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2012年7月25日 (水)

今日も総合医の話ですが

何か嘘のような本当の話?というものがお隣中国から聞こえてきていますけれども、本日まずはこちらの記事を引用させていただきましょう。

【アジア発!Breaking News】「恥ずかしいからイヤ」。下半身重傷の男性の検査を女医が拒否。治療遅れ死亡。/中国(2012年7月23日テックインサイト)

隣人とのトラブルが暴行事件に発展し、下半身に重傷を負った男性が病院に運ばれた。担当した女医が恥ずかしさから検査を拒否。男性が死亡するという事件が起きていたことが18日、病院側の説明により明らかになった。

事件があったのは昨年10月13日、中国安徽省舒城県内に住む70代の男性が腸に穴が開く重傷を負い、家族が県内の人民法院へ運んだ。当時救急を担当していた医師が先に超音波検査をする必要があると診断したため、家族は男性を超音波室へ連れて行ったが、超音波室にいた女医は「下半身を蹴られているので、私は検査できません」と検査を拒否し、胸部外科で検査をするよう話したという。

家族は仕方なく胸部外科へ男性を連れて行ったが、この時男性は堪え切れない痛みに襲われており、すぐに手術をしてほしいと頼んでいたそうだ。しかし、医師は「しばらく様子を見ます」と話し、取り合わなかった。その後、男性は激痛からショック状態になり、それを見た医師が慌てて手術を行うも、すでに手遅れだったという。

18日の病院側の説明によれば、病院側は「男性が病院に運ばれてきた当時の状況からはすぐに手術を行うべきかどうかは判断がつかなかった」、「男性の負傷は隣人に殴られたのが原因、賠償責任は隣人が取るべきで病院には無関係」と主張したが、裁判所は病院側に明らかな過失があったとして10万元(約120万円)の損害賠償を求めたということだ。しかし、社会からは当時の女医のプロ意識に欠ける対応や病院の主張、賠償額の少なさに憤りの声が上がっている。

誰が悪かったと言えばこれまた様々な考え方がありそうな一件なのですが、とりあえず亡くなられた方には何とも不幸な事例であったとは言え、記事によると「下半身を蹴られているので」とエコーを拒否したという女医の行動が(日本の医療の感覚からすると)よく判らないところですよね。
外傷の状況など細かいところが不明なので医学的にどういう状況であったのかは判断しかねるのですけれども、本当に「恥ずかしいからイヤ」という理由であったのであれば何とも変わった先生だなと思える話ですし、救急医にしても必要だからと依頼したエコーが未施行なのにスルーしてそのまま経過観察するのではオーダーする意味がなかったんじゃないか?と思えてしまいます。
全くの想像なのですが喧嘩で殴られた老人というくらいですからさして裕福な患者とも思えず中国なら支払いの問題も頭をよぎったでしょうし、担当医としても形ばかりエコーくらいはしてお茶を濁しておこうかという程度の気持ちだったものが、結果としては思いがけない重症であって不幸な転帰を迎えてしまったということでしょうか。

日本でもさすがにそっくりそのままの事件はないと思いたいですが、やはり医者も人の子ですから相手や状況によって対応が違ってくるということは仕方のないところで、例えば多忙な外来の最中に糖尿病持ちの面倒くさいおじさんにどっかと居座ったりされるとついつい邪険になってしまいがちですし、「患者の長い話を聞かないための技術」なんてものが臨床医の必須スキルとされるくらいですよね。
ただ逆に言えばありふれた不定愁訴じみたいつもの長話の中から必要な情報をすくい上げるということもこれまた非常に重要な診療技術で、ことに大病院の専門外来のようにある程度方向性の定まった患者ばかりが来るわけではない一般外来の場合はこうした技術こそ重要なのだろうとは理解出来ます。
狭く深く専門領域を掘り下げるばかりでなくそうした部分におもしろみを感じる人も実は案外多かったということなのでしょう、先日以来お伝えしているように専門医制度改革という問題と平行して総合医というものの位置づけも盛んに議論されるようになってきていますが、幸いにもこうした総合医になりたいという人々が次第に増えてきているという記事が出ていました。

増える「総合内科」診療所(2012年7月24日日経メディカル)より抜粋

名称に「総合内科」を冠した診療所が目立ってきた。家庭医の重要性が増す中、幅広い疾患に対応できる点を患者にアピールする狙いがある。患者の生活面にも配慮した診療を重視しているのが共通の特徴だ。

「総合内科」診療所の医師たちは、患者の治療だけでなく精神面にも気を配って診療する例が多い。

 「統計があるわけではないが、ここ数年、『総合内科』を院名に付けた診療所が確実に増えている」。診療所の開業や運営を支援する日本医業総研(大阪市中央区)コンサルティング部マネージャーの柳尚信氏はこう話す。

 「総合内科」に明確な定義はないが、「家庭医療」や「総合診療」と同じ意味合いで使われており、総合内科のほか、「プライマリケアクリニック」や「ファミリークリニック」と名付けるケースも見受けられる。こうした命名が増加している背景には、高齢者の急増で幅広い疾患をカバーできる医師が必要になる中、その技能を持つ診療所開業医が患者に分かりやすく伝えようとする動きが活発になっていることがある。

 各診療所の診療内容を知る一番の手立ては標榜科目。しかし、一診療所が内科や外科など様々な標榜科目を掲げる例が多く、診療内容の違いが患者には理解しにくい。一方で、総合内科などを標榜することは医療法で認められていない

 そこで、診療所名に「総合内科」を入れる診療所が出てきたわけだ。医療の専門分化が進み、患者を総合的に診る医師が不足しているため、国が家庭医や総合医を専門医制度に位置付けようとしていることも、この流れを後押しする(関連記事)。

 ただ、「診療所名に『総合内科』を使うことを、保健所が認めていない地域もある」(柳氏)。前例が少ないことと、定義がはっきりしないため患者をミスリードする可能性があることが主な理由のようだ。

 いずれにせよ、患者の幅広い疾患に対応しようと考える医師が徐々に増えているのは事実。こうした医師が運営する3つの「総合内科」クリニックの取り組みを紹介する。
(略)

もの凄く基本的なことですが、機材等も限られている開業医として「なんでも診ます」と看板を掲げるのは特に昨今の何かとややこしい世相では相応に勇気のいることで、勤務医時代のなじみの患者を相手に自分の専門分野だけをちまちま手がけ、面倒な患者は近所の病院にさっさと送るという方がはるかに楽ですし、実際そういう気楽な診療をなされている先生方も多いわけですよね。
日経メディカルさんでは敢えて面倒くさい総合診療の道に進んだ医師の例として総合内科医を標榜する三人の先生方を取り上げているのですが、おもしろいのはそれぞれの先生方のキャリアが非常にバラエティー豊かであるということです。
勤務先の組合立診療所を買い取りそのまま開業した佐藤章先生は卒業後ジェネラリストを目指してあらゆる領域の修錬を積んだ総合内科のプロですし、元外科部長だった大久保辰雄先生は開業に際して診療所で出来る仕事の限界を感じ総合内科診療を一から学び直した転向組、一方で根本佳和先生は総合内科に興味を持ち渡米してまで学んできたという経歴を持っています。
勤務外科医から開業内科医という大久保先生のようなコースは昔からあったことですが、大久保先生の場合開業に当たって総合内科医として数年間のトレーニングを積んできたということで、もちろんそのまま開業しても一般外来診療くらいはこなせるのでしょうけれども、このあたり総合医とは単にドロップアウトした専門医ではなく、「循環器科や血液内科などと同じ一つの専門科」という認識が次第に広まりつつあるということでしょうか。
いずれにしても特に何の専門ということもなく一般診療やってますと半ば日陰者のように扱われていた時代から、総合医というものも立派な一つの専門であるとされる時代になってきたからには、これを地域の医療システムの中で有効活用していかない手はないだろうというものですよね。

総合内科という言葉にも未だ混乱があって、病院内でどこの科に行くべきか迷うような診断未確定患者の診療を担当する総合診療医と、根本先生らの言う内科的プライマリケアを担当する医師を同じ総合内科医と呼んでいいものなのかどうか迷うところもあるのですが、世に言う総合内科というものはおおむね後者を意味する場合が多いと思われます。
当然ながら地域で一人開業している先生方が多くなる関係上どうしても検査などにおいて勤務医に一歩を譲るということになりがちですが、最近では広範な地域内医療データ共有やポータブルタイプの検査機器の発達で診療所レベルのみならず在宅レベルでも応用の利く技術的ブレークスルーが起こりつつありますから、総合診療拡充に向けての環境は整ってきたと言えそうですよね。
後は先の記事にもあった標榜・名称の制限など諸問題の解消とともに、診療報酬上の誘導などが起これば地域枠で入学した先生方が一気に総合診療になだれ込み地域医療が充実するという可能性もあるのですが、このあたりへの厚遇は下手すると日医への優遇措置か何かのようにも受け取られかねないというのが政策イメージ的にどうなんでしょうね…

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コメント

血圧が高いと言えばCaブロッカー
喘息と言えば気管支拡張剤
そういう総合医療をしていた時期が私にもありました・・・・

投稿: | 2012年7月25日 (水) 07時28分

そういう先生今でも結構いますけどね。
最近同僚先生のカルテ見てて健診HbA1c高値でとりあえずSU出して一ヶ月後再診ってのはどうなんだろうと思うんですが。

投稿: ぽん太 | 2012年7月25日 (水) 08時48分

何の検査もなしにですか?
いろいろと地雷が埋まってそうに思えますが。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月25日 (水) 09時30分

エコーとOGTTだけして後はときどきA1cみてるだけみたいで、もちろん腎症とか網膜症とかぜんぜん気にしてないし血圧も測ってないですし。
だいたいA1cが正常上限くらいまで下がってるのにSU続けても低血糖のリスク増やすだけじゃない?って思うんですが…
普段の話聞いてると決して頭の回らない人じゃないし専門の分野ではそれなりに知識もあるんだろうけど、専門外じゃちょっと怖いことしてるなって先生いくらでもいますよ。
総合医の専門資格とまでは言わないですが標榜するなら最低限のトレーニングは受けとかないと自分の身も守れません。

投稿: ぽん太 | 2012年7月25日 (水) 10時08分

総合診療医というのは医師不足解消には安直に飛びつきそうなコンテンツでしょうが、かなりハードル高そう。
検査機器・治療機器も限定された診療所でやるのは相当リスクが高いでしょうね。
本格的にやるには現役バリバリの優秀な救急救命センターで総合診療を何年も経験があってかつ広い知識をもつ医師しかできないでしょう。
簡単な手術や処置、ポータブルエコー検査などで迅速診断くらいはできないと話になりません。
それ相応の地雷処理もこなせる自信と覚悟がなければ今の時代すぐにピットホールに転落(医療事故)しそうですね。
ということで私見としては現実的にはアンチ総合診療ですかね。今の時代むしろ診療所は専門に特化したほうがいいような気がします。


投稿: 元神経内科 | 2012年7月25日 (水) 10時49分

総合医っていうと田舎で内科と外科と言わずなんでも診てる自治医の先生なんて尊敬しますけどね
でもみてると怖いのも確かなんで、初期研修で消化器2~3ヶ月ローテしただけでCFもERCPもやってたり
ああいうのって痛い目に遭った経験がないから怖いもの知らずでやれてるのかもって思いますな

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年7月25日 (水) 11時02分

>今の時代むしろ診療所は専門に特化したほうがいいような気がします。

その方がやる方は楽だが、患者にとっては何カ所も回らされるのは面倒だろうなあ
逆に患者の利便性にばかり配慮してもトラブルに結びつくので開業医も気を使うことは多いだろう

モール内の診療所間で患者取り合いが勃発!
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kansei/201207/525876.html


投稿: kan | 2012年7月25日 (水) 11時42分

どんな開業医でもガイドラインは勉強しなくても、レセプトのルールは勉強するはずです。
例えば、糖尿病診療なら、腎症(尿アルブミン検査)、網膜症(眼科受診)を年1回はしないと管理料を取れないようにしてしまえば、医療の最低レベルをかさ上げできるのではないでしょうか。

投稿: | 2012年7月25日 (水) 12時17分

>どんな開業医でもガイドラインは勉強しなくても、レセプトのルールは勉強するはずです。

おっしゃる通りぶっちゃけお金で誘導するのが一番手っ取り早いのです。
ただそうすると今度は医師の裁量権を侵害するだとか、何の項目を義務項目に含めるのかでまた一悶着ありそうなんで…

あと上の方で出てましたが、きちんと全身管理が出来ない先生が何も考えず高血圧にCCB決め打ちで出すのは必ずしも悪くないんじゃないかと。
だって難しいこと考えなくても一番トラブルなく使える降圧薬なのは事実なんですもん。
だからそれでコントロールがつかない患者をきちんと専門医に相談させることの方が重要なんじゃ?

投稿: ぽん太 | 2012年7月25日 (水) 12時42分

本当なら大勢で診療できる勤務医より一人で患者に対処する開業医の方が高いレベルを要求されるはずなのに今は玉石混淆なのは困ったものだね

投稿: | 2012年7月25日 (水) 14時20分

>一人で患者に対処する開業医の方が高いレベルを要求されるはずなのに

開業医はぶっちゃけ「これはオレの手には負えない」ってことさえ見切れれば充分なわけで…。もっと言えば見切れなくともマージンを多めにとっておけばばば…w

まあ殆どの開業医はベテラン勤務医のなれの果てですから「石」は実はあんましいないかとw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2012年7月25日 (水) 18時09分

なんちゃって総合医が地雷踏みまくって淘汰されないかな
あんがいとそう言うやつってサバイバル能力だけ無駄に高そうだけど

投稿: | 2012年7月25日 (水) 22時29分

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