« 超セレブな自治体病院現る?! | トップページ | 勤務医の激務と初期臨床研修 »

2012年6月28日 (木)

医療業界でのガジェットも使いようで

本日の本題に入る前の余談ですが、個人的にガジェットの類は好きな方なので医療ロボットやら遠隔診療やら聞くとちょっとわくわくしてしまうものなのですが、いくら機械にばかりお金をつぎ込んでも人材が伴わなければどうしようもないというニュースが先日話題になっていました。

酒田市と日本海総合病院、時間帯など協議なし(2012年5月18日読売新聞)

 診療所の常勤医が退任後、4月から原則毎週末の2日間だけ医師が派遣されている山形県酒田市の離島・飛島で、医師不在時の代替策として、市が今月中旬に始める予定だった「遠隔診療システム」が、稼働できない事態となっている。

 医師派遣と同システムでの診察を担う日本海総合病院(酒田市)との間で、市が具体的な運用方法を確立していなかったのが原因。市では「早期導入を目指し、病院側と協議を進めたい」とするが、開始時期は決まっておらず、島民からは不安の声が上がっている。

 遠隔診療システムは、市が約300万円かけて用意。インターネット回線を使ったテレビ電話で診療所の常勤看護師(2人)と日本海総合病院の医師が連絡をとり、脈拍や血中の酸素濃度などを測る「生体モニター」を使用しながら、診察を行う仕組み。

 市の説明によると、市が3月に行った島民向けの現地説明会では、5月中旬に開始する予定だった

 しかし、4月6、7日に予定していた初の医師派遣が中止になった際、診療所に多くの患者が来所。投薬などに関するファクスや電話での問い合わせが、診療所から同病院の救急外来に集中し、病院業務に影響が出た。このため、関係者の間から、予定通りに同システムを導入しても安定運用ができるか不安視する声が上がった。

 市では、診療所常勤医の辞意を受けた昨秋以降、遠隔診療システムを既に導入する新潟県の離島・粟島から資料を取り寄せ、電話で問い合わせるなどしてきたが、同システムの使用可能な時間帯や、担当医の配置など具体的な運用方法について同病院との間で協議を進めていなかったという。

 こうした事態を受け、市は16~17日、健康課職員と飛島の診療所看護師の計2人を粟島の診療所に派遣。現地で医師がどのように遠隔診療を行っているかや、急患が発生した場合の対処方法などについて視察し、今後、運用方法の詳細を協議するという。

 同システムに必要な機材は、今月10日に市に納品されているが、市健康課の佐藤繁樹課長は、「運用方法が決まるまで設置を見送るしかない。システム導入に遅れが生じることになり、島民には辛抱してもらうしかない」としている。飛島の漁師男性(75)は、「市からは、遠隔診療で医師不在時も万全と聞いてきた。4月には急患のヘリ搬送も出るなど、医師がいない時は不安が大きい。早く導入してほしい」と話している。

しかし医師不在時の対策として始めたということですが、遠隔診療と言っても目の前に医師がいないだけで遠くに控えている必要があるのは当たり前でしょうに、単に機械を据え付ければ完了だという考えでいたのだとすれば何ともお役所仕事と言うしかない話だと思いますね。
「遠隔診療で医師不在時も万全」などという市の説明も無茶苦茶もいいところで、あくまでも医師不在時に緊急当座の指示を受けるためのものであって、いつでも医者がみてくれる便利な道具扱いをするのであればそのうち「こんな便利なものは税金で全戸に備え付けてくれ」なんて話にもなりかねないでしょう。
こういうことになれば引き受ける側の日本海総合病院の方でも慎重にならざるを得ないでしょうし、まずは医療以前の段階として何が出来て何が出来ないのか、そもそも何を目的に設置しているのかという基本的なところをもう一度おさらいしてから出直さなければならないでしょうね。

それにしても離島にもこうしたリアルタイムの診療システム導入が図られているように、最近はあらゆる方面で医療の迅速化が言われていて、何しろガイドラインでも「○○分以内」だの「○時間以内」だのというはっきりした数値での基準が示されるようになりますと、その時間を守ってやらないことには後々裁判沙汰になった時に負けてしまうかも知れませんよね。
例えば日本代表のオシム監督の事例で一躍有名になった脳梗塞に対する血栓溶解療法では発症から薬剤(t-PA)投与まで3時間という時間制限がありますが、搬送時間などを考えるといったん近所の病院に運んで放射線技師等々を呼び出し検査を行い、診断確定後に専門施設に連絡して搬送…などという旧来のやり方をしていたのでは時間切れで治療対象が非常に限られてしまいます。
地域によってはすでに救急隊から地元救急病院、そして受け入れる専門施設までがタッグを組んで搬送ルールを確立し、場合によっては遠隔画像診断によって専門病院からの指示でまずとりあえず初診の施設でt-PAを打ってから搬送というスタイルを取っているところもあるようですが、ともかくも医療の専門化が進む中で基準だけがどんどん厳しくなると各種専門医が揃う大規模病院以外では何も出来ないと言うことになりかねません。
実際に医師不足も顕著な僻地と言われる地域ではすでにそうした事態が現実になってきていますが、そんな中でおもしろい試みが始まったというニュースが出ていましたので、こちらの記事から紹介してみましょう。

動き出す仮想“佐渡島病院”(2012年6月21日日経ビジネス)より抜粋

 かつて金銀を豊富に産出し、江戸幕府の直轄領としてその財政を潤した佐渡島。現在は国の特別天然記念物トキの繁殖活動で知られるこの島で、地元の医師会が中心となり、島民らの診療情報を一元管理する新たな情報システムの構築が進んでいる。

 2013年春の稼働を目指す新システムは、病院や診療所だけでなく、歯科医院や調剤薬局、介護施設などを巻き込むもの。開発の音頭を取る新潟県厚生連佐渡総合病院の佐藤賢治・外科部長は「診療情報や調剤情報を相互に公開し合うことで、島民に円滑な医療サービスを提供したい」と意気込む。

 佐藤医師らは、新システムの導入によって島内の医療機関があたかも1つの病院のように機能することを最終的な目標に掲げる。全島の医療関係者の結束を促すため、プロジェクト名は「仮想“佐渡島病院”」と名づけた。

島内の医療資源を結集

 厚生労働省が推進する電子カルテの普及に伴い、国内各地で病院や診療所が診療情報を相互に閲覧できる環境も整いつつある。ただし、佐渡島のように調剤薬局や介護施設を含めて患者のデータを一元管理し、医療機関が情報を互いに公開するケースは全国でもまれだ。

 地域医療連携を阻む要因としては、患者のプライバシーの問題とともに、医療機関の排他性がしばしば指摘される。地方自治体では地域医療のあり方を巡る対立がリコール(公職者解職要求)運動などに発展するケースも珍しくない。前山形県知事の齋藤弘氏は「首長の強いコミットメント(関与)がなければ地域医療改革は成功しないものだ」と指摘する。

 ところが佐渡島の地域医療連携を主導するのは、地元の医師会を中心に発足した佐渡地域医療連携推進協議会だ。日頃はライバルでもある病院や診療所が行政の関与抜きに診療情報の一元管理に動き始めた背景には、圧倒的な医療資源の不足という離島ゆえの危機感がある。

 厚生労働省の2009年の地域保健医療基礎統計によると、佐渡島の人口10万人当たりの医師数は134.6人と全国平均(224.5人)の6割に満たない。一方、病院病床数は1281.0床と全国平均(1260.4床)を上回る。高齢化と過疎化が同時進行する島内の医療水準を維持するには、抜本的な対策が必要になっていた。

 佐渡島の地元医師会がたどり着いたのは、島内の医療関連資源の総動員という解決策だ。島内には6つの病院のほか30近い診療所があり、歯科診療所や調剤薬局、介護施設を含めると100以上の施設が存在する。こうした施設を新システムで結び、患者を病状に応じた施設に誘導することで、限りある医療資源を最適配分する考えだ。

 例えば島内の介護施設を利用する高齢者の多くは、何らかの形で島内の医療機関に通っている。新システムを通じて介護士が服薬指導の情報を閲覧できれば、薬物治療の効果を高めるだけでなく、日々の服薬記録や健康状態を病院の医師にフィードバックすることも可能になる。

 異なる業種の情報システムからデータを吸い上げて一元管理するため、日本ユニシスが開発中の新システムでは患者の氏名によってデータを名寄せする独自の仕組みを取り入れた。診療情報を管理するための新たなIDを割り振る必要がなく、利用施設は既存のシステムを使い続けることができる

 地域医療の現状に詳しい国立がん研究センターの森山紀之がん予防・検診研究センター長は「病気でありながら適切な医療が受けられない『医療難民』問題は、過疎地域だけの問題ではない」と話す。「佐渡島における取り組みは、医療機関と患者のミスマッチの解消に向けたモデルケースになり得る」と注目する。
(略)

既存のカルテシステムをそのままに情報を統合運用するなどよく考えたものだと感心しますけれども、逆に言えば対象となる医療機関の数も域外との間の人的移動も限られているクローズドな環境であるからこそ成立したシステムであるのでしょうし、そうであるからこそこのまま日本全国に規模を拡大して運用するには無理がありそうだなと言う気がします。
それではこんな辺鄙な離島でしか通用しないシステムなんて作っても汎用性がないじゃないか、お金の無駄だからさっさと止めてしまえと言う話になるかと言えばそうではなくて、むしろ非常に特殊な環境にあるからこそそれに対して最適なシステムを独自に整備するということの意味があるんじゃないかと思いますね。
以前から当「ぐり研」でも全国あちこちで各種の特区をもっと活用すべきだと主張してまいりましたが、どうも日本人に何事も新たなことを始めるに当たって後ろ向きで保守的な面があるのは、品質に対する要求水準が高いからという理由が大いにありそうな気がします。

例えば全世界的に最高のコストパフォーマンスを持っていると認知されている日本の医療ですが、何故か日本人の医療満足度は極めて低いという現実もあって、医療崩壊先進国などと言われる英国などの方がよほどに国民から高い評価を得られているのはおもしろいですよね。
他と比較しての客観的事実がどうあれ、とかく評価を求められればまず「○○が悪いね」と欠点を指摘するところから始めてしまうのが日本人の習性ですが、その結果実際上はほとんど無視していいような小さな欠点まで論った挙げ句、大多数にとっては明らかなメリットがあることまでも先送りにされてしまい結局何も変わっていかないことも多いものです。
今回の佐渡の仮想病院などという非常に興味深く独創的なシステムにしてもそうですけれども、「そんなものを開発、運用したところで他で一切応用が利かないじゃないか」とか「全国均一の医療を提供する国民皆保険制度の趣旨に反している」だとか幾らでも突っ込みどころはあるとして、それじゃ文句ばかりつけて何もやらない方がよろしいのですか?ということでしょう。
とりあえず欠点探しから始まる国民性だからこそまずは対象を絞って特定地域内で行ってみる、そしてその結果うまく行くのであればカスタマイズしながら全国的に拡大していくというボトムアップのやり方が結局は改革の早道なのかも知れず、大阪には大阪の、東北には東北のそれぞれ最適なやり方というのもあるはずですから、何も全国一律で必ず同じことをやらなければと強迫観念に囚われることもないだろうと思います。

話がそれましたが、何しろ昔は佐渡送りなんて刑罰もあったくらいで、現代でもちょっと海が荒れれば本土と隔離されてしまう絶海の孤島と言えばひどく不便で恵まれない土地柄のようにも聞こえますが、一定規模の人口が外部との出入りも少ない環境で暮らしているというのは各種の社会実験を行うにあたっては非常に望ましい環境ですから、今回の仮想病院に限らず色々と応用は利きそうですよね。
元記事の方ではこれだけ地域内全住民を網羅するカルテシステムを整備すれば製薬業界等様々な方面にも恩恵があるだろうということを言っていますけれども、有名な久山町研究などと比べても対象人口は一桁多く人口の転出入も少ないわけですから、医学方面に限っても臨床上の利便性以上に研究上の恩恵がありそうに思えます。
世界にはパナマやリベリアなど税金面での優遇を行うことで世界中の船舶が籍を置いているような国がありますが、佐渡島も今後「全国展開の前にまずは我々の土地で試してみませんか」と各種調査や社会実験などの誘致を働きかけてみれば、地域として少ない出費で最先端の恩恵を被ることも出来るようになるかも知れませんね。

|

« 超セレブな自治体病院現る?! | トップページ | 勤務医の激務と初期臨床研修 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

全医療機関を一つの病院のように扱うんだったら、報酬面の格差にも配慮してもらわないと不満がたまりそうな…

投稿: 元僻地勤務医 | 2012年6月28日 (木) 09時01分

他の地域でもカルテ共有できない理由ってあるの?
同じ検査なんどもやるのって無駄でしょ?

投稿: ぽち | 2012年6月28日 (木) 10時16分

オープンな環境ですとデータ形式のすりあわせが出来ないでしょうし、データ流出への危惧も根強いですからね。
ただ病診連携せざるを得ない時代にいちいち紹介状など書く手間を省くためにも、少なくとも地域内基幹病院との縦のデータ連係はあって欲しいと思っている先生方も多いんじゃないでしょうか。
機関病院側がデータのフォーマットを決めて、認証されれば外からも情報共有できるようなシステムを組んでおけばいいんじゃないかと思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2012年6月28日 (木) 11時00分

これシステム開発費その他の経費は医師会負担?安くないだろうによく出したね

投稿: amedas | 2012年6月28日 (木) 22時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/55063547

この記事へのトラックバック一覧です: 医療業界でのガジェットも使いようで:

« 超セレブな自治体病院現る?! | トップページ | 勤務医の激務と初期臨床研修 »