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2012年6月29日 (金)

勤務医の激務と初期臨床研修

医療崩壊ということが世間でも話題になって以来、このところの診療報酬改定でもこちら方面への対策が各種講じられていますけれども、僻地を中心とした地域医療供給の破綻という減少と、都市部であっても急性期を担当する勤務医の減少と、大きく二つの問題が中心命題になっていると言えそうです。
前者にしろ後者にしろ過去にろくでもない労働環境でスタッフを使い潰してきたつけが回ってきたとも言える話で、このところようやく医師待遇改善ということにも世間の目が行くようになってきたことは良かったと肯定的に評価することも出来ますが、対策を講じる側としてはそうとばかりも言っていられませんよね。
近年では診療報酬改定においても総額はさすがに増やすわけでもありませんが、激務が言われる領域へ手厚くすることで勤務医対策ということをやってきた、その結果何かが改善されたのかどうかということが先日の中医協の報告で述べられています。

【中医協】勤務医負担軽減、改定効果なし?- 「ほかの要因が影響」との指摘も(2012年6月27日CBニュース)

 27日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会では、診療報酬改定結果検証部会(部会長=牛丸聡・早大政治経済学術院教授)が、2010年度改定の影響を検証する調査の最終報告を提出した。「病院勤務医の負担軽減」が重点課題に位置付けられたものの、調査結果によると、改定後も負担が大きいと感じている医師が半数近くに上った。ただ、委員からは、勤務医の減少など、さまざまな要因が影響した可能性を指摘する声が相次いだ。

 最終報告は、11年10月の中医協総会で速報値として報告された調査結果に、部会としての評価コメントを加えたもの。病院勤務医の負担軽減については、医師調査で「勤務負担感が大きく、勤務状況の改善が必要」との回答が44.4%に上ったことなどから、「一定の効果を上げているが、引き続きさらなる対策が必要」との考えを示している。

 これに対し、嘉山孝正委員(全国医学部長病院長会議相談役)は、「診療報酬(改定)の効果がないように見えるが、ほかの要素が原因になっている可能性もある」と主張。次の診療報酬改定に向けた議論の際には、勤務医の数や分布に関するデータなどを併せて示すよう求めた。
 また、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、医療費適正化計画などで平均在院日数の短縮が求められている一方で、高齢化などにより病床稼働率は変わらず、勤務医がより多くの患者を診なければならなくなっている可能性を指摘。「診療報酬だけでは分析し切れない要素がある。幅広く検討することが必要だ」と訴えた。

 支払側の白川修二委員(健康保険組合連合会専務理事)も、「勤務医の負担軽減の効果が、予想よりも小さく、残念だ」とした上で、「診療報酬改定だけでは対応できないのだと思う」と述べた。【高崎慎也】

ま、勤務医を優遇しましたなんて言っても実際は到底加算を取れないような無茶な条件ばかりで、あくまでも医療崩壊に配慮したと言うポーズだけの改定であったというのが定説だったわけですから、万一にも劇的に効果があったという結果が出た場合の方が興味深かったと思うのですが(苦笑)。
散々診療報酬に色をつけることに忌避感を示してきた支払い側が何やら理解のあることを言っているようにも聞こえますが、「診療報酬改定だけでは対応出来ない」という発言の裏を読めば「どうせ上げても効果がないんだから診療報酬上げなくてもよくね?」ということで、首尾一貫していると言えばしていますよね。
いずれにせよ明確な定量的データが手元にないのであくまでも個人的な印象ということになりますが、立ち去り型サポタージュといった言葉が話題になり始め医師の心が折れることが医療崩壊の第一にして最大の要因であるということが知られるようになってから、各種報道などを見る限りでも経営側に医師の労働環境にも配慮する必要があるのだという認識が以前よりも増してきたというのは確かだと思います。
現場の突き上げや国の政策的誘導もあって給与を上げるだとか勤務態勢に配慮するだとか言う話がちらほら流れるようになっては来ている、しかし全体の中で見るとまだ大きな影響を与えるほど多数派にはなっていないということもあるし、何よりそうして生まれた職場環境格差が医師によりより職場への移動を促し、結果として一部においては以前よりも激務になったという側面もあるわけですね。
臨床自体をやめてしまう真性ドロップアウトを別にしても、労基法厳守の精神で勤務を組めば今までよりもずっと多くのスタッフが必要ですから、勤務環境優良な一部病院が多くの医師を抱え込めばその他大勢の病院で勤務状況が厳しくなるのは当然なのですが、こうした現象が起こる背景にあるのが立ち去り型サポタージュのような「激務でこれ以上やっていけない」と言う追い詰められての逃散以上に、積極的によりよい職場環境を選択したいという医師側の認識の変化です。

医局人事全盛期の一昔前であれば職場の良い、悪いはいわば上から与えられたもので選択の余地がなかったわけですが、今や新臨床研修制度によって自分で職場を探し就職するという世間並みのことが医師の世界においても当たり前になってきましたから、自分にとってメリットのない職場に敢えて留まろうというモチベーションなど生まれるはずもないのです。
現在の臨床研修制度が導入されてはや8年にもなりますが、単なる初期研修必修化だ、ローテート研修だといった目先の変化以上に医師の認識に大きな変化を与えたのが、この自分で情報を集め職場を探していくというマッチングのシステムにあったのだとすると、今や中堅世代に成長してきた臨床研修制度修了組によって医療現場の常識が今後根本的に変わっていく可能性もあると言えそうですね。
逆に言えば古くからの制度下で「医師は黙って耐えるもの」という認識の上で過密に過ぎる診療体制を組み上げてきた方々にとっては非常に困った制度であるとも言えそうなんですが、そうした目線で先日のこの記事を読んでみるとどうでしょうか?

医師臨床研修、新制度でも満足度上がらず- 医学部長病院長会議が調査(2012年6月21日CBニュース)

 新しい「医師臨床研修制度」を導入した前後で、研修を受けた医師の満足度にほとんど変化がないことが21日、全国医学部長病院長会議のアンケート調査で分かった。同会議では、「新初期臨床研修のメリットは限定的」と指摘。臨床研修を義務ではなく、選択制にするよう提言している。

 2004年度に導入された新しい臨床研修制度は、▽国家試験合格後、2年間の臨床研修を義務化する▽内科、救急、地域医療、外科、小児科、産婦人科、精神科の7科目を必修とする(10年度以降は、内科、救急、地域医療以外は選択必修)―などが柱で、基本的な診療能力を身に付けられるようにすることが狙い。

 同会議では、臨床研修の必要性などを検討することを目的に、大学病院で研修を修了した医師を対象にアンケート調査を実施。1万788人から回答を得て、03年までの6年間に医学部を卒業して旧制度で研修を受けた医師(5753人)と、04年以降の5年間に医学部を卒業し、新制度で研修を受けた医師(5025人)に分けて分析した。

 調査結果によると、臨床研修の満足度を5点満点で尋ねた設問に、5点か4点と答えた割合は、新制度で63%、旧制度で64%。一方、2点か1点と答えた割合は、新制度、旧制度共に13%で、大きな差は見られなかった。臨床研修の適切な期間は、新制度、旧制度共に「現行の期間(2年以上)」が5割前後、「1年以上2年未満」が3割前後、「1年未満」が1割弱だった。

 臨床研修で良かった点(複数回答)は、新制度では「希望する診療科の実態を把握できた」(58.5%)が最多で、次いで「多くの診療科をローテートできた」(46.4%)、「熱心な指導医がいた」(44.1%)などの順。これに対し、旧制度では、「手技を豊富に経験できた」(50.7%)が最多で、以下は「希望する診療科の実態を把握できた」(48.9%)、「研修医1人当たりの症例数が充実していた」(43.9%)などと続いた。
 一方、改善すべき点(複数回答)は、新制度では、「多くの診療科をローテーションするため深く学べなかった」(27.3%)が最多で、次いで「手技を豊富に経験できなかった」(21.9%)、「シミュレーターや図書など機器や設備が充実していなかった」(18.3%)などの順。旧制度では、「多くの診療科を選択できなかった」(23.5%)が最多で、以下は「研修プログラムが充実していなかった」(22.3%)、「診療科同士の垣根が高かった」(19.9%)などと続いた。

 同会議では、新制度と旧制度で臨床研修の満足度が変わらないことから、「新初期臨床研修のメリットは限定的」として、義務ではなく、選択制に改めるよう提言している。
 さらに、必修科や選択必修科の満足度が低かったことから、「診療科の必修化は、研修の質の低下を招く恐れがある」と指摘。初期臨床研修の到達目標のうち、可能なものは卒前教育のカリキュラムに組み込み、医学部卒業時の基本的な診療能力の向上を目指した上で、初期臨床研修では専門研修を目指すよう提案している。【高崎慎也】

記事を見てみますと制度が変わっても研修の満足度に大きな変化は見られなかった、だから「新初期臨床研修のメリットは限定的」だという結論なのですが、先日も少しばかり触れましたように何であれ評価とは他人の欠点を指摘することだという認識が根強い辛口の日本社会において、実に2/3が高い評価を与えているようなものにこれ以上劇的な点数向上の余地があったとは思えません。
逆に人事の大ベテランである医局の諸先輩方が各種情報を総合的に判断し巧緻を極めた人材派遣を行っていた時代と比べても、医療現場の実情など全く知らない素人学生が選んだマッチングの結果が同等であったという点に注目すべきで、「やってみたら案外悪くなかった」というのが最も公平な評価ではないでしょうか?
そんな中で細かく見ていきますと非常に注目されるのが、新制度のメリットとして「希望する診療科の実態を把握できた」「多くの診療科をローテートできた」といった、ローテートで各診療科の実際をこの目で見て学べたということを挙げた研修医が非常に多かったという点で、あくまでも与えられた環境の中で目先の業務に目線が行っているように見える単科専修の旧制度との最大の違いがここにありそうです。
そしてその結果何が起こったかと言えば、ローテート研修を経た後では内科、外科、産科に小児科といったいわゆる激務であるところのメジャー診療科の希望者が減り、その理由として「仕事内容が想像と違った」「体力的にきつい」「拘束時間が長い」といったもっともな理由が並んでいるというのですから、これは非常に首尾一貫した評価だと言えそうですよね。

医学部長病院長会議というところはその名の通り病院というシステムを管理・維持する側の方々の集まりですから、こうした使われる側の当然の反応を使う側から見ればより多くの診療科の実情を見聞でき、様々な職場を自ら調べ選択し、結果として何も知らない初心な学生が労働者としての権利意識に目覚めてしまうなんてことになると困るのだろうなとは想像出来ます。
そもそも最近では医学部のカリキュラムもますます過密化する一方で(元々医学部というところは一般の大学と違って選択科目などと言うものは基本的に存在せず、全単位が必修になっています)、その上失礼ながら各種優待的入学措置にも由来する医学生の質の低下が当の医学部教官をも嘆かせるような時代にあって、これ以上更に多くの内容を詰め込もうという方がよほど「質の低下を招く恐れがある」というものでしょう。
昔から医療の世界では世間を知っている社会人入学ほど使いにくいものはない、何も知らず受験勉強漬けで根性がある現役組が一番使い勝手が良いなんてことが公然と語られてきましたけれども、大学6年間を更なる詰め込み教育で馬車馬のように走らせた挙げ句、卒後はそのまま脇目もふらさずに専門研修に押し込めではマスコミならずとも「そんな世間知らずの医者ばかりで大丈夫か?」と不安を覚えるのではないでしょうか?

そもそも臨床医の激務解消と言いますが、国に呼ばれて年中果てしなく続く会議に参加していられるような方々は実際には勤務医としての激務にはさらされているとは言えないわけで(会議自体が激務だと言われれば確かにそうですが)、彼らにとっては勤務医の激務が問題なのではなく激務によって勤務医が逃散し診療が回らなくなることこそが問題であるはずなのです。
そう考えると議論をしている人々が本当に激務を改めようとして議論しているのか、それとも他の何らかの目的さえ達成出来るのであれば結局激務解消などどうでもいいのか、議論の行方を見る際にはそのあたりの見極めも必要になってくるんじゃないかと思いますね。
本当に勤務医の激務を解消しようと思うのであれば、極論すればただ病院管理者に対しては労基法を遵守しろ、それが実現できる水準まで患者受け入れを減らせと言い、国に向かってはそのために必要な関連法規なりを整えるよう主張するだけで十分でしょうに、常に遠回りな議論に終始している意味も考えておく必要がありそうですね。

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コメント

そりゃ大学は市中に逃さずさっさと研修医囲い込みたいだろw

投稿: aaa | 2012年6月29日 (金) 09時26分

診療報酬上げたって言っても病院に金が入るだけだから
ほんとに医師の待遇向上が出来てるかってことですな
そもそもあれで待遇変わったて先生どれくらいいるんだろう?

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年6月29日 (金) 10時04分

診療報酬上げが病院の赤字改善にしか向いてませんからねぇ。
医師・職員の待遇改善に向かうには、少なくとも病院の赤字が解消できるくらいの診療報酬にしなければ意味がない。

開業医の診療報酬を削る、というのもそろそろ限界に達している昨今、病院の生き残る道は選定療養費などしかないような気もします。

投稿: | 2012年6月29日 (金) 10時17分

てか、別に病院だけ全部生き残らなきゃいけないってもんでもないし

投稿: techan | 2012年6月29日 (金) 11時39分

それはそうなんですが、今まで警察や消防と同じような社会資本のように扱ってきたから病院は儲けるなと言われても我慢してきたので、潰れるリスクを甘受せよというなら営利も認めてもらわないと立ちゆきません。

投稿: ぽん太 | 2012年6月29日 (金) 12時25分

経営不振の病院なんてどんどん倒産させりゃいいじゃん
どうせ医者は困らんのだし

投稿: | 2012年6月29日 (金) 14時31分

そういう声も根強くありますけどね…
まあしかし、医療機関にも淘汰の圧力がかかることは悪いことばかりじゃありません。
経営陣だけじゃなく現場の医師も最善と信じる医療をやっていればよいと言う時代じゃないですから。

投稿: 管理人nobu | 2012年7月 2日 (月) 08時43分

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