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2012年7月 9日 (月)

救急搬送 相次ぐトラブルから得られる教訓

先日は名古屋で患者搬送中の救急車が炎上したりと、最近救急車絡みの事故のニュースが多いなと思っていましたが、先日はこういう記事が出ていました。

救急車が女児と接触事故、救護せず/群馬(2012年6月13日産経ニュース)

 群馬県富岡市の富岡甘楽広域消防本部の救急車が救急搬送中、小学6年の女児(11)と接触事故を起こして転倒させ、軽傷を負わせながら、救護しなかったことが13日、消防などへの取材で分かった。同県警前橋署は、自動車運転過失傷害の疑いもあるとみて経緯を調べている。

 前橋署などによると、8日午前8時15分ごろ、前橋市城東町の県道で、救急車が赤信号の交差点を通過中、青信号で横断歩道を渡っていた女児に接触し、転倒させた。女児は右足を捻挫するけが。

 救急車は重傷患者を搬送中で、現場に止まらず、そのまま病院に向かった。女児は立ち去った。

 救急隊員4人は病院到着後、前橋署に連絡してから現場の交差点に戻り、女児がけがをしたことを警察官から聞いたという。

 富岡甘楽広域消防本部は「隊員1人が残って女の子を追い掛けて手当てをすべきだった。今後は事故防止を徹底したい」と陳謝した。

ひき逃げはもちろんよろしくないということは言うまでもありませんが、一刻を争う救急搬送の最中に事故に遭いますと普通以上に面倒なことになるだろうなと容易に想像つきますよね。
道交法では救急車両の場合は事故後も現場に人を残せばそのまま走行を続けていいことになっているそうなのですが、調べて見ますと救急車というものは案外よく事故を起こしているもので、実際に生死を争うような患者を搬送している際に事故に遭遇すると非常に対応が迷わしいということになるようです。

今治消防本部:救急車、搬送18分遅れ 事故を起こし、代替車を待ち 全救急隊員に文書指導 /愛媛(2012年4月14日毎日新聞)

 今治市消防本部の救急車が11日午後、市内の60代女性を搬送中に軽自動車と接触事故を起こし、代替車を待ったため搬送が18分遅れたことが、同本部への取材で分かった。事故を起こした救急車はドアを損傷したが、搬送可能だった。今回の事態を受け、同本部は12日、全救急隊員に対し、現場でより適切な対応を心掛けるように文書指導した。

 同本部によると、救急車は11日午後0時20分、「女性が倒れた」という通報を受けて出動。女性は心肺停止状態だったが、蘇生措置で回復し、搬送時の容体は安定していた。12日未明に死亡したが、搬送の遅れが原因かどうかは不明という。

 道交法では、傷病者を運搬中の緊急車両は、事故を起こしても現場を離れて運転を続けられるが、その場合は事故対応をする人を現場に残さなければならない。同本部は「救急隊員は運転手を含めて3人。現場に人を残すと、一人で患者の処置をしなければならず、状況が分かっていない発生当初は難しい判断だった」と話している。【津島史人】

救急車:搬送中に事故…到着16分遅れ患者死亡 札幌(2012年5月17日毎日新聞)

 17日午前8時5分ごろ、札幌市西区西野8の8の市道で、急病患者を搬送中の救急車が、青信号で横断歩道を渡っていた小学2年の男児(7)と接触した。男児はひじや腰に軽傷。搬送中の70代の男性患者は約16分遅れで別の救急車で市内の病院に運ばれたが、くも膜下出血で間もなく死亡した。市消防局が搬送遅れと死亡の関係を調査している。

 道警札幌西署などによると、現場は市立西野第二小前の片側1車線の直線道路。救急車がサイレンを鳴らしながら横断歩道手前で一時停止し、徐行で進入したところ、左から走り出てきた男児に左バンパーが接触した。信号は救急車側が赤だったといい、男性運転手(26)は「(男児に)気づくのが遅れた」と話しているという。

 市消防局によると、救急車を男児の救護や事故対応のため現場にとどまらせ、別の救急車2台を出動させた。1台目が約11分後に到着した後、男性患者の乗り換えに約5分かかり、計16分後に現場から出発したという。

 遠藤敏晴消防局長は「心からおわびする。再発防止の徹底を図りたい」とコメントしている。【高山純二、遠藤修平】

もちろんケースバイケースということもあって一つの対応が常に正解ということでもないのでしょうが、ここで忘れる訳にはいかないことは例えどんなに注意をしていたところで交通事故を起こす可能性はゼロには出来ないということです。
特に救急車の場合は通常の道路法規を外れた走行をしているケースが多いわけですが、例えば渋滞中の車列で車の間を縫ってバイクが飛び出してくるだけでも重大事故に結びつくくらいですから、昨今車の遮音性も高くなっている中でサイレンを鳴らしているから周囲も気づいているだろうという前提で走っていると大変なことになってしまいますよね。
特にスタッフも限られ救急車も一台しかないような田舎ではどう対応すべきか迷わしいでしょうが、手に余る数の傷病者を抱え込んでしまった場合まず必要なのはトリアージだというのは大原則ですから、「事故に気をつけて頑張ろう」などと訓示一つで終わることなくきちんと対応手順を定めルールを周知徹底していくことが重要でしょう。
さて、同じく起こりえるという前提で対応策を決めておかなければならないという点で非常に教訓的な事件が起こってしまったのですが、まずはこちらの不幸なケースを紹介させていただきましょう。

「救急車出動せず死亡」と山形市相手取り提訴/山形(2012年7月6日読売新聞)

 山形大2年の大久保祐映さん(当時19歳)が昨年10月、体調を崩して山形市の自宅から119番通報したが、救急車が出動されずに死亡したとして、埼玉県在住の大久保さんの母親が市を相手取り、1000万円の損害賠償を求める民事訴訟をさいたま地裁熊谷支部に起こした。提訴は6月15日付。

 訴状などによると、大久保さんは昨年10月31日、自宅で強い吐き気を感じるなどしたため、午前5時頃に119番。通報を受けた市消防本部通信指令課の職員は「タクシーで行けますか」などと応対、救急車を出さなかった。大久保さんの家族の依頼で自宅を訪ねた大家が11月9日、死亡している大久保さんを発見した。

 大久保さんは通報後、教えられた病院やタクシー会社に電話せず、そのまま自宅で死亡したとされる。死亡推定時刻は11月1日で、病死の疑いが強いという。当時の電話のやり取りは録音されており、大久保さんは声が弱々しく、息苦しそうな状況で、冷静な判断力がなかったとみられる。

 同課職員は救急業務が発生した際、救急隊を出動させることが不可能でない限り、直ちに出動させる職務上の注意義務がある。このため原告側は、救急車を派遣しなかった同課の判断は、誤りだと主張している。

 同課の小山康永課長は「訴状の内容を確認していないのでコメントできない」としている。

19歳の若年者が急死したということで、死亡した経緯がはっきりしないのですがいずれにしても非常にレアなケースだったと思われ、ご本人のご冥福をお祈りすると共に思いがけない悲報を受けることとなったご家族にお悔やみを申し上げるしかありませんが、問題はこの不幸な事例はたまたま起こったということではなく、こういうことがいずれ起こるだろうと予想されていた中で起こるべくして起こったということです。
タクシー代わりに救急車を利用する人々が増え救急隊の活動が破綻の危機に瀕した結果、ついに昨年には消防庁が音頭を取って軽症者には自力受診を求めるなど救急搬送の基準策定に乗り出したことはすでに紹介した通りですが、当時から「一見軽症に見える中に重症者が混じっていたらどうするの?」と反対する声はありました。
これに対する答えとしては搬送対象の選別を行うことによって、重症者見逃しのリスクよりも救急搬送システム崩壊を回避するメリットの方が上回るのであれば社会全体としては選別を行った方がよいだろうと言うことになりますが、当然ながらその大前提として一定割合でこうしたケースが発生してしまうというリスクを社会が受け入れるということが必要となってきます。
ネット世論などでは「なんというとんでもない救急隊だ!」と非難囂々という様子ですが、無論確かに選別を行った方が社会にとっての利益になるという根拠の提示が今後求められていくとは言え、基本的に搬送しなかったこと自体がケシカランと言う捉え方は本質を外れてしまうと理解しておかなければならないということです。

医師個々人の裁量権が大きい医療と違い、救急隊はあくまでも組織で対応する必要がありますから、事後になって「きちんと話を聞いておけば重症だと判断できたのでは」などと幾ら検証してもあまり本質的な意味はなく、こうした選別の誤りは一定確率であり得るという前提で対策を立てておかなければならないはずで、その意味で何故自宅でそのまま亡くなってしまったかを検証すべきかなという気がします。
救急隊が「タクシーで行けますか」などと応対していたということですから何故タクシーを呼ばなかったのかと疑問を抱くところでしょうが、そもそも一般に19歳の若者はタクシーを呼んで病院に行くなどという経験がそうそうあるはずもなく、仮に病院やタクシー会社の電話番号を教えてもらったところでまず病院に連絡して受診の可否を尋ね、さらにタクシーを家に呼びつけるというのもずいぶんとハードルが高かったはずです。
まして今回の場合そうした行動に移ることも出来ず亡くなった可能性もあるのですから、搬送を断った後の対応を本人一人に丸投げにしてしまったことが一番問題であったと言えそうですが、これを避けるためには例えば救急搬送は行わないがタクシーの手配や受診受け入れの確認などを本人に変わって行ってくれる公的システムを用意すると共に、救急隊が搬送を断った事例では必ずこちらに電話を転送しておくことが必要でしょう。
きちんと受診の手配がつくまでオンラインのままで対応をしておけば仮に途中で急変したとしてもそのまま救急隊へ差し戻すことも出来るわけですし、タクシー会社にしても仮に現場でおかしいと感じれば直ちにコールバックが出来るというものですから、今回の不幸な犠牲を無駄にしないためにも病院に着くまでの諸手続を一括して引き受ける組織として地域の救急搬送システムを再構築していくことが求められるのかなという気がします。

いずれにしても今回の訴訟の対象が市であることからも判る通り、ともすれば担当医個人がターゲットとなりかねない医療と異なりあくまでも活動の主体が組織であるということが救急隊の強みであるとも言えるわけです。
相次ぐ医療訴訟の結果防衛医療という言葉がすっかり定着したように、医療の世界では残念ながら医学的妥当性よりも個人防衛が優先されるようになってきた面がありますが、個人防衛を考えなくても良い救急現場においてはあくまでも理念優先で進められるはずですよね。
何かあれば判で押したように「再発防止に努めたい」というコメントが出てきますが、目先の解決法だけに留まらず社会全体にとっての利益をどう提供出来るかという観点から組織の行く末を決めていただきたいと思いますね。

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コメント

出動させる義務があるなら出動させなかったのは義務違反では?

投稿: てつ | 2012年7月 9日 (月) 09時37分

消防救急もけっこう危ない橋渡ってるってことですよね。
いずれ法改正して搬送義務を外すという方向になるんでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2012年7月 9日 (月) 11時01分

全員搬送待ち時間3時間
お急ぎの方は別料金で緊急コースもございます

投稿: aaa | 2012年7月 9日 (月) 11時51分

嘘ついて患者押し込んでくるのやめてください
意識障害ってどう見てもただの酔っ払いじゃないですか

投稿: | 2012年7月 9日 (月) 12時58分

今回はお気の毒と言うしかないが、消防庁が全ての搬送依頼を受けるのは無理だと考えているなら下手に和解してしまうと今後断ることが難しくなるんじゃないか
勝つにしろ負けるにしろ最後まで法定で争って法令が現状に即していないんだと話を持って行った方がよさそうに思える

投稿: kan | 2012年7月 9日 (月) 13時38分

諸外国と同じく救急車を有料化すればいいのでは?1回5万円程度。即日現金払いで。
受診した結果2~3次救急レベルと判定されれば全額または7~8割程度返還でいいと思います。
脳卒中や心筋梗塞など救急疾患は発症時軽症⇒2~3時間で重症化など日常茶飯事です。
電話だけで重症度を判断するなど論外でしょうね。そんな事は即やめるべきでしょう。

投稿: 元神経内科 | 2012年7月 9日 (月) 15時22分

話は変わるんですが今日も喘息悪化して声も出なくなった人が来たんですが、119に電話しても話が長くてなかなか来てくれないと文句いってました
消防救急はもうちょっと改善した方がいいんじゃないですか

投稿: | 2012年7月 9日 (月) 15時49分

お願いしますから、「痙攣です、今止まっています」と除脳硬直の子供を脳外のない小児夜間診療所に搬送してこないでください。

投稿: | 2012年7月 9日 (月) 18時42分

それはさすがにw

投稿: | 2012年7月 9日 (月) 18時55分

救急車も滋賀県警方式で!
断るつもりはなかったとコメントするだけの簡単なお仕事です!
http://news.livedoor.com/article/detail/6734689/

投稿: ダルビッシュYou | 2012年7月 9日 (月) 19時15分

救急隊もいろいろと問題を抱えているのは確かですが、トップダウンで動く組織だけにひとたびやる気になれば一気に改革が進みそうなのはよい点だと思いますね。
裁判の結果もさることながら、それに対して上からどういう対案が出てくるのかが非常に気になります。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月10日 (火) 11時45分

カナービを付けろ 救急車は地図の本で 確かめる前にカナービ付けましょう

投稿: 無し太郎 | 2013年11月25日 (月) 18時47分

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