« 今日のぐり:「あかり」 | トップページ | 亀岡事件 危険運転適用は見送りに »

2012年6月18日 (月)

精神医療 行政からのアメとムチ?

本日の本題に入る前の余談として、近年心の病と言われるものが増え続けているとは聞いていましたが、こちらも過去最高を更新したという政府発表があったようです。

心の病で労災、最多の325人=「震災」原因が20人―厚労省(2012年6月15日時事ドットコム)

 厚生労働省は15日、仕事上のストレスやショックでうつ病などの精神疾患を発症し、労災認定された人が2011年度は325人と前年度より17人増え、2年連続で過去最多を更新したと発表した。このうち東日本大震災が原因となったのは20人に上った。
 精神疾患での労災申請は、91人増の1272人と3年連続で最多だった。認定された325人のうち、自殺・自殺未遂者は1人増の66人だった。
 認定者の業種は、製造業59人、卸・小売業41人、医療・福祉39人の順。年齢別でみると、30代の112人が最も多く、40代71人、20代69人と続いた。
 原因は「仕事内容・量の大きな変化」52人、「悲惨な事故や災害の体験・目撃」48人、「嫌がらせ、いじめ、暴行」40人の順だった。
 これらのうち、「仕事中に津波にのみ込まれた」「高所で作業中に地震が起きショックを受けた」など東日本大震災が直接の原因となったのは18人に上り、「仕事で被災地に応援に行き、体調を崩した」など間接的な原因も2人いた。 

こちらはあくまでも労災認定が通った人だけを数えたものですからたいしたことがないようにも見えますが、とにもかくにもその増加傾向が非常に目立っているということは各種統計からも明らかで、例えば同じく厚労省の発表によれば鬱病患者は2000年以前まではおおむね40万人程度で横ばいであったものが、近年急激にその数を増やし現在百万人を越えたと言います。
診断の進歩や社会のこうした心の病に対する認識の変化など様々な要因が絡んでいるのでしょうが、ともかく一昔前のような一部の特殊な人々の持つ病気という時代から、今や心の病が糖尿病や高血圧などと同様に国民誰しも罹患し得る身近な病気になってきたとも言えそうですよね。
身体疾患にしても一昔前はうっかり肝炎でも見つけようものなら「職場にだけは知らせないでくれ」と患者から頼み込まれるケースも少なからずあったようですが、今は診断や治療が進歩し以前ほど忌避されることもなくなってきたように、心の病と言われるものについても今後身近になるにつれ次第に無知や偏見が解消され、状態に応じた適正な対応を社会が身につけていく時期になってきたのかも知れません。
そんな中で政府がこのところ相次いで心の病関連の対策を打ち出してきたというのが注目されるのですが、まずはこういう記事を紹介してみましょう。

精神障害者の雇用義務化へ 厚労省方針、社会進出促す(2012年6月14日朝日新聞)

 厚生労働省は、新たに精神障害者の採用を企業に義務づける方針を固めた。身体障害者に加え、知的障害者の雇用を義務化した1997年以来の対象拡大になる。障害者の社会進出をさらに促す狙いだ。企業に達成が義務づけられている障害者雇用率は、上がることになりそうだ。

 専門家による研究会で、近く報告書をまとめる。今秋から労働政策審議会で議論し、来年にも障害者雇用促進法の改正案を通常国会に提出する。企業だけでなく、国や地方公共団体などにも義務づける

 障害者雇用促進法は企業などに、全従業員にしめる障害者の割合を国が定める障害者雇用率以上にするよう義務づけている。障害者の範囲は身体、知的に限られていたが、そううつ病や統合失調症などの精神障害者を加える

先日のてんかん患者における重大交通事故の際にも議論になったことですが、精神疾患などある種の疾患では治療薬そのものも中枢神経系に作用する結果、疾患がコントロールされていたとしても飲酒状態と同様に運転や機械の扱いなどにおいて一定の注意が必要なのではないかという懸念はあります(添付文書にも記載されている=何かあれば法廷も採用するだろうと言うことです)。
そうした事実をふまえた上でも当然ながら出来る仕事は幾らでも世の中にあるわけですから、出来ることを出来ないかのように扱って不当に差別するということのないよう、一定の法的対応を当座の処置として行っていくという必要性はある程度理解出来るところでしょう。
ただこの時期になってこういうことを言い出した理由が何なのかということも気になっているのですが、表向きに見れば前述のように近年心の病というものが非常に増加傾向にある中で、そうした患者が不当な差別を被ることのないように配慮しなければならないという考え方から来ているものとも理解出来ます。
ただ一方では近年心の病が急増していることの背景として、果たして実際に患者がそれほどに増えているのか?という疑問も実感として言われてきたわけですが、どうも場合によってはこうした企業への義務づけがある種の利権や逆差別に結びつきかねないという危惧もあるようなのですね。

例えばこのところの生保不正受給騒動ですっかり有名になりましたけれども、生保需給を容易にするためにまず手近な医療機関で鬱病なりの診断を受けて精神障害者保健福祉手帳(障害者手帳)をもらう、そしてこれを手がかりに障害者だからという名目で生保を受給するというテクニックが一般的に用いられていることが知られるようになりました。
現在用いられている鬱病の診断基準を見ていただいても非常に主観的な症状によって診断が下され得るものだということがお判りいただけるかと思いますし、そもそも現代人の半数は何らかの精神疾患の診断がつくなんてことを言う精神科の先生もいるくらいですから、ましてや患者側がその気になって無防備な善意の第三者である医師を利用する気になれば何とでもなるだろうと言うものですよね。
企業に障害者枠というものが設けられればこの就職難ですから当然そこを狙ってという人も出てくるでしょうし、企業側にしても見た目明らかにこれは…と思うような人よりも一見してそうと判らないような詐病紛いの人の方が雇いやすいでしょうから、下手をすると制度本来の目的を離れた運用に陥ってしまう可能性も否定出来ません。
それでもこうした制度を作っておけば少なくともある程度は本来のターゲットに対する雇用促進にもなるだろうとは思うのですが、こうしたアメと同時にムチとも言える話も出てきているとなりますと患者団体としても言いたいことが出てきそうですよね。

精神障害者の強制入院で見直し案=家族の同意不要に―厚労省検討チーム2012年6月14日時事通信)

 厚生労働省の有識者検討チームは14日、精神障害者の強制入院制度の見直し案をまとめた。家族と患者の関係悪化などを防ぐため、強制入院への「保護者」の同意を不必要とし、医師の診察だけで入院させられるようにする。家族の負担軽減が狙いだ。今後、現行法の改正や新法制定を検討し、来年の通常国会への提出を目指す。
 現行制度では、症状の自覚のない精神障害者を強制的に入院させるには、必要な医療を受けさせたり、財産を守ったりする保護者の同意と、精神保健指定医の診察が必要。ただ、ほとんどの場合、保護者は家族が務めるが、「入院に同意したことで患者との関係が悪化する」などの問題点があり、改善が求められていた。 

表向き「家族と患者の関係悪化などを防ぐため」と言い、実際にそうした目的で運用されることも当然あるのでしょうけれども、医師の診察だけで強制入院を決定できるという制度変更が非常に応用が利き、社会的にも少なからぬ影響を持つだろうということは容易に想像出来ますよね。
当然ながらこちらは詐病などではない本物の患者さんを対象にしたものであるのでしょうが、以前からこの精神障害者の入院ということに関して非常に議論が分かれていて、一方では当然ながら患者の権利を制限するなどケシカラン人権侵害じゃないかという声があり、他方では本当に危険な患者を入院させることも出来ないのでは危なくて外も歩けないという素朴な声もあるわけですね。
例えば精神科に入院中の患者が外出中に殺人事件を起こした、被害者の遺族が外出を許可した病院を民事訴訟に訴えたという「いわき病院事件」などは医療に限らず司法の面からも非常に重いテーマを投げかけたものだと話題になりましたが、重大事件を起こしても心神喪失だからと罪に問われないような人間が一方的に権利だけ擁護されるのはどうかという意見は社会に根強いようです。
昨今では「もし誰か殺したいと思ったら、まず精神科を受診してカルテをつくっておけ」なんてことが冗談交じりで言われるような時代で、ましてや医学的に心の病とされている人々が急増していると政府自身が公に認めてしまっているわけですから、それならそれで何かしらの対策を強化せよと言う声が上がってくるのも不思議なことではありません。

そう考えるとあるいは同時期に出てきたこのアメとムチのような話、あるいはムチの方の議論が先にあって、それに対する反発をなだめる意味でアメの方がセットで用意されたのか?などと邪推してしまいそうにもなるのですが、もちろん実際には厚労省内でも別な部署から出てきているようですから少なくとも公式には別に連動した話でもなんでもないのでしょう。
ただ一方では社会的に根強い差別意識が残っている(少なくとも患者側からはそのように感じられている)という現実があり、他方では病気ですら現世利益のために利用しようと考える人達もいるという時代にあって、単純に医学的妥当性だとか社会正義の実現といった耳障りのいい話だけで議論をまとめていくわけにはいかないんじゃないかとは言えそうですよね。
世の中これだけ不景気も続きワープア化が進んでくると、先日の生保問題にも見られるように一部の人間が不当に特権を行使している、なんてイメージが広まるとその反発ももの凄いものになってきていますから、差別を解消するための政策が新たな反発を招くなんてことのないようにお上にも慎重な対応をお願いしたいものです。

|

« 今日のぐり:「あかり」 | トップページ | 亀岡事件 危険運転適用は見送りに »

心と体」カテゴリの記事

コメント

うつの患者を精神障害者と呼ぶのは違和感があるんですが自分だけでしょうか?
同僚に抗うつ薬を内服している人を知ってますが、医師免許も取得制限がありませんでしたっけ?
厳しく追及されるようになると影響が大きい気が

投稿: ぽん太 | 2012年6月18日 (月) 09時10分

医師法によれば免許を与えないことがあると言うことですから、必ずしも有病者=不適格とされているわけでもないようです。
いわゆる別室受験扱いということでいいのでしょうか。

第四条  次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一  心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二  麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三  罰金以上の刑に処せられた者
四  前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

投稿: 管理人nobu | 2012年6月18日 (月) 13時15分

何かあったら誰が責任とるのかな?役人が責任取るのははあり得ないのは判ってるがw

投稿: aaa | 2012年6月18日 (月) 13時42分

Wikipediaからの引用ですが、精神障害者保健福祉手帳の対象は
(参考 http://normalife.city.suginami.tokyo.jp/suginamisypher/open_imgs/service/0000000001_0000000281.pdf 
ちなみに これの、「能力障害の状態」を見ると、確かに悪用しようと思えば簡単だろうな、と思います)

統合失調症
躁鬱病
非定型精神病
てんかん
中毒精神病
有機溶剤などの産業化合物、アルコールなどの嗜好品、麻薬、覚醒剤、コカイン、向精神薬などの医薬品
器質精神病(精神遅滞を除く)
その他の精神疾患
※その他の精神疾患にはICD-10に従えば神経症性障害、ストレス関連障害、成人の人格および行動の障害、食行動異常や睡眠障害を含む生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群、心理的発達の障害、小児(児童)期および青年期に生じる行動および情緒の障害など

だそうです。

いろんな立場の人がそれぞれの違和感を感じそうなリストだと思います。
なんというか、精神障害の分類って、常に「 現在工事中」な印象です。
余談ですが、私は、今後10年以内に発達障害を軸にまた再編されるのではないかと思っています。

投稿: JSJ | 2012年6月18日 (月) 13時45分

企業から見るとなるべく軽症者を囲い込みたいという点で、裏口入社を狙いたい連中と利害関係は一致しそうに思えるな
採用情報に精神科受診歴あり優遇しますなんて書かれる時代が来たか

投稿: kan | 2012年6月18日 (月) 14時44分

て言うかこれ誰得???
患者団体ってそんなに強いの???

投稿: | 2012年6月18日 (月) 15時55分

雇用義務化については、患者団体から身体・知的障害と同等に扱って欲しいとの要望が以前からあがっていたはずです。身体障害者手帳や療育手帳と同様、精神障害者手帳に顔写真を貼り付けるようになったのもその流れです。
ただしそれは、統合失調症や躁うつ病を想定したものであって、うつ病や神経症を想定していません。治る病気の場合、通常は手帳や年金の対象になりません。私はオーベンから「10年以上治療して、何度も入院して、それでも良くならないうつ病しか年金や手帳の診断書をかいちゃダメ。ただ、そういう治らないうつ病はうつ病じゃないかもしれないから気をつけろ」と研修医の頃に指導されています。それにもかかわらず、最近はなぜかちょっとうつ病になったからといって簡単に手帳や年金がもらえると言う話がネットに書き込まれているのが不思議です。
最近は治療してないのに年金だの手帳だの言う患者さんが、少なくとも私の知る範囲内では増えています。適切な治療を受けているにもかかわらず治らないのが手帳や年金の対象になる障害であり、未治療ではその対象になるかどうか判断できません。

保護者制度については、家族の負担が大きいとのことで数年前から変更するような話があちこちから漏れてきていましたが、ようやくといった感じです。
ただ、新たに医療保護入院の適否を判断する組織を作って天下り先を確保したいんじゃないかなーという疑念はあります。

投稿: クマ | 2012年6月18日 (月) 22時19分

単純に求められるまま診断書書いちゃう先生がいるって事では
診断書料は言い値なので高くてもいいと言うのが大勢来たらぼろ儲けですわな

投稿: 柊 | 2012年6月18日 (月) 22時40分

柊さまへ
まあ、そうなんでしょう。
ただ、うつ病と書いて診断書が簡単に通るとも思えず・・・適当な病名でっち上げているのでしょうかね?私はそういうことをやる気が起きませんけど。
最近は診断書の審査が厳しくて、以前は統合失調症とか双極性障害の診断が付いていたらほぼ通っていたのですが、10年くらい前から病状のチェックが厳しくなっているように思います。

投稿: クマ | 2012年6月19日 (火) 00時58分

患者送迎、豪華設備…生活保護者「囲い込み」過剰診療の疑いも 大阪・西成
http://woman.infoseek.co.jp/news/society/story.html?q=sankein_snk20120618568

楽々ボロ儲けで稼いでらっしゃるセンセイも多いようですねw

投稿: かりん | 2012年6月19日 (火) 07時58分

>楽々ボロ儲けで稼いでらっしゃるセンセイも多いようですねw
多い、とは、何と比べて多いのですか?
楽々、とは、何と比べて楽なのでしょう?
ぼろ儲け、とは何と比べてぼろい儲けなのでしょう?

僻み丸出し の印象操作は醜いですね。 

この手合いの僻み根性は「精神科医はみなぼろもうけ、開業医は大方ぼろ儲け、医者はあらかたぼろ儲け」にすぐ転化する。

パチンコ屋と同じ、需要があるからこそ供給しようとする輩が発生してくる、とは思えませんかねぇ。眉をひそめるようなものでも。(ああ、脳死移植なんてものも、私見では同類だから。)

もっしかして、医業はパチンコとは違って公費が投入されているから、すべからく公僕wたれ、ですか。
 できると思うんなら、やれば?

投稿: くされかりん | 2012年6月19日 (火) 08時53分

まあ西成界隈を日本の一般的な社会の縮図として語るのも無理があると申しますかね(苦笑)。
一部に制度を悪用する顧客とそれで不当に儲けている医者とがいるのであれば、そちらをしっかり厳しく対処すればいいだけです(まともな医者は誰も反対しないでしょう)。
例えば大阪では医療機関の制限や現物給付など生保対策の検討が進んでいますけれども、もともと生保で儲けが出るというのがおかしな話だと思います。
一部なりと自分でお金を出している保険診療があれだけ好き放題査定されるのですから、全額公費の生保などはもっと厳しく査定されてしかるべきという考えもあるでしょうに、現状は逆なんですよね。

投稿: 管理人nobu | 2012年6月19日 (火) 10時49分

新型うつ病と生活保護へのマスコミ報道についての一文

ダーウィンはナマケモノを嫌わない
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20120621/233624/?P=1

ご参考までに

投稿: 柊 | 2012年6月22日 (金) 08時31分

>ダーウィンはナマケモノを嫌わない

どちらも同じ文脈での報道だとつねづね感じていました。
ちょっと記事の意図とはずれるのですけど、やはり精神医学って難解というか、どこか神学論争めいてるようにも見えます。
専門家の手にかかればきちんとした科学になっているのでしょうけど。

投稿: ぽん太 | 2012年6月22日 (金) 11時12分

>ダーウィンはナマケモノを嫌わない

ナマケモノは極端に代謝を落とし(1日葉っぱ数枚で済むそうです)、コケが生えるレベルで徹底的に動かない事により敵の眼に触れないようにして生き残ってきた非常にエコロジカルで潔い生き物で私はかくありたし、と常々かんがえておりますw。ちなみにそれでも敵に見つかった時は木から落ちて逃げ、武運拙く捕獲されちゃった時はせめて苦しまないよう自ら気絶するとか。漢らしすぎるだろww

>専門家の手にかかればきちんとした科学になっているのでしょうけど。

友人の精神科医に鬱と単なる怠けの鑑別法を訊いてみたんですが、「んなもん区別出来るワケないやんw」と言い放ちやがりましたが…?

投稿: | 2012年6月22日 (金) 12時13分

精神医学と身体医学はともに同じ医学部出の医師が手がけながら全く別物として続いてきましたからね。
ローテート研修が必修化されて身体医学を学んだ若手が精神医学の道に進むとどうなるか、実のところちょっと興味を持って見ています。

投稿: 管理人nobu | 2012年6月22日 (金) 12時26分

>ローテート研修が必修化されて身体医学を学んだ若手が精神医学の道に進むとどうなるか、実のところちょっと興味を持って見ています。

多分単なる先精神科医になるだけでしょうね…。つか、身体医学は今までだって医学部で学んでいたワケで…。

投稿: 10年前にドロッポしました | 2012年6月22日 (金) 14時50分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/54980725

この記事へのトラックバック一覧です: 精神医療 行政からのアメとムチ?:

« 今日のぐり:「あかり」 | トップページ | 亀岡事件 危険運転適用は見送りに »