは言え無論東電に対する配慮から出たものであることは言うまでもありませんけれども、こういうことが明らかになりますと何を信用したらいいのか判らなくなってきますね。
それにしても同じ隠蔽工作をするにしても鉛カバーなどと素人目にもそれと判る方法を使ってしまったのでは必ず話もバレようと言うもので、ここは朝日が入手したという録音内容で役員がどのように作業員達を説得していたのか聞いてみたい気もします。
ただ東電ばかりが悪いように言われますが文科省などもかねて線量を低めに出そうとしているなどと批判されてきたところで、例えば先日は福島県内600カ所に設置されインターネット上でリアルタイムに測定結果を公表するようになっていた計測器が、誤差が大きいとして業者との契約を破棄し装置も回収するという騒ぎがありました。
ところが業者側の言い分では計測部分にはアメリカ製で国際標準として認められているものを使っていたところが、文科省から「日本標準にあわせて」低く数字が出るように改修せよと要求されていたということで、実際に簡易測定装置の数字と比べて見たところ約2倍の数字が出ていたという証言もあるようです。
測定方法などが違えば数字が異なっているということはあってもおかしくない話ですが、おもしろいのは当初マスコミ各社が文科省の発表通りこのシステムが「実際の線量よりも低く表示される」から回収するのだと報じていたことで、このあたり東電に限らず地道な情報操作が行われているのか?と勘ぐられそうですよね。

さて、その東電が新宿に持っている職域病院である東電病院を結局売却せざるを得ないという話になっていて、ざっと調べていましたらちょうど「新小児科医のつぶやき」さんが綺麗にまとめてくださっていたので参照いただくのが早いと思うのですが、要するにここで問題になるのは職域病院であれば自治体毎に定数が決まっている基準病床数には引っかからないが、一般病院となるとそうではなくなるということです。
感情的に見れば東電がろくに稼働してもいない病院を持っていて一般患者も受け入れていない、しかも売る意志もなく今後も保有すると言っているとなればそれはちょっと…と言いたくもなるのですが、実際のところ売るにしても病床過剰地域で病院として良い値では売れそうにない立地であるのも事実であるということですよね。
今回はたまたま東電というなかなかにキャッチーなターゲットであったことから話題になりましたけれども、全国的に見ると病床再編をしようにもこの基準病床数の制限一杯で引っかかっていてどうにも動かしようがないという地域は多いもので、それだけに需要の乏しくなってきた病院をどう統廃合していくかということが問われる時代にもなってきたということでしょう。
もともと日本は世界的に見ても例外的に病床数が非常に多い国として知られていて、その理由も社会的な背景であるとか様々にあるわけですが、特に皆保険制度導入後半世紀を経過して、当時あちらこちらで建設されていった公立病院の老朽化に伴いその後始末が問題となってきていて、このたび大阪では府立病院と市立病院を一気に統合するという大胆な構想が動き出しているようです。

老朽化した病院の建て替えに、無理やり黒字化するプランを描いていた/大阪(2012年7月17日日経ビジネス)より抜粋

(略)

今回は5月末に発表された大阪府市公立病院の経営統合についてお話をお聞きします。まず、府と市を統合する「大阪都構想」において、病院事業はどのような位置付けにあるのかを教えてください。

上山:府と市の統合を考えた時、病院事業は真っ先に検討すべきテーマの1つでした。なぜなら患者からみたら府立か市立かはどうでもいいのです。現在、大阪には府立病院と市立病院が両方で8つあります。それぞれ立派に役割を果たしていますが、互いの近所に病院があっても、お互いバラバラにやってきました。経営統合して適正配置すれば機能もアップし、無駄も省けます
(略)

ちなみに上山信一氏(慶応大学総合政策学部教授)は大阪府・市の特別顧問を務め、府・市の主要事業の民営化、統合プランを作成中の人物であり、大嶽浩司氏(自治医科大学准教授、経営コンサルタント、医師)は今回市の特別参与として府市立病院統合の話をまとめた人物です。
府(県)立病院と市立病院の統合と言えば高知医療センターなどが有名ですけれども、今回の場合目前の課題として老朽化した住吉市民病院の改築計画があり、これがまた何ともお役所仕事らしい杜撰なものであったというのですね。

建て直し計画案を取りやめ、統合する方向で考え直すことにしたのですか。

大嶽:いいえ、最初から統合と決めていたわけではありません。しかし、昨年、市が発表した建て替え案は費用も大きく、需要に比べてずいぶん背伸びして作ったものだといわれていました。少なくとも現実に即した案を作る必要がありました。そこで近所の府立病院との統合案のほか、現地での建て替え案なども含めて、複数の選択肢を分析・検討しました。

背伸びというのはどういう点ですか。

大嶽:平松前市長のときに市役所が作った建て替えプランでは、分べん件数を1000件、病床数を120と設定していました。しかし、現在、住吉市民病院が取り扱っている分べん件数は726件です。子供を産む数が減っている今のご時世に、それほどたくさんの産婦さんを連れてくることは難しい。また公立病院を拡大することで、頑張っている民間病院を圧迫することにもなりかねない。

 1000というのは無理をした数字だということは、プランを作った市の担当者もわかっていた。ただ、そうしないと収支が取れない。
(略)
 昨年、市が作った建て替えプランでは、57億円の費用がかかると見込んでいました。病床稼働率90%で試算した場合、1000件のお産を扱っても、初年度は約1600万円の赤字。7年目からようやく黒字化するという見込みになっています。

 赤字を垂れ流し続けるようなプランでは、当然、市民の支持は得られません。議会を通すためには、黒字になるようなプランを作らなくてはならない。それにはこれくらいの分べん件数が必要だという逆算で作ったのが当初の建て替え案でした。リサーチをして、「1000件ぐらいの需要があります」というのではなかったのです。

上山:それで今回は現状の患者数に即した現実的な建て替え案を作ってみたのです。病床数は80床程度、分べん件数は750件と設定した。これだと、建て替えにかかる費用が約45億円。同じく病床稼働率90%で試算して、初年度は約7000万円の赤字。7年目から4000万円の赤字に縮小する。赤字はずっと続くわけです。

 一方で住吉市民病院からわずか約1.8kmの距離に府立急性期・総合医療センターがあります。病床数は768。高度救急救命センターもある、とても大きな病院です。そこで、建て替えをやめて府立の方を拡張する、つまりこの2つの病院を統合したらどうかと考え、プランを作成しました。

近隣に府立の大病院がありそちらの方がはるかに設備もスタッフも充実している、となればこちらに産科と小児科の新病棟を作れば初期投資も非常に安く(約30億円)抑えられ、しかも初年度から黒字が見込めるというのですから、それなら立て替えはせずに統合してしまった方が効率が良いだろうということは誰にでも理解出来る話ですよね。
住民からすれば近隣の病院がなくなってやや遠くなることだけがデメリットですが、さすがは大都会大阪というべきでしょうか、市民病院からわずか400mの距離に民間病院が400床の新病棟を建てたばかりだと言うことでまずデメリットは考えられず、むしろ公立と民間のモチベーションの差も考えれば医療供給体制としてはより充実したと言ってもいいくらいでしょう。
それなら何が問題なのかと言えばそこはやはり公立病院だけに、公務員としての既得権益というものが侵害されるというのを当事者がどう捉えるかですよね。

あえてお聞きしますが、市が当初、作成していた「建て替え案」にメリットはあったのでしょうか。

上山:職員にとっては建て替えの方がメリットがあったでしょうね。長年、住吉市民病院に勤めてこられた方々には愛着があるでしょう。事務職員やコメディカルスタッフの待遇も良いので今からよその病院に移って、新しい風に吹かれるのはしんどいという思いがあるでしょう。
(略)
大嶽:民間病院でもよくある話です。僕がある病院の経営改革を手伝っている時に、収益力の高い病院にしたいというので「患者さんが困っている時に助けたら、ロイヤルカスタマーになりますよ」という話をして、救急を強くしようとしたのです。ところが職員の多くは夜中に働くのを嫌がる。

 本当は、良い設備があって、それを扱える医者がいるなら、24時間、365日、稼働率を上げて、どんどん患者さんを治療していけば、患者さんはあり難いだろうし、病院側の収益も上がります。

 しかし公立病院の場合、病院経営が赤字でも、給料は同じように出る。誰も困らない。職員は公務員のメンタリティーで働いていますから、夜間休日の救急をとるインセンティブがないのです。このため急患をどんどんとるようなやる気のある医師は、働きがいのある民間病院に出てしまう。要するに日本の多くの夜間や休日の重症救急医療は官でなく民が担っているのが現実です。

何の商売でもある程度その傾向はありますが、特に公立病院の場合「働いたら負け」という発想が骨身に染み込んでいる永年勤続の公務員の勢力も根強く、そうした風潮がやる気のあるスタッフの流出につながりますます病院のカラーを悪い方に決定していくという傾向にあることは否めません。
無論、公立病院であってもきちんとした医療を行いスタッフの士気も高い施設もあることはありますが、そうした施設でもやはり民間の最良の施設に比べれば優位性を発揮するには至っておらず、おもしろいことに医療は経済論で語るべきではないという論調の根強い日本で民間病院の方が公立病院よりも良い医療を行っているというパラドックスが存在しています。
さらにはこうした士気低下を反映しているのでしょう、大阪のような大都市部でも例によって公立病院の医師不足などが積年の課題になっていて、しかも民間病院など医療資源自体は十分にあるわけですから何も非効率で赤字を垂れ流す公立病院を無理に維持する必要もないのではないかと言う声もあり、実際に先年松原市などは市立病院の廃止を議決してしまったほどです。

こうした環境にあって今まであったものだからこれからも無条件で維持していかなければならないという発想でどうでもいい(失礼)病床を多額の税金まで投じて維持されていたのでは、やる気のある病院がもっと病床を増やして社会貢献をしたいと思っても基準病床数の制約上出来ないというおかしなことになってしまいますよね。
基準病床数なるもの自体が全国一律の数式で決められ都道府県の裁量の余地がないのもどうかという声は以前からあって、実際に厚労省などの求めるように医療資源の集約化を推進していくのであれば大病院が集中する地域では制限を緩和しなければならないんじゃないかと思うのですが、当座出来ることとしてさして有効に活用されていない死に病床を整理していくということがあると思います。
特に現在の診療報酬体系では病床を常時満床近くに維持しておかないと経営が成り立たないという状態を強いられているわけですが、やる気のない公立病院においても昨今の赤字削減のかけ声のもと経営改善を強いられていて、その結果不要不急であるのに患者を無理矢理入院に仕立て上げて形ばかりは満床を維持するというのでは、これは言葉は悪いですが医療費の無駄遣いに他なりません。
無論、これが民間病院であれば経営的に持続可能である限り他人の口出し出来るところではありませんけれども、全国幾らでも自治体にとって不良債権化している公立病院はあるわけですから、「オラが町にも市民病院くらいなければ」という旧世紀以来の常識をひとまず再考してみるところから始めてみてはどうでしょうか。

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コメント

東電にとっても閉鎖した方が経営上のメリットが大きいんじゃないかと>東電病院。
三菱もあちこち病院閉鎖してますし、皆保険制度に従ってやるなら従業員にとっても職域病院ならではのメリットってそんなにないのでは?

投稿: ぽん太 | 2012年7月23日 (月) 08時42分

売るにしてもあまり高くは売れそうにないし、それだったら当面持ってた方がいいって判断なんでしょう。
この手の不良資産はどこの大企業にもあるでしょうし、今回の事故がなければ特に問題にはならなかったかも知れないですけどね。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月23日 (月) 12時08分

売るとしてどうするんだろう?
規模縮小して病院存続?更地にして転用?

投稿: 不動アキラ | 2012年7月23日 (月) 12時32分

>議会を通すためには、黒字になるようなプランを作らなくてはならない。それにはこれくらいの分べん件数が必要だという逆算で作ったのが当初の建て替え案でした。

まさに典型的なお役所仕事
思うにこうしたリサーチの作業は今後民間に委託するというルールを作るべきじゃないだろうか?
どう考えても先に結論ありきで突っ走って後始末が大変だという事例が多すぎる気がする

投稿: kan | 2012年7月23日 (月) 13時51分

もちろん全ては下請けの役員一人の独断ですw
今回たまたま思いついてやってみただけですよw

東京電力福島第一原子力発電所の事故の収束作業で、工事を請け負った会社の役員が、作業員に対して、
被ばく線量を少なく装うよう指示した問題で、指示を出した役員が、23日、記者会見を開き、
「今では間違った考え方だと思っている。大変申し訳ない」と謝罪しました。

この問題は、福島第一原発の事故の収束作業で工事を請け負っていた福島県浪江町の設備メンテナンス
会社「ビルドアップ」の役員が、去年12月、作業員に対し、身につける線量計に放射線を通しにくい
鉛のカバーをして、被ばく線量を少なく装うよう指示していたものです。

この会社の和田孝社長と佐柄照男役員は、23日、郡山市内で記者会見を開きました。

この中で、佐柄役員は「作業現場の下見をした際、線量計のアラーム音が短い間隔で鳴って、作業員が
不安を感じると思ったので、鉛カバーをつけることを自分で考えた」と述べました。

そのうえで、作業員の被ばく線量には上限があり、超えた場合は仕事ができないと説明したと明らかにし、
「誇張表現があったが、線量を偽装させようとした訳ではない」と述べました。

そして、「これまで、このようなことはやったことがない。今では間違った考え方だと思っている。
作業員や関係者に大変申し訳ない」と謝罪しました。

この問題で、厚生労働省は、労働安全衛生法に違反する疑いがあるとして、詳しいいきさつを
調べています。

▽NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120723/k10013789261000.html

投稿: 線量隠し続報 | 2012年7月23日 (月) 21時41分

情報ありがとうございます。
やはりそんなところが落としどころでしょうかね。
しかし100%言ってる通りだとすると、こういう認識の人間が作業を管理しているという大問題が自ずから発生するわけですが、東電のコメントを待ちたいです。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月24日 (火) 07時37分

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